ショートストーリィ(しりとり小説)

91「ウィスキーロック」

 ←FS楽器物語「金管ブラザーズ」 →バトン・最愛オリキャラ・もうひとりの本命
しりとり小説91「ウィスキーロック」


 父親はもとロックミュージシャン、母親は若かった父親がベースを弾いていたバンドのおっかけ少女。そんな両親から生まれた息子がロックをやりたいと言うと、えてして親は反対したがると聞く。権司の父親も最初のうちは言ったものだった。

「ギタリストになりたい? そんなもんでは食えないぞ。俺だって実力はあるって言われたバンドで活躍してて、メジャーデビューの話も来てたんだ。だけど、だまされたりもした。夢を持つのはいいけど、ロックは趣味にしたほうがいいよ。俺にはおまえのコネにもなってやれないもんな」

 ロックは不良のはじまり、とは言わず、現実的な反対意見を述べる父親に、まぁ、趣味でもいいんだよ、と言い返してはいたのだが、その実、どんどんどんどん傾倒していってプロになりたいと願うようになり、実現もしてしまった。

 奇をてらいすぎの権司、ゴンジという本名も嫌いではないが、ステージではGOAと名乗るようになり、二十歳の年からはプロのバンドマン稼業をやっている。最初にデビューした男のみのバンドは一年足らずで解散してしまったが、次いで、女のヴォーカルをフィーチャーしたバンドを組んだ。

「GOA、あたしたちはプロになれるの?」
「前に俺がやってたバンドの関係で、デビューさせてくれるって話は来てるんだ。大丈夫なはずだよ」
「よかったぁ。これでお金には困らないね」

 もとはなにをしていたのか知らないが、ヴォーカルのビョルクは金に困窮していたらしい。彼女の大柄で肉感的なボディと日本人離れしたパワフルな歌声と、派手でコケティッシュな目鼻立ちが気に入ってスカウトしたのだが、ともにプロとなると決まると氏育ちも多少は気になる。GOAはビョルクをマンションに連れていった。

「ビョルクって変わったニックネームだよな」
「あたしのおじいちゃん、お母さんのお父さん、ビョルクスタムっていうの。ヤルッコ・ビョルクスタム」
「なに人?」
「フィンランド。お父さんのほうは日本人だよ」

 つまり、ビョルクはフィンランドクォーターってわけだ。GOAよりは背は低いが、全体に大きくて日本人離れしているのも当然なのかもしれなかった。

「本名は古風な日本女性なんだけど、あたしには似合わないからね」
「ハナコとかだったら、むしろ新鮮だけどな」
「そぉ? ねぇ、GOA、寝よう」
「あっ、ああ、おう」

 そっちから誘ってくれるのならいやとは言わない。バンドに女がいるのが初体験なのでこうなった経験はないが、悪くはないだろう。こじれたりすると厄介かもしれないが、バンドのリーダーと唯一の女が恋人同士なのはよくある話だ。悪くはないからそうなっているケースが多いのかとも思われた。

「GOAっていくつ?」
「二十三だよ」
「嘘ぉーっ?! でかいからあたしよりも年上かと思った」
「おまえ、俺より年上?」
「うん」

 二つ、三つ年上だからといってどうってこともない。その夜はGOAの自宅のベッドで互いのプライベートな話をしてから、満ち足りて眠った。

 メジャーデビューは決定していたが、煩雑な手続きなどがあってすぐにとは行かない。インディズとしての仕事はあるし、GOAには友人に頼まれてギターを弾く仕事もあったので金銭的に困ることもなく、ビョルクとも順調に恋人づきあいをしていた。

 いつかバンドが解散するときがきたら、ビョルクとのつきあいもそれまでかとは思う。彼女はGOAを住まいに入れようとはせず、本名も明かさない。過去の話にしてもどこまでが本当なのか。年齢は二十五、六だろうと思えるが、彼女についての細かい部分はなんにも知らない。

 それでもいいのだ、ロッカー同士がこうしてつきあっているのに、過去も未来も関係ない。現在が心地よければいい。。ビョルクには雑駁でがさつなところはおおいにあるが、身体の相性も性格の相性も悪くなかった。

「レコーディングの日取りが決まったぜ」
 ライヴハウスの楽屋に入っていくと、メンバーたちが歓声を上げた。歓声は男の声ばかりだ。ビョルクは着替えるために別室にいるのかと思っていると、ドラムのタカシが言った。

「ビョルク、来てないんだよ」
「GOAは昨夜はビョルクと一緒だったんじゃないの?」
「いや、昨夜は一緒にはいないよ」

 メンバーも周囲も公認の仲だとはいえ、同棲はしていない。今日はどこですごす、といったことを逐一報告もしないのだから、昨夜のビョルクがどうしていたのかは知らない。
 昨日はバンドの仕事はなく、GOAは自宅でメジャーデビューシングルになる予定曲の最終チェックをしていた。ビョルクとは電話もしなかったが、今日はこのライヴハウスで仕事があると彼女も知っているはずだ。

「この時間だったらもう来ててもいいよな。ビョルクは時間にはそうルーズでもない」
「地下鉄かな。メールしたら?」

 ケータイでメールをして待つことにした。どの道、ビョルクが来ないとライヴハウスでの演奏はできない。今日はメジャーデビュー決定祝賀ライヴということで、ビョルクも楽しみにしていたのに。
 ファンたちも祝ってくれるつもりらしく、今夜は大盛況だとオーナーもほくほく顔をしていた。ちょっとだけ遅刻かな、と軽く考えていたのだが、身支度を整え終えても、演奏開始時刻が迫ってきてもビョルクはいっこうに来ない。メールも電話もない。GOAのほうから電話をしても出ないのだった。

 電話番号はケータイのものしか知らない。何度もメールをしてみても電話しても返事がない。メンバーたちも不安顔になってきていて、GOAは言った。

「ビョルクは交通渋滞に巻き込まれて、遅れてるってことにでもするしかないか」
「どっかで渋滞、起きてないかな」
「首都高は毎度の渋滞だよ」
「それにするか」

 パソコンで調べてくれたオーナーが、うん、今日も大渋滞、と渋い表情で言う、それを口実にするしかなくて、ステージに出ていったGOAは言った。

「みんな、ごめん。ビョルクはちょいと遠出してて、帰り道で車の大渋滞に巻き込まれて遅刻なんだ。来たら埋め合わせはさせるから、それまで待ってて」

 ブーイングと、ビョルク、かわいそ、GOA、がんばって、などのファンの声の中で、インストゥルメンタル曲や別の誰かがヴォーカルのできる曲を演奏した。GOAも珍しく歌ってファンには受けたが、ビョルクはあらわれない。苛立ちを隠してステージを終え、楽屋に引っ込んでも連絡ひとつない。ファンたちが心配したり、怒ったりの声が聞こえていた。

「終わっちまったんだからどうしようもないだろ。俺はビョルクを待ってるから、おまえたちは帰れ」
「逃げたのかな」
「なんで逃げるんだよ?」
「なんでだかわからないけど……GOA、ビョルクに悪いことしなかった?」
「してねぇよ」

 ごく当たり前に接していたのだから、逃げるとしたらGOAからではなく、メジャーデビューが怖くなって? そんなタマだとも思えなくて、GOAとしては首をかしげっぱなしだった。
 オーナーが許可してくれたので、その日は徹夜で楽屋でビョルクを待った。ビョルクにしても仲間たちの連絡先は各自のケータイしか知らないはずだ。誰かに電話があれば知らせてくれるだろうから、GOAは楽屋でウィスキーをすこしずつ飲んで気長に待っていた。

 酔って寝てしまってはいけないので、すこししか飲まないでいるとかえって眼が冴えてくる。どうしたんだ、ビョルク? なにかあったのか? 俺に不満があったのか? 事故か? 本名も知らないでは事故に遭ったとしても連絡もつかない。今さらながら後悔していた。

「連絡はなかったか。うちで仕事をするのはビョルクは知ってたんだから、うちになにか言ってくるかと思って俺も起きてたよ。なんにもなかったな」
「そっか。いや、ありがとう」

 後悔の一夜が明けて自宅に帰るしかなくなった。オーナーに礼を言って朝の光の中に出ていく。自宅にも当然、なんの連絡も届いていない。それからもビョルクはなにも言ってこず、ぷっつりと消息が途絶えた。
 ビョルクのヴォーカルがバンドの特色のひとつだったのだから、デビューの話も立ち消えになって解散となった。人間がひとり消えるって、こんなにあっけないものか? GOAの気持ちはまさしく、狐につままれたようだった。

「俺の友達に週刊誌の記者がいてさ、そいつから聞いたんだ」
 久しぶりに会ったタカシが言った。

「これ、ビョルクじゃないのか? 友達の週刊誌の埋め草みたいな記事に使うってネタを見てたら、こんなのがあったんだよ」
「ビョルク?」

「間もなくデビューすると決まっていたロックバンドの女性ヴォーカリスト、ふぃ子(仮名・当時28歳)がデビュー前夜に失踪した。成人のこともあり、家族についてもバンドのメンバーたちは把握していなかったので、失踪届すらも出さないままで、彼女は忘れられてしまった。

 実は、ふぃ子は逮捕されていたのである。
 バンドのヴォーカリストとして選ばれるまで、ふぃ子は極貧生活を送っていた。浪費癖のある彼女は水商売の稼ぎでは生活できず、窃盗に手を染めた。売春まがいの行為をし、同衾した男の財布から札をちょろまかす。少額だったので気づかない男もいたらしい。

 ことが明るみに出たのは、ふぃ子が勤務していた店の常連客たちの会話によってだった。あいつと寝ると翌朝には札が一枚、二枚減っていた。あいつ、怪しいんじゃないのか? と言い出した男がいて、俺も俺もと賛同した男たちの会話をママが聞きつけ、通報したのだ。

 警察に任意同行を求められて尋問を受けたふぃ子は、私がやりました、とうなだれた。
 彼女の悪事が露見しなかったとしたら、今ごろふぃ子は女性ロックスターになっていたかもしれない。天網恢恢疎にして漏らさず、である」

 まことしやかな記事のどこまでが本当なのかは不明だが、近い出来事はあったのだろう。呆然としながらもGOAは思い出す。ビョルクの連絡を待ちながら、ちびちびとウィスキーを飲んでいた一夜を。

「ふぃ子って、フィンランドの「ふぃ」か」
「そうなんじゃないの? GOAはビョルクの本名、知ってた?」
「花子だとか言ってたな。タカシ……これもロックだよ」
「そうなのかな」

 恋の終わりはどれだって同じようなものだとGOAは思っていたが、これは珍しいのではないか。そう意味ではこれもロック、そう考えて自分を笑うしかなかった。

次は「く」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
わりあい最近になってフォレストシンガーズストーリィに登場したVIVI、彼のいるビジュアル系ロックバンド「ブラッディプリンセス」のリーダー、GOAの十年ほど前の姿でした。しりとり58「メタボ」にもちらっと出てきます。







スポンサーサイト



【FS楽器物語「金管ブラザーズ」】へ  【バトン・最愛オリキャラ・もうひとりの本命】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

罪は罪で償うしかないですが。
罪と罰の世界はキリスト教系ですから理解しずらいところもありますが。
何にしても背負わないといけないものはあります。
それが犯罪というものですね。
それが警察なのか、自我なのかはわかりませんが。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
人が人を裁くというのも、なかなかむずかしいものですよね。

私はミステリ小説が好きで、一ヶ月に何冊も読んでいます。
こういうのが書きたいな、と思うほど面白いのも時々ありますが、私にはミステリは無理ですので、読んで楽しませてもらうだけです。
管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【FS楽器物語「金管ブラザーズ」】へ
  • 【バトン・最愛オリキャラ・もうひとりの本命】へ