ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS過去物語「剣の舞」

 ←ガラスの靴23 →いろはの「ら」
フォレストシンガーズ

「剣の舞」

 
 ここでやろうか、と言い出したのは本橋さんで、昔を思い出して公園で五人で歌うことにした。
 昔とはいってもほんの半年ほど前だ。フォレストシンガーズがデビューしてからは練習環境だけはよくなって、戸外で歌わなくてもよくなった。

 去年の初秋にデビューして、年が明けて春が来たが、フォレストシンガーズには春は来ない。セカンドシングルはどうにか出せるようだが、アルバムや単独ライヴの話は来ない。そう簡単に売れるはずがない、と言う奴は多いけど、ぱっと出てきてばばーっと売れる奴だっているのに。

 プロが街頭ライヴってのか、公園ライヴってのか、無許可でやってもいいのかな、とは思うが、俺たちはそこらへんでギターを弾いて歌っているアマチュアミュージシャンと大差ないのだからいいのだろう。きゃーっ、フォレストシンガーズよっ!! と女の子の声がして、きゃーーっ、って囲まれる妄想を浮かべつつ、歌っていた。

 むろんそんなものは妄想で、道行く人々は俺たちをちらっと見ていくだけ。中には俺たちの足元にコインを投げていく者もいる。あの金、どうするんだろ。金を気にしつつも歌い終えた。

「いい天気だな。弁当でも買ってきてメシにしようか」
「あの金で?」
「落ちてる金を拾って使ったら遺失物横領だろ」
「あれ、落ちてるの? そしたら交番に届けましょうか」

「いいから、行くぞ」
「はーい。章、行かないの?」
「俺は曲のイメージが湧いたから残るよ」

 そっか、じゃ、お先に、いい曲書けよ、四人はてんでに言って立ち去ってしまう。今日は仕事ではないのだから単独行動をしてもいい。俺は仲間たちの歩いていったほうとは逆方向に歩き出した。
 仲間ではあるのだが、俺には疎外感がある。もとは合唱部の先輩たちと、同い年の幸生。俺は大学も合唱部も一年でやめてしまったから、四年間そこにいた彼らとは話が合わないこともよくある。俺が勝手にやめたのに、そうやってひがんでしまう愚は知っているけど。

 だから時々、俺は彼らに造反したくなる。本橋さんに殴られたり、乾さんに叱りつけられたりするとよけいだ。おまえはそんなだから先輩に叱られるんだよ、と言いたげな本庄さんのまなざしも、とりなそうと馬鹿をやってみせる幸生の態度も気に食わなくて。

 本当にみんなに見捨てられたら、俺は生きていけないのに。あーあ、俺ってなんて半端な奴なんだろ、とくよくよしながら歩いていて顔を上げると、知っている女の子の笑顔にぶつかった。

「どしたの、章くん? 元気なくない?」
「俺はおまえよりも年上なんだから、章くんって呼ぶな」
「そしたら、私をおまえって呼ぶな」
「姉ちゃんの真似をすんな」
「なに怒ってんのよ?」

 時として大嫌いになるみんなの中には、マネージャー修行中の山田美江子も含まれている。本橋さんや乾さんと同い年の先輩で、近い将来にはフォレストシンガーズのマネージャーになると決まっている山田美江子は姉さん気質のお節介焼きだ。気質というよりも、実際に弟ふたりと妹ひとりの姉なのだから、筋金入りなのだろう。

 その美江子さんの妹、山田佳代子は昨年、服飾専門学校に入学するために上京してきた。彼女は外見も美江子さんに似ていて、中身も似ている。彼女は姉と兄と弟に囲まれた中間なのだが、なぜか姉さん肌だ。もしかして、俺は女の姉心をそそる男なのだろうか。そんなに頼りないから?

 美人ではあるし、十九歳と若いし、背は俺と同じくらいなので許容範囲だから、そばに寄るな、と言うほどではない。勝手についてくるので適当にあしらいつつ歩いていた。

「なんかあった?」
「なんにもねえよ。強いて言うなら春のメランコリーかな」
「メランコリー……ださっ」
「うるせえんだよ」

 姉貴だとモロにださっ、とは言わないから、こういうところは幼いのか。淡いグリーンのスプリングコートを着た佳代子は、見ようによっては可愛い。

「もうちょっとでも売れたらな。歌いたいんだよ」
「歌えばいいんじゃない? 聴いてあげるから歌う?」
「おまえの前で無料で歌っても意味ないんだ。そんなら練習してるよ。そうじゃなくて、ギャラをもらって大勢の聴衆の前で歌いたいんだ」
「そんな仕事、したことない?」
「あるけどさ」

 単独ライヴはまだだが、ジョイントライヴのような経験だったら幾度もある。だが、フォレストシンガーズを聴きたい、フォレストシンガーズだけでいい、と願ってホールにやってきてくれる客には飢えていた。

「お姉ちゃんの夢は、フォレストシンガーズを世界的大スターにすることなんだよね」
「世界的って、先に日本で名前を売らなくちゃ」
「そりゃそうだけど、夢は大きいほうがいいよ。章くん個人の夢は……」
「そうだなぁ……」

 妄想癖のある俺はついマジに答えそうになって、頭を振った。

「おまえに言っても意味ねえよ」
「そうかもね。私がかなえてあげられるわけでもないんだもの。むずかしいよね、音楽で売れるって。親が大スターだとしても、その息子や娘の歌が売れないってこともあるでしょ」
「あるみたいだな」

 一番の俺の夢ってなんだろう。俺はロック……自由に語ればフォレストシンガーズからは離れてしまう。ゆえに言いにくいのもある。俺はできるものならば、ロックスターになりたい。どこかのバンドからスカウトされないかな、なんて他力本願な夢を見そうになっては、おまえはフォレストシンガーズの木村章だろ、とおのれを叱ることもあった。

「んで、おまえの夢は?」
「聞きたいの?」
「聞きたくはないんだけど、言いたいんだろうからさ」
「親切だね」

 皮肉っぽく笑って、佳代子は言った。

「お金がほしいな。私の夢を実現させるにはお金がいるんだよ。東京に出てきて、なんてお金がかかるんだろって思った。うちは姉も兄も社会人になったから、あとは弟と私だけ。学費はなんとかなるって親も言ってくれるけど、甘えてばかりいられない。それでね、風俗でバイトしようかと思ったりもしたの」
「風俗はよくないだろ」
「そうみたいね。本橋さんに全力で止められちゃったよ」

 佳代子が東京に出てきてからは、俺たちも何度かは会っているが、本橋さんとそんな話をしていたとは知らなかった。

「本橋さんって熱いひとだよね」
「だろ。熱くて暑苦しくてうぜえんだよ」
「そういうところもあるけど、暑すぎない程度にあったかいのはいいんじゃない?」
「いいときばかりじゃないけどな」

 悪いときばかりでもない、とは言わなくても伝わっているようだった。

「なににそんなに金がかかるんだ?」
「私、パリに留学したいの」
「……ありがちだな」
「ありがちって悪い?」
「いや、俺の夢だって、音楽やってる奴としては最高にありがちだよ。パリに留学するための資金を風俗で稼ぐのか?」
「ううん、それはもうやめたの。地道に貯金する」

 そのほうがいいよな。佳代子は女なんだから、風俗なんてやめたほうがいいよ、と心で言う。それにしても、本橋さんが全力で止めたってのはどうやってなのだろう? 俺を全力で止めるのならば殴るだろうけど、彼は女は絶対に殴らないそうだから。

 どうやったのかな、口で止めたのか? 本橋さんもあれで案外、いざとなったら弁は立つもんな、と考えている俺を見て、佳代子が笑った。

 ああ、この子、綺麗だな。気の強さが美しさになる、さすがに美江子さんの妹だ。彼女のなめらかな頬にきらきらと陽光が当たって、ちっちゃな剣が踊っているように見える。微笑みと陽光から剣を連想させるのもさすがに美江子さんの妹だ。
 
 きっとおまえは夢をかなえるだろう。俺だって負けてはいない。フォレストシンガーズの木村章としての夢と、山田佳代子の夢、両方ともにかなうといいな……いいな、じゃないさ、必ず実現するよ。

AKIRA/23歳/END











スポンサーサイト



【ガラスの靴23】へ  【いろはの「ら」】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

妹キャラだけど、信念が強くてぐいぐい生きてく。
そんな女の子を、男の子は好きなのかな。
でもすーちゃんよりは、いいよ^^(章の元カノだったですよね)
すぐに風俗を思いついちゃう軽さは、やっぱり同性としては、あらら、と思っちゃうけど。
章はいつの日かフォレストを出て、ロック歌手になるのかな。
それはそれで、応援したいですね。

NoTitle

余談のようなコメントですが(前置き)。
タイトルで思いましたが。。。
剣の舞は見たことがないですね。
う~~む。確かに興味がある。。。
本物剣での舞は美しいものがあるような気がします。

limeさんへ

いつもありがとうございます。

佳代子は美江子の妹ですから、フォレストシンガーズのみんなからしたらそれなりに特別な関係なのですね。
大人になっても細々とつながっています。

limeさんはスーがお嫌いでしたよね。
たしかに、スーみたいのが身近にいると、言いたいことをずけずけ言われてぐさぐさっと来そうですが、フィクションのキャラとしては気の強い女の子は好きです。
でも、一般的には女性に「気が強い」というのは悪口みたいですね。

佳代子も気が強くて、美江子も強くて、やはり作者の好みは反映されているようです。

章は趣味でロックバンドをやったりもしますが、フォレストシンガーズから抜けるかどうかは、私にもわかりません。
フォレストシンガーズが終わりになるとき、ってのも書きかけたのですが、終わりにしたくないのでだらだら続けています。

LandMさんへ

コメントありがとうございます。
日本には剣舞ってのがありますね。西洋の剣の舞……そういうのもきっとあるのでしょう。今度しっかり調べておきます。

今回のこのタイトルは、クラシック曲、ハチャトリアンの「剣の舞」です。

https://www.youtube.com/watch?v=wKiZP1rFJao

この曲、ごぞんじでしょう?
いかにも「剣の舞」って感じの曲調ですよね。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【ガラスの靴23】へ
  • 【いろはの「ら」】へ