ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS「続・押しのけて」

 ←100「百物語(特別編)」 →ガラスの靴26
フォレストシンガーズ

「続・押しのけて」

1・山田敏子

 マネージャーの母親ですから、他のみなさんとは立場がちがうんですけど、私にもインタビュー? なんだか照れてしまいますね。

 まあ、とにかく、うちの娘は言い出したら聞きませんから。
 父親は、美江子にこう言っておいてくれ、これを訊いておいてくれ、どうもそれは感心せんな、母さんからうまくとりなしておいてくれ、ばっかり。
 息子がふたり、娘もふたりいるんですけど、美江子が長女ですから、弟たちや妹は姉に関しては頼りになりません。

 ですから、娘のことは母親の私まかせです。まあ、当たり前なんでしょうけどね。

「就職はしたんだけど、辞めたの。前から言ってるでしょ。本橋くんと乾くんとシゲくんとヒデくんと、幸生くんのフォレストシンガーズ。私は彼らとは一蓮托生のつもり。ブロを目指す彼らと一緒にがんばるつもりだから」

 なんて言ってきたときには、美江子は二十三歳くらいでしたかね。結婚するにはまだ早いだろうし、相手もいないようだし、やると言っているのだからやらせるしかないって思うしかなかったんですよ。父親は反対してましたけど、一緒に住んでるわけでもないんだから、お説教して翻意させるっていってもね、無理でしょ。

 それから十年以上がすぎて、美江子の思惑通りになってるのかしらね。
 ヤクザな仕事だと父親は言ってましたけど、そうでもないみたい。私は歌手の世界も、美江子がどんな仕事をしているのかもよくは知らないけど、フォレストシンガーズはまあまあ売れてきていますし、美江子の仕事も充実しているようですよ。

 親としましては、美江子は結婚もしたんだし、言うことなしってところかしら。この先どうなるのか……とまで言い出したら、今どきはどんな仕事でも同じですもの。


2・乾隆之助

 妻はクールな女性と申しますか、本心が読めないところがありましてね、結婚してから四十年近くなるというのに、他人行儀なところが残っています。

 なれそめ? 妻とのですか? まあ、そこんところはいいじゃありませんか。
 結婚して妻の母と同居し、そのおばあさまがひとり息子の隆也の育児を引き受けてくれましたから、妻も私も仕事を続けていました。私は和菓子屋の職人でもあり経営者でもあり、妻は母親の跡を継いで華道家です。

 東京の大学に行くために家を離れた隆也は、大学生の間には二度しか帰省しませんでした。二度目のときには私は息子に会いもしませんで、妻から聞かされました。

「隆也は歌手になると申しています。五年の猶予つきで許しました」
「あ、ああ、そうですか」

 二、三年後にはフォレストシンガーズがデビューし、隆也が三十歳になるころには、徐々に売れるようになってきたんですね。父親の私はいつだって部外者でしたけど、隆也の現状には満足していますよ。あまりに畑違いの世界に進んだ息子ですが、たまに会うと思います、いい男になったね。

 ただひとつ、隆也がいつまでも結婚しないのは気がかりですな。お父さまはあの女性と結婚して幸せだったんですか? なんて、隆也に質問されましたが、もちろん、私は幸せですよ。


3・木村かず子

 木村章の母でございます。
 章がほうぼうで申しております通りで、あの子の父親はいまだに息子を勘当しています。戸籍から抹消したりはしていませんので、気持ちの上でだけなんですけどね。

 ロックをやりたいから大学を中退すると、一方的に電話で言ってきて父親を激怒させて、私はこっそり泣きましたよ。
 だけど、母親は息子を見捨てたりできません。それからも章は私と一緒に選んだ東京のアパートに住んでいましたから、手紙やプレゼントを送ったりはしていました。

 そんな章に久しぶりで会ったのは、札幌であったフォレストシンガーズのコンサートでです。章は私にお小遣いをくれました。

「ガキのころに母さんの財布から金を盗んだことがあるんだ。ちっとは稼げるようになったんだから返すよ」

 うふふ、言い訳がついてましたね。
 服を買えと言われましたけど、貯金してありますよ。

 章が歌手になれたこと? 売れてきてるんですよね。息子が世間さまに認めていただいて、収入もよくなってきて、あの小さいアパートからマンションに引っ越して、そのことについては嬉しいですよ。父親は引っ込みがつかなくなっているのか、俺の息子は龍だけだ、って言い張ってますけどね。

 母親の私としましては、戸惑ってしまうというのが正直なところですかしら。フォレストシンガーズの木村章は私の息子……なんだか嘘みたい、としか表現のしようがないみたいです。


4・本庄一繁

 戸惑ってしまう。木村くんのお母さんはそうおっしゃってましたか。私もそれに近いかもしれませんね。田舎の酒屋の息子がね、もっとも、歌手の親が田舎で自営業やってるってのは珍しくもないそうですけど。

 大学を卒業しても就職はしない。もとから私としてもそのつもりはありませんでしたけど、家業も継がない。繁之がそう言い出したときにも、私は戸惑いましたよ。戸惑ったあげくに怒鳴ってしまいました。

 歌が好きで中学校のときから合唱部に入っていたのは知ってますが、それ以上に野球のほうが好きだったんじゃないのか? 繁之が小学校に上がる前は私とキャッチボールなんかして、この子が野球選手になったらなぁ、だなんて、夢にもならないようなことを考えていたものです。

 野球の才能はないと自分で言ってましたから、そんなもんだよな、と思っていた。なのだから、ごくごく平凡に幸せに生きていってくれることを望んでいました。それだけです。

 そんなもんになれるはずないだろ、としか思えなかった歌手ってものになって、フォレストシンガーズのシゲさんだなんて呼ばれている息子。他人のような気もしますね。
 だけど、奥さんと息子たちを連れて帰省してくる息子は、外見こそちょっとは変わったものの、中身は我々の息子です。繁之が帰ってくるたびに、私は安心するんですよ。

 
5・本橋巴

 図体ばかり大きくて、中身はいつまでたっても子ども。真次郎は末っ子ですし、兄たちとは七歳も離れていますから、親も兄たちもそう思ってましたね。

 仕事の忙しい父親は、真次郎のことは信用していたというのか、特に心配もしていなかったんです。私にまかせてあるというよりも、本人にまかせていたんですね。真次郎が大学の三年、四年くらいのときだったら、父親は多忙、兄たちは新婚だったから、私だけが真次郎に注意していたふうでした。

 この子、就職する気あるの? 就職活動とかやってるの?
 心配はしていましたけど、まだいいんだよ、と言われると、そんなもんかしらって考えておくしかないでしょう?

 それが突然、俺は歌手になるんだ、就職はしないんだ、って宣言して、父親に猛反対され、連絡したらやってきた兄たちにも意見されて、真次郎は家から出ていってしまいました。

「フォレストシンガーズとかいって、乾と、あと、合唱部の後輩たちとでやってるらしいよ。俺は真次郎のアパートの近くに行って、あいつらの練習を聴いた。幾子が寿司を作ってくれたから持っていってやったら、みんな喜んでたよ」

 敬一郎が言っていたことがありました。

「父さんはまだ怒ってるのか。気持ちはわかるけど、エイちゃんと俺と、文恵さんと幾子は応援してやるって決めたよ。母さんは母さんの気持ちに忠実になればいいよ。だけどさ、あいつはきっとやると決めたことはやるさ。俺たちがそう育てたんだもんな」

 フォレストシンガーズがデビューするんだ、CDも出すんだ、って教えてくれたのは、もうひとりの息子の栄太郎でしたかね。お父さんはCDをごーっそり買ってきて、私も買ってしまいましたよ。

 デビューしてから何年も売れなくて、兄たちが真次郎にごちそうしてやったり、お小遣いをやったりしたって話も聞きました。兄にだったら甘えてもいいじゃありませんか。そして……ええ、売れてきたってことは私は嬉しいです。

 なんだっていいんですよ。どんな仕事でも、人さまに迷惑をかけるんじゃなくて、真次郎たちの歌で喜んでいただくんだもの。息子がそんな仕事で世の中にちょっとだけでも役に立っているんだと思うと、母は嬉しいです。


6・三沢修一

 息子になにになってもらいたいのか、明確な希望はなかったんです。私は銀行員で、妻とは職場結婚。娘たちも銀行に就職しましたから、幸生も銀行だといいなぁ。しかし、あいつの性格からすると銀行は向かないか? いや、雅美も輝美も幸生に似た性格だけど、ちゃんとやってるしな。

 程度の望みだったらありましたが、幸生が銀行員にならなかったからといって失望するようなものではない。私は幸生が歌手になると言ったときには、呆然としたんじゃなかったかな。

 少年合唱団にも入っていたし、家でもギターを弾いて自作の歌を歌って、妹たちに笑われていた奴です。どんなにか歌が好きなのは知ってましたよ。

 でも、私の認識では歌なんてものは仕事にはならない。でしたけど、そんなこともないんだな。幸生はきっちり仕事にしたんですね。けっこうな人気者にもなっているようで、我が息子ながらその点はたいしたものだ。

 妹たちは結婚して孫もできましたから、息子があんなでもまあ、いいんですけどね。いいんですけど、うーん、私はいまだ複雑です。

 幸せってなんだろ? 幸生の「幸」は幸せという字で、その文字のつく名前のおまえは幸せか? おまえが幸せだったら、親はそれだけで満足だ。とも言い切れなくて、やきもき気をもむのが親ってものなのでしょうね。


END



  



スポンサーサイト



【100「百物語(特別編)」】へ  【ガラスの靴26】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【100「百物語(特別編)」】へ
  • 【ガラスの靴26】へ