ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「よ」

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フォレストシンガーズ

「横須賀たそがれ」


 「か」は金沢のか、「よ」は横須賀のよ。いろは文字では「か」の次は「よ」だ。金沢生まれの乾さんと横須賀生まれの俺が並んでいるようで、ユキちゃん、運命を感じちゃうわ。

 ハピネスというロックバンド。ロックバンドと自称してはいるが、ロックには偏頗なまでにうるさい章が言うことには、ポップバンドだそうな。ポップとロックの差ってなんだよ? デュランデュランはポップグループで、レッドツェッペリンはロックバンドで、クィーンが中間あたりだと章は言う。俺にはそんなことはどうでもいいんだけどね。

 そのハピネスに依頼されて、乾さんは演歌を製作中である。題して「金沢のひと」。えらいベタである。楚々として美しい和服の女、レトロな昭和金沢の女を演歌にするのだそうで、完成が楽しみだ。

 で、俺は別段誰からも依頼されてはいないのだが、我々は歌のグループなのだから、フォレストシンガーズが歌えばいい。なんだこれは? 俺たちには合わないな、などと言われたとしたら、近い将来には出す予定の三沢幸生ソロアルバムのために取っておけばいい。

 ちょいと思い立ってちょいと行って帰ってくるには金沢は遠いが、横須賀ならばたやすく往復できる。ガキのころから親に連れられて東京に遊びにきていたのだから、横須賀と東京の距離感は身についている。休みの日の午後に電車に乗った。

 ガキのころから高校生まではこの電車には頻繁に乗った。大学生になって東京で暮らすようになり、親の家に行くのを億劫がるようになったのだが、たまには帰省した。急に行きたくなって湘南や横須賀の海を見にいったこともある。女の子とデートだってした。

「横須賀から汐入り 追浜 金沢八景
 金沢文庫
 汐風の中 走ってゆくの
 赤い電車は白い線
 駅の名前をソラで言えるの
 横須賀マンボ・Tシャツね

 I came from 横須賀
 あなたに会いに来た
 I came from 横須賀
 あなたに会いに来た」

 山口百恵さんといえば「横須賀ストーリィ」が超有名だが、こんな歌もある。俺は今、この駅名を逆にたどって横須賀へと向かっている。「I came from 東京」である。

「文庫すぎて上大岡 井戸ヶ谷
 日の出町 横浜まで
 窓を開ければ 緑が飛ぶの
 快速特急 音をたてる
 扉の近くに陣取りながら
 呪文のようにつぶやくの」

 この歌詞の女の子、なんだか怖いなぁ。百恵ちゃんのイメージもあって、怨念を感じる。呪文のように呟きながら会いにくる女の子って、彼氏も怖いんじゃないだろうか。

「横浜から鶴見 川崎 品川
 ここまでの道
 小さな屋根が 集まっている
 歴史のあとも あるけれど
 あいにく私は 詳しくないの
 心に走る線路なの」

 モモエといえば同じ事務所に栗原桃恵がいる。こっちのモモちゃんは明るくてノーテンキで、あの栗原準が夫なのだから苦労もしているのだろうが、そういうことを感じさせない女の子だ。桃恵と淳のフルーツパフェ、俺が名づけたモモクリが横須賀の歌をレパートリーに入れるとしたら?

 電車が横須賀につくまでの間、あまり目立たないような場所に立って、ウォーミングアップのようにモモクリの歌を考える。横須賀をテーマにしたJPOPはたくさんあるから、「そんなヒロシにだまされて」「タイガー&ドラゴン」「ブルーライトヨコスカ」「港のヨーコ・ヨコハマ・ヨコスカ」「横須賀ベイビー」などなどが浮かんできた。

 あのモモちゃんの可憐な声で歌う、可愛い横須賀ソング、そんなのも作ろうかな。
 夢想している間に電車が横須賀に到着した。

「まあね、俺は電車に乗れないほどの有名人じゃないけど、ひとりで乗ってると特に注目もされない程度だけど、ほんの時々は、フォレストシンガーズの三沢さん? って声をかけていただけることもあるんだよ。そのくらいにはフォレストシンガーズも成功したんだ。このあたりを鬱々と歩いていたことも……そんなのって俺にはあんまりなかったけど、まったくのゼロでもないしさ……うん、故郷に錦を飾りにきましたよ」

 女の子をナンパしてホテルに入ろうとしていたら、あろうことか親父に目撃されていて、家に帰ったら静かに言われた。出ていけ。真っ向から受け止めて家出して、友達の家にころがりこんだ高校生の春。

 母とハマスタへ野球を見にいき、つまんないから先に帰るわ、とさらっと言われて、いいよと答えた小学生のとき。生まれてはじめてひとりで電車に乗って、横浜から横須賀まで帰った。

 初ナンパに成功した女の子と浜辺で約束を交わし、叔父の家からここまで帰ってきた中学生の夏。約束なんかは綺麗さっぱり忘れ果てていたくせに、時としてふっと思い出して、その浜辺に行ってみたりした。あの女の子は俺と同い年だったから、お母さんになっているのかなぁ。

 両親と妹たちと、五人で遊びにきたことも何度もある横須賀の駅。今日はひとりで歩いている。
 友達とも好きな女の子とも、数えきれないほどに歩いた道を、今日はひとりで歩いている。ちょっとだけ寂しくて、そのくせ、我が家の庭を歩いているような気分でもあった。

 ものごころついたころから大人になるまで、幾度も幾度もやってきた、横須賀って俺の原点だもんな。どんな歌を書こうか。ボサノバなんていいな。

「横須賀たそがれ ホテルの小部屋
 口づけ 残り香 煙草のけむり
 ブルース 口笛 女の涙……」

 ぐるぐる歩いて黄昏どきになってきたせいか、浮かんできたこの歌は? ちがうだろ、これは横須賀じゃなくてヨコハマ。

 横浜にもよく遊びにいった。蘭子とデートしていたらヒデさんに似た男を見かけて、追っかけて走ったこともあったっけ。蘭子を置き去りにしたのに人違いだったからがっかりして、蘭子を怒らせて険悪になって……ヒデさんにはあの話、していないな。

 故郷を歩いていると、どうしたって想い出が浮かぶ。想い出にからみつくのはひと、ひとと歌が俺の中で浮かんでは消え、ユキちゃん、幸生、三沢くん、三沢さん、ユキ、と俺を呼んでいた。

 さて、横浜ではなくて横須賀の黄昏の歌を作ろう。想い出をいっぱいちりばめたしゃれたボサノバが完成したあかつきには、シゲ&ユキのデュエットってどう? 三沢幸生作曲の歌も、シゲさんと俺のデュエットもたいへんに少ないから、希少価値のお宝曲になりそうな、そんな予感がしていた。


END






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~ Comment ~

NoTitle

ユキちゃんの青春って、本当に歌と恋で語れてしまう感じですよね。
ちょっとバイな発言も多いけど、やっぱり本当は女の人、大好きなのですね、ユキちゃん。
メンバーの中で、一番ふわふわと、地に足がついていない感じ。
そりゃあ、ご両親も心配でしょう。

この物語には、昭和の歌がたくさん出てきますよね。
私はあまり歌謡曲を聴いてこなかったのですが、百恵ちゃん辺りの歌の歌詞って、ちょっと女の情念を感じて、怖かったり・・・。
大人って、難しい生き物なんだって、子供心に感じたものです。

ユキちゃんが歌を作ったら、どんな感じになるんでしょうね。
ちょっと楽しみです。

NoTitle

場所は大切ですよね。
私は中国地方にいるので馴染みがないですが。。。
しかし、住んでいる人とっては
距離感や遠さを感じることがありますね。
そこに赴きがあるのでしょうし。

limeさんへ

いつもありがとうございます。

言われてみましたら、私、昔からこういうバイセクシャル的発言をする男の子を時々書いていました。
ユキの場合は、乾先輩にだけ、ってやつです。
ゲイでもバイでもないんだけど、特定の男性にだけ恋心を抱く男の子、一種のファンタジーかもしれませんね。

ユキは高校生のときに書いた曲を妹たちにボロクソにけなされたのがトラウマで、作曲はあまりしないんですけどね。
ふわふわ足が地についていない、おっしゃる通りです。
こんな息子がいたら、こんな兄ちゃんがいたら、嘆きたくなるでしょうね。

昭和の歌謡曲はたしかに、女の情念にあふれてますね。
私はガキのころに「ラヴイズオーヴァー」(欧陽菲菲)の「私はあんたを忘れはしない、誰に抱かれても忘れはしない、きっと最後の恋だと思うから」というのを聴いて。

……最後の恋が終わっても、別の誰かに抱かれるの(・・?
なんて、驚いたことがありました。
大人って怖いですね、複雑ですよねぇ。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

人間、育った場所は人生に深く関わってきますよね。
私は横須賀には二度しか行ったことはないのですが、わりあい最近に行ったときにはすでにフォレストシンガーズを書いていましたから、ここは三沢幸生の故郷だと意識しまくって歩いていました。

私の世代だと横須賀といえば、百恵ちゃんの、これっきりこれっきりもうーこれっきりーですかー、です。
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