ショートストーリィ(しりとり小説)

103「年上の女」

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しりとり小説103

「年上の女」

 あまりの衝撃に倒れそうになって、早代は嫣然と微笑む峰子の顔を凝視しながら、キッチンの柱にすがりついた。

 高校時代には親友のつもりでいた。いつまでも友達でいようねと約束はしたものの、卒業して進路が分かれ、いつしか電話もしなくなって疎遠になっていくのは、どこにだってころがっている話だろう。早代と峰子もその例に漏れなかった。

 ある夜、暇つぶしにインターネットを見ていた早代は、母校の同窓生が主催している同窓会SNSを発見した。怖いもの見たさのような気分で覗きにいってみると、サイトは閑散としてはいたが、同期会のようなものをいくつか見つけて、早代の年代のところに書き込みをしてみた。

 同じように書き込みをしていたのが峰子。ふたりともにハンドルネームを使ってはいたが、高校時代の想い出話を読んでいれば、サヨちゃん? ミネちゃん? と正体が判明するのもじきだった。なつかしいね、会おうよ、となって、喫茶店で待ち合わせたのが一ヶ月半ほど前だった。

「久しぶりだね。ミネちゃん、ちっとも変わってない」
「サヨちゃんも若いわ。子どもさんが小さいと気が若いっていうから、外見も若いんだね」
「ミネちゃんのほうが若いよ。綺麗にしてるんだ」

 お世辞の言い合いなのは自覚しつつ、お互いを褒め合う。早代は三十五歳で結婚して、保育園に通う娘を持つ主婦兼会社員。峰子は独身キャリアウーマン。四十二歳の女性としては、いずれも非凡でもない人生を歩んでいるのだった。

 二度目に会ったのは半月ほど前。夫が娘を連れて両親の家に泊まりにいくと決まっていたので、早代も峰子と食事をした。大人になってから会うのは二度目とはいえ、高校時代の親友なんだからいいよね、と思って、早代は峰子に突っ込んだ質問をした。

「ミネちゃん、彼氏はいるの?」
「いなくはないよ」
「だよねぇ。道理で綺麗だと思った。結婚の話は?」
「年下すぎるから……」
「彼が? いくつ?」
「うーんと年下」
「なにをやってるひと?」
「えっと……ああ、ワイン、もう一杯どう?」

 気楽な雰囲気のイタリアンビストロで、峰子は早代の質問をはぐらかす。言いたくないのかと思ってみたり、そのわりにはミネちゃん、嬉しそうだな、と思ったり。早代は峰子の顔色をうかがいつつ、空気も読みつつ角度を変えて質問を続けた。

「たぶんね、彼は早代ちゃんも知ってるひとなの」
「私が知ってるひと? 有名人?」
「最近、有名になってきたひと」
「……誰だろ。なにをやってるひとなのか教えてよ」
「そんなの言えないよ。ここまでにして」

 知りたくて苛々して、名前だけでも、年齢だけでも、仕事だけでも、と食い下がったが、早代は教えてくれない。うふうふ笑って頬をぽっとピンクに染めて、やけに色っぽく若やいで見えていた。

「実はね、私、彼と同棲してるんだ」
「へぇぇ、そうなの」

 本日の昼休みに、早代のケータイに峰子から電話がかかってきた。

「今日は彼、仕事で留守なのよね。彼はおもてなしはできないけど、早代さんに家に来てもらったら? って言ってくれたのよ。うちでだったら彼の話もできるし、サヨちゃんだったら変な噂が広まる心配もないし。彼がああいうひとなだけに、下手な真似はできないからね」
「ああいうひとって……」
「来ればわかるよ。来られる?」

 こんなときには子持ちは不自由だ。しかし、今日を逃したら今度はいつになるかもわからないので、急な残業だと夫に嘘をついて娘を迎えにいってもらい、早代は峰子と待ち合わせた。

 夫に嘘をついたというスリル、娘をないがしろにしたといううしろめたさ、それらも加わって早代の胸の鼓動が激しくなる。待ち合わせたカフェからタクシーに乗って、たどりついたのは高級マンションの建ち並ぶ住宅街だった。

「ミネちゃんの彼氏ってどういうひとよ? どきどきしてきちゃった」
「部屋に行けばわかるってば」
「……億ションってやつ?」

「部屋については事務所にまかせてあるって言ってたから、彼もよくはわかってないみたい。スターっていうのは浮世離れしたところがあるんだよね。まして彼、若いし」
「いくつなの?」
「二十一だったかな」
「……え……」

 絶句、とはこれである。半分の年齢ではないか。事務所、スター、峰子の台詞からすると、彼氏とやらは二十一歳の芸能人か? 峰子はほっそりしていて年齢のわりには小奇麗ではあるが、四十二歳は四十二歳だ。
 大丈夫なのだろうか。峰子の妄想ではないのか? まさか、芸能人のストーカーでもやっていたりして? そんな懸念までが加わって、早代の胸の中で誰かがドラムを叩いているような気分になっていた。

「どうぞ」

 が、峰子はこともなげに一室の鍵をあけた。ストーカーならばキーは持っていないだろうから、それだけは安心して早代も続く。ドアの中には広々とした空間があった。
 誰と一緒に暮らしてるの? ミネちゃんの彼氏って誰? 美しく整理整頓された広い部屋。部屋はいくつあるのだろう。三人暮らしの早代のマンションの二倍もありそうで、ひと部屋が大きい。3LDKよ、と言いながら峰子がキッチンに案内してくれた。

「まずはなにか飲む? 彼は野菜とフルーツのジュースが好きなのよ。毎朝、私が作ってあげるの。お酒はあんまり飲まないけど、缶入りハイボールだったらあるよ」
「いえ、おかまいなく」
 
 すわりもせずに、早代は冷蔵庫を開ける峰子を見ていた。峰子は冷蔵庫からハイボールの缶をふたつ、取り出している。
 機能的で最新鋭のキッチンだ。峰子もキャリアウーマンだと言うのだから稼いでいるのだろうが、ここは庶民が暮らすマンションではない。峰子の彼氏の正体を探るヒントは? 早代はぐるりとキッチンを見回し、壁に貼られたメモに目を止めた。

 「相川カズヤ、スケジュール」と書かれたメモだ。今週の予定表らしく、本日の分には、「スタジオで朝までダンスレッスン」となっていた。

「相川……カズヤ?」
「あ、バレちゃった」
「あの……それっていくらなんでも……」
「いくらなんでも、なに?」

 嘘でしょ、ジョークでしょ、とも言えなくて、早代はキッチンの柱にすがりついているしかない。すこし落ち着くと、なにかのトリック? とも思えてくる。峰子は余裕で微笑んで言った。

「信じられないのも無理ないよね。サヨちゃんはカズヤくんって知ってるでしょ」
「あの、アイドルの相川カズヤだったら知ってる……」
「そのアイドルの相川カズヤだよ。本人はアイドルって呼ばれるのは不本意みたいだけど、まだ二十一だもの。アイドルから大人の歌手になる段階だと思えばいいのよって言ったら、彼も納得していたわ」
「ミネちゃんはカズヤくんのなんなの?」
「だから、彼女」

 同棲しているカノジョ? 恋人同士? いちばん考えられるのは、峰子が自分ひとりか、あるいは別の人間と暮らしているマンションに早代を伴ってきてかつごうとしている? それにしてはマンションが豪華すぎる。遺産でも入ったのだろうか。

「悩んでるね。証拠を見せてあげたいんだけど、写真だのCDだのだって、手の込んだいたずらとも思われちゃうしね……おたくっぽいファンだったら、生写真だって持ってるだろうし……これは、合成写真だと思っちゃう?」

 見せてくれたのは、このキッチンで相川カズヤがくつろいでいる写真だった。早代は現にここにいるのだから、このテーブル、あのシステムキッチン、この椅子、それらがここにあるとわかる。
 テーブルについてにっこりしているカズヤの前には、淡いグリーンのジュースとトーストが置かれている。カズヤのうしろに立って、頬と頬とがくっつきそうに顔を寄せているのは、まぎれもなくこの、緒方峰子だった。

「本物だよ」
「そこまでして私をだましたって意味ないもんね、信じるわ。だけど……」
「仕事の関係で知り合って、彼に恋されちゃったのよ。四十年も生きてきたら、こんなこともあるんだな」
「そういえば、相川カズヤのインタビューを読んだことがあるわ。大人の女性が好きだって言ってたね」
「年上好みなのはまちがいないみたいだけど、大人の女だったら誰でもいいってわけでもないのよ」

 つまり、選ばれたのは私、緒方峰子という大人の女だったと言いたいのだろう。
 自分には絶対に起こり得ないことだけに、峰子がうらやましいとも思えない。ほえーっ、すごいわねぇ、としか感想の持ちようもなかった。

「年上の女性が好きだって、なんだか有名になっちゃってますね。はい、僕は年上のしっかりした大人の女性が好きですよ」

 それからまた一ヶ月が経過したある日、職場の昼休みに休憩ルームに行くと、週刊誌が置いてあった。相川カズヤのインタビュー記事が載っていたので、同僚にことわって読ませてもらった。
 
 この、年上のしっかりした大人の女性とは、峰子のことだろうか。休憩室にいる同僚たちは誰ひとり、峰子については知らない。私だけが知っていると思うと、カズヤくんの恋人ってね……と吹聴したくなる。おっと危ない。早代は口を閉じて記事を読んだ。

「カズヤくんはおうちでごはんは食べるの?」
「食べますよ」
「自炊?」
「僕は料理は得意じゃないから、家事をやってくれる人にお願いしてるんです」
「年上の美人?」
「僕の部屋は女性の出入りは厳禁です。家政夫さんですよ。男性です」

 家政夫? 本当は「夫」ではなくて「婦」なのではないのだろうか。腑に落ちた気がする。
 ストーカーではなくて家政婦なのだったらいいではないか。峰子は合法的に相川カズヤのマンションに出入りし、家事をして報酬を得ている。ならば、あんな写真が撮れても変ではない。それだけ峰子がカズヤに親しまれているからなのだろう。

 見栄を張りたかった? あれがミネちゃんのロマン? 私にだけしか言ってないよね? よそで乱発すると問題になるよ、と早代は心で峰子に語りかけ、それからはたと首をかしげた。

 しかし、家政婦が恋人に変身することだってなくもないのでは? 僕の彼女は家政婦さんです、とはカズヤだってインタビューでは口にしないだろう。

 どっちが真相? 私としてはカズヤくんの言葉を信じたいな。だって……ミネちゃんの言ってることが本当だったとしたら……だってだって……正直、悔しいじゃないの。ミネちゃんはカズヤくんに信頼されている家政婦さん、そのほうが私の心の平穏のためにも望ましい。
 早代の正直な気持ちはそれに尽きた。

次は「な」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
相川カズヤはフォレストシンガーズストーリィの脇役で、アイドルシンガーです。さてさて、真相はどちら? 常識的に普通に考えたほうだと著者は思います。












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~ Comment ~

NoTitle

あかねさんが年上の女性を描くと、ドキとしますね。
その辺はやはり書き続けている妙なんでしょうね。
魅力と香りがすごいです、

LandMさんへ

ドキ?
いい意味に受け取っておきます(^o^)
ありがとうございます。

相川カズヤくんにはモデルがいまして、アイドルにはほぼ興味のない私がなぜか、唯一けっこうお気に入りの彼なのです。
とはいっても、彼と恋をしたくはありませんけどね。当たり前か。

NoTitle

やっぱり、なんとなく家政婦の線が有力ですね。
歳の差というんじゃなくて、そんな関係をぺらぺら昔の友人に話してしまう人に、アイドルの彼女が務まるとも思えないし。
とっくにマスコミにばれちゃいますよね。
私もけっこう歳の差男女(女性が年上)の、気になる関係を書いていますが、実際10歳以内ならばいい感じになれると思うんですよね。うまくいくんじゃないかな。^^
あかねさんのお気に入りのアイドルって、誰だろう。気になりますね。

Limeさんへ

いつもありがとうございます。
そんなふうに考えると、ほんとにlimeさんのおっしゃる通りですね。もしもほんとにアイドルとつきあっていたら、恋仲が続いている間は秘密厳守でしょうから。

十歳以内の年の差カップル、うまく行く人ももちろんいるでしょうけど、私は年下はいやだなぁ。
若いからってえらいわけでもないのに、こっちが年上だと引け目を感じて卑屈になってしまいそうです。

ジャニーズ系には一切興味のない私が唯一、けっこう好きなアイドル。
彼の声と、○○なのに歌が好きです。
「抱いてセニョリータ」と、「青春アミーゴ」が好きで、そこから彼本人もけっこういいななんて思うようになりました。

もうひとり、こっちは俳優ですが、勝地涼くんもけっこう好きなんですよね。
そう思ってよーく顔を見たら、このふたり、目が似てます。

前にもlimeさんにお話ししたように、鋭い目つきが好きなせいです。
あ、これでアイドルの彼、わかります?
亀梨くんじゃないほうです。

そう言えば

某もとピッチャーが長く独身だったころ、私たちの間では、結婚しないのは「犬の散歩をしてくれる家政婦という名前の女性が……」という話題がよく上っていました。「家政婦」って微妙な表現ですよね。
でも、今回は、まぁ、本当に「家政婦」でしょうねぇ。信頼関係はありそうだけれど、アイドルの方はそんなこと考えていないな、きっと。
早代の目を通して語られているのがいいなぁと思いました。

あ、勝地涼君は私も結構気に入っています。ずいぶん前にNHKの少年少女系ドラマに出ていた時に、私も彼の目がいいなぁと思いました。
ジャニは個人的に興味がある人が何人かいるのですが、それ以外は全く見ていません^^;(嵐さんのコンサートには行きますが、私は一人しか見ていない……ダンスの上手い人の足に釘付けになる) KinKiは古いドラマの時代に嵌って(あの頃のドラマはドロドロがすごかったけれど、最近はあの手のドラマ無くなりましたねぇ)、それ以降は親戚のおばちゃんの立ち位置です。今井翼君はスペイン語講座で惚れ直しました。ってな感じの地味なファンです。他のグループは何人いるかもよく知らないことが多い。
アイドルというよりも職人としての技に惹かれるかな。
あ、どうでもいい話でした。

大海彩洋さんへ

コメントありがとうございます。
某ピッチャーって、阪神の選手ですか? 私はそのネタ、知らないんですけど、前にSMAPの稲垣くんが、料理を作ってくれる男性が家に出入りしていて……なんて話してました。
その人、恋人なんじゃないの? なんて言ったりして。

「八重の桜」で勝地くんが山川健次郎を演じていましたよね。凛々しくて頭のいい少年時代はとてもよかったのですが、東大の教授になってからは、貫録なさすぎて大人には見えませんでした。
私は彼は、たしか水嶋ヒロと小栗旬の刑事ものドラマではじめて見たはず。ちょっと記憶があやふやですが。

今のお気に入りは、勝地涼、長谷川博己、それから、上に書いたジャニーズの彼です。長谷川くんだけタイプが違いますね。

ジャニーズ系ではわりと庶民的なタイプが好きで、V6の井ノ原くんがわりに好みです。
かなり昔、ジャニーズ系のマイナーなグループに、友達と一緒にはまっていたこともありましたが、彼らはじきに解散してしまいましたっけ。

こういう話題も楽しいですから、どうでもよくはありませんよぉ。
またいろいろ聞かせて下さいね。

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