ショートストーリィ(花物語)

花物語2014「五月・つつじ」

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花物語2014・皐月

「つつじ」

花物語2014・皐月

「つつじ」


 待ち合わせはいつも改札口。今日も喜子が猛を待っていると、電車から降りてきたカップルが立ち止まって見つめ合った。

「マーくん……」
「シーちゃん……」
「帰りたくないな」
「寂しいよね。僕もシーちゃんと別れたくないよ」
「明日も会える?」
「きっと会おうね」

 女性が高いヒールのパンプスを履いているせいもあって、ふたりの身長は同じくらいだ。やや小柄なほうである男性は、とてもとても綺麗な顔をしている。女性のほうも彼に似合いの美女で、美男美女カップルとはこういうふたりだろうと思えた。

「バカップル……」
「やだね、臆面もなく……」
「まあまあ、今どきの若いひとは……」
「暑苦しい」
「邪魔だ、どけよ」
「見えないところでやってよね」

 まるで映画のワンシーンのようだ、じろじろ見ては失礼だと思いながらも、喜子としてはさりげなく見ていた。綺麗だな、美男美女のラヴシーンって絵になるわ。
 しっかりと抱き合っているふたりに、悪意を持った視線と悪口雑言が投げられる。中にはあからさまに舌打ちをしたり、男性の足を蹴飛ばすような仕草をする者もいた。

「喜子ちゃん、待った? ごめんね」
「うん、そんなには待ってないよ」

 彼氏の猛がやってきて、どうかした? と言いたそうな顔で喜子を見る。喜子は顎をくいくいやって、マーくんとシーちゃんを示した。

「邪魔だから行こうか」
「邪魔って、あたしたちが? あっちのカップルが?」
「僕らがだよ」

 ふたりして歩き出し、喜子はちらっと振り返る。カップルはキスしているようだったので、慌てて前に向き直り、小さめの声で猛に話しかけた。

「猛くんを待ってる間、あのカップルはずっとあそこにいたの。男性が女性を送ってきたのかな。さよならするのが寂しいって言って、抱き合ったの」
「別れ話かな?」
「明日も会おうって言ってたよ」
「ひとときの別れがつらくて抱き合ったのか。不倫カップルだったりして」

「そんなのはどうでもいいけど、通りがかるひとたちはみんな、あのカップルを罵るんだよ。そんなにいけないことなのかな?」
「喜子ちゃんはどう思ったの?」
「素敵だなって」

 だから、猛までがあのカップルを否定的に受け止めたら悲しかったはずだ。猛は変な想像はしたものの、悪くは言わなかったのでほっとした。

「じゃあ、喜子ちゃんもしたい?」
「なにをするの?」
「公衆の面前で抱き合ってキス」
「ええ? そんな……」

 口にすると失礼だろうから言えないが、ああいうのは美男美女だからこそ絵になるのだ。
 マーくんも長身ではなかったが、すんなりした身体つきの美男だった。シーちゃんは中背でプロポーションのいい美人。テレビドラマのロケだと言ってもうなずけそうなカップルだった。もしもロケだったとしたら、通行人も悪しざまには言わなかっただろうに、カメラもスタッフもいなかったから、そうではないのだろう。

 対して、猛は中背で肥満気味のおたくっぽいルックス。喜子も中背でころころっとした体格で、子どものころには男の子に苛められたこともある。喜子の顔や体型じゃ彼氏は望み薄だね、と母と母の妹が話していたこともあった。

 そんな喜子につきあってほしいと言ってくれた彼氏なのだから、猛のルックスにケチをつけるつもりなんかない。しかし、あなたと私が人前でキスしたらバカップルどころか、キモカップルって言われるよ、だった。

「してみたいんでしょ。僕もしたい。行こうよ」
「ど、どこに……私はしたくないよっ」

 猛が喜子の手を引いて、どんどん歩いていく。たどりついたのは夕方の公園だ。仕事が終わってから待ち合わせをしても、初夏の日は長くてまだ夜にはなっていなかった。

「この花、知ってるよね」
「つつじ?」
「そうだよ」

 初夏の公園には濃いピンクと白の花がたくさんたくさん咲いている。つつじの花の前まで喜子を引っ張っていって、猛が両腕を広げた。

「喜子ちゃん、愛してるよ」
「ちょっと……ちょっと……」
「つつじの花言葉は「愛の喜び」。僕らは美男美女ではないけど、愛し合ってるんだもの。愛の喜びを満喫しようよ。喜子ちゃん、好きだよ」
「……あ……」

 抱擁されてキスされると、頭の芯がしびれたようになってくる。まあ、自分では自分は見えないんだからいっか。目をつぶったら猛くんも見えないし、他人のことも見えないし。
 誰も私たちなんか気にしていない、駅で悪口を言われていたカップルは、美男美女だったから注目を浴びたんだ。言い訳めいて考えていた気持ちが、次第に気持ちよさに変わってくる。これって案外快感かもしれない。

 こんなことをしたがる彼氏と、これからもつきあっていけるんだろうか。考えかけた不安材料も、愛の喜びの前では大きなものでもなかった。


END





  
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~ Comment ~

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何だか微笑ましい猛と喜子、つつじの花言葉そのまま
ですね。
若いっていいなあ、顔や姿なんて二の次。
この気持ちがいつまでも続きますように。
前にも言ったけどあかねさんのこのシリーズ好きです。

danさんへ

いつもありがとうございます。

「好き」は何度言っていただいても嬉しいですね。
最近は花物語もネタ切れしかけてますが、がんばってもっと書きたいです。

人前でいちゃつくカップルってのに激しく怒る方、けっこういますよね。
友人のご夫君などは、その間に割って入って邪魔してやりたい、とまでおっしゃるとか。

そんなに怒らなくてもいいんじゃないの? あまりにやりすぎは見苦しいけど、微笑ましいじゃないか、と私は思うので、こんなのを書きました。

そうですよね。若くて可愛いラヴラヴカップル、微笑ましいですよね。
danさんがそんなふうに受け止めて下さったのも嬉しかったです。
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