ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS楽器物語「片手にブルースハープ」

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フォレストシンガーズ

「片手にブルースハープ」

 
 体育会系サークルのように封建的ではないだろうし、男女がともにやれることなのだから、可愛い同級生と仲良しになったり、女性の先輩に可愛がってもらったり、男の先輩には食事をおごってもらったり、ゲーセンに連れていってもらったり?

 一部、あてははずれたが、半分ほどは望みもかなった。
 大学の合唱部に入部して、はじめての夏のコンサートが近づいてきている。男子部には逸材が三人もいるのだとも知った。

「俺は一年生だからソロで歌いたいなんて僭越なことは言いませんよ。いつかは歌いたいけど、先輩を差し置いて一年生がってのは、封建的な合唱部ではタブーですよね。俺は今年は混声合唱に力を尽くします。混声なんだから女の子とも触れ合えるし」
「嬉しそうだね」
「はい……いえ、それはいいんですけど、よくはないんですけど」

 男子部キャプテンは渡辺さんという。ごく平凡なルックスをしているが、頭脳明晰なのは隠してもこぼれ出る。彼は歌が特別に上手なわけではなく、その秀才ぶりでキャプテンに選ばれたのだとの評判だ。四年生の渡辺さんに俺はお願いしようとしていた。

「今年の夏のコンサートでは、本橋さんと乾さんがデュオをやるんですよね」
「ああ。彼らは一年生のときからやっていて、合唱部主催コンサート恒例っていうのか、目玉みたいになってるからね、今年も楽しみにして下さってるお客さんがいるはずだよ」
「どういった歌を……?」
「さあ、僕はそこまでは知らないな」
「そっか、だったら駄目かなぁ」
「なにが?」

「俺、ブルースハープが得意なんです」
「ほぉ、ハモニカか」
「ブルースハープって言って下さいよ。ハモニカだったら小学生みたいじゃん」

 現役小学生時代に、俺は少年合唱団に所属していた。横須賀の地方合唱団にも少年同士の軋轢みたいなものもあり、目立ちたがりだった俺は頭ひとつ抜きんでようと悪戦苦闘していたものだ。
 やはりルックスのいい男の子はもてる。俺はひょうきんで面白いという面でもててはいたのだが、もっとシリアスな面でもてたくて、仲間のもてもて少年に負けたくなくて画策した。

 その中には、楽器をこなせるようになるというものがあった。
 学校で習った楽器だったら……俺はハモニカだったら得意だったな。ギターが弾けたらかっこいいけど、お父さんもお母さんも弾けないみたいだから、先生についてレッスンしたいと頼むのはやりにくい。少年合唱団だってお金がかかってるんだろうし、うちは子どもが三人もいて裕福でもないのだから。

 子どもなりに気を使って、独学でもやれるハモニカを選んだ。当時から俺は口を使うことが大得意だったから、ハモニカは合っていた。
 少年合唱団のステージでも、三沢幸生のハモニカ独奏コーナーはあった。女の子たちの熱い視線を感じて満悦していた俺は、ハモニカの腕にさらに磨きをかけようと決意したのだ。

 高校生になると作曲をやるようになったので、ギターの練習もした。が、ギターなんて若い男なら誰でも弾ける。他人から抜きんでないと意味がないのだから、俺はガキのころから好きだったハモニカに励もう。ギターの練習はほどほどにして、ハモニカ上達に心を砕いた。

 その甲斐あって、俺のハモニカはいいセン行っている。あの口の悪い木村章に聴かせてやったら、ふーん、マジック・ディックみたいだな、と言っていた。

「誰それ?」
「知らないのか、J・ガイルズ・バンドのブルースハープ奏者だよ」
「ロックバンド?」
「そうだよ。J・ガイルズ・バンドのアルバム、今度貸してやるよ」

 J・ガイルズ・バンドなんて知らないが、プロのブルースハープ奏者みたいだと章が言ったのだから、俺のレベルはかなりのものなのだ。見つめると、渡辺さんが言った。

「ブルースっていうんだから、ブルースの伴奏にもうってつけなんだよな」
「俺はブルースってあんまり知りませんけど、伴奏を仰せつかったら練習します」
「ブルース……徳永がブルースを歌う予定だよ」
「徳永渉さんですか」

 三年生のナンバーワンは本橋真次郎と乾隆也、ふたりいるナンバーワンに次ぐのが徳永渉だ。徳永さんには叱られたことしかないが、だからこそ見直してもらいたいのもあった。

「徳永さんのソロの伴奏、できるものならさせてもらいたいです」
「うん、本人に聞いてみるよ。きみはポップスが好きなんだよな」
「はい、日本の古いポップスが好きです」
「夏色、なんてどう? 彼らもハモニカを使ってるよね」
「吹けますよ」

 どこかなつかしい香りもする曲を歌う、新人フォークデュオの持ち歌だ。この歌だったら俺にもソロで歌ってコンサートに出演して、お客さんに受ける自信はある。章とデュオってのもいいなぁ、ハモニカでもブルースハープでも名称はどっちでもいい。三沢、やれよと言ってくれないかなと期待したのは甘かった。

「いつか聴かせて。僕はきみのブルースハープを聴いたことはないけど、自信もないのに言わないよな。徳永には尋ねておくから」
「はい、お願いします」

 徳永さんは背が高くて、苦みと陰翳のある目鼻立ちをしたいい男だ。大学三年生の男がニヒルぶっても似合わないが、彼の場合は根がニヒルなようで、あのルックスなのもあって冷笑的なふるまいが似合っている。

 そんな男の横でブルースハープを演奏しても目立ちはしないだろうが、第一歩だ。いずれは俺は合唱部のエースになるのだから。

「コートでは だれでも一人 一人きり
 私の愛も 私の苦しみも
 だれも わかってくれない
 きらめく風が走る 太陽が燃える
 唇に バラの花びら
 私は飛ぼう 白いボールになって
 サーブ スマッシュ ボレー ベストをつくせ
 エース エース エース エースをねらえ」

 そうだ、この歌の替え歌を作ろう。
 キャプテンに辞去の挨拶をして部室から出て、走って大学構内からも出ていく。門の外に出てバスに乗ってアパートに帰る途中も、頭の中で「エースをねらえ」の歌詞をひねくっていた。

 アパートに帰るとブルースハープを取り出す。小学校の授業で必要だったから買ってもらってから、何代目になるだろうか。小さくて安価な楽器だから、今の俺はいくつも持っている。フォーク・ロック向きMAJORBOYってやつを出してきて口に当てた。

「お、来たの? 聴いててね。きみが人間の女の子で、ユキちゃんのブルースハープ、素敵だわ、そうしていると徳永さんなんか目じゃないほどかっこいいわ、ってうっとりしてくれてるって錯覚しながら吹くよ。いや、それって失礼かな。きみはそのまんまでいいんだよね。愛してるよ、にゃーこちゃん」

 たぶんどこかの家の猫が散歩しているのだろうから、食べものを与えたり俺んちに引っ張り込んだりしてはいけない。ペット禁止のアパートで暮らす俺にはそのほうが好都合だ。
 好都合なゆきずりの猫、「猫」に「ひと」とルビを振って、俺は一方的ににゃーこちゃんとのゆきずりの恋を楽しんでいる。

 窓の外の塀の上に、美猫がゆったりすわって、俺のブルースハープを聴いてくれている。よその部屋からうるさいと怒られるまでは、にゃーこちゃんに俺の演奏を聴いていてほしい。きみが楽器には飽きてきたら歌うから、ずっとそこにいてね。

END





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~ Comment ~

NoTitle

あああ、懐かし。ブルース。
( ;∀;)

一回喫茶店で演奏会があって、直で聞くとその胸にサウンドが響く割合がものすごかった。なんですかね。昔の高度経済成長期の音楽やそのときのブルースを聞くとものすごい熱気にあてられるのがいいですね。時代を感じる音楽は良いですね。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

ブルースがお好きですか。
私も好きです。
ブルースにもさまざまな種類があって、胸にしみてくる曲もよくありますよね。
日本人の心にはしっくりくるのかもしれません。

時代を感じる音楽。
そういうのもありますよね。
もっと古い時代の日本のポップスなんかも、明るくてノーテンキで未来を信じていて、人類の進歩と調和、だなんて言っていたりする時代をしっかり反映していますものね。

NoTitle

章くんは相変わらずプラス思考の前向きでいいですね♪マイナス思考の私は章くん見てるとなんだか癒されます(笑)
ハモニカってブルース・ハープっていうんですね、知りませんでした(^_^;)女の子にモテるためにブルース・ハープ頑張って練習してる姿がなんだか想像できて笑ってしまいます(笑)
猫ちゃんを恋人にみたてて吹いてるあたり可愛いです(笑)うちの猫もフルートの音色が好きみたいで私がフルートの練習してると寝転がって目を細めて聞いてます。猫もメロディが分かるんですね(^^)

章くんに元気もらいました!また癒されに来ます♪

たおるさんへ

いつもありがとうございます。
そちらもかなりの大雨だったんですよね。
お友達のお宅も大変だったのですね。
大阪は今のところ無事ですが、今年はなにが起きるかわからなくて怖いです。

そんな中、ほんと、幸生はひたすらポジティブです。
たおるさんが以前に描いてくださった、猫とたわむれるユキの図、よその猫とそんなことはできませんが、ブルースハープを吹く幸生の脳内には、あんな絵が生まれていたことと思われます。

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