ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・ボビー「Nothing in particular」

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グラブダブドリブ

「Nothing in particular」


 だって、暇なんだもん、と妹のローラは言い、札幌に住んでいるにも関わらず、横浜にある実家にしばしば遊びにきているようだ。去年、ローラはグラブダブドリブのスタジオにも遊びにきて言っていた。

「親の家に帰ってるともっと暇だから、バンドガールってのをやってあげようか。雑用係っての?」
 あの日はそのあとで、ボビーに友達を紹介してあげる、などとローラが言い出して、バンドガールの話は立ち消えになっていた。

「思い出したのよ。映画を見てたの」
「なんの映画?」
「グループサウンズの映画」

 日本ロックの揺籃期といっていい時代、1960年代、ビートルズが来日したという影響もあったのか、グループサウンズ、GSがぱーっと咲いてぱーっと散った。二十一世紀になっても、もとGSの男たちは一部は日本音楽シーンで生きている。グラブダブドリブの周辺にも、ちらほらとはいた。

 GSの黄金期には、超人気のグループの映画も制作された。ローラはそんな映画を見て、グラブダブドリブのスタジオでの会話を思い出したのだそうだ。
 親の家に帰ってきているローラがボビーに電話をしてきて、言った。

「その映画の中では、女の子がGSのバンドボーイをやってるの。ファンの女の子にばれちゃって、スキャンダルになるってエピソードがあるんだ。それを見てて、私もグラブダブドリブのバンドボーイ……私の場合は最初から女だって言うんだし、ボビーの妹なんだから、バンドガールだよね」
「いや、バンドボーイもバンドガールもいらないんだけどね……」

 あのとき、ローラが紹介してくれた女性とは合いそうにもなくて、ボビーとしては彼女もつきあいたくなさそうだと聞いてほっとした。その話を蒸し返されるよりはいいのだが、また厄介な提案をしてくれるものだ。

 昔はバンドがバンドボーイ、ローディを雇っていたのかもしれないが、現代ではライヴの裏方を請け負う専門の会社に依頼して、スタッフに来てもらうのだから不要だ。ライヴではない場合だって、スタジオにもスタッフはいる。グラブダブドリブにはマネージャーも、事務所のスタッフもいる。

「来春にはまた転勤だなんて話になってて、今度は沖縄かもって言うのよ。うちの旦那、そんな僻地にばかり行かされるって、窓際族予備軍?」
「いやいや、有望だから中央から離れたところで勉強させるんだろ」

 サラリーマンのことなどボビーは知らないが、ローラの愚痴を聞いてやり、だから、今のうちにアルバイトをしたい、と言うのにもうなずいてやった。ボビーは札幌でも沖縄でも、実家から遠いのは大差ないと思うのだが、ローラには札幌のほうが交通の便がよく感じるのだそうだ。

「バイトだったら札幌ですればいいだろ」
「グラブダブドリブは札幌ライヴってやらないの? 札幌のときだけでもって駄目?」
「今年はその予定はないな」
「つまんないの」
「ってか……おまえさ……」

 こうもしばしば実家にばかり帰って、夫をほったらかしにするというのは、夫婦間に問題でもあるのではないか? ボビーの頭はそちらに回った。

 ローラの夫、相崎迅は日本人ではあるが、黒人の血が八分の一ばかり入っていて、オーツ一家に加わってもまったく違和感のない顔立ちをしている。ローラはいつだって一目で、ボビーの妹さん? と言われるが、ジンも、ボビーの弟さん? と言われそうなタイプだ。

 二十一歳と二十五歳で結婚したローラとジンには子どもはいない。専門学校を卒業して就職してから五年ほどになるジンは、すでに二回も転勤しているのだから、ローラは専業主婦だ。ローラは働くにも出産するにも、またもや転勤しなくてはならないとなると心細いのだろう。

 ロッカーのボビーにも、家族でレストランを経営しているオーツ一家にも無縁の悩みで、ローラの気持ちはわかるような、わからないような。しかし、そのことによって夫婦仲が悪くなるのもない話ではなさそうで、ボビーも困ってしまった。

 はっきり訊いていいものだろうか。ローラが言わないのならば、訊かないほうがいいのだろうか。近頃は恋愛もしていないボビーには、こんな悩みも無縁だった。

「クリエィティブな仕事っていいよね。私なんかは俗な生活だから……」
「と、言われてもね」
「私にはなんの才能もないもん。レストランで働いて楽しいとも思えないし、ボビーみたいな仕事もできない。結婚に逃げたってところはあるのかな」
「う、うーん……」

 今さらそんなことを言われたって、としか返答のしようもなくて、そうも言えなくて、ボビーは別件を提案した。

「横浜にだったら仕事で行くんだよ。近いうちに行くときに連絡するから、ジンも連れてこい。ゴージャスなメシをおごってやるからさ」
「うん、だったら行く」

 特に嬉しそうでもなかった。収入のいい兄が貧しい妹夫婦にごちそうするのは当然だと、ローラは思っているのだろう。ジンもそう思っているのかもしれなくて、横浜にあるボビーとローラの両親と兄と姉が経営しているアメリカ料理レストランで待ち合わせたときにも、こんばんはー、とのんびり言っていた。

「で、ボビー兄さん、ゴージャスなメシってここで?」
「ここでごちそうしてもおごりにもならないだろ。よそを予約してあるんだよ。行こう」
「なんの料理? フレンチ?」
「俺はフレンチなんていやだな。量が多くて食いごたえのあるものがいいよ」
「量が多いと太るから、私はおしゃれな料理がいいなぁ」
「悠介が言ってたぞ、メシとおしゃれは無関係だって」
「そんなことないよ、ね、ジン?」
「俺もおしゃれでなくてもいいよ」

 勝手なことを言い合っているジンとローラを連れ、両親が勧めてくれた日本の田舎料理を出すレストランにと移動した。日本の郷土料理というのではなく、田舎っぽくてボリュームのある素朴な料理を出している。ローラから見ればおしゃれにも映るようで、若い客も多い。ジンには食べごたえのある料理のようで、ふたりともに満足しているようだった。

「あれぇ、ジン? 久しぶりだね」
「あ、コウコ、ほんとだ。久しぶり。ボビー兄さん、ローラ、紹介するよ」

 店では個室を取ってもらっていたのだが、出るときに若いカップルと鉢合わせした。そのカップルの女のほうがジンの知り合いだそうで、虹子と書いてコウコと読むと紹介された彼女は、ジンの腕に腕をからめて言った。

「和食もいいけど、デザートは洋菓子が食べたいなって思ってたの。ジンたちも行こうよ」
「一緒に行く? ボビー兄さん、ローラ、いい?」
「私がそっちの仲間に入るから、行こう」

 いやだと言いかけたのかもしれないローラはコウコに無視されて、コウコの連れの男も挨拶もしないで遠ざかっていってしまう。ローラはむっとした顔をしてボビーと腕を組み、コウコはジンと前を歩きながら言っていた。

「こうしていると二組のカップルだよね。ジン、ほんとに久しぶり。元気だった?」
「元気だけど、おまえの彼氏は? どうして帰っちゃったの?」
「いいの。ほっときゃいいの」
「喧嘩でもしてたのか?」
「いいんだよ。あんなの別れたっていいんだから。ジンに会えて嬉しいなぁ」

 むろん、ジンはローラを俺の妻だとコウコに紹介していた。コウコはふーん、と言って頭を下げただけで、ローラの不機嫌は組んだ腕からボビーに伝わってきていた。
 ここにしよう、とコウコが勝手に選んだデザートレストランに入っていく。否応もなくジンもボビーもローラも入っていく。グラブダブドリブのボビー・オーツはバンド内ではもっとも知名度も低いので、誰も気づいてもいないようだった。

「嬉しいな、ジンと会えるなんて思ってもいなかったよ。ジンも嬉しい?」
「嬉しいったら嬉しいよ」
「照れてるの? もっと嬉しそうにしなよ」

 四人でテーブルを囲む。ジンとコウコ、ローラとボビーが隣同士になって、コウコはジンの肩に頬を寄せたりもする。ローラの怒りが熱いウェーブになって、ボビーに押し寄せてくるようだった。

「ここで会ったが百年目とかいうんだよね。あたし、前からジンが好きだったの」
「ってか、おまえ、彼氏いるんだろ」
「あんなのどうだっていいんだってば」
「……あのさ、俺にもローラがいるんだけど」
「だからどうしたの?」
 
 これはまずい、ローラがわなわなしている。ジンもぴしゃりと断ることもできないようで、ボビーはどうすればいいのかと迷っていた。運ばれてきたケーキやコーヒーやしゃれたデザート。ローラがクレームブリュレをコウコかジンにぶっかけないように、とりあえずボビーはそれだけを注意していることにした。

「……あのね、言っておくけどね」
「ローラってグラマーだね。妊娠してるの?」
「してないよ。そんな話はしてないでしょ」
「してないの? おなかがちょっと出てるから、五ヶ月くらいなのかと思ってた。そしたら簡単だね。子どもはいなかいんでしょ」
「いないよ。なにが簡単なのか知らないけど、うちの旦那を変な目で見ないで」
「きゃん、怖い」

 首をすくめたコウコが、ジンに寄り添うようにする。ボビーの危惧が実行されそうな手の動きを見て、ボビーはローラの手首を押さえた。

「ローラ、ちょっと」
「なによ」
「いいからおいで。うん、コウコさん、ちょっと待ってて。ジンも来い」
「……はあ」

 もしも俺がジンの立場だったら……そうしたとしたらボビーが被害をこうむるのだが、そうする以外の道はない。ひとまずはそうするのがベストだ。ボビーはローラの手に注意しながらも考えていた通りにした。

「コウコさんのペースに巻き込まれてここまで来ちまったけど、おまえたち、先に帰れ。あとは俺がなんとかしておくから」
「えー、そうなの?」
「そうなのってなによ? ジンは帰りたくないの?」
「いや、やばい感じだから帰りたいんだけど……」
「だったら帰ろう。ボビー、あとはお願い」

 憤然として言ったローラが、ジンの手を引っ張って歩いていった。ボビーだってコウコのいる席には戻りたくないのだが、ほっぽっておくわけにもいかない。
 これだから恋愛ってものも夫婦ってものも面倒なんだ。だから俺は恋も結婚もしたくないんだ。だけど、ま、俺はこういうトラブルをのらくらと回避するのは得意なほうなのだから、どうってこともない、どうにかなるさ。ボビーは自分に言い聞かせ、つまらなそうな顔をしているコウコと目が合ったのでにっこりしてみせた。


END






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