ショートストーリィ(FSいろは物語)

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フォレストシンガーズ


「へまな奴」


 時代は俺だ、と幸生が断言する。なにが? と問い返すと、俺の顔をじーっとじーっと見てから、幸生は言った。

「シゲさんには無理」
「だから、なにが?」
「流行ですよ」
「流行のファッションとか髪型とかか? 俺はそんなの、似合いもしないんだからする気もないよ」
「それも含んでなんだろうけどね。あ、リーダー、こんばんは、ねえねえ、俺ってなにに似てます?」

 ラジオ局の控室、もうかなり長く続けているラジオ番組は、フォレストシンガーズのメンバーがひとりかふたりで担当している。時には三人、ニューアルバムが出たときなどは五人全員の場合もあって、今日は本橋、三沢、本庄の三人が出演する特別篇なのだった。

 特別篇って、三人だからってそれがどうした? フォレストシンガーズって誰? 大方の反応がそうだった時代から比較すれば、俺たちの知名度は上がったよなぁ、と、それはそれとして、幸生に質問された本橋さんは簡潔に答えた。

「小型の犬っころだ」
「そうそう、それですよ」
「だから、なにが?」
「シゲさんったらそんなに知りたい?」
「言いたくないんだったら言わなくてもいいけどな」
「そんな冷たいこと言わないで、聞いてよ」

 言いたいんだったら言え、と本橋さんと俺が口をそろえると、幸生がまくしたてた。

「時代は犬型イケメンなんですよ。癒し系、子犬系の美少年。俺は昔から本橋さんには、犬っころみたいで可愛いって言われ続けてるでしょ。今になって確認してもやっぱり、犬っころだって言ったじゃん。あ、可愛いとは言ってない、って訂正しなくてもいいんですよ。心では思ってるって知ってるんだから」
「シゲ、スタジオに入ろうか」
「はい、そうしましょう」

 こいつとのつきあいも、学生時代から数えれば十五年になる。三沢幸生のいなし方はしっかり覚えた。いやんいやん、待ってぇ、などと言っている幸生をほっぽってスタジオに入る。間もなく幸生も入ってきて、本番前の打ち合わせは真面目にやっていた。

「本日はフォレストシンガーズの三人が登場する特別篇でーす。その上に超豪華ゲスト。モデル出身で最近はドラマなどにも出演している……」
「ムロウ・アイフウです、こんばんは」
「室生犀星の室生に、愛の風って書くんですよね。愛しすぎて風邪、引いちゃった? その風邪じゃなくてウィンドか。風の英語、知ってたよ、シゲさん、褒めて」
「うわぁ、三沢さん、すごい」
「ありがとう、アイフウくん」

 ノリのいい青年で助かった。室生愛風は出演するドラマの番宣のためと、そのドラマの主題歌を歌っているのもあって、今夜は我々の番組にゲスト出演したわけだ。
 主に幸生がアイフウくんと喋り、本橋さんが突っ込み、俺も適当にぼそっと口をはさむ。フォレストシンガーズのファンの方ならば、この三人が出るとなればそんな形になるとわかっているだろう。俺としてもやりやすいのだった。

「さっきも言ってたんだけど、アイフウくんと俺って似てますよね? 本人もそう思わない?」
「そうですかねぇ。体格はちがいますよね」
「キミはモデル出身でしょうが。背丈は二十センチはちがいますよぉだ」
「俺は百八十五センチですが」
「俺は百七十弱です」
「……弱ですか」

 低身長コンプレックスを逆手に取り、長身の男とこんなやりとりをしてみせるのは、幸生のお約束だ。本橋さんや俺の身長では中途半端だからやりにくい。

「体格はいいんだよ」
「そしたらどこが似てるんですか?」
「本橋さん、シゲさん、アイフウくんと俺の顔、見比べて」
「顔が? 似てませんよ」

 似ていると言われたアイフウくんは機嫌を損ねたようだが、俺は改めてきちんと見てみた。子犬系の顔だちは似ていなくもない。つぶらな瞳に男にしては小作りな鼻や口のパーツ、逆三角形の顔。本橋さんや俺みたいに髭も濃くなくて、つるっとのぺっとしたところは同系だ。

「ああ、それで、犬っころの話をしてたんだな。美しさには大いなる差があるが、まるっきりちがったタイプの顔ではないって意味では似てるな」
「本橋さん、アイフウくんに失礼ですよ」
「あのな、逆だよ、逆」
「もうっ、うちのリーダーったら失礼で、俺からお詫びしますね。アイフウくん、気を悪くしないでね。三沢幸生のほうが美しいったって、ほんのわずかだからね」
「……はぁ」
「ラジオだもんな。勝手に言ってろ」
「で、シゲさんはどう思うの?」
「犬系なのは同じだな」

 でしょでしょ、と言って幸生は喜び、そう言われたらそうかなぁ、とアイフウくんのほうは歯切れがよくない。新人に近い彼としては、十年以上も先輩の我々にあからさまに反論できないのか。本橋さんは言った。

「ここにいる四人のファンの方はごぞんじでしょうけど、我々の顔を知らない方にひとこと、シゲ、言え」
「えー、俺ですか。えーとえーと、男は顔ではない」
「……それを言うのか」
「へ?」

 一拍の間、ぶっと吹き出す本橋さん、けらけら笑う幸生の甲高い声、ぶすっとなっているアイフウくん。俺、なんかまずいこと言った? よーく考えてみると、アイフウくんのファンの方から抗議を受けそうな? どうやってフォローしようか。

「うん、しかし、真理だ。そうだよ、男は顔ではない。だよな、アイフウくん」
「……そうですね、本橋さん。俺も顔だけで売るようなタレントにはならないでおきます」
「おまえ、顔にはえらい自信があるんだな」
「ですから、それだけではない俳優になります」
「おし、その意気だ」

 フォローは本橋さんがしてくれて、俺はこっそりため息をつく。アイフウくんの不機嫌顔は治ってはいなくて、こういう可愛い系の顔にはこの表情は似合わないな、と感じてしまう。そこでひとこと、幸生が言った。

「俺は顔もいい歌手を目指します。アイフウくん、お互いにがんばろうね。同じ子犬系美少年だもんね」

 もはや突っ込む気にもなれない台詞だった。


END





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NoTitle

犬ねえ。。。
人を犬で例えるときは「負け犬」「忠犬」か。。。
という話がありましたが。
あまり良いたとえでなくても話たくなりますね。
今回は負け犬に入るのか。。。
何にしても、人生は何かに例えるものですね。

LandMさんへ

いつも本当にありがとうございます。

私がこのストーリィを書いていたとき、犬系イケメン(イケメンって単語は好きではないのですが)が流行!! なんて記事をどこかで見たのですけど、一過性だったような。

犬って昔は卑しいものみたいな、畜生代表みたいな存在でしたよね。今は人によっては、人間よりも犬が好き? 私はなによりネコ科の動物が好きですが。

キムタクなんかは犬系の顔だと思いますから、男性の綺麗な顔(私の趣味は別として)といえばわりと犬系かな? とも思います。
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