ショートストーリィ(しりとり小説)

85「リーヤ・マイラヴ」

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しりとり小説85

「リーヤ・マイラヴ」


 あんなことを言ってしまったのは、嘘つきということになるのだろうか。
 
「聖也くん、あたしとつきあって」
「えーっと、それって、ココリちゃんと僕がカノジョとカレになるってこと?」
「そうだよ」
「友達じゃダメ?」
「友達じゃダメなの。カレシになって」

 そんなコクハクをされてしまったものだから、聖也は言ったのだ。

「僕には婚約者がいるんだよ」
「えー? なんなの、それ? 変なのぉ」
「ほんとだよ」
 
 本当ではなくて嘘だ。だからやっぱり僕は嘘つきなのだろう。
 一年ほど前に、聖也がよく行く公園でものすごく可愛い女の子に会った。彼女は金髪の外国人のお父さんに連れられてきていて、大きくなったらこの子を僕のお嫁さんにしたい、と言って、お父さんに断られた。

 なのだから、婚約はしていない。一年の間に会ったのはほんの三回。
 お父さんには嫌われていて、聖也が寄っていこうとすると追い払われる。彼は身体が大きくてごつくて怖いので、しかめっ面であっちに行けと言われると、聖也としてはすごすご引き下がるしかない。

 はじめはお父さんとは話したが、そのあとはたったの二度、遠くから見ていただけの女の子、リーヤへの想いはつのるばかりで、これを恋患いというのだと聖也は認識していた。

「日本昔話を読んだんだ」
 婚約者がいると言ったら一旦は諦めたらしきココリが、翌日、聖也に話しかけてきた。

「その中に出てきたよ。昔々の男の子と女の子、十二歳くらいの子なんだけど、親の決めたいいなずけっていうのがいるの」
「許嫁ってなに?」
「婚約者と同じだよ。英語ではフィアンセっていうんだって。聖也くんの婚約者って親が決めたの?」
「ちがうよ」

 そうか、英語ではフィアンセっていうのか。聖也が恋した女の子、リーヤはイギリスと日本のハーフで、お父さんは外国人だった。ジェイミーと名乗った彼は日本語は上手だったが、婚約者なんて言葉は知らないのかもしれない。

「僕が好きになった女の子なんだ。だから、僕には婚約者がいるんだから、ココリちゃんとはつきあえないんだよ」
「自分で決めたんだったらヤメにできるじゃん」
「できないよ」
「お父さんやお母さんが決めたんじゃないのに、聖也くんが婚約だなんて、変だよぉ」

 食い下がってくるココリから逃げ出しながら、聖也は思った。今度リーヤに会ったら、お父さんにお願いしよう。僕とリーヤちゃんをフィアンセさせて下さい、と。

 そうと決めてもジェイミーとリーヤの父娘にはめったに会えない。リーヤはお母さんとも公園に来ているのかもしれないが、金髪の大男ならば目立っていても、普通の日本人のお母さんがひっそり歩いていたら、聖也には見つけられないかもしれない。

 通常、お母さんは午前中に公園に子どもを連れてくるようだから、学校に通っている聖也が遭遇する確率は低いのかもしれない。ウィークエンドにお父さんに連れられてくるリーヤに会うのがチャンスだ。この三回だって、休日にふたりを見かけていた。

「ああーっ、いたっ!!」

 休みのたびに聖也は公園に行く。つきあいというものもあるので時には男友達とサッカーをしたりもせねばならないが、できる限りは公園に行ってあっちこっちと必死で探していた。そんなある日、ようやく金髪のジェイミーを発見したのだった。

「誰がいたの? あのひと?」
「ココリちゃん、いつからいたんだよ。ついてくんなよ」
「やだ。あたしには見る権利があるんだから」
「そんな権利ないよっ!!」

 駆け出してもココリはついてくる。ココリを撒こうと、聖也はスピードを上げてダッシュする。ココリは聖也よりも背が高くて体力もあって、どれだけ走ってもどうしようもなくて聖也が疲れてしまった。

「ついてくんなってばっ!!」
「いやだ、ついてくっ!!」

 追いかけっこの果てに聖也が疲れ果ててしゃがみ込むと、むこうから金髪のジェイミーが歩いてきた。いつだって聖也には邪険なジェイミーが話しかけてくれたのは、ココリとチェイスをしていたからだったのだろうか。

「なにやってんだよ? この子、おまえの彼女?」
「そうでーす。あたし、聖也くんのカノジョ。ココリっていうの」
「そっか。そのほうがいいな」
「あのぉ……おじさん、どこかで見たことあるような……」
「そうか? 気のせいだろ」

 聖也はへたばっているのに、ココリは元気いっぱいでジェイミーの顔を凝視し、見たことあるよっ、と言っている。ジェイミーはとぼけた顔をして聖也に言った。

「小学生は小学生同士、無邪気なつきあいをしろ。これで俺もすこし安心したよ」
「あのね、聖也くんが好きな女の子って、その赤ちゃん?」
「二歳のバースディが近いんだけど、きみらから見たら赤ん坊に近いかな」
「やだ、ロリコン」
「……小学校の二年生だっけ? 八歳が二歳に恋するってロリコンかな。いや、それはさておき……」

 こほんと咳払いをしたジェイミーは、聖也をよろしく頼む、などとココリに言っている。ココリはまかしといて、とうなずいている。ココリがあらわれたばかりに、聖也の目論見が塵と化してしまった。

「聖也くん、わかったよ」

 言いたかったことが言えずに帰った翌日、学校でココリが言った。

「あのおじさん、見たことある顔だって思ったんだよね。お姉ちゃんに聞いてみたら、ロックやってるひとだって。なんか有名なひとらしいよ」
「……芸能人?」
「そうみたい。あんなちっちゃいのが好きだなんて、聖也ってヘンタイロリコンだって言われるだろうし、芸能人の子どもを好きになっても無駄だし、ヤメにしなよ」

「……そうかなぁ」
「そしたら、あたしのカレシになってよね」
「う、うーん、えと、ちょっと待ってね」

 うっかり、うんと言いそうになったのをあやうくこらえる。これしきで諦めてなるものか。相手は芸能人の娘で六歳も年下、おまけに父親の反対。三重苦なのかもしれないが、そんなことでは断念できない。金髪の天使、リーヤをいつかは僕のお嫁さんにするんだ。

 僕は若い。先は長い。どうすればいいのか、ゆっくり考えよう。
 ココリちゃんだって嫌いじゃないから……なんとか言うんだったな、そうそうキープだった。ココリちゃんはキープしておいて、本命はリーヤ。そうだ、そう決めた!!

次は「ヴ」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
グラブダブドリブ「約束」のジェイミーパートに登場するセイヤの一年後の姿です。いやぁ、近頃の小学生はませてますね、って、ませすぎ?








 

 
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