ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS過去物語「ミスター・プレリュード」

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フォレストシンガーズ


「ミスター・プレリュード」

 じゃあね、待ってるよ、と朗らかに言って身をひるがえし、駆けていく彼女の背中を見送っていると、視線を感じた。こっちも視線でその視線をたしかめてみる。星さんだ。

「今日はうちでごはん、食べようよ」

 誘ってくれたのは山田美江子。本橋と俺は行くよと返事をした。彼女の故郷は栃木県宇都宮市なので、お母さんが餃子を送ってくれる。そいつをミエちゃんが上手に焼いてくれるので、本橋も俺も楽しみにしている。送ってもらった餃子を本橋はいくらでも食ってしまって、ミエちゃんはいつだって他の料理も用意してくれる。

 健啖な本橋も、彼に負けないくらいよく食べるミエちゃんも、見ていて気持ちがいい。俺は食欲旺盛なほうではないので、それっぽっちしか食わないのか? そんなんじゃ大物になれないぞ、と本橋に意味不明なことを言われるのだが、きみたちには負けるだけだよ。俺だってうまいものを食うのは好きさ。

 今夜も三人でミエちゃんのアパートに集まり、餃子パーティだ。俺は早めに行こうかな。先に自分のアパートに寄って、俺もなにか作ろうかな。餃子に合うサイドメニューだと中華かな。などと考えていたのだった。

 大学生の三年差は大きい。合唱部の四年生である星丈人さんは、長身で苦み走ったいい男でもあり、性格もたいへんに大人らしく男っぽい。俺なんかから見ると眩しいほどにかっこいい彼は、ミエちゃんの恋人でもある。

 五月ごろにミエちゃんから、星さんとつきあうようになったの、と聞かされた際には、変な話、ミエちゃんって星さんに選ばれるんだから、魅力的な女の子なんだなぁ、という気分も起きた。あれほどの男が彼女にしたがるミエちゃん、他の女の子にやっかまれるんじゃないだろうか。

 事実、ミエちゃんは女子部の先輩の嫉妬視線を受けてもいるようだが、特に気にしているようにない。星さんも大人だからなのか、ミエちゃんとは友人である本橋や俺に嫉妬することもなさそうだ。そりゃそうか。本橋や乾みたいなガキ、俺の敵なはずないもんな、であろうから。

 しかし、先ほどの視線はかなり剣呑だった。本橋と俺を招いているミエちゃん、三人の図を見ていた星さんは、ミエちゃんを追っていったのか? そうでもなさそうだが、本当に気にしてはいないのか。
 星さんが気にしていないのならば、俺がとやかく気をもむ必要もないってものだ。

「……おまえは気を回しすぎだ、考えすぎだ、だから女みたいだっていうんだよ」
「……誰が女みたい? 誰に言ってるの?」
「あ、喜多さん。聞いてた?」
「女みたいってのは聞こえたよ。うん、乾くんって肌はちょっと女みたいね」
「……ちょっと、やめて下さい」

 同い年の喜多晴海さんだ。どこからともなくあらわれて俺の隣を歩き出し、俺の指に頬で触れようとしている。髭の剃り跡だってあるのに、どこが女みたいなんだよ、とは幼稚な反論であろうし、からかわれているだけなのだろうから、俺は微笑んでおいた。

「喜多さんは彼氏っているの?」
「いないな。乾くんは香奈とつきあってるんでしょ?」
「知ってるんだよね。うん、まあ、そうだよ」

「まあってなに? まあ、程度なの?」
「いいえ。俺は香奈ちゃんとつきあっています」
「それでいいんだよ。ごまかすなっての」
「はい、すみません」

 中背でやや細身、十八歳という年齢からしても見た目は清純な少女だ。ずけずけとものを言うのは、香奈だってミエちゃんだって同じようなもの。俺は女の子が相手だと自然に気を使ってしまうが、男が相手だと態度を変える女性のほうがいやらしいのかもしれない。

「乾くんって女みたいなの?」
「本橋にはそう言われるけどね」
「どこが?」
「考えすぎだとか……じきに裏読みするとか」

「それって女みたいだというよりも、頭がいいからじゃないの? 本橋くんは勉強のほうの頭脳は悪くないはずだけど、乾くんみたいには頭が回らない。だからさ、やっかんでるんだよ」
「俺の頭の回り方に、本橋が妬いてる?」

 それはない、絶対にない。おまえみたいな考え方だと疲れるから、俺はおまえのようにはなりたくない!! と本橋はいつだって言うのだから。

「乾くんには男に恋する趣味ってのはないんだよね?」
「ありません」
「そんなにいや?」
「そんなにいやとは?」

「本橋くんがやけに徳永のことを気にするから、本橋くんって徳永に恋してるの? って尋ねたんだよね。変な意味じゃないのに、本橋くんったら怒っちゃって、もういいっ!! って怒鳴られたよ」
「それのどこが、変な意味じゃないんだか……」
「そんなにいや?」

 要は、男である俺が男に恋する趣味があるのか、と問われることが、そんなにいや? と質問されているのだろう。俺は言った。

「よその男とよその男が、当人同士の同意のもとで恋人同士になったっていやではないよ」
「本橋くんと徳永だったら?」
「想像はしたくないけど、彼らが実はそういう性的嗜好の持ち主であり、愛し合っているのだったら……俺を口説かれると困るけどね」

「口説かれると困るの?」
「喜多さんだって、女性に性的に口説かれたら困るだろ」
「そうだよね。乾くんに口説かれるのも……うん、香奈の手前、困るもんね」
「口説きませんから」
「残念、なんちゃって」

 妙に満足そうに、喜多さんは言った。

「うんうん、乾くんはやっぱり話せるよ。そういう話に真面目に対応してくれるってだけで好感が持てる。徳永や本橋くんだと頭から拒否だもんね。乾くんはそういう主義で生きてね」
「……はい」
「じゃあねぇ」

 手を挙げて、喜多さんも走っていってしまった。
 おかしな質問をされて答えて、むしろ俺の気分はさっぱりした。うじうじするのはやめよう。ミエちゃんと本橋と俺は三人で友達同士。三人で誰かの部屋に集まるのは、なんらやましい点はない。
 なのだから、星さんが見ていたよ、とだけはミエちゃんに伝えて、どうするかは彼女に決めてもらおう。俺はスーパーマーケットに寄って、自分のアパートにも寄って、遅れないようにミエちゃんのアパートに向かうだけだ。

TAKAYA/18歳/END





 
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NoTitle

同性に口説かれても困る。。。
というのは本音ですね。
そっち系の趣味はない。

趣味云々については私も言わないですけどね。
恋愛は自由なので。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
私は若かりし日、酔っぱらった同性の友達に抱きしめられたことがあります。
なんとなく口説かれたこともあります。

女性のほうがそういう経験は多いかもしれませんね。
十代のころまでだったら、女の子同士でくっついてるのはよくあることでしたし。

同性同士の疑似恋愛みたいのも、女の子のほうが許されるのかな。
その趣味のない男性は、男性同士で手をつなぐとか、げーっ!! でしょうからね。

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