連載小説1

「I'm just a rock'n roller」20

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「I'm just a rock'n roller」

20

相談したいことがあるんです、と内緒話をしかけてきた赤石耕平を、悠木芳郎はマンションに連れて帰った。ジョーカーのメンバーになってから一年もたっていないのに、不満でもあるのか。そんな危惧も抱きながら、芳郎は耕平にウィスキーを出してやった。

「ありがとうございます。早速、話していいですか」
「ああ、言えよ」

 武井伸也と西谷恵似子の恋愛のもつれとでもいうのだろうか。耕平の相談事とはそれだった。
 もとより伸也は、芳郎が目をかけている後輩ロックバンドのメンバーだ。お山の大将的性格の冬紀がリーダー格のように見えるだろうが、真のリーダーは伸也のはず。伸也は冬紀の性格を考慮して彼を立てている。

 恵似子とも芳郎は一度、会っている。耕平と冬紀が他人と居酒屋の前で喧嘩をはじめ、伸也からの電話で芳郎が現場に駆けつけたときに、恵似子もその場に居合わせた。

 ロッカーの彼女というのは似通ったタイプが多いのだが、恵似子は芳郎の意表を突く女の子だった。だが、芳郎の彼女の内田まり乃だって、ロッカーの恋人としては変わっている。伸也が恵似子のようなタイプの女の子を好むのかどうかは知らないが、好みではなくても恋をする場合だってある。

 なにやらややこしいことになっていたらしき恵似子と伸也の中を案じて、耕平の妻が恵似子にコンタクトを取った。そして聞き出したのだそうだ。

「武井が別の女の子とキス……キスぐらいなんだってんだ、ってんでもないんだな」
「別の女の子ってのが、恵似子ちゃんとも俺たちとも知り合いの子なんですよ。その子のマンションの近くまで武井が送っていって、そこに悪い偶然で通りかかった恵似子ちゃんが見ちまったってわけなんです」

「ファンの女の子にサービスのキスをしたってのとはちがうんだな」
「そうなんです。恵似子ちゃんって純な感じの子だから……」
「まあ、純情な女の子だったらわからなくもないけど、おまえはどうしたいんだ?」
「どうしたらいいんでしょ」

 ほっとくしかないだろ、下らない、と芳郎としては言いたい。恵似子はもとから伸也にはつりあわない女だとの自覚があって、こうなったら身を引くと古風なことを言っているらしい。耕平がそんな話をしているのを聞きながら、芳郎はしかめっ面でウィスキーを飲んだ。

「芳郎さん、ケータイが鳴ってますよ」
「わかってる。ほっとけ」
「ほっとくんですか」
「うるせえな……あ、悪い。ちょっと失礼」

 うるせえと言ったのはケータイにだったのだが、ほっとけ、は伸也と恵似子についてでもある。誰からかと見てみればまり乃だったので、電話に出た。

「近くまで来てるんだけど、芳郎、家にいるの?」
「いるよ。ん、ちょっと待て」

 聞かれてもいいつもりで、芳郎は耕平に言った。
「こういう話、女のほうがいいことを思いつくかもしれない。まり乃に話してみるか」
「芳郎さんとまり乃さんがいいんでしたら」
 うなずきかけてから、再び電話に向かった。

「赤石が来てるんだよ。恋愛相談に乗ってやってくれるか」
「……赤石くんって結婚してるんじゃなかった?」
「声がとんがったぞ。赤石自身じゃなくて、赤石の友達の話だよ」
「友永くん?」
「あいつは恋愛で悩むようなタマじゃない」

 たしかに、と笑ったまり乃との通話を切る。まり乃はウィスキーコークが好きだから、コーラを出してくる。チーズも出してきてまり乃を迎える準備をしていると、ほどなくチャイムが鳴った。

「おぅ、早かったな」
「近くにいたの。あ、ちょっと……」
「覗き見はされてないよ」
「だって……」

 玄関に出迎えたまり乃が恥ずかしがるのをかまわず、芳郎は抱きしめてキスをする。頬がぽっとなって色気を増したまり乃を、リヴィングにともなっていった。

「お邪魔してます」
「私の家じゃないけど、いらっしゃいませ」
「……まり乃さんの家みたいなもんでしょ」
「そんなことはありません。恋愛相談ってなに?」

 耕平の話を聞いているまり乃を、芳郎が見ている。こんな話、俺は苦手なんだよ、と言いたそうな苦笑を浮かべている。芳郎から見れば若者たちの他愛ないもめごとに思えるのだろうが、まり乃には恵似子の気持ちもわかる。

 芳郎から聞いた覚えはある、武井伸也の彼女、恵似子。太めであかぬけないセンスのよくない女の子。武井は変わった趣味だな、と笑っていた芳郎に、まり乃は言ったものだ。

「私も昔っからあかぬけなかったよ。おしゃれに興味がなかったのもあって、センスだってよくない。今だってファッションはどうでもいいところがあるものね。そんな私は身につまされるかな。私ももてなくて……外見には自信がなくて、恋をしたいとも思っていなかったけど、まり乃は一生独身じゃないの? って友達に言われたら……」

 きっとそうだよ、結婚なんかしたくないもん、と応えながらも、実は心がざわめいていた。
 大人になったおまえはかっこよくなってるよ、内面が輝いてるからだな、と芳郎は嬉しい褒め言葉をくれる。恵似子が伸也に恋をしているならば、彼女を綺麗にしてやれるのは伸也なのに。

「武井くんはそれ、知らないのね?」
「知らないはずです。武井には絶対に言いたくないと恵似子ちゃんは言ってたみたいですし、武井は……ああ、でも、まさかって言ってたの、それだったんだろうな。かすかには気づいてて、まさかって否定してたんただな」
「武井くんは香苗ちゃんって子、好きなの?」
「そうは聞いてないけど、香苗って子は美人だから、よろめくってことはなくもなく……」

 放っておくしかない、と芳郎が感じているのはまり乃にはわかる。恵似子の気持ちはこじれてしまっているようだから、はたから世話は焼かないほうがいいかもしれない。私にはしてあげられることなんかないけど……恵似子の気持ちを想像してみたら、まり乃としても切なかった。 

つづく










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