ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS梅雨物語「Walking In The Rain」

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フォレストシンガーズ

「Walking In The Rain」

 くるっと丸い目にすねた色をたたえて、俺を見上げる……女、女だ、女の子だ。美少女だ。
 彼女、うん、彼女だ。彼女は俺の胸に片手をそっと添えて、すねた口ぶりになった。

「隆也さんはどうして、あたしの言うことを聞いてくれないの?」
「おまえのわがままを聞く気はないからだよ」
「どうして? どうしてそんなに冷たいの?」
「おまえには興味はないからだよ」
「……そんなっ、どうしてよっ?!」

 言ってはいけない、いけないのだが、どうしても言いたくなった。

「俺は男には興味ないんだよ。俺は男に恋をして、男と恋人同士になって、男のわがままに振り回される趣味はないんだ。俺は女が好きなんだよ」
「やーね、えっち、女好き、好色」

 愕然、とはこれである。
 が、彼女、ではなく、彼……彼は彼だがもちろん、俺の彼氏ではない奴は、えーい、ややこしい。「彼」「彼女」ってのは人称代名詞だろ。なんだって恋人の代名詞になってるんだ。

 と八つ当たりしつつ、単なる人称代名詞としての「彼」に向き直る。
 芝居のうまい彼は、女っぽい表情を作るのまでが巧みだ。こんな目で見上げられると、かつて俺の恋人としての「彼女」だった女性たちを思い出してしまう。

 女の子のわがままを上手になだめることもできず、かといって一緒になって怒るわけにもいかず、途方に暮れてふくれっ面の彼女を見つめていた十七歳。

 理が勝った性格だったから、理不尽なわがままを言ったりはしなかったけれど、彼女がなにに怒っているのかわからなくて、あれかこれかと探りを入れてはよけいに怒らせた十八歳。

「隆也くん、そろそろいいよね」
「なにが?」
「とぼけてないで、行くよ」

 とホテルに連れていかれて、こんなのアリ? ありだよな、と驚きながらも、そんな彼女にどんどん惹かれていった二十歳。
 あのひとはわがままというよりも意地悪で、俺を振り回すのを楽しんでいた。

 二十歳になるまでの俺は、女性のわがままに対処するすべも知らなかった。あれから五年、今でも女性が駄々をこねているのをどう扱うべきかは知らないが、余裕のあるときだったら楽しんでしまえるようにはなった。

「そう? わかったよ、いい子だね。うんうん、それで? そっか、きみはそうしたいのか。そうしてみようね。俺はこうすればいい? これでいい? 不満? なにが不満? きみの言葉で言ってごらん」
「……あなたのその、ものわかりのよさが不満なのよっ!!」

 ノックアウト!! だったりもした。

 ひとり、ふたり、三人、二十歳になるまでにつきあった女性は三人ともに別人だが、あなたのものわかりのよさが不満だと言って俺を捨てたのは、ふたり目の彼女だ。その彼女が俺の……何人目になるのかは咄嗟には思い出せないが、二十五歳の俺の彼女になっていた。

 けれど、その彼女にも捨てられた。二十五にもなったら余裕のある大人の男になったはず、昔よりは大きな男になれたはず、と思い込んでいたのもうぬぼれだったのか。十代のころとちっとも変化してはいない。

 にしたって、女性と交際することには慣れたはずだ。女性と恋人同士になるにしたがってついてくる諸々も、ああ、こんなもんだな、そうだよな、と納得できる。

 しかししかし、しかし、男とは恋人同士になりたくない。
 いや、幸生と恋人同士になるわけではなく、いつも彼が俺に仕掛けてくる遊びをふくらませて、ステージでやってみようかとの試みであって、いやいやながらやってみたにすぎないのだが。

「やっぱり駄目だ。俺には無理だ。ギブアップ」
「乾さん、根気がなさすぎですよ。これからってところでぶっこわすんだから。そんなことでは一人前のエンターティナーにはなれません。俺についてきなさい」

「だったら、三沢先輩、あなたが男役をやって下さい」
「どうして俺が先輩? 男役の先輩は乾さんでしょ? ってか、男なんだから男役は当たり前か。ええ? 俺が男? やだっ。俺はユキちゃんがいいのっ!!」
「ユキ、わがまま言うんじゃない」
「その調子ですよ、乾さん。もっとわがままユキを叱って。叱るんだったら得意でしょ」

 スタジオには本橋とシゲと章もいる。シゲは額に手を当ててじりじりあとずさりをしていて、本橋は言った。

「章、なんだかシュールじゃないか?」
「言えてますね、深く考えると頭がこんがらがってくるよ」
「乾の言ってること、意味わかるか?」
「時々わかって、時々わかりませんね。乾さんって幸生を昔の恋人に見立てて、現実の恋を思い出して、俺とは別の意味で頭をこんがらがらせてるんじゃ?」

 ぎくっ、章、おまえ、鋭いじゃないか、と心で呟く。
 ふーん、器用な奴だね、と本橋は呟いていて、ねぇ、やっぱりやめましょうよ、とシゲが情けない声を出した。

「ステージでこんなコントだなんて、俺はついていけませんよ」
「俺が公園でわがままを言ってる女の子の役で、乾さんはそんな俺をなだめてて、だけど、口調がきつくなったりするんで、シゲさんが割って入ってきて、女の子にそんなに荒々しくものを言うもんじゃない、って乾さんをたしなめる。そんな筋書きでしょ。シゲさんも大事な役だよ」
「勘弁してくれぇ」

 昨今はアイドルもやっている。俺たちもやってみましょうよ、と言ってBLコントのシナリオを提案したのは、当然幸生だ。もひとつおまけに当然、隆也とユキのカップルという設定だった。

「リーダーも逃げないで下さいよ。章もやれよな」
「乾さんとふたりでやれよ」
「俺がそこへ入っていったら、幸生を殴り飛ばしそうだもんな」
「リーダー、脅かさないで」

 スリルを出すために、本橋と章の役柄はシークレット、などと幸生はもったいをつけていた。それにしても、ジョークでだったらやれなくもないが、ステージでのコントとしてやるとは俺には荷が勝ちすぎる。俺は幸生の両肩に手を載せた。

「先輩、しばし休憩させて下さい」
「煙草を吸いにいくんだったら俺も……」
「ユキ、ひとりにしてくれ」
「そう言ってる乾さんって臨場感あるんだけどなぁ。その調子でやればいいのに」

 ぶつぶつ言っている幸生に頭を下げて、スタジオから出ていった。
 普段のジョーク芝居は即興だからいいのかもしれない。シナリオがあって練習もして、となると役者でもない俺にはむずかしい。まして役柄が、わがまま娘のユキに困らされる隆也。ましてそのユキは、意識してみれば三沢幸生。

「それに比べれば、本物のわがままな女の子とつきあってるほうが楽かもな。この次に彼女ができるころには、俺ももっと大人になってるかなぁ。ユキで予行演習だと考えるほうがいいのかな」

 歩いていると雨が降ってきた。梅雨時の雨はつめたくもなく、章が言った通りにこんがらがっている頭には心地よい。

「Just walking in the rain
Getting soaking wet
Torturing my heart
By trying to forget

Just walking in the rain
So alone and blue
All because my heart
Still remembers you」

 オールディズナンバーを歌いながら歩く雨の中。スタジオに戻ったら雨に洗われてみずみずしくなった心で、改めてコントに向き合ってみようか。


TAKAYA/25歳/END








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~ Comment ~

NoTitle

乾君、女性遍歴も、いろいろいろいろあったのですね。
そのどれも、あまり幸せな関係ではなかったようで。
おかしいなあ、FSの中では一番モテ系のはずなのに。
いや、いい男が女運悪いというのはおいしいです。

じゃあ、いよいよ男か! とおもったら、ユキちゃん?
…と思ったら、なんだコント^^
フォレストもいろんなファンサービスをするのですね。
でもこれいいかも。
こういう男グループにはそういう二次創作ものが、つきものですもんね。こんなサービスしちゃったら、ファンは大喜びです。

だけどお芝居なのに、乾君はダメなのですね・・・。
いや、そこがいいのですよ。いやいややらされてる方が、ファンも楽しいです。・・・って、すでにSな発言をしている私でした。

limeさんへ

いつもありがとうございます。

乾隆也は結婚願望が強いのですね。
なのになぜ結婚しないのか。もてるのに決定的な相手はできないのか。

それは作者のいやがらせ。
ではなく、いえ、それもあるんですが、数少ない女性読者のみなさまのうちでは、乾くんが好き、と言って下さる方が一番多いのです。
千鶴と乾くんを結婚させて、というリクエストもいただきましたし。
でもでも、私はやっぱり彼は結婚させたくないなぁ。
と、やっぱり作者の趣味ですね。

ジャニーズ系の男の子たちも、テレビででも妖しい感じのふるまいをしていますよね。女性ファンは男性芸能人同士がいちゃいちゃしたり、仲良しだったりするの、大好きですよね。
あの新選組でさえも、「仲良しでいいなぁ」だとか、「土方歳三と沖田総司がラヴラヴ」だとかいうの、ありますものね。

そういうタイプではないにしても、フォレストシンガーズもやります。もちろん、ユキが率先してやります。
ジョークだったらいいけど、ステージでとなると引いてしまう。そのうちには開き直るのですが、まだこの時期、乾くんはそんな状態でした。

そこがいいですか? ですよねぇ(^o^)
もっといろいろと、いやいややらさせますね(^^;
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