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FS2014・十月「揺れるまなざし」

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フォレストシンガーズ

「揺れるまなざし」


 ハードロックばかり聴かされて飽きてきた。自分で言うほど章はギターは下手ではないと思うのだが、飽きたと言うとひがむだろう。
 どうせ俺はロック仲間には下手なギターだと言われるんだから。
 乾さんは俺よりもギターがうまいもんな。
 下手なギターだからいやになってきたんでしょ? 正直に言っていいですよ。

 ふたりしてスタジオで新曲の相談をしていて煮詰まってしまったから、章はこうして気分をリフレッシュさせているのだ。飽きたなどと言ったときの反応は想像がつくので、章の弾くハードロックを我慢して聴いている。

 ジューダスプリースト、メガディス、UFO、スコーピオンズ、マシンヘッド、ライオット、ブルーオイスターカルト、レッドツェッペリン、ブラックサバス、HRだかHMだか知らないが、そんなバンドの曲ばかりを章が立て続けに弾いていた。

「次はこれ……」
「レッドツェッペリンだな。「ロックンロール」……それだったらわかるけど、章、ヘヴィメタルとハードロックのちがいってなんなんだ?」
「むずかしい問題ですが、個人的見解を述べると……」

 ハードロックのほうには恋愛をはじめとするストーリィ感覚のある歌詞が多い。かっこよくて楽しくてノリのいい、享楽的な感覚もある曲に乗せてそういった物語を歌う。

 ヘヴィメタルのほうはメッセージ性のある歌詞が多いかもしれない。ファンタジックだったり歴史的だったりする歌詞を壮大な曲に乗せて、あくまでもへヴィに、メタルに……生活感が乏しいのかな。

「俺は両方が好きだな。もっとも、乾さんほど英語ができるわけじゃないから、歌詞の解釈には自信ないけどね」
「俺もロックの詞はむずかしいよ」
「うわーっ、乗ってきた」
「乗ってくるのもいいけど、自分の曲を……」

 ギター演奏に興が乗ってきたと言いたいらしく、章は俺の言葉に聞く耳を持たない。俺は章のギターを聴くしかなくて、フォレストシンガーズの音楽に頭を切り替えることもできなくて、頬杖をついてぼんやりしていた。

「煙草、吸おうかな」

 窓を開けてひとりごとを言い、窓枠にもたれて煙草に火をつける。章はロッカー時代には吸っていて、現在でも気が向くと吸うらしいので煙草をいやがりはしない。
 うちでは幸生が俺と同じくらいのスモーカー、本橋は中学生のときにちょっと吸ってやめたそうで、シゲとミエちゃんは生涯で二、三度ほどしか吸ったことがないらしい。俺の煙草には本橋がケチをつけ、ミエちゃんは身体に気をつけてね、と皮肉に笑う程度で、強固な嫌煙論者はいないのでありがたい。

 聴覚がハードロックに占拠されてしまって、フォレストシンガーズのためのバラードを考えられない。章は今度はシンデレラを弾くと言って、俺の知らない曲でノッテいる。シンデレラっておとぎ話のか? ディズニー映画か。こんなキンキンした曲はシンデレラストーリィには似合わないから、そんな名前のロックバンドがいるのか。

 ぼーっと考えながら、大きく見える月に向かって煙を吐く。今宵の月は綺麗だなと思っていると、褒めてくれてありがとう、とでも言いたげに、月がきらっと光った。
 ん? 月って光るものか? 目の錯覚か?
 なあ、章、見てたか? 尋ねようと振り向いてみたら、章はギターに夢中で外なんか見ていない。が、章が右耳にだけつけているゴールド小さなピアスも、月の光を受けてきらっと光った。

「この光が凝固して、人の形になるんだよ」
「へ?」
「月の光が章のピアスに反射する。涼やかな風がひと吹きする。風が光を揺らめかせて、美しい女性の姿を浮かび上がらせる。おまえも俺も彼女に魅了されて……」

「なんの話ですか? そんな女がどこに?」
「いい女だなぁ、って、思わずつぶやくのは章だよな。俺は……俺はどうしようか」
「プロモのアイデアでも湧いた? いいかもしれないな、それ」
「前の翡翠いろの人魚の二番煎じにならないかな……いや、あの別バリエーションってことで」
「いけるかもしれませんよね」

 翡翠いろの初夏の風と太陽の光から生まれた、翡翠いろの人魚。口をきかない人魚と泳ぐ俺たちは少年の姿かたちをしたアニメを、初夏に発売する新曲のプロモーションのために作ってもらった。
 あの二番煎じになるのかもしれないが、俺の頭の中にあるイメージを形にできたとしたら、今度はこんな実写ショートドラマはどうだろうか。

 秋の風は枯れ葉いろ、月のしずくは銀のいろ、章のピアスはゴールド、三つの輝きが溶け合って混じり合って生まれたのは、かぐや姫のような月の精だ。俺の前にあらわれたあえかな美女の瞳が俺を見つめ、風にゆらめくススキの穂のように……。

「街にひとふきの風 心にふれゆく今日です
 めぐり逢ったのは
 言葉では尽せぬ人 驚きにとまどう僕
 不思議な揺れるまなざし
 心を一人占めにして あざやかな
 物語が限りなく綴られて
 君の姿が 静かに夜を舞う

 歌い出した俺を訝しげに見ていた章が、ギターを抱え直した。


「昨日までの淋しさ嘘のように
 君の姿に色あせて
 明日の朝を待ち切れず夜を舞う
 君の姿を追いかけて
 あのまなざし揺れて眠れない」

 本当は俺たちが歌うオリジナル曲を考えなくてはいけないのだが、今はこの歌ばかりが浮かぶ。章もハードロックはやめて、俺の歌にギター伴奏をつけてくれていた。

END






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