ショートストーリィ(花物語)

花物語2015/一月「Where have all the flowers gone?」

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のぱら
花物語2015

一月「Where have all the flowers gone?」

 
 えっ?! 本名?
 
 文芸部で半年に一度、パソコンで作る同人誌のようなもの。そこに童話を発表するようになったころから、野薔薇という名前を驚かれるようになっていた。

「のばら、って本名はひらがななんだけど、ペンネームは漢字にしてこけおどしてるの」
「野薔薇なんて、よくそんな名前をつける気になったね、親も」
「薔薇は薔薇でも野薔薇だから」

 姓は平凡だが、のばらという名前はちょっと恥ずかしくもあった。美人でもないのに薔薇だなんて、と他人にも思われているようで、自分でも感じるようになって、夕食の時間に両親に尋ねたのは小学校の三年生のときだった。

「Where have all the flowers gone?
Long time passing.
Where have all the flowers gone?
Long time ago.
Where have all the flowers gone?
The girls have picked them ev'ry one.
Oh, when will you ever learn?
Oh, when will you ever learn?」

「野に咲く花はどこへ行った
 野に咲く花は少女の胸に優しくそっと抱かれる」

 その少女はどこへ行く。少女は若者の胸に。
 若者はどこへ行く。若者は戦に。

 戦いを終えた若者はどこへ行く。
 若者は静かに安らかに眠りにつく。

 戦士の眠る土に野薔薇がそっと咲いていた。
 野薔薇はいつしか少女の胸に
 そっと優しく抱かれる」

名前の由来はこの歌だ、と父が教えてくれたが、小学生の野薔薇には意味がわかりづらかった。

「わかるようになったのは、中学生になってからだったかな」
「……きれいごとだな」
「そう?」

 高校生になって、恋人というのでもないが、単なる友達と呼ぶには深い仲の男の子と毎日、語り合うようになった。放課後の帰り道、学校から電車の駅を通り過ぎ、ふた駅分くらいは歩いて話していた。

「人間は、戦うべきときには戦わなくちゃいけないんだよ」
「どんなとき?」
「愛するひとを守るため」

 ストレートな台詞を笑うには、野薔薇も幼すぎた。

「自分の国を守るため。守ってばかりでは弱いから、こっちから打って出ないといけないときだってあるじゃないか。俺は戦うべきときには武器を取れる人間になりたいな」
「自衛隊に入るとか?」
「自衛隊なんてゆるいよ。俺は大学生になったら、どこかの国の傭兵部隊に入るんだ。将来、日本を守るためにね」
「……そう」

 こんな思想のひととはつきあっていられない。そう思うようになって、いつしか彼とは距離を置くようになった。彼の思想を変えてあげよう、そのために闘おう、とは思えなかった。

「たたかう、にもさまざまあるのよね」
「スポーツだって、賃上げ闘争だって、広義の意味での「たたかう」だね」
「たたかうことは絶対にいけないともいえなくて……」
「むずかしいね」

三十代になった今、野薔薇は夫と会話をかわす。

 あの彼はどうしているだろうか。野薔薇と同じ年だったから、三十代になった高校のときのボーイフレンドは……思想は変わったのか、変わっていないとしても、時の流れに押し流されて、平凡な社会人、平凡な夫、平凡な父になっているかもしれない。
 
 野薔薇だって平凡に年齢を重ねて、平凡な会社員、平凡な妻、平凡な母になった。平凡すぎてつまらないと頭をかすめるときもあるが、父の言葉を思い出すと、平凡がいちばんかとも思う。

「はな? 花はどこへ行った、から取った? 野薔薇は父さんの気持ちを尊重して、娘にもそんな名前をつけてくれるんだね。……はなちゃん、きみが大きくなるころには、世界中が平和だといいね」

 ひとり娘のはなが生まれ、こんな名前にするのよ、と話したときに、父が言っていた。
 日本は戦争放棄の国。それだけは父の誇り、ひいては野薔薇の誇りでもあったのだが、その土台が揺らぎかけている。そんな時代に、野薔薇とはなの親子にはなにができるのだろうか。名前だけで抵抗しているつもりになっても……などと考えては、ただ日常の暮らしに流されていくだけしかできないのかもしれなかった。

END








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~ Comment ~

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心の底の方でその通り、と頷いている私がいます。
憲法改正?世界に誇れるこの憲法を。まして九条を。
野薔薇さんのお父さん私たちと同世代でしょう。
声高に叫ばず娘にこんな素敵な意味のある名前を
つける人に魅かれます。
それはあかねさんの思想でもありますよね。
いつもの花物語とは趣の違うこういうのも私は好きです。
何だか肩に力が入り過ぎた気がして、少し恥ずかしいです。

danさんへ

ありがとうございます。

この歌がとても好きで、「花」なのだから「花物語」として、去年も一月は特になんの花ということもなく書いたので、今年もそうしてみようと書いていました。

あまり長くしたくない、饒舌なものにもしたくない。歌自体も声高に反戦を叫んでいるわけでもなく、しみじみしみてくるものなのだから。

とは思ったのですが、むずかしい~!!
消化不良でなにが言いたいのかわからなくて、中途半端だーっ!! こんなものをアップしていいのか。

悩んでいたのですが、私にはこれで精いっぱいでした。
danさんがそう言って下さって、とてもとても嬉しかったです。

「進撃の巨人」ってごぞんじですか? あの原作まんがを読んでいますと、「たたかう」ことについて考えさせられます。
国や戦争について語りはじめるとキリがないですが、ほんとにむずかしい問題ですよね。

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