ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「十二律」

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フォレストシンガーズ

「十二律」

1・章

 あんたはお兄ちゃんになるんだよ、と母に衝撃の告白をされたのは、小学校六年生のときだった。
 十一歳の息子がいるのだから、母はいい歳で……とはいっても三十代だったはずだが、十一歳の少年が見れば三十代の母はおばさんでしかない。

 ひとりっ子だったがゆえに、心配性の母と威圧的な父に束縛されていたのだから、ちっこいのが産まれたら解放されると思ったり、うげ、このおばさんが子どもを産むのか? かっこ悪い、と思ったりした。

 実際には弟の龍が産まれても俺への束縛はさして減らず、お兄ちゃんのくせにしっかりしなさい、だの、兄ちゃんだろ、龍の面倒を見てやれ、だの。へぇ、兄ちゃん、注射が嫌いなの? ぼくは怖くないもんね、だのと別方面から攻められることになったのだが。

 高校を卒業すると、俺は稚内から念願の東京へと出ていった。一年足らずで大学を中退してしまって親父を激怒させ、勘当を申し渡されたから、弟とも縁切りしたつもりになっていた。
 龍、母さんと父さんを頼んだぞ、だなんて、責任逃れをしていた部分もあった。

 なのにあのバカ弟ときたら、てめえも東京に行きたいと言い出して、東京の大学を受験して全部すべったくせに、家出同然に東京に来て俺のマンションに転がり込んできやがった。

 乾さんや本橋さんに説教され、稚内の家に電話をかけて母に泣かれ、父に怒鳴られはしたものの、東京で浪人生活を送ることは許してもらったらしい。俺は歌手になってそこそこは成功しているのに、それでも父は勘当を解く気もないようだが、龍には甘いんだから。

 明日は弟の引っ越しの手伝いをしてやる。俺がマンションに越すまで住んでいたアパートよりは小ざっぱりした小さいマンションを、俺が金を出して借りてやった。
 こいつはこうして俺に生涯。迷惑をかけてくれるのか。俺は若いころにはあちこちで年上の人間に世話になったのだから、これが順送りってやつなのか。乾さんが言いそうなことを先回りして考えてみた。
 

2・繁之

 国道十二号線は、北海道札幌市から旭川市へ至る道路だ。三重県生まれの俺が北海道の地に渡ったのははじめてだから、仕事が終わったあとでレンタカーを借りて、この道を走ってみた。

 二十代半ばになって仕事ではじめて北海道に来たなんて、遅れているのだろうか。章は稚内市の出身だから、子どものころには北海道から出たこともなかったと言っていたが、旅行が習慣になっていなかったり、旅行嫌いのひとだったりしたら、そんなこともよくあるのかもしれない。

「さすがに景色が雄大だな」

 ひとり、道路を走りながら呟く、この先の美唄市光珠内跨線橋 - 滝川市国道38号交差点間29.2kmは、日本一長い直線道路となっているのだそうだ。
 こんなときには、わぁぁ、北海道らしい景色だよね、ほら、見て、ねぇ、これ食べる? などと助手席で言ってくれる女の子がいたらなぁ、ふっとそんな、いつになったらかなうのか、いつまでたってもかなわないのか、みたいな夢を見てしまった。


3・幸生

 アビシニアン、オリエンタルショートヘア、シャム、シンガプーラ、ソマリ、ノルウェージャンフォレストキャット、トンキニーズ、ヒマラヤン、ペルシャ、ベンガル、スコティッシュフォールド、ロシアンブルー。

「うわ、全部正解、三沢さん、すごい」
「としくんだって正解だってわかるだけすごいじゃん」

 フォレストシンガーズをモデルにした深夜ドラマ「歌の森」は、我々の学生時代からはじまる。メインは本橋さんと乾さんなので、彼らが大学に入学した当時といえば、俺は高校二年生だ。
 横須賀で半分は軟派な、半分は純情な高校生をやっていた俺を演じてくれるのは、十八歳の川端としゆき。俺に似た美少年だ。

 他の四人も各自を演じる役者たちと個人的に交流しているようで、章はロックシンガーのVIVIとはロックの話ばかりしている。そんなときには飲みにいくのだろうが、としくんは未成年なので、俺は彼が好きなケーキを食べにいくのにつきあったり、彼がご両親と暮らしているお宅に招かれたりがもっぱらだった。

 彼との共通点は猫好き。としくんの自宅は大きな一軒家なので、彼の家にも猫が何匹もいる。その猫たちに会いたくて、俺はとしくんのお宅に時々はお邪魔する。としくんのお母さんは優しくて、いつでもケーキを出してくれるのが困るのだが、猫と遊べるんだったら嫌いなケーキを食べるのも耐えてみせる。

「今日は友達んちの猫も遊びにくるんです。十二匹も猫がいるんですよ。全部の種類、当てられますか」

 そう言われてとしくん宅に入っていくと、美女の集団と同じくらい魅惑的、百花繚乱の花園なんか目じゃない、いやいや、美女には嫌われる恐れもあるけど、猫だったらツンデレじゃなくてつんつんツンツンなのは当然だから哀しくない、といった猫の群れがいた。

 つんつんする奴もいたけれど、ちっちゃいシンガプーラが俺になついてくれた。としくんも俺を尊敬してくれたようだし、友達というのがまた可愛い女の子だったから、今日の俺はとっても幸せなのだ。こうなったらケーキ十二個でも食べてみせようじゃないか。


4・英彦

 放浪していたころには肉体労働のアルバイトをしていて、金ほしさに長時間労働をしたこともある。
 あの肉体的つらさに較べれば、こうして音楽スタジオで仕事をしているのはしても楽しい。

 小笠原英彦、三十四歳。現在の俺の本業は神戸の電気屋従業員である。が、もとの仲間たち、フォレストシンガーズの面々が俺の曲を買ってくれているおかげで、作曲の副業もできるようになった。
 零細電気屋で薄給で働いている身としてはありがたい。

「ここからここへとコードが飛ぶとむずかしすぎるか」
「人によってはむずかしいでしょうね」
「おまえには歌えるか?」
「当然でしょ」

 やや難曲かと思える曲を、三沢幸生がなめらかに歌い上げる。おまえにだったら歌えても、俺に作曲を依頼した奴は、歌手のくせしてそれほど歌がうまくないんだよな。
 ぼやきつつ、幸生にも協力してもらって、スタジオでデモテープを作る。ふと気づくと十二時間も経っていて、コードと同じように時間も飛んでいったのかと、目を見開いた。


5・美江子

 睦月、如月、弥生、卯月、五月、水無月、文月、葉月、長月、神無月、霜月、師走。 
 日本人の姓にもある、女性の名前にもある十二か月の古い呼び名だ。乾くんの提案でフォレストシンガーズの句会、短歌も可という催しを開くことになったので、私も考えてみていた。

「月の名前を入れた俳句ね。十六夜月とかじゃなくて」
「そういうの、有名なところはどんなの?」
「五月雨を集めてはやし最上川」
「はやしって、早いの? 囃子言葉のはやし?」

 そんなことも知らないのか、という顔をしたものの、乾くんは講義してくれた。

「降り続く五月雨を集めて、満々とした水をたたえた最上川が勢いよく流れていくんだよ」
「早いのね。松尾芭蕉だよね。他には?」
「六月や峰に雲置く嵐山」
「誰の句?」
「これも芭蕉だよ」

 その調子で、乾くんが有名な俳句を教えてくれる。あまり聞くと頭の中でごちゃごちゃになって盗作してしまいそうだ。私は十二か月分の句を詠んで、さすがミエちゃん、とほめられたいんだけど、無理かしら。


6・真次郎

 ダース、グロスというのは、十二という数字をベースにしている。ダースは十二個、あるいは十二本、十二枚、などなど、グロスは十二ダースだ。

 つまり、十二を基礎として一桁上がるごとに十二倍していく。このやり方を十二進法というのである。
 太陽の運行を基礎にして定まる1年が,月の運行から決まる1ヵ月のほぼ12倍であることから十二進法が使われるようになったと考えられる。また,小人数で物を分けるとき,十二進法が便利であることが十二進法のもとになったとする説もある。

「十二進法ってどうして便利なんですか」
「2,3,4,6,12が12の約数だからだろ」
「だからってそれがどうして便利?」
「一年は十二か月、一日は十二時間の倍だろうが」
「一週間は七日、一ヶ月は三十日とか三十一日とかですよ。一年は三百六十五日だし」
「それは地球の公転と関係してるんだよ」
「わ、スケールがでかいんだ」
「中学で習っただろうが」

 頭が悪いわけでもなく、頭の回転が鈍いわけでもないくせに、三沢幸生って奴は数学的頭脳にきわめて乏しい。それも小学生レベルの計算が苦手だという。本橋さんは算数、得意でしょ、教えて、と話しかけてきて、十二進法の話題になった。

「十二律ってのもあるんだよ。中国や朝鮮や日本の音階だな。西洋の音名と対比させると……ここでこう変調すると……ちょっと待てよ、あ、いい曲が浮かんできた」
「歌ってみて下さいよ」
「えっと……」

 十二進法の話だって俺には楽しいのだが、幸生は脱線させようとばかりしていた。それが曲の話へと移っていくと、目の輝きがちがってくる。我々はミュージシャンなのだから、やはり数学の話よりは音楽の話なのか。
 


7・隆也

 その昔、祖母が丹精した金沢の家の花の咲く庭にいる。祖母は華道家だったのだから、四季折々の花を庭に植え、これはなんの花、こんな漢字を書くんだよ、と教えてくれた。

「池水に影さへ見えて 咲きにほう
  馬酔木の花を 袖に扱入(こき)れな」

 たったの三十一文字で、なんと豊かな光景と情景と心象風景までをも歌い上げるだのろう。祖母は俺に百人一首も教えたがり、花を見れば花の短歌、虫の声を聴けば虫の俳句、鳥が飛べば鳥の物語をも教えた。

「もうっ、おなかいっぱいだからね」
「そっか……」
「乾さんってそれだから、薀蓄おじさんって言われるんだよ。おなかいっぱい」
「おなかいっぱいだったら、今夜は夕食はいらないかな」

 いつだったか、奈々と食事に行き、レストランに飾ってあった大きな花瓶からあふれそうな花々を見て、祖母が教えた花の話をした。高校生の奈々には不満だったらしくて、詰られた。

「そっちのおなかいっぱいって意味じゃないよ」
「もう沢山、って言うんだな。もう十分に聴かされました」
「十分以上だよ」
「それだったら十二分」
「なんだっていいのっ!!」

 怒っていた奈々の顔を想い出して、くすっと笑う。こうしてひとり、花の香の風に吹かれていれば、どれだけここに身を置いても俺は十二分ではないのだけれど。


END














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~ Comment ~

NoTitle

それぞれが主人公・・・という視点は好きですね。
私もキャラクター愛でやってますから。
こうして、それぞれの立場で見るのは好きですね。
(*^-^*)

LandMさんへ2

こちらにもありがとうございます。

ひとつのテーマで、つながっていたり、つながってはいなかったりする物語を人数分書く。
私もそういうのが好きでして、四苦八苦しつつ書いています。

やっぱりキャラへの愛は大切ですよね。
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