キャラクターしりとり小説

キャラしりとり14「青田買い」

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キャラクターしりとり小説13

「青田買い」


 社会人になったってブログぐらいはやれるだろう。小説だって書けるだろうとたかをくくっていたら、とんでもない。そんな気力は消し飛んでしまった。

 学生時代だって勉学にアルバイトに、サークル活動に女の子とのデートに、友達との遊びや飲み会、休暇の旅行などなど、決して暇ではなかったのだが、若かったからなのか、自宅に帰って疲れてぐったり、なんてことはまずなかった。

 二十歳をすぎると疲れやすくなり、疲れが抜けなくなるってほんとだな、とため息ついて、小説なんか書けなくなったのだから、ブログも放置。たまにちょっとは元気があるときに自分のブログを見にいっても、この続き書きたいな、でも無理だな、となってしまう。

 どうしようもないから自分のブログは閉じて、参加しているSNSのコミュを見にいっては、暇人が多いなぁ、とまたまたため息。僕も息抜きにちょこっと、無責任なレスをつけてみたりはする。僕の入っているコミュは芸能人関係だから、まるで無責任になにを書いてもいいのだ。

「治樹、今度の土曜日、休みでしょ?」
「ああ、休みだよ」

 ケータイ片手に目ではパソコンを見るともなく見ながら、彼女と話す。大学三年のときからつきあっている加乃子は、僕よりもひとつ年下だからまだ学生だ。僕の今カノ、愛称はカノ。

「カノは就活が忙しいだろ。内定もらえそうなあてはできたの?」
「なかなかむずかしいんだよね」
「条件が高すぎたり多すぎたりするんだろ。すこし下げてみたら?」
「だって……」

 デートしたい、と言いたくて電話をしてきたのであろうカノは、鼻声を出した。

「治樹はけっこういい会社に就職したじゃん。私の友達だって、彼氏がいい会社に入ってよかったね、って言うの。治樹の彼女の私がつまんない会社じゃ、治樹も嬉しくないでしょ?」
「つまんない会社ってのがどんな会社かにもよるけどね」
「いっそ、院に残ろうかなぁ」
「就職浪人か?」
「院で勉強するんだよ。それとも、専門学校に入り直すか」

 それもいいんじゃない? カノの家は裕福なほうなんだから、親の脛をかじらせてもらえる間はそうすればいい。僕がそう言おうとしていたら、カノが先に言った。

「それとも、私が大学を卒業したらさっさと結婚しちゃう?」
「カノは就職もしないの?」
「つまんない会社に入るぐらいだったら、専業主婦でもいいな」
「専業主婦ねぇ……」
「子どもができるまではアルバイトくらいしてもいいけど、かっこ悪くない?」

 せっかく大学に行ったのに、就職もしないで専業主婦だなんて、うちの母親だったら呆れるだろう。母は女の子は大学になんか行かなくていい、という主義の祖父のせいで、高卒で働いた。父も高専卒だから、反動で学歴を重視する。
 
「カノちゃんは治樹と同じ大学なんだし、まあまあの学歴よね。まあまあの会社には就職できるでしょ。結婚はまだ先だろうけど、専業主婦になってほしいなんて言ったら駄目よ。この世の中、なにがあるかもわからないんだから、母さんだっていまだに働いてるんだから、収入は多いほうがいいのよ。もちろん、あんたも家事を半分しなさいよ」

 と、母は言う。カノと僕は両方の親公認の仲で、いずれは結婚するつもりだった。
 しかし、母さんがこう言ってたよ、なんて言うとマザコンだと思われる。世間の女の子がなによりも忌み嫌うマザコン、僕はカノにそうは思われたくなかった。

「就活はしてるんだろ」
「してるけど、来てほしそうな会社はつまんないし、私の希望の会社には断られるし」
「むずかしいのはわかってたけど、やっぱりな」

 どこどこに勤めています、と言ったら誰もが、ああ、そこ、いい会社に入りましたね、と微笑むような会社。少なくとも僕の会社と同クラスの会社。カノの第一条件はそれだ。
 総合職はつらいから一般職がいい。いずれは僕と結婚するのだから、それはまあいいとしよう。
 その他、残業の有無だの休日だの福利厚生施設だの給与体系だの、会社の雰囲気だのに細かい注文をつけ、男女平等の会社でないと絶対にいやだと言い切る。

 会社命の人間にはなりたくないという気持ちもわかるが、楽がしたいんだったら給料が低めなのは仕方なくないか? しんどいのがいやだったら、この仕事ってやり甲斐なさそう、ってのも仕方なくないか?
 酷使されるのも厭わない男性社員や総合職女子と比較すれば、一般職女子の給料が少ないのも仕方なくないか?

 などなどと言うと、男女差別!! と怒られる。
 そうやって注文はつけるくせに、就活に疲れたから主婦になりたい? これだから女は……と言いたいのをぐっとこらえた。

「治樹、そんな話、じっくりしようよ。今度の土曜日、会おうよ」
「金曜日の夜、職場の親睦飲み会なんだ。うちの職場って酒豪がたくさんいて飲まされるから、土曜日はへばってるかも。日曜日でもいいだろ」
「日曜日は約束があるの」
「だったら来週にしよう」

 電話ではあっても、カノが不機嫌になった空気が伝わってきた。

「治樹はこのごろ、冷たいよね」
「冷たくはないんだよ。僕は新入社員なんだから、気苦労も多くて肉体的にも精神的にもいっぱいいっぱいなんだ。飲み会の翌日はゆっくり寝たいんだよ」
「だらしないな、男のくせに」

 女のくせに、と言ったら烈火のごとく怒るくせに、男のくせに、は平気で口にするのか。

「このごろは小説も書けないんだよ。余裕がないんだよね」
「小説? まだそんなことやってるの?」
「趣味としてはやってるよ」
「プロになりたいだとか、ふざけたことを言わなかったらいいけどね。治樹は近いうちに私の夫になるんだから、趣味なんてものに熱中ばかりしないでね。なにが大切か、よく見極めてよね」
「わかってるけど……」

 一方的な言われようにかちんと来ていたが、喧嘩をするエネルギーもないので下手に出ておいた。

「じゃあ、土曜日は許してあげるけど、来週はデートしようね」
「うん、楽しみにしてるよ」
「あ、次の金曜日、給料日でしょ? 私、ピエトロに行きたいな。予約しておいてくれる?」
「ああ、いいよ」

 ピエトロとは、やや高級なイタリアンレストランだ。僕の給料日の次の日なのだから、僕が全額出すのだろう。僕は社会人、彼女は大学生なのだからしようがないけど、カノは小遣いだってたくさんもらっているくせに。

 じゃあ、その日にね、と言って電話を切ると、母が部屋に入ってきた。

「カノちゃんと電話してた?」
「うん。ありがと」

 コーヒーを淹れてきてくれた母は、私も飲みたかったのよ、と言ってから、世間話みたいな調子で話した。

「治樹なんかは青田買いの対象になるのかしらね」
「就職の?」
「じゃなくて、結婚の」
「結婚に青田買いってあるの?」
「あるらしいのよ」
 
 前途有望そうな男子大学生は、在学中から女子学生に目をつけられる。めぼしい男子はしっかりと唾をつけられているから、先に就職している女性には回ってこない。男子新入社員のちょっとましなのにはたいてい、学生時代からの彼女がいる。
 彼女は彼と結婚するつもりでいるのだから、真剣に仕事をして出世したいとも思わない。かくして残っている独身男子は、推して知るべし、となっているのだそうだ。

「新聞で読んだんだけど、当たってるかな」
「僕はまし、まぁ、まし程度ではあるかな」
「ましだわよ」

 もしかしてあの通話、聞かれてた? ただの偶然?
 どっちにしたって、青田買いか。カノもそのつもりでいるのだろうか。僕はカノが嫌いではないのだから、そのつもりでいたって嫌悪感は持たないが。

「そうだ」
「どうしたの?」
「いや、いいんだけどね」

 久しぶりに創作意欲が湧いてきた。青田買いするつもりで男子学生とつきあって、いずれは専業主婦になりたいと望む女子大生と、彼女の本心を知ったのでいずれは別れて、稼ぎのいい女性と結婚して専業主夫になりたいと望む男子大学生のストーリィだ。

 カノが読んだとしても、そんな女の子はよくいるらしいし、僕は専業主夫になんかなりたくないのだから、僕たちがモデルだとも思わないだろう。カノ、ネタをサンキュ。ちょっとだけ自棄っぱち気分ではあったが、心でカノにお礼を言ってみた。

END

13に登場したコミュの書き込みのひとつを書いていた、治樹くんが主人公です。
次は治樹くんの書いた小説、専業主夫になりたい男子大学生が主役になります。





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