ショートストーリィ(しりとり小説)

94「くまのぬいぐるみ」

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しりとり小説

「くまのぬいぐるみ」


 きみが生まれたとき、僕は高校一年生だった。
 遠い親戚に当たるおじさんが奥さんとふたりで暮らしている近所の家に、生まれた赤ちゃんがきみ。

 生まれたばかりのきみを抱っこするなんて、落としてしまいそうで怖くて、ママに抱かれているきみを恐る恐る見ているしかなかった。
 すこしきみが大きくなれば、子守りをさせてもらえるようになった。白い頬がぽっとピンクに染まってほわほわ笑うきみは、まさしく天使のようだった。

 ご機嫌ナナメで泣きわめくきみに困り果てていたのは、きみのママが買い物に行っている間、きみを庭先であやしていた夕方だったか。僕がどれだけ悪戦苦闘しても泣き止まなかったきみが、ママが帰ってきた途端に笑ったのを見て嫉妬したよ。

 幼稚園の入園式、小学校の入学式、お兄ちゃん、お兄ちゃんと僕を慕ってくれるようになったきみの記念写真には、僕も写っている。パパとママときみの写真を、僕が撮ったことも何度もあった。

 大学を卒業するまでは、僕はきみのお兄ちゃんがわり。僕が就職して独立すると話したときには、きみは泣いたね。可愛くて切なくて、僕も泣いてしまいそうになった。

 ひとり暮らしにはなったものの、アパートは遠くもなかったし、公務員だからそんなに忙しくもなくて、それからだって実家に帰るたびにきみに会った。

「お兄ちゃん、帰ってるの? ねえねえねえ、聞いてっ!!」
 庭から家に駆け込んでくるきみの陽気な声が聞こえると、僕の日ごろの小さな悩みなんか吹っ飛ぶようだった。あのころ、きみは中学生、学校の話や部活の話、友達や好きな男の子の話もしてくれたね。

「マコは可愛いんだから、男には気をつけろよ」
「あたしが可愛いなんて言ってくれるのは、お兄ちゃんだけだよ。マコはちっとももてないの」
「もててるのに気づいてないだけだろ」
「そんなことないよ。それより、お兄ちゃんこそカノジョは?」
「いるに決まってるだろ」
「いるの? 紹介してよ」

 そりゃあ僕にだって、彼女のひとりやふたりはいたよ。きみに紹介するほどの仲にはならなかったけど、もしも会わせていたら、きみはどうしたんだろう? 小姑みたいにチェックしたのかな?
 
 時は一方にのみ流れ、きみは大人になっていく。僕は大人を通り越して、中年のおじさんになろうとしている。親には結婚をせっつかれるようになった、三十六歳。来春には大学を卒業するきみが気になって、結婚もできないなんて言い訳だけど。

「お兄ちゃん、私、就職が決まったの」
「それはそれはおめでとう。なんの会社?」
「旅行会社」

 旅行は好き、プランを立てるのが一番好き、ときみが言っていたのを聞いたことがある。好きな仕事ができるのは幸せだろう。なのに。

「世界各国に支店のある会社で、研修が終わったら外国に配属されるって決まってるの。それが前提で就職試験にも合格したんだよ」
「そっか。外国で働くんだ。かっこいいね」
「お兄ちゃん、寂しくない?」

 わたしは寂しいよ、と言いたいの? きみは強いまなざしで僕を見上げ、僕は笑ってみせた。

「うん、すこしはね」
「わたしはね……うん、心細くはあるけど、そんなことを言ってたら駄目だもんね。がんばるから」
「ああ、がんばれよ」

 じゃあね、またね、と言い残して、僕を見つめてから身をひるがえしたきみ。幼いころと同じように、庭先から出ていって駆けていく。僕はきみが小さかったころに、一緒に聴いた歌を口ずさんだ。

「僕はくまのぬいぐるみ
 ひとつ腕がちぎれそう
 耳が破けてそこから
 白い綿が覗いている

 そうさ古いぬいぐるみ
 五年前のクリスマス
 パパのサンタクロースが
 きみのために買ってきた

 それからずっと仲良しで
 いつもいっしょに眠ってた
 だけど今日から僕なしでひとりで眠れる

 すこし寂しくてちょっと悲しくて
 とても嬉しいよ」

 すこし寂しくて、ちょっと悲しくて、そう、とてもとても嬉しいよ。

次は「み」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
「僕」は別に誰でもないのでして、今回の主役はこの歌です。
かなり昔に「みんなのうた」で聴いて、それからずーっと好き。今でもこの歌を聴くと泣けてきます。その歌をモチーフに作った物語でした。you-tubeにありますので、聴いてみて下さいね。



 



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追記

この時代、こういうお兄さんは、キモチワルゥ……ロリコン、と言われるのだろうかと、つい考えてしまう作者なのでした。
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