ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FSショート番外「続・わがままかぐや姫」

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番外編102(わがままかぐや姫)にコメントいただいた、大海彩洋さんのご感想をもとに作りました。大海さん、いつもありがとうございます。

「続・わがままかぐや姫」

 屋敷には大きなスクリーンがある。無聊な日々をなぐさめるために父王が取り寄せてくれた地球製の、最新式3D薄型テレビジョンだ。

「このひとたち、誰?」
「姫さまはこういう歌がお好きですか」
「この歌は好きよ。地球の歌はいくつも聴いたけど、このひとたちの歌はとてもとても素敵」
「フォレストシンガーズっていうグループですね」
「フォレストシンガーズ……もっとこのひとたちの歌が聴きたいな」
「かしこまりました」

 侍女が集めてくれたフォレストシンガーズの歌をふんだんに聴き、ドラマやコントのようになっているプロモーションビデオ、などなどを見て、姫は彼らのうちのひとりに引きつけられるようになっていた。

 地球、日本、そもそもは姫たちの種族もここで暮らしていたという。原初の記憶がくすぐられるゆえもあってか、姫にもなつかしい気のする白い砂浜を、男と女が歩いている映像を見た。

「遠いところに行ってしまいたいな」
「……行こうか」
「どこに行くつもり?」
「あの岩から……行こう」
「私はこんなヒールを履いてるから……ちょっとちょっと……きゃっ」

 男が女を抱き上げて、砂浜を踏みしめる。頬を染めて身をすくめている女を抱いて、男は身軽に岩の上に登っていった。

「なにをするつもり?」
「ほら、月が出てきただろ。あなたを抱いたままで、俺はあそこに行きたいよ」
「……そうね、あなたとだったら私も行きたい。だけど、無理だから」
「わかってるよ。そんなの、現実的じゃないよな。現実は……」
「現実なんて考えたくないの」

 女をしっかり抱いて、男は顔をかたむけていく。ふたりの口づけのシーンに歌がかぶさっていく。ドラマ仕立てのこのプロモーションビデオの男のほうがソロで歌っている、道ならぬ恋の歌だ。
 その女は海に放り込んで、たったひとりで月にやってきてよ、私があなたをお婿さんにしてあげるから。姫は願う。私に魔法が使えるのならば、あのひとを月に迎えてあげるのに。

 けれど、姫には魔法は使えない。乾隆也と名を知った、フォレストシンガーズのメンバーのひとりを月に迎えるすべはない。たった今のシーンはドラマであって、隆也の現実ではないのが姫には嬉しい。隆也には恋などしていてほしくなかった。

「あらまぁ、姫さまは隆也って男を好きになられたのですか。おやめなさいな」
「かなわぬ恋だから?」

 切なげな様子でため息ばかりついている姫を見て、侍女のなでしこが話しかけた。

「地球の男に恋をしてもかなわぬというのもありますけど、歌うたいなどは下々の者です。姫さまにはふさわしくありません」
「地球の人間は月では呼吸ができないのでしょ。それは知ってるから、月に連れてもこられないとも知ってるの。だけど、一度、生身の隆也に会ってみたいわ」
「短い間だったら、姫さまが地球に行くのは不可能ではないですけどね……」
「行けるの?」
「あ、いえ、私にはできません」

 うっかりして口にしてしまった。なでしこの恋人である陽炎にならばできないこともないのだが、王に無断で姫を地球にやったりしたらどんな咎を受けるか。王にお伺いを立てたら却下されるに決まっているし。

 遠い遠い、はるかに遠い昔、地球で戦乱が起きた。地球の中の小さな島国、日本の戦乱を逃れて月にやってきた一族の子孫が、王や姫である。なでしこは先祖代々、王族につかえている家系の出身だった。
 現代では秘密裏に地球とも取り引きが行われていて、姫が隆也に恋してしまった元凶のテレビスクリーンなどを取り寄せることも可能だ。宇宙を旅するための乗り物などの研究は月のほうが進んでいて、超小型スペースシップも完成している。

 その論理はなでしこにはむずかしすぎるが、なんでも、人を圧縮してスペースシップで運ぶので、超高速で宇宙旅行ができる乗り物なのだそうだ。なでしこの恋人は宇宙開発部門で働いているので、彼に懇願すれば姫を地球に送り届けてくれるだろう。

 地球と月との交流を地球側では人民に発表していないのは、時期尚早だからだと月では言われている。地球人民の民度が低すぎるからだと。であるのだから、月の住民のほうが高級な種族なのだとなでしこは認識していた。

「行けるんだったら行きたいの。行きたい。なでしこ、行かせてよ」
「姫さま、それはご勘弁下さい」
「ちょっとだけでいいのよぉ。行きたいぃ。行くぅ」
「姫さま、泣かないで下さいませ」

 泣き落としではなでしこには効果がないと知った姫は、次なる手段に訴えた。

「いいわ。父さまに言いつけるから」
「なにをですか?」
「さあ、なんでしょうね。なでしこの秘密、いっぱいあるでしょ?」

 あれかこれかと、なでしこは悩ましくなっている様子だ。姫はなでしこの決定的秘密は知らないが、彼女が勝手に頭を悩ませている。しばしの猶予を下さい、と言って下がったなでしこは、数日後に姫に告げた。

「ほんの短時間だけですよ。地球は空気が汚れています。姫の行かれる日本の東京という場所はとりわけ、姫には毒になりそうな空気が溜まっているんです。ですからくれぐれも……」
「隆也に会わせてくれるのね」
「ちょっとだけね。明日、ちょうどいい状況になるんだそうです。そこに姫を送りますから、姫はかぐやだと名乗って下されば、隆也が納得するはずです」
「かぐや姫? いいわよ」

 日本ではおとぎばなしだとされている「かぐや姫」の伝説。それに沿ったふるまいをするべきだろう。なのだから、姫は十二単をまとって隆也の前にあらわれよう。隆也の心に美しい姫の姿と印象を残して去っていく。姫にはそれだけで十分だった。


END





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~ Comment ~

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さしずめ、現代版のかぐや姫というか。
確かに東京の空気は月よりも汚そうですね。
それでもききにいことも大切ですね。

LandMさんへ

いつもコメントありがとうございます。
前篇がありますので、その謎解きみたいな感じですね。
もっとうまく料理できたらよかったのですが、お粗末さまでした。

すみません。
「ききにいこと」。この単語の意味が不明なのですが?
私もしょっちゅうやっているミスタイプかとも思ったのですが、判読できません。
おついででもありましたら教えて下さいね。
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