ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「ジェラシー」

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フォレストシンガーズ

「ジェラシー」

 他のみんなはソングライティングができるから、作詞や作曲の仕事が入ってくる。フォレストシンガーズではないシンガーの歌を書いてほしいだの、CMソングを作ってほしいだの。

 本橋さんはピアノの弾き語りソロライヴや、春日弥生さん、上久保古都さんというベテラン女性シンガーとのジョイントライヴ、ソロとしてのライヴ出演。
 乾さんはCDショップのCMソングを制作して、乾隆也としてその歌を歌ってテレビでも流れた。乾さんと本橋さんがデュオでジョイントライヴに出演したこともある。その上、乾さんは映画にまで出演している。

 章はもとロックシンガーなのだから、その方面の仕事が時々ある。ソロシンガー木村アキラとしてライヴに出演したり、舞台音楽を書いたり、臨時ロックバンドを結成してCDを出したり。
 幸生は女性アイドルシンガーのシングル曲のプロデュースをした。作詞の仕事もけっこうあるし、章が舞台音楽を作ったときには、幸生がその芝居にちょい役で出演もした。声優や俳優の仕事も入ってきていたようだが、そっちは幸生が断ったと聞いた。

 こうして考えてみると、みんな、多彩な仕事の経験がある。
 俺だってベースマンばかりのグループでライヴをやったり、ラジオでグラブダブドリブのジェイミー・パーソンと共演したり……単独仕事といえばそんなものだったか。いや、女性シンガーとデュエットだったらさせてもらった。

 フランス人とのクォーターだと聞く、ライラさん。俺の初の単独仕事は彼女のニューアルバムでのデュエットだった。男性コーラスのメンバーなのかと思っていたら、一曲、しっかりデュエットしたのだった。
 あのときには、俺は実は冷や汗をかいた。

「フォレストシンガーズのみなさんって、ご自分たちの歌は自分で作っているんでしょ? 本庄さんも作詞や作曲はなさるの? なさるのね。どんな歌? 私にも作って」

 そう言われて、やってやれないことはない!! と決意をして、作曲に取り組んだ。
 それまでにも作詞、作曲をしてみたことはなくもなかったのだが、章にせせら笑われたり、幸生に同情されたり、乾さんにきびしいコメントをもらって泣きそうになったり、そのせいで本橋さんと乾さんが口論になって焦ったり。

 と、ろくな顛末にならなくて諦めていたのだが、美人に煽られるとその気になる大方の男と俺も同じってわけだった。

「お久し振りね。このごろ、フォレストシンガーズはご活躍じゃない?」
「は、どうも、ありがとうございます」

 そのライラさんは、俺をライヴに呼んでくれたりもする。あれからもたまさか共演させてもらっているにも関わらず、会うたび緊張する。今夜はライラさんのラジオ番組にゲスト出演させてもらって、例によって俺は緊張していた。

 彼女に頼まれた歌は結局できなくて、正直に言った。俺は実は作詞も作曲も苦手なんです、まるでできなくはないのですが……と、この期に及んでも微量の見栄を漂わせて言うと、ライラさんは応じた。

「それでフォレストシンガーズのアルバムには本庄繁之作詞、作曲っていう歌がないんだね。あれからフォレストシンガーズのアルバム、みんな聴いたのよ。いいわねぇ。私、本橋さんのファンになっちゃったわ」
「ありがとうございます」

 中でも本橋真次郎作曲って歌がまた、特別いいわよねぇ、と言われて、褒めてもらっているのだから嬉しいような、俺は? ……いやいや、ありがとうございます、だったものだ。

 初対面は俺が結婚して間もないころだったから、七年ほど前になる。俺よりはいくらか年上のライラさんは決して若くはないが、成熟した美女だ。俺はこのタイプの豊満なソプラノ美女に弱いので、その色香にはくらっとしそうになりつつ、ラジオでトークした。

「声の低い男性って魅力的よね。女は声が高く、男は声が低いほど異性の好感度は高いっていうわよ」
「俺も声だけは素敵って、言っていただけます」
「私は話してる声はそれほど高くないけど、歌うと高いでしょ。声だけは綺麗だねって言っていただけますのよ」
「ライラさんはすべてが綺麗ですよ」
「あら、お上手ね」

 はじめてライラさんに会ったころだったら、俺はお上手なんて言えなかった。今の台詞は決してお世辞ではないが、この程度だったら言えるようになったのは、俺も世慣れてきたってことなのだろう。

「男性だってシンガーは高い声が出たほうがいいけど、話す声は低く落ち着いてるほうがいいわよね。シゲさんの声もとっても魅力的だけど、フォレストシンガーズではやっぱり、本橋さんがいちばんもてるんじゃない?」
「シンガーとして、ですか」
「そうよ。声の人気投票ってしないの?」
「声ではなく全般でしたら、ファンの方には投票してもらいました」

 言い出したのは幸生で、「フォレストシンガーズ内、抱かれたい男」とかいう人気投票をしたことがある。俺はどうせ五位だろうと覚悟を決めていたのだが、四位になれたので目の前が一瞬、バラ色に染まった。

 乾、木村、本橋、と来て俺が四位。言いだしっぺの幸生が五位かと思いきや、メンバーではないヒデが五位にランクインしていて、幸生が腐り切っていた。そんな話をするとライラさんは華やかな笑い声を立て、言った。

「そしたら、三沢さんが六位? フォレストシンガーズのファンの方って愉快ね。今度は声でやってみたら? 私は本橋さんに投票するわ。私の順位予想は……」

 一位が本橋さんで、二位はきっとシゲさんよ、と言われて喜びそうになって気を引き締めた。
 我々の歌はハーモニーで売っている。ハーモニーのメインとなるのはハイトーンヴォイスだ。なのだから、一位と二位は本橋さんと乾さんのいずれかでは? 幸生の声のファンも多いはずだから、俺はよくて四位かな。いや、章が五位ってことはないからやはり俺が五位か。

 ヒデのファンだという女性も、彼の声までは知らないだろうから、俺がヒデに負けるってことはないかな。つい本気になりそうになって、意識を仕事に戻した。

「シゲさん、お疲れ。軽く飲んで帰らない?」
「はい、ありがとうございます」

 誘ってもらってありがとうは変かと考えながらも、仕事が終わるとライラさんの行きつけのバーに出かけていった。俺たちが常連にしている店よりも高級そうで上品そうで、中堅女性シンガーにふさわしいたたずまいのバーだった。

「ところでね……」

 ラジオで話していた声の人気投票の話題の続きなどをしていると、ライラさんがバッグからなにやら取り出した。こういったものには熱意を持てない俺とは縁遠い、ipadってやつだ。

「見てくれる?」
「なんですか?」
「私のブログ。消すべきなのかなぁ」

 有名人にもブログをやっているひとはたくさんいる。フォレストシンガーズでは誰も個人的にはやっていないが、公式サイトがある。俺はブログってもの自体にたいした興味はないので、ライラさんがブログをやっているとは知らなかった。

「ラジオのゲストにショートくんが来てくれました。
 ファンの方々には顔は見えないのにばっちりメイクしていて、綺麗でしたよ。
 男性でも若いと肌が綺麗なのよね。うらやましい。
 こうしたら綺麗なお肌、伝染しないかしら」

 そんな記事に写真が添えられている。俺も先刻までいたラジオのスタジオのテーブルに、化粧をした男がいる。その男の頬に頬を寄せてにっこりしているライラさんがいた。

「ショートくんって……えーっと……」
「知らない? ロックのひとよ」

 メイクをしているのだからヴィジュアル系か。章が嫌うたぐいのロックをやっている男だ。俺はロックにも縁遠いのだが、事務所に休止中のヴィジュアル系ロックバンド「燦劇」がいるので、多少は知っている。濃いメイクで素顔はわかりにくいし、男が綺麗でどうすんだよ、と俺なんかは思うが、たしかにこぎれいな男だった。

 コメント欄、見て、とライラさんに言われてクリックしてみる。
 ショートくんって奴のファンなのか、ライラさんのファンなのか、たくさんたくさんのコメントがついていた。

「ばばぁがいい気になってんじゃねえよ」
「痛いおばさんだな。ショートがいやがってんじゃないか」
「ショートくん、かわいそう、こんなデブおばさんにくっつかれてさ」

 代表的なのはそんなコメントで、「俺のライラに手を出すな(笑) 」というようなものもある。フォレストシンガーズの公式サイトにはコメントができない形になっているし、有名人のブログはあまり見ないので、口汚いコメントの数々にはあっけに取られた。

 ヒデのブログにも時には悪口コメントがついている。なんの関係もない下卑たコメントも見た。ライターのみずき霧笛さんのブログにも、馬鹿らしい誹謗コメントがついていたこともある。が、ここまで品のないのは珍しい気がした。

「ショートって奴のファンなんですよね」
「そういうひともいるのかもしれないけど、尻馬に乗って面白がってるのもいるかもよ。これはまあ、それほど売れてるわけでもない私、ライラっていうシンガーの宣伝にもなるからって書いてるメールなのね」
「はい」

 こんなコメントもあった。

「ライラさん、よかったね。あたしはあんたなんか知らなかったんだけど、ショートを汚してるおばさんがいるって聞いて、ブログを見にきたの。ライラって歌手、ショートのおかげでちょっとだけ有名になったんじゃ? ショートに感謝しな」

 そういう考え方もあるんだよねぇ、とライラさんは表情を曇らせた。
 この写真がいけないの? 写真だけでも削除すべき? 軽率だったかしら、悪ノリだったかなぁ、とライラさんは吐息をつく。俺は尋ねた。

「事務所の方はなにか言ってます?」
「ほっとけって言うの。ライラがいやだったら削除してもいいけど、詫びる必要もないんだしって」
「ショートくんは?」
「ボクのファンって過激なんですよね、って笑ってたわ」

 本人が決めるしかないのだから、俺にはアドバイスもできない。ごめんなさい、明るく飲みましょ、と言われて、そこからは別の話題に変えた彼女の話を真面目に聞いた。

「ショートって知ってるか」
 帰宅してから妻に訊くと、俺の予想通りにビジュアル系だと言う。妻の恭子は燦劇のパールと仲がいいのもあって、ヴィジュアル系にはなかなか詳しいのだ。

「ああ、これね。ライラさん、更新してるよ」
 バーで聞いた話をかいつまんでする俺に、ふむふむと相槌を打っていた恭子がパソコンを開いた。覗いてみると写真もアップされていた。

「今夜のゲストはフォレストシンガーズのシゲさん。
 彼とはたまにデュエットさせてもらう仲なんですよ。
 「俺は声だけが素敵だと言われます」って謙遜してらしたけど、そんなことないよね。
 シゲさん、今夜は楽しかったわ。うふ」

 そもそもライラさんはコメントには返事をしていない。ヒデのブログにしても同様だから、人気のあるブログはそうするものなのかもしれない。今日もこの前の記事に関しては一切弁解もなしで、スタジオで俺と寄り添った写真を使っている。そういえば記念写真だと言って、スタッフにデジカメで撮ってもらっていた。

「言うほど気にしてないんじゃない? ライラさんも」
「そうなのかな」
「それより、コメントないよね」
「……アップしたばかりなんだろ」

 今回はコメントはひとつもついていない。フォレストシンガーズのファンの方はこんなことでは怒りもしないはずだが、ライラさんの男性ファンも平気なのか。
 明日になったらコメントがつくのかな、と恭子が言っていたので、気になって翌日にも見てみた。すると、ひとつだけついていた。

「このひと、誰? 声がいいの?
 声はよくても……WWWWW
 ライラさんも写真をアップするんだったらこういうのだけにしておけばいいよ
 そしたら平和だもんね」

 あなたのおっしゃる通りです、としか言いようはなかった。

END










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