ショートストーリィ(FSいろは物語)

いろはの「を」

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フォレストシンガーズ

「をたく談義」

「売れなかったころにはいろんなイベントに出たんだよな」
「いろんなって、どんな?」
「たとえば……そうだなぁ」

 売れなかったころ、と言えるようになったのは大進歩だ。売れないままだったら、売れなかったころが永続しているのだから。

「おまえ、ウルトラマンは好きか? おまえの年だったら知らないってこともないだろ」
「シリーズは続いてるよ。再放送だってあるから知ってるよ」
「仮面ライダーだとか、五人のヒーローが活躍する戦隊ものみたいのとかもずっとやってるよな」
「やってるやってる」

 十六歳を相手に三十五歳がヒーローの話をしているのは、客観的に見れば親父と息子の会話ってところか。俺には子どもはいないから、五十になったらこんな話を息子とできるようになるのかどうか……も謎であった。

「だけど、僕んちって姉ちゃんがふたりなんだよね」
「そうだったな。可愛い子なんだろ」
「本橋さんには紹介しないからね」
「乾には会わせたんじゃなかったっけ?」
「だから、本橋さんには紹介しないんだよ」

 乾の野郎、瑛斗の姉ちゃんになにかしたのか? 鈴木瑛斗の姉といえば短大生だと聞いているから、乾がなにかしたのではなく、女の子が勝手に憧れたってところかもしれない。それでなぜ、俺には紹介しない、になるのかは知らないが、別に紹介はしてほしくないのでかまわない。

「そんな話はしてないんだったよな。ウルトラマンとおまえの姉ちゃんたちと、なんの関係があるんだ?」
「あるよあるよ」
 
 会話に割り込んできたのは、ベリーパイのマルちゃんだった。
 ラズベリー、ストロベリー、マルベリー。ブルーベリーだったかもしれないが、彼女たちは女の子三人のアイドルグループだ。乾が作詞し、俺たちの大学の先輩で現シンガーの金子将一さんが作曲した歌でデビューした。

 ベリーパイは売れていないというほどでもなく、超人気というほどでもなく、半端なのかもしれない。そのせいか、近頃はソロでも売り出そうとしている。

 ケーブルテレビの歌番組にグループのメンバーがソロで歌うというコーナーがあって、マルベリーのマルちゃんと、フォレストシンガーズの本橋真次郎がそのコーナーに出る。他にも出演者はいて、鈴木瑛斗もそのひとりだ。なんだって俺がアイドルに混じるんだ、ってのはまあ、いいとしよう。

 待ち時間に瑛斗と話していると、その部屋にマルちゃんが入ってきた。彼女は俺たちに目礼だけしてスマホに向かっていたのだが、用事がすんだようで、俺たちの会話に入ってきたのだった。

「女の子ってアニメだって女の子向きのを見るんだよね」
「そうそう。うちの姉ちゃんたちは魔法少女なんとかだの、学園もののアニメだのばっかり見てたよ」
「あとはアイドルでしょ」
「そうだよ。僕の姉ちゃんたちはアイドルおたくなんだから、アイドルの出てる番組にきゃあきゃあ言ってた」
「瑛斗くんってお姉ちゃんたちが推薦してオーディション受けて、合格したんだよね」
「マルちゃんも知ってるの?」
「有名だもん」

 枝葉を省けば、つまりはこういうことだろう。
 姉がふたりいる瑛斗は、ガキのころから女の子向けのアニメやアイドル番組ばかり見せられていた。なのだから、男の子向きのヒーロードラマやアニメは見ていないと。

 七つも年上の兄貴たちがいる俺は、ガキのころには若者向けのドラマなんかも見た。だが、兄貴たちは空手に忙しく、父はテレビには興味がなかったのでチャンネル権は母にあった。とはいえ、母の好きなドラマにつきあった記憶もない。母が俺の好きな怪獣や宇宙や特撮もの、ヒーローアニメにつきあってくれていたのだろう。

 父がテレビを見なかったので、俺はプロ野球にも興味はなかった。ガキのころにはひたすら、ウルトラマンが好き。大きくなったらウルトラマンになるんだと、小さな胸を希望でいっぱいにふくらませていた。

「そんでさ、本橋さん、売れなかったころに出たイベントってどんなの?」
「あたしも聞きたいな」

 ようやく話がもとに戻ってきた。

「うん、たとえば……」
「ウルトラマンショーだとか?」
「というか、子どもに人気の着ぐるみショーにだったら出たよ。ポッポちゃんだったかな」
「ポポンちゃんじゃないの? ポポンとリーナ」
「ああ、それだ!!」

 十年くらい前ならばマルちゃんも瑛斗も子どもだったのだから、ポポンちゃんとリーナちゃんは知っていると嬉しそうだった。

「他にも、ヒーローショーのおまけみたいな歌謡ショーにも出たよ。ポインターマンとドーベルマンマンとかな」
「ドーベルマンマン?」
「マンマンなの?」

 犬型ヒーローに変身して悪と戦うというドラマだったが、ドーベルマンマンは変だと俺も思ったものだ。ネーミングが失敗だったせいか、あのヒーローたちは人気が出なかった。
 五人の犬型ヒーローたち、女の子が三人、男がふたり。当時は五人グループだと男三人に女ふたりが一般的だったが、あのドッグヒーローたちは男が少数派だったのもあってしょぼくれていた。

「そっちも五人グループなんだね」
「男ばっか五人かぁ。そのほうがやりやすいよね」
「こんな役をやるだけあって、うちの女の子たちは強いからさ」
「アクションが大得意で、俺たちを練習台にしたがるんだよ」

 ぼやいていたドーベルマンとポインターに、俺も兄貴たちの空手の練習台にされたよ、と話したものだ。俺は兄貴たちにいくらでも仕返しができて、やっても無駄とわかっていても挑んだ。が、彼らは女の子にやり返しもできなくてストレスが溜まり、女の子たちのほうは練習を名目にしてストレス解消していたらしい。

 ボメラニアンガール、パピヨンガール、コーギーガール、あまり強そうには思えない名前の女の子たちも、男たちも、本名や芸名は記憶にない。彼らはどうしているのだろうか。素顔も見たものの、会ったとしても思い出せないかもしれなかった。

「そのときには俺たちが歌ってたら、女の子たちが乱入してくるんだよな。俺たちは知らされてなかったんだけど、フォレストシンガーズは悪のグループだって設定になってたんだ」

 反撃はしてはいけない、逃げろ、と命令されたから、俺たちは頭を抱えて逃げていった。少人数ではあったが来ていたドッグヒーローのファンたちは大喜び。思い出してみれば、あのショーは子どもよりもおたく少年のほうが大勢見にきていた。

「そんなのもあったし、夜桜ショーってのもあったよ。夜桜まつりの一環の歌のステージで俺たちが歌ったんだけど、花見客の中の子どもがさ……」

 なにを誤解したのか、ファーレンハイトじゃないのっ?! 歌なんかいらないからアクションやってよっ!! とガキが叫び、横でおばあさんも叫んでいた。

「サービスで仕方なく、俺はファーレンハイトの技をシゲにかけたんだよ」
「ファーレンハイトって、マルちゃん、知ってる?」
「うーん……なんとなく知ってる。あたしには弟がいるから、見てたような気がするんだけど、いろんなのがいたからごっちゃになっちゃってるよ」

 ファーレンハイトも五人組のヒーローだった。俺は大人になってもそのたぐいは嫌いではないので、そんな縁もあったからたまには見たが、ファーレンハイトの五人も今はどこでどうしているのやら。

「話がそれちゃってたんだけど、あたしはウルトラマン、好きだよ」
「おー、そうか。ウルトラマンっていっぱいいるんだよな。そもそも、テレビドラマが開始されたのは1966年だ。俺もまだ生まれていない。兄貴たちも生まれていない」
「うちのお父さんもお母さんも生まれてないよ」
「うちもだ」

 この若者たちの親は俺のほうに年齢が近いのだ。愕然としそうになるのを振り払った。

「初代ウルトラマンは俺はリアルタイムでは見ていない。それからシリーズ化されて、俺がテレビドラマを見るようになったのは後期ウルトラマンだよな。でも、ビデオやDVDをレンタルしたり買ったりして観たから、ほぼ全部観てるよ。やっぱ初期のウルトラマンはいいなぁ。怪獣もいいよな」
「どんな怪獣が好き?」
「バルタン星人なんかはベタだけど、あのビジュアルといい設定といい……」

 質問したのはマルちゃんなのだが、俺の口調に熱がこもってくるにつれ、冷笑的になってきたような気がする。瑛斗も、あ、僕、用事があったんだった、とか言って離れていってしまう。俺としては止まらなくなって、本橋さん、好きだよね、とマルちゃんに笑われても話を続けていた。

「……本橋さんがこんなに熱く語る方だとは、知りませんでしたよ」
「え? あ……」

 気がつくと、俺の前にいるのはスタッフの中年男に変わっていた。

「フォレストシンガーズのスポークスマンって三沢さんでしょ」
「ああ、まあ、トークになると三沢がリードしますね」
「それから乾さんかな」
「ですね」
「本橋さんはつっこみ役っていうのか、三沢さんや乾さんを制御するリーダーってところですよね」
「そうなりますかね」
「そんな一面しか知りませんでしたから、いやぁ、僕は感激です。握手していただいていいですか」
「は、はぁ」

 番組のディレクターだという彼は、四十歳前後か。俺と年齢の近い男だった。

「我々にお詳しいんですね」
「ええ、フォレストシンガーズのファンなんです。ライヴも何度も見ています」
「ありがとうございます」
「質問してもいいですか」
「ああ、はい」

 これもをたく談義の一種なのだろうか。俺としてはウルトラマンの話も大好物だが、ややレアな部類であろう中年男性ファンとフォレストシンガーズの話をするのも、それはそれでくすぐったくも楽しかった。

END







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