ショートストーリィ(花物語)

花物語2015/二月「山茶花の宿」

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山茶花
花物語2015

二月「山茶花の宿」

 耳元で歌のフレーズがリフレインする。愛しても愛しても、ああ、嗚呼、ひとの妻。

 彼女が指定した宿の名は「山茶花荘」で、垣根には赤や白の山茶花が咲いている。冬枯れの町を彩る山茶花……山下には山茶花と椿の区別はつきにくかったが、彼女とつきあうようになって意識するようになってしまった。この歌を連想したからなのだろうか。

 街コンというものが流行っていると聞いて、昨年、山下は軽い気持ちで参加してみた。婚活というほどではなくて、女性とお喋りできたらいいな、程度の気持ちだった。

 そこで知り合ったのが町谷ゆかり。山下もゆかりもひとりで参加していたからもあり、年頃も近く、話も合ったのでなんとなくつきあうようになった。つきあうようになっても深くはならなくて、山下は次第に焦れてきた。遊びなのか? だとしたらそれでもいいけど、遊びだったら遊びなりのつきあいもあるだろうに。

「旅行しない?」
「……いきなり?」
「いきなりではないでしょ。ゆかりさんは俺があれこれ誘っても、口実をつけて逃げるじゃないか。こういうつきあいは中途半端だろ。俺はきみと結婚してもいいつもりなんだよ」
「結婚、ね」

 考えておく、とかわされたので、これはいよいよ駄目なのかと覚悟を決めた。次に会うときには別れを切り出されるのかと思っていたのだが。

「ネットで調べたの。ここに行きましょうか」
「……行く気になったの?」
「山下さんの言う通りだものね。中途半端なのはいけないかもしれない。だけど、私、内緒にしていたことがあるのよ」
「なに? えーっ?!」

 声をひそめてゆかりが言ったのは、私、結婚してるの、だったのだ。
 ルール違反だろっ!! と詰りたかったが、街コンには既婚者だって加わっていると聞く。カジュアルな出会いの場なのだから、遊び目的の妻や夫のある男女もまぎれこんでいるのだろう。

 それにしてもこうして個人的に交際するようになったら、早い段階で告げるべきなのではないか。そうと言うとゆかりは、だから今、言ったじゃないの、と言いそうだ。

 それでゆかりは、映画や食事のあとで山下の部屋に誘ったり、ホテルに行こうとほのめかしたりしてもうなずかなかったのか。深みにはまりたくはなくて、友達のようにつきあいたかったのか。男と女だと意識しすぎた俺が悪かったのか。

 既婚者の節度を持って、同性同士の友人のようなつきあいをする。ゆかりの態度はそれだったのかもしれない。先走ったというか、勘違いしていた俺が馬鹿だったのだ。
 
 ならばそんなつきあいでいいのに、旅行には行くのか? それだって友達同士の泊りがけって感覚か? 俺がいやらしすぎるのかな。
 女性との交際経験はほとんどない三十代の山下は、あれこれ考えすぎて疲れてしまった。ゆかりが行くと言っているのだから、行けばいいのだろう。

 腹をくくったつもりが、むしろ気持ちが重くなってきた。約束してから旅行の日までの間、ゆかりには会えず、山下はごちゃごちゃし考え続けていたのだった。

 こんなこと、誰だってしているじゃないか。人妻との火遊びもいいじゃないか。ゆかりさんは綺麗だし、夫ある身なのだからむしろ気軽に遊べる。ちょっとだけ遊んで別れたらいいんだ。
 なのに、なぜ? 俺は彼女を本気で愛するようになっていたのか? 
 愛しても愛しても、嗚呼、ああ、人の妻……演歌のフレーズが痛いほど心にしみてきた。

「山茶花ってあまり好きじゃなかったんだけど、ここのは宿の名前にもなってるだけあって綺麗ね」
「……ああ」

 きみも綺麗だよ、と湯上りのゆかりに言えない。まぶしくて色っぽくて正視できない。これは本気の本気になりつつある、どうしようか、夫から彼女を略奪したくなってきた。想いが燃え盛るのを持て余している山下に、ゆかりはさらっと言った。

「ごめんね」
「……いや、きみが結婚しているのはなにもきみが悪いわけじゃなくて……」
「そうじゃないのよ。嘘」
「なんの嘘?」

 宿のテーブルには料理が並んでいる。ゆかりは山下にお酌をしてくれた。

「実は私は、セックスってあまり好きじゃないのよね。それもあって、避けるためもあって、結婚してるって嘘をついたの。だけど、山下さんは私と結婚したいと考えてるって言ってくれた。セックスなしの結婚ってのはできないのかな?」
「嘘?」
「それはもういいじゃないの。私も混乱していたのよ。ねぇ、したい? 今夜、したい?」
「……いや」

 混乱しているのは山下のほうだ。つい先刻まで、胸のうちで燃えていた焔はなんだったのだろう。人妻を抱きたいという情欲の焔にすぎなかったのか?
 セックスがしたくないから結婚していると嘘をつき、そのくせ、結婚したいと男に言われたら正直に告白する。どれが本当なんだ? この女には虚言壁でもあるのか。

 燃え上がっていた焔がしゅーっと消えていったのは、他人のものを奪えるとの欲望がなくなってしまったからか。山下には自分の気持ちがわからなくなって、色っぽい人妻に見えていたゆかりも、もはや化け物のようにしか思えなくなっていた。

END






 
 
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~ Comment ~

NoTitle

ううううん、これは、どっちもどっちですよね。
一体何を求めてるのか分からない女も女なら、人妻なのにちょっと欲情してしまう男も男だし。
あかねさんは、こういう人たちをサラッと書いてしまうから面白いなあ。

結婚しているからもう恋はしてはいけない…というのは、ちょっと悲しいとは思うんだけど、節操だけは守らないとね。
(恋は仕方ないんですよ・・・うん。不可抗力だし。)

このゆかり、こんな調子だと、本当の恋なんて一生出来ないかもしれませんね。

limeさんへ

コメントありがとうございます。

二月の花→山茶花→山茶花の宿→人妻と一泊旅行。
という発想が湧きまして、かなり下世話なストーリィになってしまいました。
嘘オチ小説はずるいんですけどね。なにが嘘なのか本当なのかも謎というような感じで。

結婚している誰かが恋をしたら、そうですよね、恋愛は自分ではコントロールできないものなのだから、不可抗力です、賛成です。
理性的に考えれば、好きになった人のもとに行きたいから離婚して……というのはよくないとわかるのですが、理性も吹っ飛ぶのが本当の恋かもしれませんね。

身勝手な男と、さらに上手の身勝手女……というよりも、あんたはなにを考えてるの? って女と。おっしゃる通り、どっちもどっちですよね。

NoTitle

。。。ん?これ私を非難している?
(ノД`)・゜・。

他人の奥さんと二人で旅行している私のあてつけの小説。。。
・・・と思うのは過敏か。。。

・・・。
・・・・・。
・・・・・・・。
コメントができない。。。
( 一一)

LandMさんへ2

こちらもありがとうございます。

ええ? そんな経験、おありなんですか。私は知りませんでしたから、非難もあてつけもあり得ませんよ。
ご安心下さい、と言っていいのかな(^o^)

「山茶花の宿」という大川栄作の歌を聴いてみて下さいませ。
この歌がこのストーリィのモチーフで、人妻との旅行よりも、テーマは「人妻だからこそ手に入れたいと思う男」のほうです。

NoTitle

あかねさんらしくないタイトルが気になりました。
「の宿」はあまりにも演歌調。
でも分かり易くてとても面白かったです。
人間って相手の状況によって恋や心まで変わるもの
なのですね。
それなら軽い嘘でも罪つくりです。
けれどそれだから世の中面白いとも言えますね。
あかねさんも、さらっとこういうの書くのだ、と少し嬉しいです。

danさんへ

いつもありがとうございます。
はい、大川栄作の演歌ですから。
演歌そのものです。

同じ事柄でも状況によって、気持ちが変わるってありそうですよね。
極限状態で燃え上がる恋とか。
スキー場で恋した相手を都会で見たらしょぼかったとか。

人のものをほしがる心理は子どもっぼいんでしょうけど、そういうこともあるのかなと。
わかりやすくて面白いと言っていただいて嬉しかったです。
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