ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS過去物語「彼女の恋人」

 ←いろはの「う」 →ガラスの靴25
フォレストシンガーズ

「彼女の恋人」

 
 不幸と考えれば不幸だが、おごってもらえるのだから不幸ばかりではない。うちのリーダーと電話で話していて、飲みにいこうかという流れになって繁華街に出てきた。男同士で飲むなんて、幸か不幸か、ってやつだ。

 リフレッシュ休暇だと美江子さんが言ってくれた休暇は今日でおしまいだ。俺は適当に遊んでいたのだが、他のみんなはなにをしていたのだろう。本橋さんが指定した気楽な居酒屋に入ると、彼は先に来ていた。

「おぅ、幸生」
「遅くなりまして……ってーか、リーダーが早いんでしょ。そんなに暇だったんですか」
「暇で悪かったな。暇じゃなかったらおまえと飲もうって言わねえよ」
「どほるな」
「なんだ、それは?」
「気にしないで下さい。それってウーロン茶?」
「ウーロンハイだよ」
「俺もそれにしよっと」

 女の子は甘い酒を飲みたがるよな、甘いなんて酒にはあるまじき事態だ、許せん、などと言っているのは、本橋さんは甘い酒の好きな女の子と休暇をすごしたのだろうか。章の恋愛話は聞いている。シゲさんの場合は数少ないのだが、ひとつ、ふたつは知っている。

 が、本橋さんと乾さんのコイバナはまったく知らない。学生時代の彼らの恋にしても、俺は二年年下なだけに実際に見聞きしていないし、美江子さんも含めて知っている三人は、他人のことは口外しない。リーダーとふたりきりは珍しいのだから、そのあたりを聞き出したかった。

「ウーロンハイって意外とうまいですね」
「だろ? 軽くて口当たりもいいんだよな。だけど、甘くなぁい!! とか言う女もいてさ。当たり前だっての」
「リーダー、女に悩まされた休暇だったんですか?」

 いや、別に、と言って、本橋さんはすっと話をそらした。

「おまえはなにをしてたんだ?」
「休暇? 作詞、作曲、掃除、洗濯、読書、映画にも行きました」
「俺もそんなもんだな。いい詞が書けたか」
「見てくれます?」

 持ってきた創作ノートを広げて、本橋さんに見せる。このフレーズはいいな、ここはださいだろ、ぷっ、おまえらしくもない、本橋さんは呟きながら、熱心に俺の詞を読んでくれた。

「おまえらしくないって、俺の書いた詞を読むと本橋さんはいつもそう言いますよね。俺らしい詞ってどんなですか? 猫のみーちゃんがごろにゃんにゃん、とか?」
「それもいいかもな。猫騒動って歌があるだろ。コロムビア・アイキー・コルテットってグループのモノラル録音を聴いたぜ」
「猫の歌?」
「猫が喧嘩してるんだ」
「俺も聴きたいな。どんな歌ですか?」

 黒猫と三毛猫が喧嘩してにゃごにゃーご、だと本橋さんは言う。三毛猫はメスだから喧嘩はしない、そんなことは俺は知らん、そんな歌なんだ、三毛じゃなくて他の猫じゃないの? と議論になった。

「ものすごく古い歌だそうだぞ。三毛猫はメスに決まってるなんて俺も知らなかったんだから、世間でも知られてなかったんじゃないのか」
「ノルウェージャンフォレストキャットじゃないのかな」
「……そんな猫、いるのか? フォレスト?」

 コイバナも大好きだが、猫、歌となると同じくらいに大好物だ。俺が猫の知識を披露し、本橋さんはこんな歌がある、と話してくれて、そんな話題でまたたく間に時がすぎていった。

「もう一軒行くか。ここで長居するといやがられそうだもんな」
「いいですよ。ごちそうさまです」

 鷹揚にうなずいて、本橋さんが財布を開く。合唱部時代に、先輩と飲み食いしたら後輩は金を出さなくていい、と教えられた。合唱部にはえらそうな先輩がやたらにいたが、この一点だけはいい教えだ。俺だって後輩にはおごってやらねばならないが、フォレストシンガーズには後輩はいないのだから。

 たまにはこんな店もいいかな、と本橋さんが入っていったのは、小さなバー。入ってちょっぴり後悔したのは、そこには綺麗な女性が大勢いたからだ。

「ユキちゃんっていうの? 可愛い」
「こちら、本橋さん?」
「おふたり、お似合いよね」
「ほんとだ。キスしてみて」

 お姉さんというよりもお母さんみたいな女性もいて、俺たちをおかしなカップル扱いする。こうなったらサービスしてあげなくては、と本橋さんに迫って、突き飛ばされてストゥールから落っこちた。
 きゃぁっははっ!! いやーん!!  やっだぁっ!! 可愛いっ!! さすがの俺にも出せない本物の女の嬌声に囲まれて疲れてしまい、ここは高そうなのもあって短時間で切り上げた。

「本橋さん、お金、大丈夫でした?」
「なんとかな。しかし、参った。話の続きができなかったな。最後にもう一軒……ああ、あそこにしようか」

 やはり俺たちには女性のいるバーよりも、安直な飲み屋が似合う。三軒目はすっきりした内装の居酒屋で、女性客も男性客もカップルもいた。

「あ、あれ?」
「リーダー、知り合いですか」

 ひとりで飲んでいる女性がいる。やや小柄で清純そうで、それでいて知的な面差し。もしかしてこの方は……と想像したのは当たっていた。

「本橋くん?」
「やっぱ吉崎、さんだろ」
「吉崎でもいいわよ。久しぶりね。話はかねがね、聞いてるんだけど」
「誰に?」
「まあいいじゃないの。そちらは三沢さんかな」
「は、はい」

 紹介してもらったところによると、彼女は本橋さんや乾さんと同い年の合唱部仲間、吉崎香奈さんだった。ふたつ年上の女子部の先輩なのだから、俺も触れ合ったことはある。彼女の記憶にはなかったようだが、俺はしっかり思い出した。

 三人で飲もうよ、と香奈さんに誘われてテーブルを囲む。彼女はイギリス文学の研究と翻訳をしているのだそうで、俺には近寄りがたいようなインテリオーラを漂わせてもいた。

「彼氏はいるんだけど、私はまだ仕事のほうが駆け出しで、恋との両立ってできないのよ。このごろは男は邪魔だと思えてきちゃってて、彼に悪いなって……こんな気持ちではいけないんだよね。彼はとってもいいひと。ふたりきりのときに私が仕事を思い出して、彼を置き去りにして電話をかけにいったりしても、怒ったりもしない。仕事には男も女もないって言ってくれる。そんな彼に甘えてるのか。そんな彼が重いのか」

「俺にもそういうときはあるから、きみの気持ちはわからなくもないな」
「そう? 本橋くんは私の彼氏ではないからそう言ってくれるけど、あなたの彼女がこんな女だったらいやじゃない?」
「そこらへんは歩み寄っていくしかないんじゃないかな」
「そうだよね」

 ほっと吐息をつく彼女は、けだるくアンニュイな大人の魅力をまとって見えた。

「ひとりでいろいろ考えたくて、ひとりで飲みにきたの。だけど、ひとりで考えてても袋小路にはまってしまうだけ。本橋くんに話を聞いてもらえて嬉しかったわ」
「いや、なんの役にも立たなくて……」
「ううん。本橋くんは彼に近い立場だから……」
「ん?」
「いいの。じゃ、お元気でね。乾くんによろしく伝えて」

 フォレストシンガーズについては、彼女は知っているようだ。単に知っているだけではなくて、深い意味がありそうな。
 怪訝な顔をしている本橋さんに微笑みかけ、三沢さんもがんばってね、と俺に声をかけてくれ、彼女は伝票をつまみ上げた。

「あ、ここは俺が」
「ここまでの分だけ、私に出させて。話を聞いてもらったお礼よ。おふたりで飲んだ分はよろしくね」

 そう言って、彼女は先に帰っていった。本橋さんはなんとなくぽけっとして、放心しているようにも見える。俺も黙って考えていた。
 本橋くんは彼に近い立場……乾くんによろしく……木村くん、本庄くんの名前は出さず、乾さんだけ。彼女はもしかしたら、乾さんと? 

「本橋さん、あのひとは乾さんのモトカノだとか?」
「モトカノってのか、イマカノ……いや、そうなのかどうかは俺は知らないけど、そんな感じでもあったよな。意味深な台詞だっただろ」
「そんな気もしますよね」

 モトカノであったとは、本橋さんは認めたわけだ。この恋愛方面には鈍い男が、イマカノでもあるんじゃないかと思ったそうなのだから、俺の想像は当たっているのではないだろうか。
 するとすると、乾さん、彼女にふられちゃうのかな? 乾さんのようにもてる男は恋愛経験も豊富で、それに見合って失恋経験も数多いのだろう。

 愚痴をこぼしていきはしたものの、爽やかに去っていった彼女の恋人は、俺の先輩。ふたりの恋の行方を想うと、俺までが切なくなった。


YUKI/24歳/END








スポンサーサイト


  • 【いろはの「う」】へ
  • 【ガラスの靴25】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

お久しぶりです!
猫騒動、気になって聞いてみました(笑)本家は分からなかったんですが、ゴスペラーズがカバーしてるやつでいいんでしょうか?なんかニャゴニャゴ言ってる短い歌(笑)面白かったです(笑)

あかねさんの書かれるお話は文章運びの自然でそれぞれの登場人物の性格もよく出ててすごいですね‥‥。久しぶりに自分でお話書いてみて、全部文末が「~た」で終わってしまってたり、状況切り替えが上手に出来てなかったり、キャラがちゃんと出来上がってなかったり 粗が目立つなどなど…言ってたらキリがないのですが(^_^;)あかねさんのお話読ませてもらって色々勉強になりましたm(__)mこうやって他の作品に触れることも大事ですね!


そうそう!! 小説がやっとまとまったので、早速なにかキャラを描かせてもらいたいんですが(大分待たせてすいませんm(__)m)
誰にしようかな…また幸ちゃんにしようかなって思ったんですが、男の子ばっかり描いてるのでそろそろ若い女の子が描きたい気分。
もし描いてもいいよっていう可愛い女の子キャラいたらお知らせください♪

たおるさんへ

コメントありがとうございます。

新作小説を書かれたのですね。
改めて読ませていただきます。

私の考えるいい文章というものは。
内容の妨げにならないもの。
文章にばかり気を取られて、なにを書いてあったんだか覚えてないみたいな、いい意味でも悪い意味でもそんな作品もありますので、さらさらさらーとスムーズに流れていくような。そんなふうに読んでもらえる文章を書きたいと思っています。

いくらこころがけていてもむずかしくて、自分の文章のリズムが悪くて読んでいて苛々したりもするのですよ。
「だった」「である」「のだ」「思った」「した」みたいな止めの文も悩みますよねぇ。

「猫騒動」はそうそう、それです。
訊いていて私は幸生を連想していました。

きゃっ、イラスト、描いていただけるんですか。
うーれしーなぁ。最高に嬉しいです。

もちろん誰を描いて下さっても大喜びですが、女の子ですよね。
たおるさんにもおなじみの女の子といえば、美江子が一番でしょうか。
それから恭子ですよね。

あとは章がいつまでもこだわっているモトカノ、スー。
この子は小柄で華奢で、とんがった感じのロック少女です。

それから、フォレストシンガーズの後輩夫婦デュオのかたわれ、モモちゃん。この子は中身は強いですが、わりとほわわんとした可愛いタイプ。

あとはロッカーの瑠璃。
乾くんに片想い中の女優の卵、千鶴。
同じく乾くんに片想い中、乾くんが初恋のひとである十五歳の女優、奈々。
フォレストシンガーズの事務所の社員、玲奈。

シゲが昔、恋をしていたリリヤ。
幸生の妹、猫好きの雅美と輝美。
などなどなど、脇役だったらいっぱいいます。
たおるさんはどの女の子がお好みでしょうか?

私の趣味が反映して、みんな性格は強いですが、見た目は小柄で華奢な子が多いかもしれません。

できたらポチを描いてもらえるとものすごーく嬉しいのですが、犬はどうですか?

もちろん、たおるさんの描きやすいキャラを描いて下さいね。
楽しみに楽しみに待っています。

ところで、私もパソコンで絵を描きたくて。
マウスよりは描きやすいということで、ペンタブレットってのを買ってみようかと思うのですが、ど素人にも使えます?

長文になってしまってすみません。
イラスト、ほんとに楽しみにしています。

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【いろはの「う」】へ
  • 【ガラスの靴25】へ