連載小説1

「I'm just a rock'n roller」21

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「I'm just a rock'n roller」

21

「だったらさ、俺が恵似子にずばっと言ってやろうか」
「……ずばっとって、なにを言うんだよ」

 元気のない伸也を見ていると苛立ってくる。周囲を見回してみると耕平がなにか知っていそうだったので、冬紀は彼を問い詰めて白状させた。
 ずばっとというのはこうだ。

 おまえなんかはジョーカーの誰かの彼女にはふさわしくないんだよ。香苗ちゃんだったらまだ許せるんだから、武井が目移りしてるんだったらおまえが去ればいい。結婚の約束をしたんでもないだろ。おまえ、来年には田舎に帰るんだろ。いずれは別れるんだったら同じじゃないか。

 と、今ここで口にすれば、耕平が怒るかもしれない。妻の扶美に同調しているのか、耕平は恵似子に同情的だ。

 女ってのは同性には意地悪なくせに、自分よりも落ちるような恵似子みたいな相手だと、優越感の裏返しでかわいそうがったりするんだよな。私はこんな不細工でなくてよかった、なんてさ、本当はそう思ってるくせに。露骨にそう言っていた真菜のほうが潔いぜ。

 ルックスの悪い女は嫌いな冬紀は、恵似子に同情するつもりもない。伸也が恵似子と別れて香苗とつきあうならば歓迎だ。が、恵似子にそこまで言うのは気の毒かとも思う。耕平の怒りも慮って、むにゃむにゃとごまかした。

「どうだっていいよな。俺ら、女のなんのって言ってる場合じゃないんだよ。武井もつまらないことで悩むなってんだよな」
「芳郎さんもそう言いたそうだったよ」
「芳郎さんに悩みの相談って、おまえもやるね。親しくなれてよかったな」
「他に相談する相手が思いつかなかったんだ」

 いまや芳郎の公認の恋人なので、まり乃にはジョーカーの全員が会っている。三枚目のシングルが出せるのならばジャケット写真はまり乃に頼むと、冬紀は勝手に彼女と約束もしていた。

「まり乃さんはなんて言ってた?」
「それって武井と恵似子ちゃんがふたりで解決するしかないって。下手に手を出すとよけいにこじれるんじゃないかなって。友永も変なことは言うなよ」
「言わねえよ」

 美人でもなくおのれは興味もない女の子が泣いたとしても平気だが、女の子をいじめて喜んでいた悪ガキではないのだから、敢えて恵似子を傷つける必要もない。このままあのふたりは別れてしまうのか……ん? 香苗はなにを考えてるんだ? なんで香苗は武井とキスしてたんだ? 香苗と恵似子は特別親密な仲なんじゃなかったのか。

 そこに思い当たると、もしかしたら一番悪いのは香苗なのではないかと思えてきた。けれど、そこまでして親友から奪い取りたいほどの奴か、武井が? ターゲットが俺だったらわからなくもないが。妙にプライドを刺激されている冬紀の耳に、マネージャーの声が聞こえてきた。

「友永、赤石、そこにいたのか。武井と松下は?」
「メシ食いにいってますよ」

 近頃の伸也は無駄口が減っているので、ふたりして黙々と食事をしているのかもしれない。明日の「ホーリーナイト」での仕事のためのリハーサルと称して、練習をしている貸しスタジオでの昼食どきだった。

「きみらはメシは食った?」
「ここでコンビニのおにぎりを食いました。金、ないもんね」
「俺は女房の作ってくれた弁当を食いました。友永がつきあってくれたんです」

 聞き出したいことがあったからこそだが、コンビニおにぎりでは足りない分、耕平がおかずを分けてくれたので助かった。冬紀は表情がほころんでいるマネージャーに言った。

「いいニュースですか。なんなんですか」
「武井と松下が戻ってきたら話すよ」
 
 好きになった女の子に告白して、いいよと言ってもらったときの比ではないほどのときめきで、冬紀の胸が騒ぎはじめていた。

つづく



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