ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「ま」

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フォレストシンガーズ

「魔性」

  あんただったら年齢の半分の女と結婚できるだろ、と他人に言われる。六十になって三十の、八十になったら四十の女とか。それもいいかもしれない。

 現在、四十三歳の俺が結婚するのならば二十一歳だ。そんな小娘、と思ったりもするが、若い女は肌が綺麗で髪もみずみずしく、しわやしみもないから見ている分には心地よい。別につきあっていなくても、俺が結婚しようといえば喜んでOKする、二十歳そこそこ女は身近にたくさんいそうだ。

「桜田さんでもやっぱり、女は若いほうがいいの? ものすごくありがちな好みすぎてつまんないよ」
「俺はありがちな男だからね」
「金子さんは三十七歳で、三十六歳の女に心底惚れてるらしいよ。そんでプロポーズしてはふられてるの。そっちのほうが可愛いな」
「俺は可愛くなんかなくてもいいんだよ」

 口をとがらせて俺を見返すのは、真行寺哲司。金子さんとは俺とは半分同業のシンガー、金子将一だ。
 哲司は俺の古い友人である田野倉敬三、作曲家としては田野倉ケイと名乗っている男の愛人である。田野倉は俺よりも若干年上の「男」だが、男を好むらしいので、俺を口説かないんだったら勝手にすればいい。

 二十代でシンガーソングライターとしてデビューして以来、十年近くは売れなかった。ドラマに出たのがきっかけで注目されて、シンガーとしても売れるようになった俺には、下積み時代からの同病者、もとい、同業者もたくさんいる。田野倉もそのひとりだ。

 作曲家としてデビューしたものの売れず、編曲のほうに転向して徐々に売れ、現在では作曲の仕事でも有名になってきた田野倉ケイは、恋愛方面以外では俺に似た立場なのだろう。

 ぽつぽつと本人が語ったところによると、哲司は瀬戸内海の島の高校を中退して、東京にやってきて親戚の家に居候していた。親戚というのは写真スタジオを経営する小島春子さん。春子さんとは俺も面識がある。俺に近い年頃の豊満な美女だ。

 春子さんのスタジオでアルバイトをしていた哲司は田野倉と知り合い、大喜びで誘拐されていって彼の愛人になった。まあ、俺もゲイだったとしたら哲司を愛人にしたくなるかもな、程度にだったら納得できる、彼は相当な美少年だ。性格が悪そう、ではなく、完璧に性格が悪いのも面白い。

 こっちに迷惑さえかからなければ、性格のゆがんだ奴とのつきあいは楽しい。哲司にはちょくちょく迷惑もかけられるのだが、田野倉の可愛い坊やでもあるのだし、時には愉快な発想を聞かせてくれるので適当につきあっていた。

「そんで、桜田さんには心当たりあるの?」
「半分の年の、俺と結婚してもいいって女か? 心当たりありすぎてひとりに絞れないよ」
「桜田さんが言うとシャレになんないよ」
「シャレで言ってんじゃねえもんな。年齢をそこに限定したとしても……あいつだろ、こいつだろ、あの女……あの子も二十歳になったところだったかな」
「具体的に名前を言ってよ。ミルキーウェイとか?」
「えーっとそれから……」
「ごまかすなよ」

 そんな質問はごまかすのが筋なのだから、返事はしない。
 誘ってみたり、むこうが誘ってほしがってるなと察したらさりげなく行動したりで、俺はシンガーになってからに限っても何人の女と寝ただろうか。俺のような男は、いや、女だってこの業界には無数にいる。結婚していたって異性とのつきあいは別だという男女もたくさんいる。

 バイセクシャルではないので、俺は女としか寝ないが、両方なんでもこいの男女だったりしたら、寝た相手は天文学的数字になるのではないか。そんな知り合いも俺にはちらほらいるから、田野倉も哲司も珍しいわけでもないのだ。

 たいていの相手は忘れたが、少数、記憶に残っている女もいる。過去にもいる。直近に寝た女や、口説いたのにうなずいてくれなかった女はけっこう印象に残っている。若い女性シンガーのミルキーウェイは俺の車で送ってやって、当たり前みたいにホテルに行ったので、当たり前すぎてつまらなくてじきに忘れた。

「二十歳じゃなくていいんだったら、ニーナさんとかもさ」
「ニーナさんって、乾さんとこの事務所の杉内ニーナおばさん?」
「おまえから見たらおばさんだろうけど、本人を前にして言うなよ。あの胸で圧死させられるぞ」
「ニーナおばさん、男をあのおっぱいではさむ趣味があるの? わぁ、されてみたい。桜田さんもされた?」
「いや、俺は口説いてふられたんだよ。だからこそ強く覚えてるんだな」

 あれはジョークの応酬だったのだが、そんな目で見ないで、あなたを帰したくなくなってしまう、駄目よ、忠弘くん、私には彼氏がいるのよ、なんて言い合って、しまいに吹き出した。哲司にはそんなエピソードを歪曲して話していただけだ。本当にあったことを話すほど、俺は素直ではない。

「そのほうがいいな」
「そのほうがって?」
「桜田さんが二十歳の女と結婚したって、あの桜田忠弘だったらフツーじゃんって言われるよ。ニーナさんと結婚したほうが衝撃的大ニュースになるよ」
「ニーナさんには夫同然の男がいるんだぜ」
「そこから略奪するんだよ」

 そんな情熱、ありゃしない。いまだかつて俺は、どうしてもこの女を俺のものにしたい、この女を離さないために結婚したい、と思ったことなどない。
 たった今話題にしている杉内ニーナさんは、哲司が言う通りに乾隆也と同じ事務所に所属する熟女シンガーだ。六十歳に近いだろうか。爛熟した色気のある美女ではある。

 フォレストシンガーズと同じ事務所、と言わずに、乾さんと、と哲司が言うのは、乾隆也に惚れているかららしい。この気の多い坊やはほうぼうの男に恋をしている。ゲイってのは浮気性なのか。田野倉が他の男を狙っているとは聞いたこともないが、うまく隠しているのだろうか。

 そんなことは俺の知ったこっちゃないが、フォレストシンガーズにしたって、早々と結婚した本庄繁之はともかく、本橋真次郎はけっこう……あいつも一時は遊び人だったくせに、マネージャーと結婚しちまった。結婚を決意したのはなんのせいだ? と訊いてみたら、照れてもごもご言っていたが。

 俺にはそんな情熱がないから、結婚している男女には尋ねてみたくなる。本橋のように照れてごまかす奴、本庄のように上手に答えられない奴、春子さんのように、そりゃあ愛していたからよ、他になにがあるの? とそらっとぼけている女、さまざまだった。

 どんな答えを得ても俺には納得できないんだから、他人のことは放っておくしかない。俺はほんとに、八十代の死にかけじじいの年頃になってから、四十代の中年美女と結婚しようか。ということは、生まれたばかりの女の赤ん坊に唾をつけておくべきなのか。

 などと考えていたから、哲司がうだうだ言っているのなど聞いていなかった。哲司はひとりで喋り、けらけら笑ったりしていた。

「春子さんでもいいよな」
「へ? うちのおばさん?」
「春子さんって哲司のおばさんだったか?」
「おばさんじゃなくて遠い親戚なんだけど、東京のお母さんみたいなもんだよ。春子さんがどうしたの?」
「春子さんと結婚してもニュースになるんじゃないのか?」
「春子さんは結婚してるよ」
「だから、略奪」

 相手がニーナさんだと面白がっていたくせに、春子さんの名前を出すと哲司はむっとした顔になった。

「おばさんを略奪して結婚しろって言ったの、おまえだろ。ニーナさんは派手なシンガーなんだから、俺とは接点もある。春子さんだって知り合いだけど、彼女は写真スタジオの経営者夫人っていう一般人だ。春子さんとのほうがニュースバリューはあるぞ」
「春子さんは桜田さんと年が近いよ。ニーナさんのほうが面白いじゃん」
「だったら、春日弥生さんにするか」
「弥生さんは独身でしょ」

 秘密なのだそうだが、春日弥生さんも結婚している。彼女はニーナさんよりもさらに年上の大阪のおばちゃんだから、なんぼなんでも俺もそそられない。というか、そんな目で見ると失礼だと思ってしまう。

「ニーナおばさんがいいよ。春子さんなんかつまんないって」
「……おまえ……」
「なんだよ」

 自称小悪魔、魔性の少年の真行寺哲司にも、親戚のおばさんを守ろうとする意識があるのか。可愛いところもあるんだな。俺なんかはこの業界に巣食う可愛げのない魔物で十分だが、おまえにはまだ可愛げも必要だよな。
 大丈夫だよ、春子さんにはそんな気にならないから、と言って安心させてやるのはやめよう。日ごろの俺は哲司に翻弄されているのだから、ちょっとだけお返しだ。

END





 
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~ Comment ~

NoTitle

女なんて・・・若い方がイイに決まっている!!
\(◎o◎)/!

・・・あかねさんにぶん殴られそうだ。
(/ω\)


いや、男の本能的なところもあるのだと思います。
遺伝子を残すという観点が脳にもインプットされていて。
それで若い女性の方を選ぶ。。。
と言うのはあるのだと思います。

・・・と言い訳をしてみる。
( 一一)

LandMさんへ2

こちらもありがとうございます。

こちらでも、いえいえ、いやいや、ですが。
そりゃあそうでしょう。ぶん殴りません(^^ゞ
そのお気持ちはよくわかります。

自然に恋をして、気づいてみれば彼女は年上だった。
そういうことはあるのかもしれませんが、敢えて年上の女と結婚する必要はありませんしね。はい、男女逆でもまた真なりですね。

遺伝子を残したい本能はすべての生き物にあり、だからこそ顔のいい異性がもてるなんてこともあるようでして。
男は収入、女は年齢がいちばん大事、などと、身も蓋もない現実もあるようですね。

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