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FS2014・九月「September rose」

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フォレストシンガーズ

「September rose」

 九月の青? セプテンバーブルーというタイトルを教わって、私は乾さんに問い返した。

「セプテンバーブルーってどういう意味ですか? 九月の青?」
「Blue September だったら「青い九月」だね。Blue in September だと「九月の青」だ。September, blue で「九月、青」。厳密にはどういう意味なんだろ。英語はむずかしいね」
「乾さんでもですか」
「いや、俺は英語は得意ではないから」
「作詞をするときに英語のフレーズを入れるのに?」
「あれはまた別なんだよ」

 別だとは思えない。私は乾さんは英語が得意だと思っていた。

「乾さんの受け売りだよ」

 シゲちゃんはいつもそう言って、いろんな言葉を口にする。大学の古典文学科出身で、短歌や俳句をたしなみ、歌詞を書き曲を作る。作詞も作曲も楽器も苦手な彼氏や、似たものカップルというのか、歌もまともに歌えない私とは、乾さんは人種がちがうそうなのに。

 だけど、そんなことはどっちでもいい。乾さんが音楽というものに詳しいのはまちがいなくて、同じ歌手の彼氏は較べものにもならないほどに歌をたくさんたくさん知っているのもまちがいない。なんにも知らない私も、乾さんに音楽について教えてもらいたかった。

 秋になれば私は、フォレストシンガーズの本庄繁之さんと結婚する。シゲちゃんを愛しているから結婚するのはとても嬉しくて、フォレストシンガーズのみなさんと親しくしてもらえるようになったのも、たいそう嬉しかった。

 それだけで満足していればいいんだけど、音楽に詳しいひとにもっと教えてもらいたいな、と、音痴だけれど音楽は好きな私は期待してしまっていた。

「クリス・レアってブルーが好きなのかな。ブルーカフェっていう有名な曲もあるんだよ」
「九月、青、九月って青いイメージではありませんけどね」
「恭子さんにとっての今年の九月は、薔薇いろでしょ」
「えーと……そうかも」

 大好きなひととの結婚式の近い女の子なのだから、そういう意味で乾さんは言っているのだろう。

「この歌ってどういう意味なんですか」
「そうだね……」

 同じラジオ局で仕事をしているから、フォレストシンガーズのみなさんには会う機会もある。シゲちゃんと知り合ったきっかけも、「FSの朝までミュージック」という番組で共演したからだ。
 五人いるフォレストシンガーズがふたりずつ、本橋さんと乾さん、木村さんと三沢さんがペアになり、シゲちゃんは余ってしまったから、相手役に私が選ばれた。

「余ってよかったと思うよ」
「うん、私もそう思う」

 そう言い合ってふたりして照れていたのを思い出しながら、ラジオ局の喫茶室で乾さんと向き合っている。季節にぴったりだからなのか、クリス・レアという歌手が歌っているのだとはじめて知った、この曲が流れていた。

「Your head spins round on a monday
 And the daylight’s in your eyes
 How you laughed and cursed tomorrow
 Now he’s standing by your side
 You touched the stars at midnight
 The whole world seem to shout ’hello’
 Now your throat is tired and heavy
 And only one can go」

 コーヒーカップを口元に持っていって、乾さんが考えている。乾さんは特別にハンサムというわけではないのだが、背が高くてすらっとしていてセンスが良くて涼し気で都会的。シゲちゃんと私が結婚しても嫉妬するファンはほとんどいないと聞くが、乾さんと夜にこんなところで向き合っていたら、ファンの方にやっかまれそうだ。

「あなたの頭が月曜日に回転する。あなたの目は夏時間。……うーん、シュールだな。むずかしいよ」
「夏時間の目って象徴的っていうんでしょうか」
「そうかもしれない。俺は英語は苦手だから、やっぱりむずかしいな」

 肩をすくめて、乾さんはコーヒーを飲んだ。

「I’ll be all right though I may cry
 The tears that flow they always dry
 It’s just that I would rather be with you now
 And every time I see that star
 I will say a prayer for you
 Now and forever september blue

「I’ll be all right though I may cry
 The tears that flow they always dry
 It’s just that I would rather be with you now
 And every time I see that star
 I will say a prayer for you
 Now and forever september blue
 ’cos I’ll always love you
 September blue」

 あ、クリス・レアだ。
 昨夜聴いたばかりの曲がラジオから流れてくる。今日はシゲちゃんとデートして、彼のアパートに一緒に帰ってきていた。

「恭子、よく知ってるな。クリス・レアってそんなに有名だっけ」
「私は知らなかったんだけどね……ああ、なんだかわかるな。こうしてしみじみ聴くと、なんだか……」
「恭子、どうした? 知らなかったのにどうし……あれ? どうした?」

 どういうわけだか涙がぽろっとこぼれて、シゲちゃんは慌てている。
 知らなかった曲を乾さんとふたりきりで聴いて、タイトルだの曲調だのでセンチメンタル気分になったから、涙がこぼれたのよ、と言うと、シゲちゃんもやきもちを妬くのだろうか。

 妬かせてみたいような、喧嘩になったらいやだから黙っていたいような、どうしたって今の私の気分はそっちに流れていって、セプテンバーはブルーではなく、乾さんも言った通りに薔薇いろなのだった。

KYOKO/24歳/END







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~ Comment ~

NoTitle

英語は確かに雰囲気で聞くなあ。。。
歌詞まで考えて聞かないですからね。。。
そこまで考えて聞くとまた面白いのでしょうが。。。
好きなアーティストは椎名林檎ですかね。
あとはキマグレンとか。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
英語の歌だとメロディだけ聴いていて、私の場合は歌詞はわからないのでハナっから投げてますね。
ふと気づいて、これ、なにを言ってるんだろ? なんて悩んだりして。
有名な歌だと訳詩サイトもありますから、その気になれば調べられますが。

キマグレンは名前だけしか知りませんが、椎名林檎さんはあの「歌舞伎町の女王」がなかなか衝撃的でした。
甲斐よしひろ氏が「歌舞伎町の女王」をカバーしていまして、あっちもなかなかいいですよ。
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