ショートストーリィ

TETSUSHI/たおるさんのイラストによせて

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白蓮」のたおるさんが描いて下さったイラストと、以前に書いたFSショート(100話)「1/100の純情な感情」をつなげて、フォレストシンガーズのみんなは哲司をどう思っているのか、ということで書いたものです。

注意:哲司はバイセクシャルですので、そういうのは大嫌いとおっしゃる方は避けて通って下さいね。

「1/1000の純情な感情」

1・章

 高速道路をひとりふらふら歩いていた少年を、タクシーに俺と同乗していた作家のみずき霧笛さんが拾った。それが真行寺哲司と我々の触れ合いの発端だったか。いや、そうではなくて。

 その前に乾さんが哲司と関わっていたと聞いたからこそ、俺は彼を乾さんのマンションに連れていった。同棲している相手と喧嘩して追い出されたから帰るところがないとか、みずきさんちには赤ちゃんがいて、若い男を連れてはいけないとか、俺んちに連れていくのはお断りだとかの事情もあった。

 あのときの俺は、こんな美少年と同棲して、どうやら哲司がヤクだかシンナーだかをやったというので叱りつけ、高速道路で車からほっぽり出すって、どんなにおっかないおばさんなんだろうか、と想像したのだが。

 ところが、ところが、であった。

 人の性的嗜好なんてものは好き好きなのだから、俺に関係ないんだったら自由にやってくれればいい。あれから時が流れて二十歳になった哲司の「彼氏」である作・編曲家の田野倉ケイさんは、俺に興味を示すようにはないから、ほんと、好きにやってくれればいいのである。


2・英彦

 自慢じゃないが、というよりも自慢なのかもしれないが、フォレストシンガーズのオリジナルメンバーは俺、小笠原英彦だ。

 本橋真次郎、乾隆也、本庄繁之、三沢幸生、俺の五人でスタートしたフォレストシンガーズは、俺が身勝手にも脱退して、かわりに木村章が参加してからメジャーデビューした。そのせいで俺が荒れて離婚して放浪の旅に出て、長年さすらった末に神戸に定住するようになってから、彼らと和解した。

 和解って、それも俺のひとりよがりにすぎなかったわけだが、いずれにせよ俺は、過去のフォレストシンガーズのメンバーという唯一無二の存在なのだから、ちょっと特別な立ち位置にいるわけだ。

 そういう立場としてフォレストシンガーズとは関わり、フォレストシンガーズの周囲の人々とも無関係ではない。フォレストシンガーズの所属事務所、オフィス・ヤマザキの社長には言われる。小笠原くんもプロのシンガーにならないか?

 というような自慢は置いておいて。
 あるとき、乾さんが神戸にひとりの少年を連れてきた。俺には少年に見えたのだが、二十歳だというのだから成人ではある。

「僕、ヒデさんも好きだな」
「……寄るな」

 あのころの俺には免疫がなかったので、男に好きだと迫られて険悪になり、乱暴な応対をして泣かせてしまった。あれからはそういった方面の場数を踏み、哲司みたいな奴にも慣れたので、軽く殴ってやるくらいは平気になった。あいつが泣くのは犬が鳴くのと同じようなものなのだから。

 場数といってもそういった方面の人種とそういったふうに関わったのではなくて、世の中にはけっこういるもんだな、と知った程度だが。

 いっとう最初にはウェブサイトで、本橋さんと章のラヴシーンイラストを見たことだったか。乾さんと本橋さんとシゲの三角関係小説もあって、俺の頭が噴火しそうになった。
 それから哲司と知り合い、BL漫画とやらを描く三津葉とつきあうようにもなって、俺には免疫ができた。

 男と女が愛し合うように、男と男が愛し合う。そういうこともあるのだな。俺が怒る必要はないのだな。とは思うが、フォレストシンガーズの五人をおもちゃにして、妙なイラストや小説を書くのはやめてほしいと、切に願ってはいるのであった。


3・繁之

 四国の都市でライヴをやるために、リハーサルをしていたときのこと。
 昼の弁当を食ったみんながひどい腹痛を起こし、スタッフの一部と俺を除いたほぼ全員が救急車で搬送された。

「さすがに腹の丈夫なシゲさん、みんなが食中毒になってもへっちゃらなんだ」
「ちがうって。俺は中毒の原因になったおかずを食ってなかったんだよ」

 と言っても、いやいや、さすが、と言われたものだが、俺がはじめて哲司に会ったのはそのときだった。
 たまたま彼の故郷である瀬戸内海の小島に帰省中だった哲司は、話を聞いて病院に見舞いにきてくれたのだった。

「ケイさんは音楽関係者だから、フォレストシンガーズがここに入院してるって情報も入ってきたんだよ」
「ケイさんって?」
「ケイさんを僕の故郷に連れてきてあげたんだ」
「ケイさんって言われても誰なんだか……そのひとはきみのなに?」

 ケイコさんとかいう女性なのだろうか。哲司は鈍感な俺にも読み取れるような切ない目で「ケイさん」と口にしていたから、好きなひとなのだろうと思った。

 最初は誤解したという章と同じに、俺もケイさんは女性だと思った。後に編曲家の田野倉ケイ氏だと知ったときには、え? だったものだ。よくよくよーく考えて、ああ、そうなんだ、へぇぇ……そうなのか、と合点した。

 他人に迷惑をかけないのだったら、恋愛なんて誰と誰がカップルでもいいんだろう。肥満体のひとが好き、老人が好き、うんと年上でなけりゃ駄目、などなどの趣味は自由だ。相手が大人であればなんだっていい。

 頭で理解はしていても、想像力に乏しい俺は、うーん、だけど、男同士って……とつい悩んでしまい、俺がとやかく言うことではない、とかぶりを振るのだった。


4・幸生

 ゲイは浮気性だとはよく聞く。男というものは元来ハンターで、ベッドでおつきあいするだけだったら何人も何人もの女性とそうしたい生き物だから、というのは、俺も同類だからよくわかる。俺の場合は性別にだけはこだわるが、バイセクシャルともなると男女両方なんでもこいなのだから、すげぇなあ、ではある。

 だからといっても俺は男とは寝たくないのでうらやましくはないが。

 が、哲司の浮気のゲームはそれとはちと種類がちがうのか。彼は寝たいと思うターゲットを狩りたくてやっているのではなく、本当はただひとり、愛している田野倉さんのハートを狩りたくてやっているのか。俺がロマンティックに考えすぎているのだろうか。

「田野倉さんって哲司を愛してるんでしょ」
「三沢さん……」
「は、はい」

 人の好き嫌いはごく少ない俺だから、苦手とする相手もめったにいない。そんな俺がかなり苦手なひとのひとりが田野倉さんだ。けれど気になるので、ストレートに質問してみた。

「あなたは言うんでしょうね。好きな相手に自分の気持ちをまっすぐに」
「まっすぐっていうか、サービス精神で言いますよ。きみは綺麗だ、きみは可愛い、愛してるよ、みーちゃん。あ、みーちゃんって猫だった」
「……俺はあなたとは性格がちがいますからね」
「まあね、ちがいすぎるほどちがうかな、三沢幸生はジョークのかたまり。田野倉ケイは……」
「俺はなんのかたまりですか」

 この目が苦手なのだ。ジョークで男に口説かれるなら、俺もジョークでかわす自信はある。美少年趣味の田野倉さんが、三十すぎの男に本気になるはずがないとも知っている。いくらユキちゃんが永遠の美少年でも、見た目は少々……それはいいのだが。

 なのに、俺は田野倉さんのこの目と、奇体な口説き文句にぞぞっとしてしまう。快感ではなく嫌悪感でもなく……ではなんなのだ? 正体不明だからこそ怖いのだろう。

「ビターチョコのかたまりとかね」
「三沢さんは作詞家でしょ。もっとしゃれたことを言って下さいよ」
「すみません。考えておきます」
「ベッドで言わせてあげましょうか」
「……あの、俺、急用を思い出しましたので」

 きゃああ、なんて黄色い悲鳴を上げそうになったのをこらえて、俺は逃げ出す。逃げ出す以外の行動が取れなくなると、三沢幸生の名折れだと思ってしまう。こういうのが悔しいおのれの因果な性格も、田野倉さんを苦手とする理由の一端なのかもしれなかった。


5・真次郎

 真行寺哲司?
 ああ、知ってるよ。田野倉ケイさんも知ってるよ。男同士で同棲している恋人同士なんだってな。乾が真っ先に出会い、章が関わり、幸生は哲司とずいぶん親しくなって、ヒデにまで哲司はからんでいるらしいとも聞いている。

 だけど、俺はシゲと同じでああいうのは理解不能だ。哲司みたいのが横でうだうだ言ったりめそめそしたりしたら怒りたくなるから、近寄ってきてほしくない。

 田野倉さんとは仕事のつきあいもあって、公的にはまともな男だからいいんだけど、哲司はいやだ。偏見ってのでもないんだけど……うん、認めるよ。女っぽいゲイの男は好きじゃない。偏見だとしても好き嫌いはしようがないだろ。

「哲司ってそんなに単純な奴ではないんだけどね」

 だからじゃないのか? 単純な俺とは合わないんだよ。哲司については乾、おまえと幸生にまかせるから、俺は無視しておいてくれ。


6・隆也

「僕にも1/100くらいは純情さがあるみたいなんだよね」
「後学のために、具体的に話せよ」
「この間、この店に千鶴がいたんだ」

 手のかかるやんちゃな弟、哲司。甘えん坊でわがままな妹、千鶴。俺にとってはふたりはそのような存在だ。哲司はギタリスト志望の二十歳、千鶴は女優の卵、十九歳で、喧嘩ばかりしているわりにはこのふたりは仲がいいともいえる。

「そんでさ、スカートまくってやろうとしたんだよ」
「……おまえな……それは犯罪だぞ」
「知ってるよ」

 いつかミエちゃんも、どこかの店で哲司に胸元に顔を突っ込まれたと言っていた。ミエちゃんは怒ってもいなかったのが不思議だったが、哲司は女性の母性本能だか菩薩本能をくすぐる奴なのだろうか。

「そしたらケイさんがあらわれて、僕を拉致していったんだ。千鶴はケイさんと一緒にいたのかもしれない。僕をからかおうとしたんだよ」
「嬉しかったんだろ、拉致されて」
「まあね」

 だから純情だって? と思ったら、話には続きがあった。

「僕が千鶴のスカートをまくろうとしていたのを見てたせいで、ケイさんはその仕返しってかこらしめってかで、人前で僕のジーンズを脱がそうとしたんだよ」
「ふむ」
「そんなの平気だと思ってはいたんだけどね……」

 これでも男なのだから、ジーンズくらい脱いでもどうってこともない気もするが。ふふっと小さく笑って、哲司は俺を見た。

「脱がされたかどうか、知りたい?」
「どっちでもいいけどな」
「そうされても平気? って自分に訊いたら、どうも平気じゃないみたいだった。ね、僕って純情じゃん? 1/100くらい?」
「……1/1000くらいかな」
「ねぇ……乾さん……」
「おっと、さて、そろそろ帰るよ」
「ちぇ、今夜はケイさんも留守なのにな。ちぇ……ごちそうさまぁ」

 こいつの酒代くらいは払ってやってもいいが、しなだれかかってこられるといささか困惑する。幸生はケイさんに口説かれて激しく困っているが、俺は激しくでもなく、1/1000くらいだろうか。ゲイやバイセクシャルへの嫌厭はないつもりだが、当事者にはなりたくない。たいていの男はそうなはずだ。

END




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コメント見て飛んできました!
はじめあかねさんが哲司くんの絵を描いたのかと思いました(笑)おお!絵にストーリーつけてくれたんですね!!
ふむふむ、皆のバイセクシャルに対する反応が面白いです(笑)
ヒデちゃん、自慢から話がはじまるんですね(笑)そしてやっぱりはじめは免疫なかったんだ。でも一応理解は示したのですね。
私も友達が全然知らない人に勝手にラブシーンとか描かれてたら頭が噴火するかもです(^_^;)アニメキャラとか芸能人とかならまだいいんですが…

シゲちゃんの反応、笑ってしまいました(笑)シゲちゃんらしい(笑)私もシゲちゃんみたいな感じな気がします。あ、でもユキちゃんかなぁ…曖昧な部分はストレートに聞いてしまいそう(-_-;)
章くんと真次郎さんは関係ないって態度なんですね。章くんは自分に興味がないなら、で、真次郎さんはそもそも合わないしってことかーそして乾さんは面倒みちゃってる。

皆の性格がちゃんと書き分けられていてすごいと思いました!
私の回りにバイセクシャルの男性がいないのですが(知らないだけかもしれませんが;)それぞれの反応見て、自分はどうだろうなあ、とか、こういう反応もあるんだーとか同じ目線で考えることが出来て楽しかったです♪

あかねさんのお話は私にとって色々考えさせられて新鮮です。
他にも色々読ませてもらって経験値上げたいと思います(笑)

追伸

すいません!聞き忘れしてました(>_<)
こちらのお話、私のブログでも追伸みたいな感じで紹介してもよろしいでしょうかー??

ついでに、1/1000の純情な感情、懐かしい曲思い出しました(笑)

たおるさんへ

見ていただいて、ご感想もありがとうございます。
私が哲司なんか描いたら、本人が夢に出てきて絞め殺されそうですよぉ。

SIAM SHADEですよね。「1/3の純情な感情」。タイトルはもちろん、あれのばくりです。
わりとSIAM SHADEは好きでした。

ヒデに関してはですね。
limeさんがおっしゃったんですよ。謙遜のふりして自慢してるって。
言われてみたらその通りですので、ヒデは自慢しぃってことになりました。

シゲは消極的に引いていて、真次郎は積極的に引いてますかね。
章は、俺を巻き込まないでくれぇ、です。田野倉さんはキミを巻き込む気はないんだよ、章。

実は哲司が「三沢さんをいじってやって」と田野倉さんをそそのかしたので、このおじさんも乗ってるんです。
隆也は……ちょっといじれないタイプかな。
哲司が乾さんに恋してるって言うのも、どこまで本気なのでしょうね。

拙いものばかりですが、いろいろ読んでいただけると大喜びです。
紹介していただくのも大喜びですので、よろしくお願いします。
ぺこっ<m(__)m>


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