別小説

ガラスの靴34

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「ガラスの靴」

     34・少女


 年下のエリート、四十代独身の女性にとっては、そういう男は羨望の的なのだろうか。見事に理想の男性をゲットしたゑ美子さんは、晴れて結婚式を挙げて大城ゑ美子となり、輝くばかりの笑みをふりまいていた。

「ゑ美子さん、綺麗になったね」
「そだね。幸せそうでよかったじゃん」

 もとアクション俳優で、現芸能プロダクション社長の大城直也さんは、ほぼゑ美子さんの理想通りだったのだそうだが、学歴と職業に不満があったようで、妥協して結婚してあげると発言して周囲の顰蹙を買っていた。
 年齢差は約十歳ほどか。アンヌと僕の差は七歳だから、十歳くらいだったらまあいいんじゃないの、とアンヌと僕の想いは一致していた。

 結婚式は芸能人や業界人で百花繚乱だったそうだが、僕は招待されなかった。ものすごくゴージャスな式以上のゲストを招く結婚パーティのほうには僕も呼んでもらって、アンヌと一緒に出席しているわけだ。
 レコード会社社員だったゑ美子さんは、結婚退職して主婦になるらしい。子どもはできない年齢だろうが、夫婦が互いに合意していれば、はたからケチをつけるいわれはないわけで。

「若作りしちゃって、痛いよね」
「どこが綺麗なのよ」
「大城くんだって、意外と若い女にはもてなかったんだね」
「そうそう。あんなに年上の女を選ぶ男って、同年代以下には相手にされないのよ」
「そうかなぁ。大城さん、もててたよ」
「もてなかったに決まってるのっ!!」

 近くにいる女性三人グループが、主役カップルの噂をしている。大城さんはもてていたと言いかけた女性は、断固たる反対意見に合って黙った。

 どうして大城さんがゑ美子さんを選んだのかは、僕はこの耳で聞いた。
 若いころには芸能界でスターだった大城さんは、若くて美しい外面だけの女性にはうんざりだった。なのだから年上のゑ美子さんと結婚することにした。大城さんはもてていたのはまちがいないし、ゑ美子さんは別に中身がいいってわけでもないように思うが、大城さんの選択に異を唱えるつもりもない。

 長年、音楽業界で働いていたゑ美子さんは、ふくよかな体型もあって穏やかに見える。大城さんもそこにだまされたのかもしれないし、実はけっこう気のきつい年上のひとに翻弄されるのが好みの、エム気質なのかもしれないし。
ま、しかし、ゑ美子さんは三人グループのうちのふたりが罵るほどに、痛いおばさんではないと僕は思う。

「桃源郷のアンヌさんですか?」
「そうだよ」
「わぁ、嬉しい。お会いしたかったの」
「ファン?」
「そうなんだ。直也くんが今日だったらアンヌさんも来てくれるって言ってたから、楽しみにしてたんです」

 背の高いほうのアンヌと較べても、ヒールを履いた彼女のほうがさらに高い。シンプルな赤いミニドレス、すらーっと伸びた細い脚。細いヒールのサンダル。二十三歳の僕から見ても、若いなぁ、眩しいな、ってほどにきらきらしていた。

「直也くんのいとこなんです。アンヌさんは結婚式にはいらしてなかったでしょ」
「そこまで親しくもないし、ロッカーなんてのは場の雰囲気をこわすから、呼ばなかったんじゃないのかな」
「アンヌさんみたいにかっこいい美人が、雰囲気こわすわけないし」
「いいんだけどさ」

 高校生? ええ、十七歳です、と僕の奥さんと彼女は会話している。ムジカという名前なのだそうで、どんな字書くの? とアンヌが尋ねた。

「夢、路、香」
「ムジカってドイツ語でミュージックだよね」
「そうなの? わぁ、アンヌさんって教養あるんだ」
「おまえ、あたしを馬鹿にしてんのか」
「おまえだって……女のひとにおまえって呼ばれるのは素敵だな。アンヌさんってほんと、かっこいい」

 バイセクシャルってことはないはずだが、アンヌはいつだって女性の味方ではある。反面、好き嫌いは激しいので、嫌いな相手には態度がきつい。ムジカちゃんにはどんなふうなんだろ、と僕は黙って観察していた。

「あたしに惚れんなよ」
「惚れちゃいそう。ってか、あたしも大人になったらアンヌさんみたいになりたいな」
「外見的に? 体格は似てるかもしれないけど、タイプは全然ちがうよね」
「私もアンヌさんみたいなかっこいい女になれるかなぁ」
「あたしみたいではないだろうけど、別のタイプの美人になるんじゃない?」
「きゃあ、嬉しいな」

 きゃっきゃっと喜んでいるムジカちゃんは、美少女なだけにあちこちから注目されている。彼女は僕には挨拶もしてくれないが、アンヌの夫だとは知らないのだろうか。アンヌも僕を紹介してくれないのは、僕がムジカちゃんによろめいたりしたら妬けるから、だったりして。

「やぁ、ムジカちゃん。結婚式以来ですね」
「誰?」
「忘れられましたか。ゑ美子さんの同僚の沖永ですよ」
「……そんなひと、いたっけ」

 冷淡な対応をされて、沖永さんは苦笑している。正確に言えばゑ美子さんのもと同僚である沖永さんは、ゑ美子さんとは若いころからのつきあいだと聞いていた。

「結婚式では話をする機会もなかったけど、僕はゑ美子さんとは仲良しですから、直也くんのいとこさんとも仲良くさせてもらえたら嬉しいな、なんて」
「……おじさん、なんか変なにおい」
「加齢臭か?」

 すかさず横からアンヌが言い、沖永さんはむっとした顔になる。ムジカちゃんはつんつんしていて、そこにちょうどゑ美子さんが通りかかった。

「あら、沖永さん、久しぶりね」
「ああ、ゑ美子さん、このたびはおめでとうございます。ようやくきみとも話ができたね」
「ありがとう。ムジカちゃん、なんだか機嫌が悪い? 沖永さん、若い女の子に変なことを言ったりしたら駄目よ」
「僕は挨拶しただけだよ」
 
 それにしてもね、とため息をついて、沖永さんは言った。

「新婦が若くないから、友人たちも若くはない。新婦側のゲストは地味だったよね」
「そういうタイプをそろえたのよ」
「そうなの? その点、新郎側は華やかだったな。女優さんなんかも来てたでしょ。そういう錚々たる顔ぶれの中で、ムジカさんは見劣りしていなかったよ」
「そんな中でも新婦がいちばん目立っていたでしょ」
「……いや、まあ、花嫁が主役なのが結婚式では当然なんだろうけど、ゑ美子さんの場合はね……」
「エミコ・フィッシャマンに頼んで、私に最高に似合うウェディングドレスを作ってもらったのよ」

 同名のよしみで、デザイナーのエミコさんはゑ美子さんのために張り切ってくれたのだと言う。僕らは結婚式の写真を見てないしな、と思っていたら、ムジカちゃんがアンヌにスマホを見せた。僕も覗いてみて、アンヌと顔を見合わせた。

「いや、それにしたって、年も年だし……」
「円熟した大人の女性の魅力には、JKなんて勝てるわけないわよ」
「……う、そう思ってるのってゑ美子さんだけじゃない?」
「主人もそう言ってたわよ」
「……はぁ、そうですか」

 スマホの写真はゑ美子さんのウェディングドレス姿で、アンヌも見ていないとのことで、ムジカちゃんが見せてくれたのだろう。ただし、どう細工したのか、風船みたいな体型にデフォルメされ、真っ赤な頬と口紅のけたたましい化粧をほどこされていた。

「ああやってあたしを持ち上げてたのは、あんたのほうが可愛いよ、って言わせたかったんじゃないの?」
「え?」
「結婚式でもムジカって目立ってたんだろ。確信犯だね」
「確信犯?」
「だけど、このおばさんにはかなわないんじゃない?」
「……意味がもひとつ……」
「いいさ。おまえはそこがいいところなんだよ」

 本当に機嫌が悪くなってしまったムジカちゃんと、沖永さんとああ言えばこう言うの会話をしているゑ美子さんを見比べながら考える。アンヌが小声で言った内緒話の意味を。
 確信犯……結婚式で花嫁以上に目立とうとしたJK?

 普通、四十代の花嫁だと、美少女の女子高校生に張り合われるとくすんでしまうだろう。けれど、結婚式にはムジカちゃん以外にも美女はたくさんいて、ムジカちゃんもまぎれこんでしまったのかもしれない。
 それでも花嫁よりは綺麗だったはず、とムジカちゃんは思っていたのだろうが、このおばさんは自信満々で、ちっともへこんではいない。

 そういうことだったのかな? アンヌが言っているのは、どっちもどっちって意味だと解釈しておこう。

つづく



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~ Comment ~

NoTitle

輝くという意味合いでは。
年齢は関係ない…と思いますがね。
まあ、若いだけで輝いているところはありますが。
気概と自己満足の世界になってくるような気もしますが。

LandMさんへ2

こちらにもありがとうございます。
内面の輝きはわかりにくいものですが、ぱっと見てわかる外見の輝きは、そりゃあもう若さの勝利ですよね。

自己満足といえばこのゑ美子おばさんのほうが勝っています。
彼女の人生は幸せだろうなぁ。おめでたいとも言いますが、私はこういう女性がうらやましいです……ちょっと本気です。
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