ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSファンシリーズ「君だけに愛を」

 ←ポチ!! by たおるさん →FS2014・十一月「木枯らし一号」
フォレストシンガーズ

「君だけに愛を」

 
 義務教育の小学校と中学校は同じ、高校は別。学力には差があるのだから、そうなってしまう場合もたびたびある。幸美と幸子はそうして、別々の高校に進んだ。

「だけど、ユキミとサチコとはいっても、同じ幸って字がつくんだもんね。さっちゃんとは縁があるんだもんね。ずっと友達でいようね」
「うん、ユキミとサチコは親友だよね」

 約束したのだから、高校時代にも時々は手紙を書いていた。いつからだろうか。どちらからともなく、グループサウンズ!! GS!! と言い出したのは。
 四十年以上も前の当時、日本の女の子、小学生から二十代までの女子はほぼ全員がグループサウンズにいかれていたのではないだろうか。幸子の母も祖母も、ジュリーは可愛いね、不良っぽいショーケンがいいわ、と言っていたので、「女の子」ではなくても興味を持っていたようだ。

 中にはひねくれ者もいたが、幸美も幸子も素直な女の子だったので、ごくごく普通にグループサウンズにはまった。幸子からの手紙にも、幸美からの返事にも、タイガースが、ジュリーが、といった名前があふれてこぼれそうだった。

 高校を卒業すると、幸美は銀行に就職し、幸子はスーパーマーケットの事務員になった。むろんそのころにはグループサウンズはとうにすたれていたけれど、GS出身の歌手が何人もヒット曲を出していた。俳優に転向していた者もいた。

社会人になってからも、二十代半ばぐらいにともに職場結婚をしてからも、幸美と幸子は時には電話や手紙で近況報告をし合っていた。子どもが生まれたときにはプレゼントを持っていったりもした。そんなふたりが久しぶりに会ったのは、幸美の長男が大学を、幸子の長女が短大を卒業した年の秋だった。

「実はね、うちの息子、歌手になったのよ」
「えーっ?! ユキちゃん、そんなこと、言わなかったじゃないの。知らなかったの?」
「なりたいとは聞いてたの。大学三年のときだったかな。幸生は東京でひとり暮らししてるから、夏休みに帰ってきたときに、俺は歌手になる、就職活動なんかしないって言い出して、お父さんと私は反対したのよね」

 お父さんとは、幸美の夫のことである。三沢修一と幸美の長男は幸生、ユキオと読む彼にも「幸」の字がついているのもあって、幸子は親しみを感じていた。
 その幸生が歌手になると言い出し、フォレストシンガーズというヴォーカルグループを結成したという、幸美の話を幸子は熱心に聞いていた。

「うちの娘たち、雅美と輝美はお兄ちゃんを応援するって言うの。歌手になんかなれるかどうかもわからないけど、なれたら素敵だって。お父さんは嘆いてたけど、応援してやるしかないじゃない。私も見守っていたのよ。そしたらね、ついこの間、デビューしたよって電話がかかってきたのよ」
「よかったね、おめでとう」
「ありがとう。デビューしたからっていったって、売れなかったらクビになっちゃうんだろうけどね」
「CD出したの? 買うよ」
「ありがとうっ。買ってやって!!」

 デビューシングルは「あなたがここにいるだけで」。CDショップには置いていないのではないかとのことで、幸美が幸子の名前でフォレストシンガーズ公式サイトに購入申し込みをしてくれた。

 それから幸美とは会ってはいないが、年賀状には毎年、フォレストシンガーズについて書かれている。幸子だってフォレストシンガーズのファンを続けているから、メンバーのお母さんからの年賀状となると貴重品のように思えて、他の賀状とは別にして保存していた。

「フォレストシンガーズがGSのカバーアルバムを出すと聞いて、久しぶりでGSを思い出しました。
 ううん、久しぶりなんて嘘よ。私はずっとずっとGSが好き。幸生もGS好きで、FSがGSカバーだなんていうのは幸生が提案したらしいの。それって私の影響よね。
 さっちゃんもGS好きだったでしょ。もう興味ないかな? 嫌いになってはいないんだったら、アルバム、買ってやって」

 今年の幸美からの年賀状にはそう書かれていたので、幸子は発売を楽しみに待っていた。
 フォレストシンガーズのGSカバー。幸生が誕生したときには、幸子もお祝いを持って三沢家に赤ちゃんを見にいった。長女の雅美が生まれたときにも行ったから、一度だけ幼児の幸生には会っている。次女の輝美のときにも行けばよかったと思う。

 そうそう、幸子が長女を産んだときにも、幸美が幸生だけ連れて訪ねてきてくれたっけ。すると、幸生には二回会っているのだった。

 むこうはまるで覚えてもいないだろうが、幸子にとっては幸生はただの好きなシンガーなどではない。幸生の二年あとに生まれた幸子の長女は結婚し、幸子はおばあちゃんになった。雅美も輝美も結婚して母になったので、幸美もおばあちゃんだが。

「うん、幸生くんは結婚しなくていいのよ。歌手ってファンに夢を与える仕事でもあるんだから、フォレストシンガーズが全員結婚するなんて、がっかりって女の子もいるんじゃない? 結婚したのはシゲさんと本橋さんだけでいいわ。あとの三人は独身でいて」

 ファン歴も長いので、幸子はフォレストシンガーズについてもけっこう詳しい。CDジャケットの写真に話しかけながら、CDをオーディオにセットした。

 定年退職後の夫は、一週間の半分ほどアルバイトに行っている。幸子もパートで働いていた時期もあったが、現在は専業主婦だ。夫がアルバイトに出かけた昼下がり、FSのGSカバーアルバムをひとりで聴く。極楽極楽、であった。

「Oh please, oh please
 僕のハートを君にあげたい
 君だけに 君だけに 教えよう
 不思議な僕の胸のつぶやきを
 素晴らしい恋人は
 甘いため息で 愛を信じあう」

 たった一度だけ、幸子はザ・タイガースのコンサートに行った。幸子の高校ではコンサートは父兄同伴でないと禁止だったので、実はジュリーファンだった母が同行してくれた。私も行きたいけどね、なんぼなんでもこんなばあさんじゃね、と残念そうに言っていた、今は亡き祖母を思い出す。

 この歌もステージで演奏された。レコードよりは下手かもね、とちらっと考えはしたものの、幸子も叫んだものだった。

「ジュリーっ!!」
 そのかわりに今日は、オーディオに向かって叫んでみようか。

「だから一度だけ 恋にいだかれた
 君の 君の あたたかいハートに
 タッチしたい

 君だけは 君だけは はなさない
 手をつなぎ 二人で駆ける
 夢の世界へ」

 ソロで歌っている彼の名前を呼ぶ。幸生くーんっ!! 誰にも聞こえるはずはないが、遠慮して小さ目の声で叫んでみた。


END





スポンサーサイト


  • 【ポチ!! by たおるさん】へ
  • 【FS2014・十一月「木枯らし一号」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

そうか、ジュリーってGSだったんですね。
シンガーのイメージしかなかったんですが。
今現在、GSって、どんな人たちがいるんでしょう。
バンドはけっこう知ってるんですが、GSは、私の中でフォレストシンガーズしか思いつかなくて。

でも、友達の子供が芸能界デビューって、また感慨もひとしおでしょうね。
私だったら自慢してしまいそう。この子知ってるのよ~とか(笑)

そっか、幸美さんはユキちゃんのお母さんだったんですね。
毎年年賀状に近況を書いてしまう気持ち、わかります。
親的には、子供が歌手になりたいって言ったら「もっとちゃんと考えなさい」って止めるんでしょうが、デビューできたなら、全面的に応援してあげたいですもんね。

limeさんへ

いつもありがとうございます。
この間読んでいただいた短編も、テーマは似ていましたね。
去年の暮れにザ・タイガース再結成コンサートに行ったのもありまして、時々GSネタが書きたくなるのです。

現在のGS出身有名人といいますと、
沢田研二、萩原健一、堺正章、井上順。寺尾聡(ザ・サベージはGSなのかどうか、微妙ですが)、岸部一徳あたりですかね。

表にはあまり出てこなくても、地味に歌を続けていたり、音楽に関わっていたりするおじさんたちも、大勢いらっしゃるようです。
ミュージシャンは不摂生な暮らしをしているせいか、亡くなってしまった方もちらほら。
ゴールデン・カップスを生で聴いてみたかったけど、ヴォーカルの方は何年か前に逝ってしまいました。

友達の子どもが芸能人、自慢したくなるでしょうね。
私なんかは友達が、郷ひろみの実家を知ってるとか言って、ひろみさんが帰省しているときの写真を撮ってきていたのをもらって彼のファンにあげて、自慢してましたから。
私には無関係なのにね。

有名人と小さな関わりがあると嬉しい気がするのも、人間のサガなのかもしれませんよね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ポチ!! by たおるさん】へ
  • 【FS2014・十一月「木枯らし一号」】へ