ショートストーリィ(花物語)

花物語2014「十一月・木瓜の花」

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花物語2014・霜月

「木瓜の花」

 不細工な男ばかりだから女には人気がないのだと桃花は決めつけているが、サークルのメンバーたちは、彼らのよさは女にはわからないからだと口をそろえる。

 お笑いというかコントというか。三人組の芸人グループだ。トリオ・ザ・スマートというレトロな名前をもっているが、彼らはまったくスマートではない。小太り短躯、相撲取りのような巨体、中背肥満体、そんなルックスは印象的でもあった。

 大阪に旅行したときに、桃花はミナミの繁華街で彼らの無料ライブを見た。友人たちは、なにあれブサイク、面白いけど見てても楽しくない、などと酷評したが、桃花は惹かれてしまった。

 東京に戻ってきてから、インターネットで知ったトリオ・ザ・スマートのファンサークルに入会した。サークルがほぼ男ばっかりなのは、マニアックで高度なお笑いを追求しているからだとメンバーたちは言う。徐々に彼らも人気が出てきていて、もはや無料ではライヴはやらなくなっている。

 サークルは少人数のグループだが、オフ会などもある。桃花も二度、三度と参加し、グループの中でも細かく分かれているうちの若手グループに入る形になった。おじさんグループもあって、そっちのメンバーたちは、いいなぁ、若い女の子をひとりじめすんなよ、と若手をこづいていた。

 若手とはいっても三十代まではこのくくりに入るので、二十六歳の桃花は本当に若いほうだ。桃花はさしてお笑いに詳しいほうでもないが、実際マニアックなお笑いファンの話を聞いているのは楽しかった。

「桃花ちゃんって聞き上手だよね」
「桃花ちゃんがにこにこと話を聞いてくれて。へええ、そうなんだぁ、って感心してくれるから喋る甲斐があるよ」
「安藤さん、物知り、だとか、頭いいんですね、って言ってもらうのも気持ちいいし」
「桃花ちゃんは俺たちのアイドルだよ」

 そう言われるのももちろん、気持ちのいいものではあった。

「安藤さん、結婚したんだってね。知らなかったぁ、桃花も結婚式に招待してほしかったな」
「あ、そ、そう? ごめんね」
「はい、これ、結婚祝い」
「え? くれるの? ありがとうっ!!」

 感動の面持ちになって、桃花のプレゼントを抱きしめた安藤は、三十歳くらいだろうか。中肉中背の平凡なタイプで、サークルの中ではごく普通なほうでもあるので結婚できたのだろうと桃花は思っていた。

「ネクタイだね、ありがとう、嬉しいよ」
「どう致しまして。結婚式に行けなかったのは残念だけど、いつか新居にお呼ばれしたいな」
「本気で言ってる? じゃあ、そっちには近いうちに招待するよ」

 頬を上気させた安藤が約束してくれて、それから一ヶ月ほど後には新居訪問が実現した。他に、サークル仲間の男性が三人ほど同行するという。

「安藤の奥さん、その日は仕事を休めないんだって。安藤がごちそうを作るって言ってるんだけど、あいつの手料理なんて食えるんだろか」
「そうなの? そしたら桃花、張り切っちゃおうかな」
「なにか買ってきてくれるの?」
「そうじゃなくて、桃花が料理を作るの」

 えー、桃花ちゃん、料理できるの? 失礼ね、できるよ、と同行者たちとやりあった末、桃花は早めに安藤の新居に行くことにした。豚しゃぶサラダとサンドイッチを作ることにして、買い物をして安藤のマンションを訪ねていった。

「いらっしゃい。桃花ちゃん、早いんだね」
「奥さんはお仕事だって聞いたから、桃花が料理をしまーす」
「ええ? 桃花ちゃんが作ってくれるの? 僕もちょっとは作ったんだけど……妻もなにか作っていってくれてるんだけど……早く帰ってきてもっと作るとも言ってたけど……」
「いいからいいから、桃花にまかしといて」

 困っているような嬉しいような顔をしている安藤を押しのけて、桃花はキッチンに入った。2DKのマンションのキッチンはこじんまりとまとまっていて、使い勝手は悪くなかった。

 実は家事は母親にまかせっぱなしなので、桃花は料理は得意ではない。それでもスマホでレシピを見ながらがんばって取り組んだ。そうしているうちに他三名のお客も到着する。するめを買ってきた、俺はポテチ、アーモンドも買ってきた、焼き鳥を買ってきた、などと男たちは言い、キッチンを覗きにきた。

「桃花ちゃん、エプロン姿が可愛いね」
「そうしていると新妻みたいだ」
「安藤と結婚したのって、桃花ちゃんだったりして……」
「駄目だ、そんなの、俺が許さん」
「さすが女の子だな。女らしいな」
「当たり前じゃん」

 手慣れたふうをよそおって、料理をする。案外むずかしくはなかったので内心でほっとしながら、手伝おうか、と申し出る男たちをあしらっていると、キッチンに安藤の妻が入ってきた。

「お帰りなさい。桃花です。あ、奥さんはすわってて」
「……はじめまして、そんな、お客さまにそんなことを……」
「奥さん、仕事だったんでしょ。しようがないじゃない。お疲れなんでしょうからゆっくりしてて。私がやりますから」
「そんな……」
「いいからいいから。奥さんは着替えてシャワーでも浴びてきたら?」

 やや小太りの地味なタイプの奥さんは、安藤よりもふたつ年上だと聞いた。三十一歳の夫と三十三歳の妻、今どき新婚夫婦としては年を食っているというほどでもないだろう。

 いいからいいから、と言っているのに、奥さんはキッチンでうろうろしている。むしろ邪魔ですけど、と桃花が冗談めかして言ってやると、安藤がやってきた。

「桃花ちゃんは料理がうまいらしいよ。きみはそんなでもないでしょ。彼らもいろいろ買ってきてくれたし、僕も野菜炒めや焼きそばを作ったから、十分だよ。桃花ちゃんの料理ができたらみんなで乾杯しよう。着替えておいでよ」
「……」
「旦那さん、やさしいっ!!」

 叫んでみせると、安藤は照れ笑いを浮かべ、奥さんはなぜか黙ったままでキッチンから出ていった。

 やがて料理がそろい、ビールの栓が抜かれる、奥さんはやってこないが、料理が冷めちゃう、ビールもぬるくなっちゃうよ、と桃花が言って先にはじめることにした。

「うん、うまい」
「桃花ちゃん、最高だよ」
「桃花ちゃんって女らしいんだね。こんなにいいお嫁さんになりそうなタイプだとは思わなかったな」
「安藤、早まるんじゃなかったって感じ?」
「桃花ちゃんのほうが若くて可愛いしな」
「……たしかにね。いやいや、ほんと、桃花ちゃんっていい女だよな。知ってはいたけど改めて感激したよ」
「俺と結婚しない?」
「こらこらどさくさにまぎれてヌケガケはなしだぞ」

 四人が声をそろえて、桃花をもてはやしてくれる。気分が悪かろうはずもなくて、桃花は楽しく飲んで楽しく食べた。

「こんなにいっぱいのお皿、ちょっとずつでも洗わないとあとが大変だよね。キッチンに下げるから」
「後片付けまでやってくれるのか」
「桃花ちゃん、ついでにもっとビール取ってきて」
「はーい」

 空になった皿をトレイに乗せてキッチンに運ぶ。冷蔵庫からビールを取り出して部屋に運び、再び台所に戻っていくと、奥さんが皿洗いをしていた。

「あれぇ? 奥さん、なにをしていたの?」
「……いえ、別に」
「飲んでも食べてもいなくない? おなかすかないの? 安藤さん、奥さん、こんなところにいるよ」

 呼ばれた安藤がやってきて、桃花と妻を見比べた。

「ごめん、きみのことは忘れちゃってたよ。きみも食べれば? 桃花ちゃんの作ってくれた料理はまだ残ってるよ、すごくおいしいよ」
「私は会社帰りに食べてきたから……」
「なんでそんな……ん? なにか怒ってる?」
「怒ってません」

 なんだろ、私ばっかりちやほやされるから、奥さん、すねちゃったのかな、とは思ったが、むろん桃花は口にはしない。みんなが集まっている部屋に戻って言った。

「私は実家で暮らしてるんだけど、お母さんはけっこうお客が好きだから、今度はうちに遊びにこない? 私の料理、気に入ってくれたんでしょ。次はもっと豪華なものを作るからね」
「お、行く行く」
「ただし、会費制です」
「それでもいいよ。行くよ」
「うん。僕もお邪魔したいけど……それより……」

 言いにくそうに、キッチンのほうを指さしてひとりが言った。

「奥さん、どうかした? 安藤と喧嘩してない?」
「喧嘩はしてないと思うよ。奥さんは会社の帰りにごはんを食べてきたから、おなかはすいてないんだって」
「食べてきた?」
「どうして?」

 怪訝そうな顔になる男たちに、さあ、どうしてだろ、と桃花は応じた。

 それから一ヶ月ほど後、約束通りにそのときのメンバーを桃花の家に招待した。なぜだか安藤は参加しなかったのだが、他の三人はいそいそとやってきて、主に桃花の母が腕をふるい、桃花も手伝った料理に舌鼓を打った。

「桃花ちゃんっていい名前ですよね」
「由来でもあるんですか」
「あ、桃花も知らない。お母さん、なにかあるの?」

 十一月生まれなのに桃なんだな、とちらっと考えたことはあるが、桃花は自分の名前が気に入っているので深く考えもしなかった。
 
「桃色の花っていうのは木瓜の花なのよ」
「ボケ?」
「そう、ボケ。なんだか人聞きの悪い名前の花よね。私は女の子が生まれるって知ったときから、花の名前にしたかったの」

 予定日は十一月。晩秋に咲く花は少ない。
 リンドウ、フジバカマ、センブリ、ノジギク、サザンカ、人名にはしにくい花ばかりだ。椿にしようかとも考えていた母は、母の母、桃花の祖母と相談しながら花の写真集を見ていた。

「これは?」
「ああ、木瓜の花だよ。この桃いろの花、綺麗だわね」
「……桃いろの花、桃花にしようか」
「桃って春生まれみたいだけど、木瓜の花から来た名前だっていえばひとひねりしてていいかもしれないわね。ボケじゃ名前にはならないけど、桃だったらいいわ」

 それはいい、可愛いじゃないか、と夫も父親も賛成してくれたから桃花に決めたのだと母は言う。そんな由来ははじめて聞いた桃花は、ふーんとしか思わなかったのだが、サークル仲間たちが顔を見合わせている。ボケ、木瓜か。うんうん、ぴったりすぎ、と囁き交わした彼らは、一斉に吹き出した。

END









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~ Comment ~

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んん~~。確かに料理は一人でしますね~~。
自分のペースを邪魔されたくない・・・というのもあるので。
私が仮に奥さんがいるとしても、
料理は任せられる方がいいかな。。。
あるいは、あっちがやってもらうか。

LandMさんへ2

ありがとうございます。

うむ、はい、料理ですね。
広くてキッチン用品がたくさんあり、レンジ口もたくさんある台所だったら、手伝ってくれる人がいたほうがいいですね。
ただし、その人の手際が悪いと困りますが。

誰かがおいしいものを作ってくれて食べられたら、それがベストですが。
この奥さんの立場にはなりたくないです。
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