ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS続・四季の歌「夏まつり」

 ←いろはの「の」 →花物語2014「十二月・クリスマスローズ」
フォレストシンガーズ・夏


「夏まつり」

 シンガーが仕事です、フォレストシンガーズの本庄繁之です、と公明正大に言えるようになってから、もうすぐ一年がたつ。フォレストシンガーズ? なんだそれは? 本庄繁之? 知らん、と言われるのが常であって、昼間にもそう言われた。

 まったく仕事がないわけではないのだが、忙しいほどでもないのでしっかり歌の練習はしている。我々は顔がいいわけでもないのだから、売りは「歌」。五つのハーモニーだ。そこに不足はないはずなのに、まるで売れない。ま、まだこれからだよな。

 有名な歌手だったら、夜店の並ぶ通りを自由に歩けないのだろうか。デビュー前には想像もしたものだが、俺は外でファンの方に声をかけられたことなどない。一度はそんな身分になってみたいような。
 たまにラジオ局などで会う有名な芸能人は不自由なのだろうから、そこまでにはならなくてもいいような。永遠になることはないような? なのだろうか。

 プロになってからは地方に行くことも増えた。今日の昼間はこの地区の夏祭りのついでみたいなイベントで、フォレストシンガーズも出演させてもらった。
 出番が終わったころに、お神輿が出発すると聞いた。俺も子どものころには、故郷の神輿をかつぐお兄さんやおじさんたちに憧れた。中学、高校時代にはかついだ経験もあるので、町の顔役さんにお願いしてみた。

「あんたが神輿をかつぎたいって? あんた、誰? フォレストシンガーズの本庄さん? 知らないな。得体のしれないおっさんには頼めないよ」

 おっさんって、俺、二十四歳なんですけど……と言う暇も与えてくれず、顔役さんは忙しそうに去っていった。本橋さんと乾さんは言い合っていた。

「俺もかついでみたい気はするけど、シゲと同じように言われそうだな。あとの三人だったら、おまえらみたいな弱そうな奴には神輿は担げんだろ、って言われそうだし」
「俺も高校のときには担いだよ」
「ふらついたんだろ」
「そうだったかなぁ。シゲ、気を落とすな。神社には縁日が出てるんだろ。そっちに行こうか」

 乾さんは俺の肩を叩いてくれ、幸生も章も賛成したので、神社まで歩いてきた。帰るのは明日だ。今夜は祭りを楽しませてもらおう。

 賑やかなお祭りの夜。
 綿菓子? 綿あめでしょ。こんなの、横須賀にはなかったなぁ。金沢の縁日だったらこんなのがあったよ。東京の祭りはもっと勇壮だぜ。章はひねくれてて、祭りになんか行かなかった? そうでもないけどな。花火大会はないんだね、花火、やりたいな。

 などなどと、仲間たちが話しているのを聞きながら、屋台をひやかして歩いた。幸生はアニメの美少女のお面を買ってかぶって、これでユキちゃんだって誰にもわからない、と言い、どうせ誰も知らねぇよっ、と章に鋭く突っ込まれていた。

 そうしているうちに俺ははぐれてしまった。今夜の宿はわかっているのだから、迷子になったってどうってこともない。小さな神社だ、そのうち会うかもしれない、と思ってそのまんま歩いていた。

「十年はひと昔 暑い夏
 おまつりは ふた昔 セミの声
 思わずよみがえる夏の日が
 あゝ今日は おまつり 空もあざやか」

 ひと昔前、俺は中学生だった。こうしてひとりになると、周囲の喧騒から俺だけが浮き上がって昔を思い出す。あの夜にも俺はひとりで神社を歩いていた。十年前だってさして変わりないものを売っている店たちの中に、金魚すくいの屋台もあった。

 可愛らしい柄の浴衣を着た可愛い少女、彼女が持ち上げたビニール袋の中を泳いでいた、鮮やかなオレンジいろの金魚。中学校の同級生で、片思いの相手だった彼女は、俺ではない少年に微笑みを向けていた。

 ただそれだけのことなのに、思い出しても楽しくもないのに、なんだか切なくて胸が痛くなる。女の子とはまともに口もきけない中学生だったのだから、彼女とだって仲良くもなれなかった。
 同じ夜に姉が知らない男と歩いているのも見た。姉も浴衣を着ていて、俺には見せたこともない艶めいた笑顔を彼に向けていた。

 姉の私生活をすべて知っているわけでもないのだから、あの男が姉の彼氏だったのか、それからもつきあっていたのか否かは知らない。姉は名古屋の大学に進学し、俺は東京の大学に進み、卒業しても名古屋と東京で暮らしているから、めったに会わない姉弟になってしまった。

 周囲には人が大勢いるのに、俺はひとり。こんなふうだとセンチメンタルになるのだろうか。人ごみを縫って歩きながら、やたらに故郷にまつわる出来事や人々を思い出していた。

「おーい、シゲ!!」
「シゲさんがいないと寂しいよーっ!!」
「幸生、変な声を出すな」
「シゲ、こっちこっち」

 美少女のお面をかぶった奴がひとり、もうひとり、背の低いのがいる。あとのふたりは背の高い四人の仲間たちが俺を呼んでいる。追憶はあっけなく消え失せて、俺は彼らのところへと駆け寄っていった。

 
 繁之24歳・終わり





スポンサーサイト


  • 【いろはの「の」】へ
  • 【花物語2014「十二月・クリスマスローズ」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

ありがとうございます。

拍手、感謝です。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【いろはの「の」】へ
  • 【花物語2014「十二月・クリスマスローズ」】へ