ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS楽器物語「マリンバ・アマポーラ」

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フォレストシンガーズ

「マリンバ・アマポーラ」

 スペイン語の歌が流れている、

「Yo te quiero, amada nina mia.
 Igual que ama la flor la luz del dia.

 Amapola, lindisima amapola,No seas tan ingrata y amame.
 Amapola, amapolaComo puedes tu vivir tan sola」

 この歌の意味を教えてくれたのは、アメリカからの留学生だった。

「ひなげしよ、美しきひなげしよ、いつだって僕の心は君だけのもの。君が好きだ、僕の愛しいひと、花が昼の陽射しを愛するように。ひなげしよ、美しきひなげしよ、嫌な顔をせずに私を愛しておくれ。ひなげしよ、ひなげしよ君はどうして一人でいられるのだろうか。

君が好きだ、僕の愛しいひと、花が昼の陽射しを愛するように。

 ひなげしよ、美しきひなげしよ、嫌な顔をせずに私を愛しておくれ。ひなげしよ、ひなげしよ君はどうして一人でいられるのだろうか」

 彼はヒスパニック系アメリカ人で、彼の日本語も俺の英語も怪しかったのだが、あとから英語の得意な香奈に補ってもらった。

「私もこの歌は聴いたことがあるな。ストレートなラヴソングよね」
「メロディも甘くて美しいね」
「隆也くんが歌ったら似合いそう」

 幼い恋をしていた十八の夏がよみがえってくる。香奈とは冬が来る前に別れてしまい、二十代でめぐり会って再び恋をし、じきにまた破局してしまったという苦い出来ごとがあった。

 香奈、あなたは結婚したんだったよね。翻訳家でもあり英米文学の研究者でもあったから、仕事の方面でも私生活も満ち足りているのかな。子どもさんもできて、幸せな家庭を築いているだろうか。俺は結婚はしたくても相手がいないから、寂しくも気楽な独身暮らしだよ。

 すこし長い休暇がもらえたから、ふっとあの日を思い出す。
 あなたとふたりきりで南の島でバカンスをすごしたね。なにひとつ身にまとわずに、俺の前に立った香奈の美しい裸身。背中ごしに南の太陽が差しているのが、後光のようだった。あなたは蠱惑的すぎて、俺は眩暈を覚える、そんな英語のフレーズも、香奈が教えてくれたっけ。

 作詞をしていると、香奈に教わった英語を使ったりもする。乾さんは英語ができるからってイヤミ、などと幸生にイヤミを言われるけど、あなたに教わった部分が多いんだよ。

 ああしてふたりでバカンスをすごして、それが破局につながったのかな。あなたは俺を重いと言い、俺を邪魔だと言い、仕事を選びたいと言い、隆也はものわかりがよすぎると、二度目の台詞をぶつけて去っていった。

 ものわかりのいい男って嫌われるんだね。だからって俺は、わからず屋にもなれやしない。仕事以上に隆也が大切だと言ってくれる女性を探して、俺はずっとさまよってるよ。今どきの女性は仕事だって大事なんだろうから、わがままな俺は伴侶を見つけられずにいるのかな。

 そりゃあね、俺にだって仕事は大事だ。それでも、俺が誰かを愛したら、そのひとと仕事は同等に大切だよ。男だから、じゃないんだ。俺は人間としては最高に幸せな部類の、好きなことを仕事にできた者なのだから。

 そんなことを考えながら、次々に流れてくるスペイン語の歌を聴く。ここは香奈と来たのとは別の常夏の島。今夜はスパニッシュナイトなのだろうか。冷房の効きがよくなくて、表の湿った熱気が入り込んでくる店に流れる曲としては最適だ。

 ひとりでいるからひとりで歌を聴き、ラム酒なんか飲んで、煙草を吸う。この島では禁煙だの嫌煙権だのとは言わないようで、店内でも天下御免で喫煙できる。俺にとってはパラダイスだけど、知らずにやってきた煙草嫌いには地獄かもしれない。

「あのぉ……」
「え? なにか?」

 遠慮がちにかけられた声は日本語だ。小柄な中年男性がテーブルのかたわらに立っていた。

「ご迷惑かもしれないんですけど、えーっと、歌手の方じゃありませんか」
「あなたは日本人でいらっしゃいますか?」
「ええ、まあ、事情がありまして、こっちに来て知人が経営するこの店で働いてるんですけど、私は日本人です。お客さんをお見かけして、見たことのある方だと思ってつい声を……」
「嬉しいですよ。フォレストシンガーズの乾です」
「ああ、やっぱり」

 どこに行ってもひとりでいると、少々は人恋しくなってくる。この島では英語は通じるのだが、日本語の会話もしたくなってくる。ホテルにパソコンがあったから、今夜は日本の誰かとチャットでもしようかと考えていたところだった。

「日本人のお客さんもちらほらいるんですよ。よかったら……」
「それは、歌えと?」
「あつかましいお願いですけど、私も日本の歌が生で聴きたくて……この次はマリンバグループなんですけど、そのあとでも、彼らが伴奏するんでも……無理ですか」
「アマポーラと、日本の曲を一曲、それでいいですか。マリンバだったら俺にもちょっとは演奏できるかな。飛び入りでマリンバをさわらせてもらえるなら」
「ええ、ぜひぜひ」

 彼の一存というよりも、経営者サイドと相談してから俺に声をかけたのかもしれない。マリンバといえば木琴なのだから、それならば多少は演奏できる。彼に連れられてマリンバグループの楽屋に出向くと、彼が俺を紹介してくれる。日本のシンガーだと知った演奏者たちも歓迎してくれた。

「飛び入り参加の日本からのゲスト、ミスタ・タカヤ・イヌイ!!」

 ステージに立つと、拍手が起きる。たしかに日本からの観光客グループがいるようで、そちらのほうから女性の声が、乾さーん!! と叫んでくれていた。

「Amapola, lindisima amapola.
 Sera siempre mi alma tuya sola.
 Yo te quiero, amada nina mia,Igual que ama la flor la luz del dia.
 Amapola, lindisima amapola,
 No seas tan ingrata y amame.
 Amapola, amapolaComo puedes tu vivir tan sola.」

 マリンバは冷や汗ものではあったが、訥々とマレットで叩くと綺麗な音が出る。
 ねえ、香奈。俺って骨の髄までミュージシャンなんだね。バカンスで来てさえいても、ステージに立つと血が騒ぐ。エンターティナー魂が燃えてくる。下手なマリンバまで披露したくなる俺には苦笑いするしかないよ。

 アマポーラ、ひなげしのように美しい、愛しいひと。
 南の島で想い出した俺の過去の恋も、追憶の中ではひなげしのように美しく、俺の若い日を彩ってくれているようだった。

END






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NoTitle

音が甘くて美しい。。。
それは深いですね。
生で聞くと結構伝わりますよね。そういうのは。
最近、生で音楽を聴いていないなあ。。。
また聞きにいこうかな。

LandMさんへ2

こちらにもありがとうございます。

LandMさんはどういった音楽をお好みですか。
よろしかったら次回にでも、ぜひ教えて下さいませ。

私は年に二度くらいは、ライヴに行っています。
今年は甲斐バンドと、クラシック系のコンサートに行きました。
電気の音も完全な生の楽器の音も、いいですよねぇ。
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