ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「む」

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フォレストシンガーズ

「無関係」

 フランツ・フェルディナンドというロックバンドは、フランツともフェルディナンドともまったく関係ないからという理由でその名前をつけたのだそうだ。俺にはまるで関係ない、親父が再放送で見ていた「木枯し紋次郎」の台詞を想い出したりして。

 あっしには関わりのないことで、とニヒルに呟いていた紋次郎も関係ないのだが、俺には関係のないこと……そんなのいっぱいあるなぁ。ロックバンドにも、男なのに敢えてガールとつけたり、女なのに少年とつけたり、少女と筋肉という関わりのなさそうなものをくっつけたり、俺ら、女じゃないから、なんて言ってたり。

 というようなのがあるので、さして斬新でもないのかもしれないが、俺がロックバンドを結成するとしたら? かつてのバンドはガレージキッズ、ジギー。十六でバンドを組み、二十歳で解散してしまうまで、意外に俺はバンドを遍歴していないから、まともに取り組んだのはこのふたつだけだ。

 そして、現在はフォレストシンガーズ。はっきり言ってださい。なんでこんな名前をつけたんだ? フォレストシンガーズが結成されたときには俺は大学を中退していて、俺には無関係なところで名前もつけられた。

「うちの大学の名前には「森」が入ってるじゃん。そこからつけたユニット名なんだよ。俺も長くてださいって言ったんだけど、FSと略したら長くないだとか、覚えやすいだとかで押し切られちゃったんだな。だけど、なじんでしまえばシンプルでいい名前だと思うよ。酒巻がさ……」
「酒巻はどうでもいいんだよ」

 幸生の口舌はいつだって長くなるので肝心な部分だけでいいわけだが、フォレストシンガーズを結成したときにその場にいた五人で決めたらしい。

 ロックバンドを結成するとしたら、シンプルな編成がいいな。POLICEみたいに三人でやりたいな。フォレストシンガーズとはちがって一からなんでも決められるんだから、俺が中心になるロックバンド、なんて名前にしようかな、むしゃくしゃすることを考えたくないのもあって、そればっかりを頭の中でめぐらせながら歩いていた。

 一度だけ、チカや昔の仲間たちを誘ってバンドを作り、小さなライヴをやった。ミニアルバムもリリースした。たいして売れはしなかったが、俺は楽しかった。

 またやりたいな。今度はへヴィメタなんかもいいな。近頃は突飛なことをやりたがる奴もいて、可愛い女の子の声でへヴィメタを歌わせ、そんなものをもてはやすファンもいるようだが、あんなのは邪道だ。だったらなにが王道だ? と質問されても、人によってちがう、としか言いようはないのだが。

「おはようございます、木村さん、ひとりですか?」
「ああ、三沢はあとから来るから」
「どうぞ、入って」
「……ああ、おはよう」

 釧路ではじめて、三沢幸生と木村章のデュエットを披露した。フォレストシンガーズのライヴでならばやったこともあるが、ふたりだけでショーに出演するのは初だった。それが好評だったとかで、本日は幸生とふたりでテレビに出演する。

 テレビ出演はフォレストシンガーズには数少ない経験で、CDとライヴとラジオが活動の中心だ。今日だってケーブルテレビだからたいした視聴率も望めないだろうが、スタジオでスタッフや同業者ばかりの中で歌うほうがむしろ緊張する。緊張してるのに美江子さんにお節介を焼かれてむしゃくしゃしていたのだった。

 本日はデュオ特集で、俺たちと同じ楽屋にはアイドル系デュオのアッティスと一緒だ。二十歳くらいだろうか。幸生や俺と同じような身長だから、この年の男としてはかなり小柄だ。日本人の女にはこういった小さめの美形を好むのも一定数はいるようで、嬉しいような、俺は美少年じゃないから関係ないような。

「きみら、個人名もあるんだろ」
「うん、ナナヤとユウミっていうんだ」
「女の子みたいな名前だな」

 暇なので、三人で雑談する。アッティスという少年デュオの存在は知っていて、ちらっと顔を合わせたこともあったが、個人的に話すのははじめてだった。

「本名?」
「そうだよ。ナナ、ユウって呼んでね」

 こっちはおまえらよりも十以上年上だぞ。キャリアだってぐっと上だ。売れないころだったらアイドルの若い奴らにも軽視されたけど、最近は少なくとも音楽業界ではフォレストシンガーズの名前も有名になった。なのにおまえら、そろってそんな口のきき方か。乾さんにだったら説教されるぞ。

 と言いたい気持ちはあるのだが、鼻であしらわれそうな気もする。俺は乾さんのように上手に説教できないから、馬鹿にされると切れてしまいそうだ。だから言わないことにしていて、それでよけいにストレスが溜まる。幸生。早く来いよ。俺はほんとはこんなガキどもと話したくないんだよ。

「アッティスってどういう意味?」
「木村さんったら、知らないの?」
「こういう意味だよ」

 むふふと妖しい笑みを浮かべて、ナナとユウが寄り添う。どっちがナナでどっちがユウかなんてどうでもいい。ナナっていうんだったら高校生女優の奈々のほうがよっぽどいい。なんの真似だよ、それは、と引いていると、どっちかが言った。

「どこかの神話の美少年神なんだって」
「なんかねぇ、男でも女でもないってか、男でも女でもある神さまがいて……」
「両性具有とかいうらしいよ」

「そうそう、それ。その神さまの血から生まれた果物を食べた女神が妊娠して、生まれた美少年がアッティスなんだって」
「美女の女神に恋されたり、妖精に恋したり、浮気な美少年なんだよね」
「バイセクシャルだって説もあるし」
「だから、僕らにはぴったりの名前なんだ」

 身近にも同棲している男同士のカップルがいる。そのかたわれの哲司って奴は俺にはちょっかいは出してこないし、勝手に男同士でいちゃついててくれる分にはかまわない。そういうのには慣れたともいえる。
 けれど、こんなにおおっぴらにくっついていていいんだろうか。アッティスのふたりはそういう関係? だなんて書かれないのだろうか。

「あんまり堂々といちゃつかないほうがよくないか」
「木村さんったら、世間知らずだね」
「こういうのは流行ってるんだから、堂々とやったほうがいいんだよ」
「僕ら、こういう関係でーす、って言って、記者会見だとかでもべたっとくっつくの。そしたらジョークだと思ってくれるしさ」

「ジョークでくっついたりするの、いやじゃないのか?」
「いやじゃないよ。木村さんも三沢さんとやってみたら?」
「けっこういい歳らしいけど、木村さんと三沢さんだったら似合うよね」
「木村さんと本橋さんってのもよさそう」
「あ、そだそだ、ネットでそんな小説、見たよ」

 やめろ、頼むからその話題はやめろ。幸生と俺がいちゃつくのも、本橋さんと俺が似合うってのも、ネットのその手の小説も、死んでも聞きたくない。聞こえないふりをしていると、ナナとユウはますますいちゃつき出した。
 このふたりは女の子だと思おう。女の子がふたりでじゃれ合っていても可愛いじゃないか。意識を濁らせて、ナナ、ユウ、おまえたちは女の子だよな。だけど、女にしたらきゃあきゃあ言ってる声が茶色いなぁ、なんて考えてしまって、怒りたくなってきた。

「遅くなったよぉ、章、ごめん!!」
「遅いんだよ。罰金だぞ」
「ごめんごめん、だけど、遅刻はしてないよ」

 ようやくやってきた幸生に、ぶすっと応じる。ナナとユウは幸生にも可愛い挨拶をして、幸生も愛想よく挨拶を返している。俺はじりじりっと三人から離れていき、出番になるまでは関わらないことにした。

「章、なんでアッティスの坊やたちを避けてたんだ?」
「おまえはよくも避けずにいられたよな」

 仕事が終わっての帰り道、あんな奴らといるよりは、幸生とふたりのほうがよっぽどいいってんで、飲みにいこうか、と言い合ってタクシーに乗った。

「おまえにも言ってただろ。あいつら、堂々と言いすぎなんだよ」
「ああ、あの話?」

 タクシーの中で全部を喋って、運転手がブログにでも書いたらまずいかもしれない。昨今は一般人にも報道の手段みたいなものがあるから油断できない。俺がみなまで言わずとも幸生にはわかったようで、にやっとした。

「章も意外に純情だな」
「ってことは?」
「あれはジョークのふりをした、マジのふりをしたジョークだよ」
「……ってことは……」
「ねじってひっくり返してメビウスの輪にして、ねじって表に出してきたんだな」
「……どれが本当なんだよ」
「さあね」

 けけっと笑う幸生も、この業界ずれしてきたのだろうか。あんなガキにいいようにたばかられた俺よりは、幸生は海千山千なのか、あるいは、幸生も手玉に取られているのか。
 なにが本当なのかわかりづらい世界なのだから、こんなときこそ、俺には関係ないだろ、と呟いていればいいのか。深く考えるとどーっと疲れてきそうだ。


END





 
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