ショートストーリィ(しりとり小説)

89「幸せの形」

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しりとり小説89

「幸せの形」

 発刊当時はターゲットを絞っていたのかもしれないが、あまり限定すると売れなくなるのか、近頃はごちゃごちゃになってきた感のある女性雑誌、「フラワー」。 
 現在のターゲットはどうやら、三十代の女性が購読者の中心、それだけでいいらしい。この年ごろは境遇も千差万別だ。

 未婚、既婚、キャリアウーマン、ワーキングマザー、シングルマザー、フリーター、都会人、地方人、家事手伝いや老親の介護をしている女性や専業主婦や、学生もいる。この雑誌の「読者の集い」ページを読むのが万喜の趣味のひとつだった。

 その中には「私の幸せ自慢」というコーナーがある。今月号の「フラワー」を開いて、万喜は読者の投稿をひとつずつ読んでいった。

「夫は国立大学出身、背が高くて顔もまあまあです。
 会社名を言えば誰もが、ああ、あそこ、いいわねぇ、と言いそうな有名会社に勤務しています。
 小学生の息子と中学生の娘。

 息子はスポーツ少年で可愛く、娘はピアノが上手で優しい女の子です。
 両方の実家とはほどほどの距離を保ち、両方の両親が自立していてお金も持っていますので、将来の同居や介護は必要ありません。

 そして私は専業主婦。優雅ですよぉ。
 これを書いたらポストに投函して、ママ友とランチです。行ってきまーす」

「私は身長167センチ。
 夫は181センチ。
 ともに背の高い異性を好んでいましたので、とっても満足です。

 夫は日本の○○大学院卒、私はアメリカの××大学と▽▽大学の両方を卒業しています。
 ともに高学歴でないと話の合わない人間ですので、それも理想通りでした。

 夫は薬品会社の研究職、私はSE。
 ともにパリバリ働く異性を好んでいますので、そちらもとっても満足です。

 海外で暮らしていますので、義理親に干渉されることもありません。
 私の親は年に一度ほど、日本のお土産をたくさん持って遊びにきてくれます。
 夫婦合わせての年収も十分。幸せです」

「先月号の幸せ自慢の方に、子どもがいない方がいましたね。
 子どもがいないと私は幸せだと思えないな。
 もちろん、私は、ですけどね。

 夫は背が高くてイケメンでイクメン。
 東京で一番偏差値の高い大学を卒業して、現在は技術者です。
 言うまでもなく収入もいいから、私は専業主婦をさせてもらっています。

 結婚までは私も一流企業で働いていました。大学は夫と同じです。
 それでも夫は、子どものためと、きみ自身のためにあくせく働いてほしくないと申します。
 私は資格を持っていますので、働きたくなったら働けるから、今のところはこれもいいかな。

 四歳と一歳の娘の育児でバタバタの毎日ですが、経済的にも余裕はあるし、夫はたくさん協力してくれますので、毎日が楽しいですよ」

「なにが幸せって、自分が素敵な女だからってのが一番だな。
 昔はモデルをやっていた高身長の美人だから、三十をすぎてももちろん美人。
 高級な女には高級な男がプロポーズしてくれるもので、私の夫はテレビ局勤務の、背の高い美男子です。学歴も給料もいいんだよ。

 まだ三十一だから、子どもは早いよね。
 きみが美人のまんまでいてくれて、プロポーションを維持していてくれるのが僕の幸せだ、なんて言われるから、私は自由に生きてるの。
 バリキャリで自分も収入いいって自慢してる女もいるけど、そんなだと潤いがなくなるよ」

「三人目を妊娠中です。
 女性にも働きやすい職場で、総合職なので、三人目となるとしばらくは休んで育児に専念したい気分もなくはないし、主人もそうしてほしいと言うのですけど、職場に引き止められて辞められません。

 退職できないのが不満なわけじゃなくて、専業主婦は向かない行動的で有能な私だから、それでもいいんです。会社に必要とされていることが幸せ。

 家庭もうまくいってますよ。
 主人は家事にも育児にも協力的。日本の大学を卒業してからアメリカでMBAを修得し、三十代で某外資系大企業の部長という、長身でかっこいい主人ですから、収入も申し分ありません。

 私自身も高収入、小柄でぽっちゃりタイプなんで、自分の外見にはあまり自信はないけど、主人は言ってくれます。

「僕はきみの外見もタイプなんだよ」
「だけど、あなたってもてるでしょ。そこだけは心配なの」
「もてるだろうけど、誓うよ。僕は生涯きみだけだ」
 ですって」

 この調子で毎月十件ほどの自慢が並ぶ。万喜もテーブルの上に出しっぱなしになっていた娘のレポート用紙に、「私の自慢話」を綴ってみた。

「十九で結婚して、二十歳で娘を産んだ。夫とは離婚して、苦労して娘を育てた。
 水商売もして、ちょっと変な奴ともつきあったけど、美人のせいで男たちは私をちやほやしてくれた。
 ひとりで娘を育てるのは大変で、ちょっとだけ放置もしたけど、娘も私に似て美人に育った。

 そんなある日、仕事で知り合った男にプロポーズされた。
 彼は私が子持ちだとも知っていた。背は高くもなくて小太りで、ずいぶん年上のかっこよくない男だったけど、私を好きになってくれて熱心にプロポーズしてくれたし、お金だって持ってたし。

 私も彼を嫌いじゃなかったから結婚した。
 結婚して息子が生まれ、娘は児童劇団に入れて、今では子役俳優になった。
 優雅に専業主婦をやって、お金にも恵まれてるし、息子は生意気だけど、まだ小学生だから可愛いし、娘は私に似てかなりの美少女だし……」

 文章を書くのは得意ではないので、それだけを書くのに無我夢中になっていた。ごそごそ、がさがさしている物音に気づいて万喜が顔を上げると、奈々がそばにすわっていた。

「わっ、帰ってたの?」
「ママ、こういうの、好きだね」
「奈々も読んだの? けっこう面白いでしょ」

「っていうのか、みーんな一緒じゃん」
「一緒じゃないじゃない。子どもがいないと幸せじゃないとか、仕事が幸せだとか」
「基本は同じだよ。旦那がおんなじだ。同じ男なんじゃないの?」

 そんなわけないでしょ、と言いながらも、万喜は奈々が読んでいた「私の幸せ自慢」を再読してみた。今日は普通に女子高校生していた娘の奈々が学校から帰ってきて、万喜が広げていたページを読んでいたらしい。

「うん、似てはいるね」
「そうでしょ。このひとたちの旦那ってみんな、いい大学出ていい会社で働いてて、背が高いの」
「女の理想なのかしらね」
「ってーか、これ、ほんとのこと書いてる?」
「え?」

 なんとひねくれた子だ、とも思うが、そういう考え方もあるのか。万喜としては奈々の発想は目からうろこであった。

「半分くらいのひとは見栄なんじゃないの? あ、ママも書いてるんだ。見せて」
「やだよ」

 とは言うものの、娘に見られて困るようなことは書いていないので、レポート用紙を奈々に渡した。奈々はしかめっ面をしたり小声で笑ったりしながら読み終え、言った。

「このほうが面白いね。ママの旦那はいい大学も出てないし、イケメンでもないし、だけど、金持ち。それになんたって、奈々が自慢なんでしょ?」
「そうよ」
「だけど、投稿はできないよね」
「そりゃそうか」

 とにもかくにも奈々は女優なのだから、「卵」ではあっても女優なのだから、その母が雑誌に投稿はできない。投稿すれば伊藤奈々の母だと知られて、手記を書けと言われるかもしれない。
 そんなことになったら困るなぁ、と考えながらも、万喜はこんな言葉を思い出した。

 人の不幸はさまざまな形をしている。しかし、幸せはたいてい似ている。
 そうなのかもしれない。今度は「フラワー」で不幸自慢を募集すればいいのに。人は不幸を語るのも好きだから、意外に投稿が集まってくるかもしれないではないか。

次は「ち」です。


「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
本編にも十年ほど前のストーリィから出てきている、奈々の母、万喜です。






 
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