ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSカクテル物語「パパゲーナ」

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フォレストシンガーズ

「パパゲーナ」

 チョコレートケーキと、チョコレートいろのカクテル。チョコレートの大好きな僕は、バーテンさんにお願いしてこのカクテルを作ってもらった。

「バレンタインにチョコレートをもらえなかったから、自分でお金を払ってチョコレートを……」
「今どき、バレンタインのチョコなんかもらいたいか? 古いんじゃないのか。俺なんか気のない子からもらっても迷惑だけどな」
「それは先輩がもてるからですよ」

 その店のバーテンさんは僕の大学の先輩だ。彼は就活もせずに卒業した。先輩がもてるのは事実で、卒業したらどうするんだろ、と気をもんでいた女の子はたくさんいたのだが。

「このたび、「ブルー・ラグーン」をオープンしました。
 お近くにお寄りの際はお立ち寄りください」

 届いた案内状には手書きで、お近くになんか来なくても店に来いよ、と書き添えてあった。
 店名はカクテルの名前なのだそうで、その名の通り、カクテルを売りにしている。先輩はサークルのみんなには内緒で、これからどうするの? と心配しまくる女の子たちも適当にかわして、一年ほどはよその店で修行していたのだそうだ。

 お酒を飲ませる店かぁ。僕はアルコールには弱いからな、とためらいつつも、行かないと怒られそうでやってきた。先輩は僕を見てにやっとし、最初の一杯はおごってくれた。

「先輩のお父さんって、こういう仕事をなさってるんですか」
「こういう仕事というよりも、ほうぼうにバーを何軒も持ってるんだよ。俺は学生のときからバイトとして、親父の店でカクテル作りだのバーの経営だののノウハウを学んでた。親父が言うのもあったし、俺自身もこんな仕事が向いてると思ったからね」
「知らなかったなぁ」
「知ってた奴なんかいないんじゃないかな」

 サークルは「アイドル研究会」。アイドルといっても多種あるので、サークルの中で細かく分かれていく。僕は先輩が主催していたフルーツパフェグループに入れてもらった。
 フルーツパフェとは、栗原桃恵と栗原準の若い夫婦デュオだ。ちっちゃくて可愛くて強いモモちゃんと、細くて小さくて弱いクリちゃんのコンビはじわじわと人気が出てきている。

 モモちゃん人気のために男性メンバーのほうが多いが、モモちゃんのお尻に敷かれて喘いでいるらしく、そのくせそれが快感なんじゃないかとも噂されている、か弱いクリちゃんに萌えるという女性メンバーもいる。モモちゃんを好きな女性ファンもいる。

 とはいえ、弱小サークルだったのだが、僕の見たところではキャプテン格のこの先輩のファンもかなりいたようで、女性メンバーのほうが多かった。

 時間が早いせいか他にはお客がいないので、先輩の卒業後の話を聞かせてもらったり、軽いカクテルを作ってもらったりして、先輩、あいかわらずかっこいいな、とも思っていた。

「おまえは甘党だろ。ケーキもあるんだよ」
「チョコレートケーキ、あります?」
「あるよ」

 だったらついでにカクテルもチョコレートのものを、となったのだった。

「あ、いらっしゃいませ」
「こんばんは。あら、おいしそう」

 お店に入ってきたのは、痩せた女性だった。ワーキングウーマンなのか、PTA帰りのお母さんなのか、ビジネススーツみたいなのを着て、疲れた空気をまとっていた。

「私にも同じものを。ここ、いいですか」
「え、ええ、どうぞ」

 乾杯、だなんて言って、僕と同じカクテルを彼女が僕のカクテルと合わせる。こっちは半分ほど飲んでしまっているのに、それに、知らないひとなのに、乾杯なんていやだったのだが我慢しておいた。

「学生さん?」
「そうなんですよ。僕の大学の後輩で、矢木っていいます」
「矢木くん? 私は……うるる、よろしくね」
「矢木、なにを照れてんだよ」
「いえ……」

 照れてるんじゃないんだけど、別に僕はおばさんとなんか親しくしたくないんだけど、先輩が勝手に僕をうるるさんに紹介してしまった。

「うるるさんって素敵な名前ですね」
「ありがとう。今ふうでしょ。親が流行りを先取りしたのよ」
「どんな字、書くんですか」
「うふふ、内緒」

 お得意さんなのか、先輩はうるるさんに愛想がいい。僕はケーキとカクテルを空にしたので席を立った。うるるさんは、またね、と微笑んだ。

 またね、なんて言われても、僕はちっともまた会いたくはなかったのだが、先輩がうるさい。一週間に一度は行かないと、呼び出しがかかる。今夜は行きます、とメールしてから行くと、必ずうるるさんも来ていた。

「矢木くんってフルーツパフェのファンなんだってね。オーナーさんとも大学のフルーツパフェサークルで知り合ったんだって?」
「ええ、まあ」

 正確に言うといささかちがうが、おおむねはそうだ。面倒なので肯定しておいた。
 何度目かに「ブルー・ラグーン」で会ったうるるさん。彼女は僕に質問ばかりする。いつだってお客は少なくて、こんなんでこの店は営業を続けていけるんだろか、と不安になるほどで、うるるさんが僕に話しかけるのを邪魔する者はいなかった。

「モモちゃんのファンだよね」
「そうです」
「モモちゃんかぁ、そうねぇ……」
「なんですか」
「会わせてあげられるかもしれないな」
「ほんとに?」

 質問ばかりして、彼女自身のプライベートはほとんど明かさない。僕としても興味はないのでどうでもいいのだが、彼女は主婦ではなさそうだ。結婚指輪はしていないから、独身ワーキングウーマンか。フルーツパフェと関係する仕事をしているのだろうか。

「この日だったら来られる?」
「えーと、はい、大丈夫です」
「じゃあ、八時にね」
「矢木、よかったな」
「先輩は会いたくないんですか」
「俺は仕事があるからさ」

 モモちゃんに会えると思うと舞い上がってしまう。先輩もよかったなと言っているのだから、本当に会わせてもらえるのだろう。僕はうきうきと、約束の日を待っていた。

「よく来てくれたね。嬉しいわ」
「僕のほうこそ嬉しいです」
「そう? 嬉しい?」

 なんだかいやらしい笑みを浮かべて、うるるさんが僕を見つめる。約束の日時、うるるさんが指定したのはホテルのラウンジだ。ここにモモちゃんが来るんだろうか、と周囲を見回していると、うるるさんが腰を上げた。

「上の階に行きましょう」
「……はい」
「リザーブはしてあるから」

 鍵を持ったうるるさんのあとからついていく。上の階というと、モモちゃんはホテルの部屋にいるということか。彼女は大スターってほどではないが、それでも歌手なのだから、迂闊にどこででもファンと会うわけにもいかないのだろう。

 するっと部屋にすべり込むうるるさんのあとから、僕も部屋に入る。中は無人だ。待っていればモモちゃんが来るのだろうが、なにをしていればいいのだろう。ベッドにすわったうるるさんに手招きされて近寄ると、いやらしい笑みとともに尋ねられた。

「矢木くんって草食?」
「まあ、そうでしょうね」

 草食ってのは恋愛に消極的な人間をさすはずだ。恋愛関係の話をするって、うるるさんは僕が彼女にそういう方面の興味を持たないのが不満なのか。草食というよりも、うるるさんが相手だったらその気にならないだけ。おばさんとどうこうなる趣味はない、とは失礼すぎて言えないし。

「草食系の男の子にはこっちから攻めなくちゃね。ここまでしたら落ちるよね」
「落ちる?」
「結婚してなんて言わないから、大丈夫よ」
「はあ?」
「一緒にシャワー、浴びましょうか」

 嫣然と微笑んで、彼女は僕の手を握った。

「は、はぁ? あのっ、モモちゃんは?」
「モモちゃんって?」
「会わせてくれるって……」
「誰がそんなこと言ったの?」
「だってだって……うるるさんはフルーツパフェと……そんな仕事、してるんでしょ」
「私はとある企業の管理職だけど、芸能界とのつながりはないわよ」

 だまされた?! だまされてホテルに連れ込まれた? ようやく真相に思い当った僕は、うるるさんの手を振りほどいた。

「帰ります」
「矢木くん、あなた、女に恥をかかせるの? 帰ったりしたらどうなるかわかってる? あなたと私はホテルの一室にふたりでいる。こうなると立場は女のほうが強いのよ」
「そ、そそそ……そんな……」
「観念しなさいね」

 観念するしかなくて、僕はうるるさんの思い通りにされた。
 馬鹿だったのは僕。先輩も疑ってはいないのだからと、うるるさんの言を頭から信じ込んでだまされたのは僕。けれど哀しくて悔しくて、翌日、「ブルー・ラグーン」に出かけていった。

「昨夜はいいこと、あったんだろ? そのわりには表情が暗いね。楽しかったんじゃないのか」
「……先輩……もしかしたら……」
「なんだよ」

 あなたもぐる? 目を見開いた僕の前に、あのチョコレートカクテルが置かれた。

「おまえ、ひょっとしたらはじめてだったのか? 楽しくなかったのか?」
「はじめてですよ。あんなの、だまし討ちのレイプみたいなもんで……」
「アホか、男がなに言ってんだよ。うるるなんて名前は仮名だけど、おまえがそんな態度なんだったら二度と来ないかな。彼女はハンター。おまえは獲物。ったって、獲物もいい想いをしたんだからいいだろ」

 いい想いなんかしていない。大切ななにかをこわされただけだ。なのに、男だったらこんなふうに言われるのか? 男女差別じゃないか。

 パパゲーナと名前を知ったカクテルを一息で飲み干す。僕も二度とこの店には来ない。先輩は大嫌いになった。その上に、大好きだったチョコレートも、なんの関係もなく、ただダシに使われただけのモモちゃんまでを嫌いになりそうだった。

END







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~ Comment ~

NoTitle

そういえば先日ホワイトデーでしたね( ゚д゚)ハッ!
すっかりそういうイベントからは遠ざかっておりました(´・ω・`)ショボーン

モモちゃんクリちゃん懐かしいと思ったら…これはトラウマになりそうなお話ですね…
やっぱ男の人だって好きでもない相手に襲われるのは嫌でしょうし、慣れてなければなおさら…性格的なものもあるでしょうが(-_-;)
甘い話しには気をつけよう…私もすぐ騙されるたちなので(-_-;)

おしゃれなバー行ってみたいんですよね。お酒飲めないんであんまり縁がないのですが…カクテルとかかっこ良く飲んでみたいです♪

チャンドラは一応ファンタジーの住人で特に人種の設定はないのですが、とりあえずエキゾチックな魅力が出せたらなって思ってますbのほほんな相方もつと色々苦労しそうですね(笑)恭子さんも大変そう(笑)書けたらでいいのでまた出来たら教えて下さいね♪

たおるさんへ

いつもありがとうございます。
これ、被害者が女性だったら大問題なはずですが、男性だと、なに言ってんだよ、おまえも楽しんだんだろ、と言われかねないな、と、そう思って書いてみました。

私もひとつ、これをネタにされるとだまされそう、と考えていることがありますので、気をつけます。

私はスパークリングワインが好きでして、月に二回くらいは飲んでます。酔うと寝るのみですので、家でしか飲みません。経済的にも楽ですしね。かっこつけるのはしんどいお年頃なのです。

カクテルはおいしいし、軽いのもいろいろありますから、乾隆也がたおるさんをエスコートさせていただきたいと申しております。

チャンドラさんは南米あたりかな? 肌の色はやや浅黒い感じですよね? 黒髪でエキゾチック。
そういう魅力はうまく書けないような気がしますが、恭子とチャンドラさんのなにげない会話を書いてみたいと思っています。

あらら

そうそう、飲み屋って、やっぱりこういう目的?でやってくる人もいるのよね。もちろん、楽しく飲みたいだけの人もいるし、私が通っていたいくつかの飲み屋さんでも、どちらかと言うと飲んで騒ぎたい系が多かったような気がします。でも後から聞いたら、結構危ない恋バナは咲いていたようで。お酒の席って、普段の世界とは違う、何か別のものが働いていますものね。
あかねさんのバー物語、面白いですね。というのか、「バーあるある」って感じ? みんな何かを隠して(忘れて)その場所にやってくるから、現実の世界に還ったら、ちょっと怖かったりして。

大海彩洋さんへ

コメントありがとうございます。

お酒を飲ませる場所もお酒そのものも、非日常的要素がちょびっとあるものなんですよね。
家で家族と飲んでると、そんなものはかけらもありませんが。

だから、酒の勢いで……なんてことも起きるんですよね。
昔はディスコで酔っ払って……なーんてこともありましたっけ。

バー物語、面白いと言っていただけて嬉しいです。
酒場を舞台にして書くのは好きですが、ワンパターンになりがちですので、またちょっとちがったネタがあったら書きたいと思っています。
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