ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSカクテル物語「スレッジ・ハンマー」

 ←いろはの「え」 →グラブダブドリブ・ドルフ「Good night sweetheart Good night」
スレ
フォレストシンガーズ

「スレッジ・ハンマー」

「てめえたちがモデルになってたら、気になるのが人情ってもんだろ」
「そうだと思いますけど、自分がモデルになるってこと、そうそうあるものじゃないから……」
「そうなんだよな。桜田さんだって、俺をモデルにしたドラマだの小説だのって見たことないよ、本橋くんたちはすげぇなぁ、ってからかうんだ」

 歴史上の偉人でもなければ、モデル小説やモデル映画ってそうはないもんだよ、とみんなが言う。俺の知り合いには大スターも、往年のスターもいるが、彼や彼女がモデルになった映像や物語が世に出るのは、故人となってからなのだろうか。

 その点、フォレストシンガーズは偉業を達成したとみんなに冷やかされるのだが、俺たちが、ではなくてみずき霧笛さんが、なのかもしれない。

 シナリオが大賞を受賞してデビューしたみずき霧笛さんの「水晶の月」。ラジオドラマになったそのシナリオに、我々が主役グループとして出演させてもらった。それからみずきさんとは親しくなり、我々のうちの誰か、もしくは全員をモデルにした小説も発表されている。

 特に幸生が親しくなったみずきさんの企画が通り、フォレストシンガーズがモデルであるテレビの深夜ドラマ「歌の森」がはじまったのである。

 そうなると気になるのが俗人ってもので、俺もたまには見学に行った。むろんドラマは録画して何度も見ている。全員の顔がそっくりとはいかないし、乾隆也役の石川くんなんかは美形すぎて乾本人がむしろいじけているとかいうのもあるが、オーディションで選んだだけに配役もはまっている。

 桜田さんや幸生や、その他の俳優や歌手たちもゲスト出演してくれたりもして、撮影は快調に進んでいる。今夜も仕事を終えた俺は、「歌の森」の撮影を見学にいった。

 深夜なのだからそれほど視聴率はよくないそうだが、フォレストシンガーズファンの方や関係者、我々の家族などは見ている。俺の甥っこや姪っこが一人前に感想を述べたり、シゲの息子がテレビを見て、パパ? と不思議そうに訊いたりすることもあった。

 ことほどさように、本庄繁之役の琢磨史郎はシゲに似ているわけだ。
 そして、本橋真次郎役の三村真次郎は声と体格が本人に似ている。山田美江子役の阿久津ユカは性格が美江子にたいへんに似ていると思えた。

「ゲームなんかと私の話と、どっちが大事なのよ?!」
「ゲームに決まってんだろ。もうちょっとで初のクリアだったのに」
「なんのゲーム? へええ、こんな簡単なの、まだクリアできてなかったの? 本橋くんって頭悪いんだ。理系のくせに」
「どうせ俺は頭が悪いよっ。おまえみたいに顔が悪くて、おまけに性格も悪いよりはいいだろ」
「私の性格のどこが悪いの?」
「そこだろうがよっ!!」

 十五年も前にほんとにこんな喧嘩、したなぁ。みずきさんにも話したっけ。現実の話を脚色してドラマにしてあるのだから、当事者としてはくすぐったい。俺は三村と阿久津の演技を見て苦笑いしていた。

「本橋さん、いらして下さってたんですね」
「ああ、こんばんは」
「感激です。見て下さってたんだ」
「見せてもらったよ。三村、おまえさ、阿久津さんに向かって顔が悪いとか放言するの、やりにくくないか?」
「やりにくいですけどね」

 お笑い芸人志望だった三村は、売れなくて試行錯誤しているときにこの仕事のオーディションを受けたと聞く。視聴率が取れないのは最初からわかっていた深夜ドラマだが、本橋と乾が全体的には主役なのだから、よい役をもらえたと三村も言っていた。

 阿久津ユカのほうは「パーマネントブルー」という名の劇団員だそうで、CMに出た経験はあると聞いていたが、俺はまったく知らなかった。今回の主役クラスではヒデ役のイッセイくん以外は知らない役者ばかりだ。

「今夜は仕事は終わり? 飲みにいくか」
「うわ、俺、このあと予定が……でも、そんなのドタキャンします。連れていって下さい」
「駄目だよ、三村くん、先約を優先しなくちゃ」

 真面目な顔をしてユカが言い、三村が悩ましい顔になる。大学生のときに先輩に飲みにいこうと誘われて、俺には先約があって、どうしようかと悩んでいたら美江子が横から同じことを言った。ユカは美江子よりも十ほど若くて十倍美人だが、俺に説教をする顔には似通った部分があった。

「私は今日はなんにも用はないんです。お供します」
「俺も行きたいな」
「駄目ったら駄目。三村くんは先約のほうに行きなさい」
「だったらさ、そっちは早めに切り上げるから、本橋さんたちはどこにいるのか教えて下さいよ」
「そんなのわからないからいいの。本橋さん、三村くんなんかほっときましょ。じゃあね、バイバイ」
「ああ、じゃ、三村とはまたな」

 引っ張られるようにして歩き出す俺の背中に、ユカちゃん、メールくれよっ!! と三村が叫んでいた。

「俺たちが学生のころって、ケータイ電話が出回りはじめたころだったはずなんだけど、金のない奴らは持ってなかったよ。俺なんかは面倒くさがりだから、持ってたとしてもメールもしなかったかもな。今だってケータイなんて面倒だから、まだスマホにもしてないんだ」

 タクシーの中ではそんな話をし、そしたら本橋さんはメールってあまりしないんですか? 私は本橋さんとメールアドレスを……いえ、いいんですけどね、とユカが言っていた。いいんだったら俺もいい。若い女の子とメールで話すことなんかなにもない。

 若いころに今ほどスマホが普及していたとしたら、束縛も強かっただろう。携帯電話がなければ連絡しなくてもすむのに、lineのなんのとあったら言い訳もできやしない。俺たちのころは便利すぎない時代でよかったと俺は思う。

「本橋さんの行きつけのお店ですか?」
「うん、まあ、女の子はカクテルが好きだろ。ここはウィスキーもいいのをそろえてるし、カクテルを作ってくれるバーテンさんもいるんだよ。ここには……ま、いっか。どうぞ」
「ここには?」
「いいよ」

 言いかけてやめたのは、この店を発見したときの状況を想い出したからだ。ここは俺の住まいに近いと、ユカに言っても問題はないはずだが、それも言わなかった。

 結婚して間もない冬の夜、美江子と喧嘩をしてマンションから出ていき、この店を見つけた。「ソフィア」という名のこのバーで、バーテンさんと話してからマンションに帰った。学生時代とは種類が異なってはいるものの、他愛ないのはたいして変わりもしない喧嘩だった。

「いらっしゃいませ」
「俺はスコッチ、彼女は……なにがいい?」
「本橋さんにおまかせします」
「だそうですから、俺はバーテンさんにおまかせしますよ」

 承知しました、とバーテンは呟き、なんだ、つまんないの、とユカは呟く。なにがどうつまらないのか知らないが、常連であろうとなかろうと、客への対応は表面的には変えない店だから、変になれなれしくなくていい。俺が世間話をすれば相手にもなってくれる顔見知りのバーテンは、今夜は俺にはそっけないような接客をしていた。

「かっこいいなぁ。大人の男性なんですものね」
「俺が?」
「こういう隠れ家的なお店。大人の男性がひとりでお酒を飲むバーって感じ。私みたいなのは場違いかもしれませんね」
「ユカちゃんはそれほど、小娘って年齢でもないだろ」

 気を悪くしたような表情になって、ユカは出された淡いレモンいろのカクテルに口をつけた。

「若ぶるなって? そうですよね。私は二十五にもなって大学生の役をやってて、今回のメインキャストの中では年上のほうなのに、こんな下積み役者のまんま。彼氏だっていないし、気のあるそぶりをしてくれる男には興味ないし」
「俺だって二十五のときだったら、まるで売れてもいなかったよ」
「私に気のある奴って誰だ? って訊いてくれないんですか」
「俺の知ってる男?」
「……とぼけてます?」

 いやぁ、俺は鈍感だって有名なんだよ、きみはそこまでは知らなかったかな、と言うべきだろうか。きみを好きだという男なんて俺には関係ないだろ、と言ってはいけないのか。これだから若い女ってのは扱いにくい。

「私の身の上話だとか相談だとか、聞いてほしいな」
「俺なんかじゃ役には立たないよ」
「……ここは本橋さんが常連になってるお店なんでしょ? そういうところでは駄目ですよね」
「うん? いや、そういうわけでも……」

 よく来る店になんか連れてきてはまずかっただろうか。どきっとするような強い視線に射抜かれて、俺は思わずユカを見返す。
 さすが女優、目力が強くてくらくらっとしそうだ。え? この目は? え、ええ? 俺は鈍感なんだ、てめえが鈍感だってことに感謝したいような……俺が乾隆也だったらいたたまれなかったような……ユカはそんな目で俺を凝視していた。

 と、とんっとばかりに、俺の前に置かれたカクテルグラスを見て、バーテンに視線を移した。

「スレッジハンマー、ノンスノースタイルです」
「ノン?」
「スノーは砂糖ですから」

 ノンというと砂糖は使っていない? 謎かけみたいで意味がわからなくて、俺はカクテルを飲んだ。ウォッカと柑橘の香りがする。スレッジハンマー……スレッジってのは橇だったか。ハンマーが橇になって俺に突撃してきて、危険だぞと教えている?

 甘い誘惑には負けるなって意味でのシュガーレスか。いや、俺は浮気なんかするつもりはないけど、絶対にないけど。

 考えすぎなのかもしれないが、バーテンがユカの態度を見て警告してくれているのだと考えておこう。俺にでもわかるほどのあからさまな秋波に誘惑される気はないけれど、万が一ということもなくもなく、かもしれないのだから。


END










スポンサーサイト



【いろはの「え」】へ  【グラブダブドリブ・ドルフ「Good night sweetheart Good night」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

注文をバーテンに任せることはしないな。。。
・・・というのは酒飲みの戯言か。
任せるというのも嗜みなのかな。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

彼女のドレスに似合うカクテルを、って注文もちょっと粋かなと思う私は、古い人間なのでしょうね。

このストーリィの場合は、鈍感本橋真次郎にもわかるくらいにあからさまに迫られていますので、逃げるためにバーテンさんにすがったのでした。

NoTitle

自分たちの役をやってくれてる役者との会話って、なんだかおもしろい設定ですよね。なかなかそんな経験できないけど、想像したら面はゆいような不思議な感覚。
そして役者はみんな、当人たちより少しだけ美男美女って言うのがお約束で、それもおもしろい^^
でもシゲちゃんの役はやっぱりシゲちゃん似なんですね。男前にしたらシゲちゃんじゃなくなるし(笑) でもシゲちゃんは、それで満足なんでしょうねw

それにしても自分の彼女(結婚後?)の役をやる女性に、こんなふうに色目を使われるというのも、なかなか無い体験です。
シンちゃん、大丈夫かな。
マスターの選んだシュガーレスのカクテルが、良い味利かせています。

limeさんへ

いつもありがとうございます。
フォレストシンガーズも大スターになったなぁ……というのとはちょっとちがうのですが、若き日の自分がドラマになってるなんて、私だったらいたたまれなくて見られませんわ。

彼らはやっぱり自己顕示欲旺盛ですから、嬉しいほうが勝るるのかもしれませんね。

シンちゃんは絶対浮気をしないといつも言ってますが……どうだろ? 私は危うい気がするんですよね。
抑止力はフォレストシンガーズの仲間たち。
そんなことをしたら許さないからな、ってシゲまでが睨んでますから。

カクテル、酒場、ってちょっとだけ非日常みたいで、私は好きです。私は酒場を舞台にすることは多いです。

時々、このドラマネタのストーリィもありますので、よろしかったらまた読んでやって下さいませね。

おぉ

自分たちをモデルにしたドラマなんて、これはまた素敵な展開、と思ったら……言い寄られてもよく分かっていない真次郎氏・・・・・^^;
でも一番受けたのは「これが乾隆也なら……」でした。
このシナリオ作家さん、好きなアイドルや芸能人をモデルにシナリオを書く、もしくは当て書きする、楽しいかっただろうなぁ~。もちろん、脚色があるから面白いんだけれども。そして、モデルにされた方が面映ゆいのも分かるような気がしました。しかも女房役の女優とバーへ行ってこの展開。あかねさんらしい「ぴりり」も効いて楽しく拝読しました。
このカクテルシリーズ、いいですね~
私も、とてもブログで発表できないバーものを持っていますが(?)、いや、バーでの会話って、本当に書いていて楽しいんですよね。他愛のないものから、恋愛の駆け引きまで。そして、そこにカクテルの名前がきりっときいて。
そう言えば、最近はおどろおどろしいマダムのいるバーの話しか書いていないわ。ちょっとイケメンのマスターのいるバーの話、私も書きたくなりました(^^)

大海彩洋さま

コメントありがとうございます。
真次郎もね、さすがになんとなく気づいてはいるのですが、既婚者ですから、上手に逃げられなくてバーテンさんに頼るという。
けっこうそういう男、好きです。

結婚していなかったとしたら、こんな美人とだったらちょっと遊ぶんだったらいいかなぁと、彼はそういうタイプでもありますが。

カクテルシリーズ、いいね、と言っていただけて嬉しいです。
酒場、バーテンさん、カクテル、人と人、そういうの好きなんです。
もっと上手に書けたらいいんですけどね、って、いつも言ってますが。

大海さんはお酒は飲まれるんでしたよね?
私はもう弱くなってすぐに寝てしまいますから、昔のように友達と飲みにいくってこともほどほどにしかできなくて、寂しいです。

おどろおどろしいマダムのいるバーとおっしゃいますと、私も読ませてもらったあれかな? おどろおどろしいのも好きです。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【いろはの「え」】へ
  • 【グラブダブドリブ・ドルフ「Good night sweetheart Good night」】へ