ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS続・四季の歌「四季の雨」

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フォレストシンガーズ・四季

「四季の雨」

「降るとも見えじ春の雨
 水に輪をかく波なくば
 けぶるとばかり思わせて
 降るとも見えじ春の雨」

 集団登校の朝、小さい身体には大きすぎる黄色い傘を差して、近所の子どもたちと連れだって学校に行く、小学校一年生の私。

 降るとも見えじではあっても雨はたしかに降っていて、傘の間から手を差し出せばつめたかった。
 お気に入りの傘の模様は音符だった。アニメのプリンセスや可愛い動物キャラクターの傘を持っている女の子たちの中では、私の傘は大人っぽい気がして嬉しかった。


「俄に過ぐる夏の雨
 物干し竿に白露を
 名残りとしばし走らせて
 俄かに過ぐる夏の雨」

 わっ、大変、私は主婦じゃないんだけど、母さんが働いてるからね、夕立に注意してね、と言われてるんだから、洗濯ものを濡らしたら母さんに怒られるよ。

 学校で友達とお喋りしていたら、一天にわかにかき曇り、夕立がやってきそうな様相を呈してきた。私は通学カバンをひっつかんで、自宅までの道のりを走る。夕立と競争していた、中学校一年生の私。

「おりおりそそぐ秋の雨
 木の葉木の実を野に山に
 色さまざまにそめなして
 おりおりそそぐ秋の雨」

 みんなでハイキングに行こうか。高校のクラスメイトたちとやってきた秋の野山。私は高校一年生。好きな男の子も一緒だったから、意識してどきどきしていた。

「あ、雨だ」
「山田、こっちこっち」
「……こっち?」

 手を取られて彼と走る。駆け込んだのは紅葉した樹の下。こんなところでふたりきり。キミは私にキスしたいの? 小学校のときにもいたずらみたいなキスはしたけど、男と女のほんとのキスの経験はない。
 ただときめきっぱなしで、私はなんの行動も起こさず、彼も黙って雨を見ていた。そんな時間は短いような長いような……だった。

「聞くだに寒き冬の雨
 窓の小笹にさやさやと
 ふけゆく夜半をおとずれて
 聞くだに寒き冬の雨」

 大人の恋のつもりだった恋が終わって、十九歳のバースディにはひとりぼっち。おまけに今日は雨だよ。彼氏もいなくなっちゃったんだから、ひとりぼっちで部屋に引きこもっていよう。ひとりぼっちを楽しもう。

 そのつもりだったのに、夜の中で雨音を聴いていると泣けてきた。
 春になったら社会人になる彼は、学生の私とはつきあっていられなくなった。最初から遊びだったんだね。そうだよね、学生同士の恋が行き着く先はさよならしかない。そんなの、知っていたのに。

 あなたもひとり、雨音を聴いていますか? 雨の音が哀しいリズムを刻む……あなたの部屋でそんな歌をレコードで聴いたのを思い出す。こうしているとはじめて、雨が刻む失恋のメロディってのがわかったみたい。

 そして……今日も雨。
 いつの間に私は大人になったのだろう。

 故郷の宇都宮を出て東京に来てからだと、十年が経過しようとしている。大学を卒業して就職して、恋もした。不倫なんてものも経験した。
 会社員は辞めてフリーターになり、オフィス・ヤマザキの社長に見出されたフォレストシンガーズの付録みたいな形で雇ってもらって、音楽事務所の社員になった。最近になってようやく、フォレストシンガーズのマネージャーは山田美江子だと対外的にも認められるようになった。

「おはようございます。今日もがんばっていきましょう!!」

 雨の中、早朝からフォレストシンガーズは電車に乗ってイベントの地へと向かう。眠そうな顔、空腹そうな顔、いつだって元気な顔、朝っぱらから不機嫌そうな顔も、爽やかそうな顔もある。彼らは口々に、美江子さん、ミエちゃん、おっはよう、山田、張り切ってるな、と言ってくれた。

「おまえの顔を見てると、俺も気合が入るよ」
「リーダーがぼーっとしてたら、美江子さんに怒られるからでしょ」
「美江子さんはいつでも気合入りまくりですよね。信じられねえよ」
「いいからおまえも気合を入れろ」
「ミエちゃん、荷物持とうか?」

 バッグを取り上げようとする乾くんに、けっこうです、と断っておいて、さあ、出発!!
 たとえ雨であろうとも、やらなければならないことはやるのです。それが社会人ってものだからね。  

美江子・27歳 END





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