ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSのクリスマス「サンタが街にやってくる」

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フォレストシンガーズ・クリスマス

「サンタが街にやってくる」

  
 額のところには白い毛皮、てっぺんに白いポンポンのついた赤い帽子。白いひげもつける。
 襟と袖にも白い毛皮のついた丈の長い赤いジャケットと、裾の白い赤いズボン。黒いベルトとブーツ以外は赤と白の装束に身を包んだ。

「乾さんだと細身すぎますけどね」
「腹にクッションでも入れますか」
「いいえ、細いサンタさんも素敵ですわ」
「ありがとう。じゃぁ、行ってきます」
「トナカイの引く橇に乗って?」

 クリスマスイヴの夜空を飛ぶ橇があれば完璧だが、そんなものを現実ではチャーターできない。美野里さんにサンタの衣装を着つけてもらった俺は、そおっと部屋から出ていった。
 部屋から出て裏口に回り、寒い戸外へ一歩踏み出す。こういうのって偽善なのかな。売名行為だとも言われかねないのだろうが、たとえ「偽」がつこうとも善意の行動はするべきだ。あまり深く考えすぎないでおこうと決めたじゃないか。

 今年の春にはじめてやってきた、この市の中心部のホールで歌った。夕方には仕事が終わったので、ひとりで街を歩いて偶然にもたどりついたのがこの施設だった。「あすなろキッズホーム」と木彫りの看板がかかっていて、庭で大勢の子どもたちが遊んでいた。

「あの、まちがっていたらすみません」

 門のところに立っていると、うしろから声をかけてきた女性がいた。

「シティホールであったショーに行ってきた帰りなんですけど、あの、出演してませんでした?」
「ええ、フォレストシンガーズの一員として歌わせていただきました」
「きゃっ、じゃあ、フォレストシンガーズの乾さん? サインして下さい」
「喜んで」

 彼女はこのホームの職員で、今日は休日だったのだと言う。休みだったからショーに行ってきたのだが、帰り道に子どもたちの様子を見に立ち寄ったのだと話してくれた。名前を聞き、美野里さんへ、と書き添えたサインを手渡すと、彼女は嬉しそうに言った。

「ありがとうございました」
「いえ、こちらこそ、サインを望んでいただけるのは最高にうれしいですよ。えーっと、このホームはいわゆる孤児院なんですか」
「親と一緒に暮らせない子どもの施設です」

 孤児ではなくても種々の理由で親と暮らせない子どもはいる。夕刻のひととき、夕食を待つ間に庭で遊んでいるのだろう。

「よろしければ、歌わせてもらってもかまいませんか」
「乾さんが? おひとりで?」
「ひとりでだって歌えますよ。ハーモニーはつけられませんので、なんでしたら職員の方々にお願いしてもいいですか」
「職員たちに歌のうまいひとはいませんから、乾さんおひとりでお願いします」

 快諾してもらったので、庭に入っていって歌った。童謡や唱歌やアニメソングや、リクエストに応えてアイドルソングやテレビで有名になった歌や。俺の知らない歌は子どもたちが教えてくれて、しまいにはみんなで歌った。
 夕食の時間になってさよならするときに、美野里さんが言ったのだった。

「またぜひいらして下さいね」
「ありがとうございます。きっと来させてもらいます」

 約束だよ、また来てね、と子どもたちも言ってくれた。
 が、俺が暮らしている東京からは遠いこの土地へは、機会がなくては来られない。ぐずぐずしているうちに半年以上が経ってしまい、冬が来ようとしていたころに連絡した。

「ちょうどクリスマスイヴに休みが取れるんです。クリスマスパーティってやるんでしょ。歌うサンタになって、ちょっとしたプレゼントを持ってお邪魔したいんですが」
「嬉しいっ!! お待ちしています」

 このたびも快諾してもらったので、準備万端整えてやってきた。子どもたちもパーティの支度に余念がなくて、俺が来ているとは知られていないはずだ。

 庭に出て、物置の裏に隠してあった白い大きな袋を背負う。おもちゃやお菓子の入った袋は意外に重くて、よろめきそうになるのをもちこたえて歩き出した。

「……」
「あ、あ、こんばんは」

 行く手で固まって、小動物みたいな黒い丸い目で俺を凝視しているのは小さな女の子だ。三つ、四つか。大きめのセーターに裾を折ったズボンを履いていた。

「サンタさん?」
「うん、そうだよ。だけど、みんなには内緒だから、内緒にしてね」
「嘘だぁ」

 丸い目の女の子は言った。

「サンタさんなんかいないって、ママは言ったもん。よそのうちはお父さんがサンタさんだけど、麻美んちはお父さんがいないから、サンタさんは来ないって言ったもん。それに、サンタさんはおじいさんだもん。お兄さんのサンタさんなんて変だよ」

 やや矛盾はあるが、三つ四つにすれば言うことが論理的だ。口も達者であるらしい。強い光を宿したまなざしで俺をまっすぐに見ている彼女に、俺は言った。

「いるんだよ。俺は若いサンタなんだ。サンタ見習いってところかな」
「トナカイさんは?」
「見習いだから、トナカイさんはついてきてくれなかったんだ。これからみんなのところに行くんだよ。麻美ちゃんとはここで会っちまったから、一緒に行こうか」

 疑いが消えたわけではなさそうだが、うなずいた麻美ちゃんを抱き上げて空いているほうの肩にすわらせた。彼女は俺の頭に抱きついて言った。

「麻美だけ?」
「こうして一緒に行けるのは麻美ちゃんだけだよ。そうだ、俺は歌の好きなサンタさんだから、歌いながら登場しよう。灯りが漏れてるね。あそこがパーティ会場だな」
「ほんとのサンタさん?」
「ああ、そうだよ」

 年長の子どもならば、本当の事実を知っているだろう。人はいつかは真実を知って大人になっていく。
 けれど、こんなにも小さな子にはファンタジーだって大切だ。俺はリアリストの祖母に、うちは仏教だからサンタさんは来ない、プレゼントは私が買ってあげるよ、と言われたが、麻美ちゃんにはまだ夢を持っていてほしかった。

「You better watch out
 You better not cry
 Better not pout
 I'm telling you why
 Santa Claus is coming to town」

 肩の上で小さな女の子が手を叩いてくれる。なかなかリズム感がよくて、俺もノリやすい。歌っているとバレそうにも思えるが、現実を知る年ごろの子にならばれてもいいのだ。クリスマスソングを歌いながらドアを開けると、大歓声が俺を迎えてくれた。


隆也・二十八歳・FSの続・四季の歌、おしまい。






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~ Comment ~

乾サンタさん

乾君、粋なことをしますね。
いやあでも、いいなあ。クリスマスの日に乾君に歌を歌ってもらえるなんて。
ソロってところが、またいいかも。

女の子も、タイミング……良かったのか悪かったのか。
だけどきっと、一生記憶に残りますね。やさしい乾サンタのこと。

子供って、7歳くらいまでは本当に信じているんですよね。
あのキラキラした目がかわいいです。
そしてじんわり現実を知っていく。
その魔法のとける感じも、嫌いじゃない。思い出は残ってるし。
クリスマスって、大人にも子供にも、ファンタジーな時期です^^

limeさんへ

クリスマスストーリィにもコメント、ありがとうございます。

こういうのって偽善じゃないのかなと思いつつやってるところが、隆也らしいと自分では思っています。
この女の子はFSストーリィの「現在」の時点では中学生くらいになっていますから、フォレストシンガーズの乾さんは私の初恋のひと、なんて思っていたりして。

昔、保育所のクリスマスイベントに行ったとき、見知らぬ二、三歳の男の子がちょこちょこ近づいてきて、真剣にきらきらした瞳で、サンタさんについて語ってくれたことがありました。

あの子ももう大きくなって、いつか魔法はとけたのでしょうね。
切なさも知って大人になっていく。
そんなクリスマスの日も、あっという間に終わってしまいました。

NoTitle

うむ、粋なことをしてくれるものです。
サンタさんも。
見習いでもなんでもサンタを名乗る資格があるということを
教えてくれますね。

LandMさんへ

limeさんもLandMさんも、粋だと言っていただいて嬉しいです。
ありがとうございます。

見習いサンタさん。
また来年のクリスマスに向けて、若いサンタさんが修行しているかもしれませんね。
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