連載小説1

「I'm just a rock'n roller」22(第二話完結)

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「I'm just a rock'n roller」

22

 元気を出してね、の意味にすぎなかったキスでも、女の子はいやなものだろうか。さかさまに考えて、大好きな彼女がよその男に、元気出せよ、とキスされていたら……その女の子が恵似子だったとしたら、伸也は彼に彼女を譲ってもいいのだが。

 もはや言い訳はすまい。俺の気持ちはそんなものだ。それで恵似子が俺から離れていくのならば、むしろ嬉しいなんて……そんな自分の気持ちが伸也は哀しかった。

「ごめん」
「さよなら」

 あれっきり会うこともなく、ひとことずつのメールでおしまいになった。伸也のアパートからは近いケーキ屋でしていたアルバイトもやめてしまった恵似子には、二度と会わない。香苗とも絶対に二度と会わないと伸也は決めた。

 そう、耕平の言う通りだ。俺たちは女にうつつをぬかしている場合ではない。特に俺は友永とはちがって、器用に女の子とつきあうこともできない。軽いつきあいだったらいいけれど、恋人は重すぎる。これでよかったのだろう。

「武井くんって案外……見損なったかも」
「なんのこと? 扶美ちゃん? 俺を軽蔑の目で見た?」

「解決するものならば、時が解決してくれるのかもしれないな」
「芳郎さん……なんのことなんですか」

「よかったんじゃないのかな、俺はそれでいいと思うよ」
「友永、なにが言いたいんだよ」
「よかったのかなぁ、なんだかなぁ」
「松下、おまえまで……はっきり言えよ」

「俺にはよくわかんないけどさ、どうするのがいいのか、おまえはどうしたいのか、おまえにもわかってないんだろ」
「赤石も、なんでそう誰も彼も、中途半端なんだよ。恵似子ちゃんのことなのか。なにか知ってるのか」

 何人もの人間にそのような言葉を投げられ、伸也の頭の中がぐっだぐっだになっていたときに、香苗からメールが届いた。

「恵似子ちゃんと久しぶりで話したの。前に私のマンションに遊びにいこうと思ったんだけど留守だったって、電話で言ってた。もしかしたらもしかして、あのときに来てたのかな。もしかしたらもしかして、見られてた? そうだとしても私は悪いことなんかしてないよ。誤解だよって恵似子ちゃんに言っておくから」

 そのメールには返信していないが、香苗の推理は当たっていたのだろう。伸也もそれからは恵似子と連絡を取らなくなり、最後のつもりで「ごめん」と送ったら「さよなら」の返事があったのだった。

 当分は彼女なんかいらない。ジョーカーにはしなければならない重大事ができた。スタジオで練習していたときにやってきたマネージャーが、四人に向かって報告してくれたのだ。

「ドキュメンタリー番組なんだよ」
「音楽の?」
「そうだよ。深夜の放映だから視聴率はそんなに見込めないだろうけど、シリアスな作り方でジョーカーをドラマにするんだ。ドラマっていうんでもないかな。ノンフィクションだね」

 ロックバンドを結成してプロになったものの、伸び悩んでいる若者たちの青春と苦悩を描くという。ださくねぇ? と冬紀は顔をしかめていたが、そういうものの需要はあるのだそうだ。ならば、と伸也は言った。

「芳郎さんも出るんでしょ? 俺らを認めてくれたのは芳郎さんだもん。芳郎さんの名前が出たら、顔も出たら、視聴率は上がるんじゃないんですか」
「いや、悠木芳郎に認められてっていうのはさ……使わないみたいだよ」
「どうして?」
「どうしてなのかは、僕もまだ詳しくは聞いてないんだけど、テレビ局のポリシーなんじゃないかな。テレビ局っていうよりも、番組制作は下請けプロダクションみたいなところらしいけどな」

 虚偽まじりの番組? それをドキュメンタリーというのか? ではあるが、悠木芳郎の名に頼ってばかりいては進歩がないとの考えもある。社長は受けたのだそうだから、ジョーカー本人たちが難色を示すというのも変な話だ。そんな権限もないかもしれない。

 ひっかかる部分はなくもなかったが彼らも了解して、間もなく撮影がはじまる。当然、ジョーカーも全面的に関わる。

 そんな大変な仕事がはじまるのだから、女どころではない。いずれにしても来年の春には恵似子は故郷に帰るはずだったのだから、別れるのは時間の問題だったのだ。恵似子の誤解だったとはいえ、誤解されるようなことをして悪かったかな、というよりも、これでよかった感のほうが伸也には強い。

 ほんのいっときのつきあいで、別れてほっとしているだなんて、その感情には後ろめたさもあるけれど、自分の気持ちに嘘をつき通すのは無理だ。ごめんな、恵似子ちゃん、としか言いようがない。

 面と向かって詫びて泣かれでもしたら、情にほだされてしまった可能性もある。だから、これでよかったんだ。
 これでよかったんだ、よかったんだよ、と自分に言い聞かせ、伸也は夜空を見上げる。先日、「ホーリーナイト」で演奏したカバー曲が耳元によみがえってきていた。

「心を売りとばし 器用に笑って見せるおまえ
 Oh, No! Baby!

 確かに何処も同じさ 要領のいい奴の勝ちさ いつも
 Oh, No! Baby!

 これ以上無駄にできない
 I'm just a Rock'n Roller

 取り替えのきく人形になら
 I'm just a Rock'n Roller
 なりたくない I'm not a toy for you」


第二部・完

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おお。ドラマ・ジョーカーですか。どんなドラマに。

女の子と出会って別れて・・・
人生そうやって進んでいくものなんですかね。

女の子より仕事。
そんなときがあっても良いのかも。
ドラマ絡みで新しい出逢いもあるのかもしれないし(?)

みんなどんな演技するんだろう。
いや、演技でなくて本気ですかね。きっと(?)

けいさんへ

いつもありがとうございます。
たらたらと連載していまして、やっと第二話完結です。
第三話はなんとなくはプロットができているのですが、完成させていませんので、アップはだいぶ先になりそうです。

売れないミュージシャンを書くのが好きで、でも、売れないままだと気の毒になってきて、フォレストシンガーズみたいに売れさせる場合もあるのですが。
ジョーカーは……どうなりますことか。

フォレストシンガーズと同じような道を歩くのもつまらないと思ってしまいますので、彼らはちょっとちがう道を……。
女の子よりも仕事、の努力が報われる日は来るのか。

こうしてご感想をいただけると励みになりますので、第三部も書きますね。
完成したあかつきにはまた読んでやってくださいませ。
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