ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS続・四季の歌「里の秋」

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フォレストシンガーズ・秋

「里の秋」

 地元の農産物即売会プラス歌のショー。アマチュア時代にも似たイベントで歌わせてもらったことがあるが、今回はプロになっているので気分がちがう。もっとも気分がちがうのはこっちだけで、俺たちを雇ってくれている側からすれば同じようなものなのかもしれない。

 デビューしてから一年がすぎた。以前にこんなイベントで歌わせてもらったときにはいたヒデが抜けて、今は章がいる。このメンバーになってからでも、各地でのイベントは何度も何度もこなした。ショーは明日だから、今夜は地元の人々と鍋パーティ。以前は鍋の中に毒キノコが入っているんじゃないかと章が言い出し、山田が叱って喧嘩になったこともあった。

 偏食の多い章は今夜も、えー、こんなの食うの? とか言っては、奥さん連中に叱られている。子どもじゃないんだからなんでも食べてみたら? と言われていやそうな顔をしている章の横では、なんでも食うシゲがばくばく食って頼もしがられている。

 今日は山田は来ていない。おまえがいたらシゲに負けないほど食うのにな、この鍋、うまいよ、おまえにも食わせてやりたいな、なんて考えていると、小さな手が俺の前に出てきた。

「おじちゃん、はい」
「おじちゃんじゃないんだよ、お兄ちゃん」
「おじちゃん……」

 小さい男の子、兄貴の息子ぐらいの年齢だろうか。七つ年上の双生児の兄貴たちには、息子と娘がひとりずついる。敬一郎の息子は欧太、一歳。栄太郎の息子は展希、三歳。であるから、この子はノブキと同じくらいだろう。

 そんな小さな子が、俺をおじちゃんと呼んでてのひらいっぱいの栗の実を差し出している。手も小さいからふたつ三つの実でいっぱいになるのだ。

「おじちゃん……」
「だから、お兄ちゃんだって」

 甥にだったらおじちゃんと呼ばれるのは仕方ないが、よその子にはお兄ちゃんと呼んでほしい。俺は二十五歳だ。よそのおっさんにまでおっさん呼ばわりをされるシゲよりはましだが、俺も老けてみられがちで、さっきも中年女性から、あなたは三十はすぎてるのよね、と言われたばかりだった。

 子ども相手に大人げないが、怖い顔をしてしまっていたのか、ちびは一、二歩後ずさりをして泣き出した。うわっ、ごめんっ!! と俺は叫び、乾が子どもを抱き上げた。

「かわいそうに、よしよし。いい子いい子。泣かなくていいんだよ。おじちゃんは怖くはないんだからね。怖い顔はしてるけど、気持ちは優しいんだ。泣かなくていいよ、坊やよい子だ、ねんねしな」
「乾さん、ねんねさせてどうするんですか。はーい、坊や、べろべろばー」

 幸生も一緒になってあやすと、子どもは泣き止んだ。親だか祖父母だかが近くにいるはずだが、用事でもあるらしくて近寄ってこない。乾は子どもに話しかけていた。

「お名前は?」
「あっちゃん」
「敦夫くんかな? 敦詞くんかな?」
「敦夫ってうちの社長の名前でね、敦詞は何年も前の合唱部のキャプテンの名前だよ。あっちゃん、わかる?」
「うん」

 わかっていないはずだが、幸生の質問に子どもがうんと答えたので、周りのひとたちは笑っている。章は子どもには興味がないらしく、シゲはみんなに食え食えと言われて忙しいらしい。乾と幸生が相手だと機嫌のいいガキ、もとい、あっちゃんを見ていると苦笑いするしかなくて、俺もよそってもらった鍋料理を食った。

「幸生は精神年齢が幼いから、子どもにはもてるんだよな。乾は女みたいだから、子どもにはなつかれやすいんだ」
「リーダー、負け惜しみ」
「うるせえんだよ」

「きゃーっ、そんな声を出すとあっちゃんがまた泣きますよ。あっちゃん、真次郎おじちゃんは見ないようにしてね」
「うるせえって言ってんだろ」
「うわーん、おじちゃん、怖いよぉ」

 泣き真似をしている幸生をごつんとやってやろうとしたら、乾に止められた。子どもの前だから、と言いたいのだろう。幸生もあっちゃんも乾にしがみつき、乾はふたつの頭を撫でている。まったく、人を怖い怖いって言いやがって、と腐っていると、優しい声が言ってくれた。

「本橋さん、歌って下さいな」
「あ、ああ、はい、栗の実の歌……ああ、これがありますよね。本橋真次郎、ソロで歌います。聴いて下さい」

 立ち上がると、みんなが拍手してくれる。地元の青年が尋ねた。

「ギターで伴奏していいですか。なんの歌ですか」
「これです」
「ギターあるんですか? 俺も弾きたい」

 これです、で察したらしく、幸生が口笛を吹き、章とその青年がギターでイントロを奏でてくれた。俺が歌い出すと、乾とシゲが高低のハーモニーをつけてくれた。

「しずかなしずかな 里の秋
 おせどに木の実の 落ちる夜は
 ああ かあさんと ただ二人
 栗の実にてます いろりばた」

 ソロではなくなってしまったが、この広間にいる全員が俺の歌をうっとりと聴いてくれている。乾の膝にすわったあっちゃんは目を閉じて、眠りかけているのだろうか。三歳ぐらいではそのあたりはわからないのかもしれないが、怖そうなおじちゃんではなく、歌の上手なお兄さんとして彼の心に残ったらいいなぁ、であった。

真次郎25歳・終わり




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~ Comment ~

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私も30超えましたが、お兄さんと言われたい。
・・・が、そうこういわれる年齢でもないのか。

確かにあかねさんの場合は、渋みを持たせたキャラクター方が生きるかもしれませんね。若い人は若い人で情動的で生き生きとしているからいいですけど。

LandMさんへ

いつもありがとうございました。
私は25歳の年に引っ越しまして、むかいの11歳の男の子に「おばちゃーん」と呼ばれて大ショックだったのをありありと覚えています。
大人のひとには「成人式まだ?」とか言われたのですが、子どもは正直なのかもしれませんね。

渋いキャラといきいき情熱的な若いキャラ。
両方書けて、書き分けができるようにがんぱります。

まだ若いのに

本橋くん、25歳でオジサン呼ばわりされたら、悲しいですよね。
25歳のキャラ、私も使ってますが、まだまだ若者の範疇です(リクと玉城^^)
でも、もしかしたら、老け顔??
それにしても、TVに出ている役者さんはもとより、男の人の40代って、若いですよね。自分が年を取ってきたからかもしれないけど。
福山君だって、もう50でしょ?ぜんぜん青年って感じで。

でもイメージ的に30~40代って、おじさんの範疇になってしまうので、使うのが難しいです。その点ドラマとかは、楽でいいなあ・・・。

やっぱりユキちゃんと乾君は、子供受けもいいですね^^
シゲちゃんはもっとよさそうだけど、今は食い気^^
あまり食べすぎると、太っちゃいそうで心配ですね、シゲちゃんは。

limeさんへ

いつもありがとうございます。
25歳なんて、小娘と坊やですよねぇ。
まあしかし、老けて見える男女もいるものでして。

シゲ、シンはおじさん。
隆也はお兄さん、幸生と章はガキ、って感じです。

二十代のうちはそんなに老けて見られるひとは少ないかもしれませんが、三十五歳くらいから分かれてきません?
キムタクや中居くんなんかも若いですが、最近、ドーラン濃すぎに思えますし。
福山さんもさすがにちょっとだけ老けてきましたかね。だけど、彼は一種の化け物かも。

芸能人と一般人が、同級生でーす、なんて言って並んでると、やはり差は歴然。
小泉さんちの浩太郎と進次郎も、兄さんのほうが年下に見えますよね。

シゲはたしかに、大食漢で食べるのが好きですから、太りすぎないように走ってます。
彼はもうフォレストシンガーズの中では「お父さん」のポジションですね。



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