ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・彰巳「Blue moon」

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グラブダブドリブ

「Blue moon」

 なんだろ、この歌は。
 今どき洋ものロック? 日本人だったらJ-POPを聴けよ、と変なナショナリズム発言をする奴もいる時代に、俺は外国のロックばかり聴いてきた。

 けれど、この歌は日本語の歌詞で、ロックではなくて、俺の趣味では全然ないのに、しみ入ってくる。歌っているのはどこかのおばさんシンガーだ。おばさん声だけど、いい歌をうたうなぁ。

「ブルー・ムーン
 月の光りに
 青くさみしく ほほをぬらして
 ブルー・ムーン
 君に 出逢うような
 そんなはずもない 夜の並木路

 夢ははかなく 消えはて
 今日もむなしく たどる
 君と別れた 夜空に
 一人さみしく 残る

 ブルー・ムーン
 月よおまえも
 帰り来ぬ人を 待っているのか」

 とてもとても切ない。
 ひとりぼっちで酒を飲む夜。地下のバーだから月は見えないけれど、青い三日月が目に浮かぶ。細くて小さく見える月にブランコを……ってのは月並みだからいいとして、月の歌って切ないな。

 二十歳になったばかりの俺は、もうじきデビューするロックバンドのヴォーカリストだ。ロッカーとしてプロになりたくて、高校を卒業してからもバンドを組み、食い扶持はバイトで賄って音楽活動を続けてきた。中学生からロックをやっている俺は、五年以上のキャリアがある。

 だけど、下手なんだろう。類は友を呼ぶってやつで、遍歴したバンドのメンバーたちも下手だったから、インパクトがないから、売りになるものがないから、どのバンドでもプロになれなかった。

 そんな俺に訪れた転機は、グラブダブドリブの沢崎司と知り合いになったことだった。彼女と飲みにいって帰り道に不良集団に囲まれ、彼女だけは逃がしてやった俺は、半殺しにされて有り金を奪われるのだと覚悟を決めた。

 そこに颯爽と登場して俺を救ってくれたのが、剣道有段者の沢崎司だったのだ。あれがなければ俺は今ごろ、うらぶれたフリーターのままだっただろう。

 グラブダブドリブの合宿に連れていってもらい、ハウスボーイとしてこき使われ、ジェイミーには歌のレッスンでしごかれ、みんなに怒られ、殴られもし、反抗しても勝ち目もなくて、ジェイミーに抱き寄せられて女扱いされ。

 屈辱的だと思えば思えたのだろうが、俺はそうやってグラブダブドリブのみんなにかまってもらえるのが嬉しかった。いじられ体質なのであろうてめえについては、相手がグラブダブドリブだもんな、こうやって苛められててもいつかはいいことあるよな、と諦めていた。

 本当にいいことはあった!! 俺たち、デビューできるんだ!!
 メジャーデビューが決定した今は、プロデューサーの真柴豪さんにかまってもらっている。彼も合宿には加わっていて、彼のいとこだとかいう小娘にまでいじられたのだが、あれはあれで楽しい想い出だ。なんたってレイサは可愛かったし。

 真夏の海辺を、レイサのビキニ姿を思い出していると、うしろからいきなりジェイミーに抱きすくめられて、水泳パンツの中に手を入れられそうになったのも思い出す。阻止しようとしたら抱えあげられて、砂の上に投げられたっけ。

 畜生、と思わなくもないけれど、すぎてしまえば楽しかった。二度とああやっておもちゃにはされたくないけどさ、なんてよそごとも考えながら、昼間は豪さんとふたり、CDレーベルの会社の応接室で打ち合わせをやっていた。

「彰巳、出て」
「はい」

 命じられて応接室の電話を取ったら、女の声が聞こえてきた。

「豪、そこにいるんでしょ?」
「豪さんですか……ええっと……どちらさまでしょうか」
「あんたはどちらさまなのよ」
「高石彰巳と申します」
 
 声の大きな女で、豪さんにも彼女の声は聞こえていたらしい。誰なのかは声でわかったようで、豪さんは離れた場所で、俺はいない、電話には出ない、とのポーズをしていた。

「ここには豪さんはいませんよ」
「あんたは何者?」
「何者ってこともないんですけど……」
「高石アキミ? 聞いたことのある名前だな」
「そうですか。あの、あなたは?」
「ポリーヌっていうの」

 ハーフなのか外国人なのか、日本語に怪しいところはないが、芸名なのかもしれない。俺はこんな女は知らないが、豪さんは知っているらしい。プライベートだったらケータイにかければいいのに、着信拒否でもされているのだろうか。豪さんがここで仕事をしていると、どうやって調べたのだろう。

 気になっていても、質問すると長くなる。俺は早く切ろうとしているのに、彼女は電話を切らせてくれない。豪さんは俺をほったらかして部屋から出ていってしまい、ボリーヌはまだ喋っていた。

「思い出した、彰巳ちゃんって歌手の卵だよね」
「歌手っていうか、ロッカーです」
「豪のこと、色じかけでたぶらかしたんだろ」
「……はぁ? 俺は……」

 男ですけど……と言わせてくれず、ボリーヌは一方的にまくし立てる。俺は男だと言わなくても、声でわかりそうなものだが。

「女の子が俺だなんて言うと、豪に嫌われるぞ。あたしも豪にはじめて会ったときには、ボクって言ってたのね。ボクにはボクって呼び名が似合うって、モトカレに言われたんだもの。だからそう言っていたら、豪にお説教されちゃったの。それであたし、豪を好きになったの」
「……あのね、俺は……」
「だーからー、俺って言ったらダメ。豪に気に入られていなかったら、歌手になんかなれないぞ」
 
 なれないぞ、嫌われるぞ、という独特のニュアンスが気持ちが悪い。男言葉の「なれないぞ」ではなく、女の使う口調だった。

「彰巳ちゃんって、そういえば写真を見せてもらったんだった。綺麗な子だよね。頭のよくなさそうな、背が高くてプロポーションのいいモデルみたいな、アホキャラっぽいみたいな? そうじゃなかった? そんな女は豪には遊ばれて捨てられるだけなんだろうな。あたしもそういうキャラだもん」
「あんたの言ってること、無茶苦茶……」

 写真を見たのになんで俺を女だと思うんだよ、と言いかけたのもさえぎられ、ボリーヌは自分勝手に喋っていた。

「だけど、彰巳ちゃんは歌手にはなれるんだね。歌手になってからだって、どこかのプロデューサーに売られたりさ、スポンサーの接待だとか言われて寝たりするんだね。それでもいいよね。そんなのわかってて、彰巳ちゃんは歌手になりたいんだよね」
「あのね、俺は男だって」
「ありゃ?」

 一瞬の間のあとで、ボリーヌはくくくっと笑った。

「男だって同じじゃん。男の子の彰巳ちゃんか。うん、豪には女の子のアキミちゃんの写真も見せられたから、ごっちゃになってたよ。だけどさ、男の子の彰巳ちゃんだっておんなじだよ。仕事のためだったら誰とでも寝るの。売春婦とかいうんだよね。歌手になるなんてそれとおんなじだよ」
「俺はそんなんじゃ……」
「そんなんに決まってるよ。ねえねえ、男の子ってどうやって男と寝るの? もちろん知ってるだろうけど、女に売られるよりは男に売られるほうが多いんだからね。彰巳ちゃんは経験あるんでしょ。あたしは男同士って見たことないからさ、どうやるの?」

 ドアの開く音、靴音、豪さんが俺の背後に立ち、受話器を取り上げてがちゃっと切った。

「いつまで電話してるんだ。切れよ」
「切らせてくれないんだもん。豪さん、ボリーヌってほんとに……」
「あの女がなにを言ったのか知らないが、俺には関係のない小娘だ。俺は大人の女とだったらちょっとは遊んだりってあるけど、十七歳のガキには手を出さない」
「そっか、それでか……」

 遊び人だとの評判は鳴り響いている真柴豪だが、相手が十七歳ならばそうなのだろう。むしろ、手を出してもらえなかったらポリーヌは俺にあんなことを言ったのだ。

 なんの話をしていた? とも質問せず、それからは一切ポリーヌには触れず、豪さんは事務的な話をした。打ち合わせが終わると、今夜は俺は他にも仕事があるから、これで夕食を食って帰れと言って小遣いをくれた。

 好きな男にかまってもらえないからといって、仕事先にまで電話をしてきてからみつく女。そんな女の台詞を信じたわけでもないが、今夜の俺は食欲がなかった。だから、メシではなくて酒にした。酒は高校のときから飲んではいるものの、強いわけでもないので、薄目のウィスキーサワーなんかを飲んでいる。

 メランコリックな気分になるのは、他人にはそんなふうに思われる世界に足を踏み入れていくがゆえの不安のせいだろうか。この歌も、ボリーヌという名の女の子も、それからレイサも、俺の心を沈ませる。だからこそ、ひとりですこしだけ酔っぱらってみたかった。


AKIMI・20歳/ END






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