ショートストーリィ(しりとり小説)

100「百物語(特別編)」

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おかげさまをもちまして、しりとり小説も100篇にあいなりました。
特別篇ということで、主人公はフォレストシンガーズです。


しりとり小説100

「特別篇・百物語」

 丸いテーブルを囲んで、五人で考えた。

「なんたって日本百景でしょ」
「それもいいけど範囲が大きすぎるかな。日本百名花ってどうだ?」
「花の名前なんか知ってるのは乾だけだろうが。俺は日本百名山がいいよ」
「日本百名酒ってどうだろ。シゲさんはそれがいいんじゃない?」
「いや、俺は……」

 おー、それはいいな、と全員が賛成したのは、本庄繁之提案による「日本百名城」だ。人間はベスト3やベスト100を選出するのが好きな生き物なのか、世界三大夜景だの日本百街道だのが選ばれている。香港飲茶ベスト10なり、イタリアの靴ブランドベスト10なりも、愛好者の間にはあるのだろうか。

「で、シゲさん、日本三大名城はどこですか」
「幸生は知ってるか?」
「……んんっと、江戸城、横浜城、横須賀城」
「江戸城は皇居だろ。城郭の規模をもとにした選定でだったら入ってるけど、大部分が現存していないからナシ。横須賀城跡だったら写真を見たことあるけど、横浜城ってあったか?」

「え? ほんとに横須賀城ってあるの?」
「おまえは横須賀市民だったくせに、知らないのか」
「知らない。横浜城はうちの近くの中華料理屋ですよ」
「……」

 横須賀出身三沢幸生がでたらめを言い、繁之は訂正した。

「現在、世間に流布している説での日本三名城は、名古屋、大阪、熊本です。姫路城や松本城が選ばれている場合もあります」
「ふむふむ、シゲさんの好きな三大城は?」
「そうだなぁ」

 俺の提案が支持されたのは嬉しいけど、俺は城好きで若いころにも城を見る旅をした。フォレストシンガーズのシゲになってからも、ツアーや仕事で出向いた地方でひとりで城を見にいったりする。城はいっぱいいっぱい見たから、ちょっと記憶がごっちゃになっている場合もある。

 さて、困ったな。幸生に質問されて、繁之は腕組みをして記憶を探った。

 日本百名城に限って思い出そうか。選定されているのは北は北海道の松前城、五稜郭から、南は沖縄の首里城まで。いくらなんでも全部を覚えてはいないので、繁之はリストを取り出した。

「あ、カンニング」
「しようがないだろ。俺はおまえほど記憶力はよくないんだよ」
「城の歌って演歌かな。どんなのがあります?」
「それはあとだ。肝心のことを考えなくちゃ」

 この中で繁之が行ったことのある城は……とリストを眺める。
 松前、五稜郭、弘前、盛岡、多賀、仙台、久保田、会津若松、江戸、小田原、甲府、松本、高遠、金沢、岐阜、犬山、名古屋、伊賀上野、松阪、彦根、安土、二条、大阪、明石、姫路、赤穂、和歌山、鳥取、松江、津和野、岡山、福山、広島、岩国、萩、徳島、高松、丸亀、松山、高知、平戸、島原、熊本、飫肥、鹿児島、首里。

 半分弱か。百名城には選ばれていない城にも行っているのだから、こんなものかもしれない。この中で好きな城ベスト3。悩んでいる繁之を、幸生が面白そうに眺めていた。

「この中から選ぶんだったら、姫路、仙台、高知かなぁ。むずかしいな。おまえは?」
「だから、横須賀、横浜、江戸」
「勝手に言ってろ」
「ねえねえ、横須賀城に行きましょうよ」
「そうだな。俺も写真でしか知らないんだ」

 ところが、調べてみたところでは横須賀は横須賀でも、静岡県掛川市の横須賀だったのだ。これでは神奈川県横須賀市出身の幸生が知らないのも当然だといえる。
 静岡での仕事をすませたあとで、繁之の運転する車で横須賀城跡に向かった。助手席には幸生がいて。道中ではGSカバー曲オンパレードをやっていた。繁之としては聴き慣れた幸生の歌には飽きないので、CDがわりに最適だと楽しんでいられた。

「お疲れ、ついたぞ」
「シゲさんこそ、運転、お疲れさま。俺は疲れてないよ」
「あれだけ歌っても疲れないのか。まあ、知ってるけどさ」
「でしょ。うわ、ここって人もほとんどいないし、思い切り歌えるじゃん。最高!!」

 まだ歌うのか、と呆れながらも、繁之と幸生は車から降りて石垣跡を目指して歩いていった。広い城跡には現代文明にのっとった建物などはないようだったので、アイスボックスと食料品を持ってきている。特になにをするつもりでもなく、ふたりともに「横須賀城跡」という名に興味があってやってきたにすぎなかった。

「幸生だったら、ここで作詞ができたりするのか」
「戦国時代の姫さまに思いをはせるとか? シゲさん、城の歌ってどんなのがあるの?」
「荒城の月、白雲の城、雨の五稜郭、そのものずばりの「城」もある。他にもあったはずだけど、思い出せないよ」

 晴天で気温も高めだ。車の運転をしなくてはならないのだからアルコールは持参していないが、ビールが飲みたくなってくる。
 天守閣跡が見えるあたりに腰を下ろして、アイスコーヒーを飲んだりスナック菓子をつまんだりする。そもそも「百」にまつわるなにかを選ぼうとしていたのは、ニューアルバムの写真のためだった。百名なんとかをバックに、フォレストシンガーズの各人の写真を撮りたかったのだ。

 百割る五だから各々二十の城が担当になる。根室半島シャシ城跡なんてところは行きにくいかもしれないが、俺は行きたいな。俺は行ったことのない城にしたい。今帰仁だとか名護屋城だとか、いいなぁ、早く行きたいなぁ。

 まだ見ぬ憧れの城を思っている繁之の横で、幸生はなにを考えているのか。カシ、カシ、と呟きながら、幸生は口に菓子を放り込んだ。

「歌詞と菓子って音が同じだな。菓子をこうやって並べて……百、これだったら百個あるもんね。乾さんが百物語がどうとか言ってたんだよね。百物語って行燈を百本立てるんでしょ。行燈なんかないから、かわりにお菓子」

「カシ、カシって……それはたしかにお菓子だな。百物語ってホラーじゃないのか。俺はそういうのは苦手だぞ」
「夜中に行燈だったらホラーかもしれないけど、真昼間にお菓子なんだから怖くないよ」
「……うん、そうかな」

 シートの上に幸生がスナック菓子を並べる。ひとつ、ふたつ……十……二十、三十、コーンが原材料のお菓子が百個、行儀よく並んだ。

「シゲさん、百名城を覚えましたか? ひとつ言えたらひとつ、あげるよ」
「そういう百物語か。俺はあれから本もネットも見て勉強したから覚えたよ。では北から、第一番は根室半島シャシ城跡」

 手渡したリストを見て、幸生がチェックしていく。そうやって遊んでいると、茶色の小鳥が飛んできた。繁之が城の名前をひとつ口にすると、すかさず小鳥がスナック菓子をくわえて飛んでいく。繁之が詰まっていると待っている。この遊びの意味がわかっているようだった。

「そっか、あの小鳥はこの城で暮らしていた、お姫さまの生まれ変わりなんだよ。きっと俺を見てひと目惚れしたんだね」
「……ひと目惚れした男の前で食い気を発揮するのか」
「お菓子の好きなお姫さま、可愛いじゃん。シゲさん、続きは? 姫さまがお菓子を食べられないから、どんどん答えて下さいよ」
「よーし」

 繁之の場合は幸生とはちがって、ひと目惚れされたとは思わない。そうではなく、あの茶色の小鳥には巣に子どもたちがいるのだ。子どもたちに食べさせてやるために、人間のお菓子をくわえて飛んでいく。小鳥はすぐにまた戻ってきて、樹の枝に止まって、繁之が答えるのを待っている。

「次は?」
「大垣城」
「岐阜の? ぶーっ、そこは入っていません」
「そうだったか、じゃあ、岡崎城」
「はい、正解。お待たせぇ、姫さまぁ、持っていっていいよ!!」

 すーっと舞い降りてきた小鳥が、シートの上のお菓子をひとつ、くわえて飛んでいく。俺も子育てに協力してるみたいだと思うと、繁之としてはひどく楽しい気分だった。


 100は特別篇でしたので、101は99の続き、「せ」です。
 引き続きよろしくお願いします。









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~ Comment ~

NoTitle

100話目ですね。
すごい。
どんどんSSをつなげていくあかねさん、すごいです。
100話目はやっぱりこのメンバーですね。
お城かあ~。
大阪城しか行ったことが無い私には、何も答えられそうにない><

しげさん、小鳥に協力してあげられてよかったね。
カールかな、とんがりコーンかな、なんて思いながら、楽しく読ませていただきました。

limeさんへ

いつもありがとうございます。
タイトルから内容を考えるしりとり小説は、私には合っているみたいです。
まったくなんにも出てこない日もありますが、それよりもなによりも、こうたくさんになると名前が……名前が……短編小説を数多く書かれている方は、どうしてらっしゃるんでしょうね。

このお菓子はとんがりコーンのつもりで書いていました。
よく食べるシゲのために、幸生が業務用大箱を買ってきたのです。でないと100個も入っていない、と、理屈づけました。

私はお城が大好きでして、シゲが行ったことがあると書いている場所には私も行っています。
私の好きなお城ベスト3は。

姫路、大垣、五稜郭です。
個人的偏愛のせいです(^o^)

NoTitle

しりとり小説ももう100ですか。。。
私はどれくらいコメントしているのだろうか。。。
っていうくらい結構コメント残したような。

これからもコメント残していくぜえ!!
\(◎o◎)/!

100作目。
おめでとうございます。

LandMさんへ

そーなんです、100話です。
祝福のお言葉、ありがとうございます。

昔はほんと、ほとんどアクセスもないブログでして、一時はちょっとだけ訪問して下さる方が増えていたのですが、どうやら飽きられてしまうようで。

小説を書く実力が私には足りない、つまらないんだからしようがないか、なんてひがみつつ。
自己満足ブログでも楽しいからいいのですが、やはりコメントいただけるととても嬉しくて励みになります。

最近はLandMさんが一番、よくコメント下さっていると思います、たいへんに感謝しております。
ユニークな切り口のコメント、これからも楽しみにお待ちしていま~すv-10

NoTitle

以前、ここでコメしようとして、五周年に流れてしまった・・・
100話。すごいです。この切りにはやはり彼らなのですね。

江戸城、横浜城、横須賀城・・・近くてぷぷ。
箱根の関所に行ったとき、ここ空の眺めはお城並み?とちょっとだけ思いました。神奈川県のお城は小田原城。地味にお勧めです。あかねさんのリストにいかがでしょうか。(リスト、すごいです)

お城、良いですよね。もっと巡ってみたいです。
ちなみに今、描いているお話の関係で、バーチャル灯台めぐりしてます(^^;)

けいさんへ

けいさんは十二月はお忙しいんだろうなあと思ってましたが、コメントありがとうございます。

けいさんがお住まいの国にもお城ってあるのでしょうか?
西洋のお城も一度、生で見てみたいです。

小田原城は新幹線の窓から見えますよね?
そうやって見たことはあるのですが、行ったことはありません。
シゲの言ってる行ったことのあるお城リストには、私が見たことあるだけ、というのも含まれています。
どこかから見えるけど行くには遠すぎる、ってお城もけっこうありますものね。

けいさんは灯台ですか。
灯台もいいなぁ。
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