ショートストーリィ(花物語)

花物語2014「四月・しおん」

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妄想的BLです。
お嫌いな方は避けて下さいね。



花物語2014・卯月

「紫苑」


 さして珍しい名前でもないのかもしれないが、僕と同じ名前の小説家がいるとは知らなかった。
 桜庭しおん、女性だ。著者近影を見るとたいそうな美人で、こんな若い美人はどんな小説を書くんだろ、との好奇心も手伝って本を買った。

 タイトルは「花の香」。ひとり暮らしのマンションに帰ってから、僕は本を開いた。

「罌粟の花の咲き乱れる庭園に迷い込んだ僕は、花の香りに酔っぱらったようになってしまう。
 あれ? 罌粟って香りはあった? 罌粟ってポピーだよな。香りがあったとしてもほのかなものだろうに、僕はどうして酔ってしまうんだろ。罌粟アレルギーか?

「あ、あ、なにを……」

 突然、うしろから抱きすくめられた。
 この力の強い腕は男だ。男が僕を襲おうとしている?

「金はあんまり……持ってないけど……持ってる分はやるから……やめろよ。僕は男だぞ。なにすんだよっ!! やめろって!! あ……あ……え……そんな……」

 力が強すぎて逃れられない。男は僕を片腕で抱きしめて、片方の手で服を脱がせようとしている。あらがう力が弱まっていくのは、罌粟の香りのせいか。シャツもズボンも脱がされて、下着までも取り去られて、僕は彼の片方の腕に抱かれている。

 こいつ、誰だ?
 全裸にされた僕は、片手で器用に自分も服を脱いでいる彼をぼんやり眺めている。広い胸があらわになり、彼も全裸になって、僕をいっそう強い力で抱きしめた。

 男に抱かれるなんて、そりゃあ、はじめての経験さ。男と男がヤルってことの知識はあったけど、こんなに痛いとは……でも、痛さの中になんともいえない快楽もあって、僕は、誰だか思い出せない男に地面に組み敷かれ、喘いでいた。よがっていた。

「美味だったよ。紫苑」
「……あんた、誰?」
「帰れよ」

 ことが終わると、彼は僕を突き放してどこかに消えていってしまった。
 この香り……罌粟……罌粟は罌粟でもポピーではなくて、麻薬を作る罌粟か。花だか葉だかを精製しないと麻薬にはならないはずなのに、僕は特異体質なのか。罌粟の花の香りに酔って、知っているひとのような記憶もある男に抱かれることに酔って、頭が狂ってしまったのか。

 そして僕は、彼に恋をした」

 なんだ、これは? BL?
 紫苑という名の男が男にレイプされて恋をするって、なんたる設定だ。僕はBLなんて読んだこともないし、こんなものは嫌いなのに、なのに、なのに、続きが読みたくて読みたくて、一晩かかって一冊の小説を読み終えた。

 幻想的な香りもする小説に没頭して、徹夜したものだから頭がぼわっとしている。今日は学校は休もう。そんなことでさぼらせるために、あんたをひとり暮らしさせてるんじゃないよっ、と母が頭の中で怒っているのを追い払った。

 「花の香」の主人公は紫苑。シオンという音は同じで、僕の名前は「詩音」という。作家の名前も「しおん」だから、性別はちがっても紫苑はしおんの分身なのだろうか。
 庭で紫苑をレイプした男は、その屋敷の使用人である亜堕夢。アダムと読む彼は、堕天使の化身だそうで、夢魔の使いなのだそうだ。ファンタジーにはなじみのない僕には、意味は曖昧にしかわからないが、現実ばなれしていて素敵だ。

 栽培している罌粟を使って怪しい商売をしているその屋敷の主人、亜堕夢、紫苑。三人の男たちが繰り広げる淫らな男同士の性愛の世界。僕はこんな世界にだってなじみはないから、刺激的すぎてくらくらしていた。

「亜堕夢……僕もあなたに会いたいな」
 自分で口走ってぎょっとした。え? 僕、二次元の住人に恋をしちゃった?

 おたくと呼ばれる人種は、アニメキャラに恋をする。僕の大学の友人にも、アニメの美少女キャラのメイちゃんを、俺の嫁と呼んではばからない奴がいる。故郷にいる弟もアニメおたくで、現実の女の子よりもアニメのシュミちゃんがいいと言っていた。

 そんな奴らを馬鹿にしていた僕は、恋をするなら現実の美少女がいいと思っていた。とはいっても彼女はいない。かつてつきあったこともない。好きになった女の子はいるが、告白もできなかった。

 大学一年生、十八歳。彼女ができるのはこれからさ、大学で可愛い彼女が見つかるといいな、と思っていたのだが、今のところは好きな子もいない。
 だからって、BL小説の登場人物に恋をするか? アホか。詩音のバーカ。下らないことを考えてないで寝ようっと。

「……うわっ!!」

 寝てしまってから何時間たったのか知らないが、僕は叫び声をあげて飛び起きた。心臓の鼓動が早い。悪夢を見ていたようだ。

「夢魔の使い……アダム……アダムだったよな。あ、こんなことになってる」

 母に見られる心配はないので、ひとり暮らしでよかったなぁ、と思いながら、汚れた下着を水に漬けた。男にはありがちな生理現象だ。夢の中で美少女といちゃついていて、こうなった経験はある。しかし、さっきは……。

 あの小説の冒頭のシーンが夢で再現されていた。挿絵の亜堕夢そのまんまのマッチョな美青年に、シオンが犯されていた。そのシオンは、紫苑ではなく詩音。すなわち、この僕だった。

「うわうわ、やめろよな。悪い本を読んじまったよ。詩音、おまえ、影響受けすぎだろ。うう、腹減った。もう夜じゃん。詩音、寝過ぎだろ。メシ食いにいこうぜ。できたらナンパでもして女の子とホテルに行って、初体験して悪い夢を忘れられたらいいんだけどな……あり得なくはないから、軍資金を持っていこう」

 ぶちぶち言いながら身支度をして、外に出た。
 きちんと目を覚ますためにも、歩いていくことにする。地下鉄で一駅のところにわりに賑やかな通りがあって、ナンパだって食事だってできるのだ。

 歩いていると亜堕夢の顔やたくましい腕や、ささやき声がよみがえってくる。詩音、美味だったよ、と小説のまんまの台詞を口にして、亜堕夢は妖美な微笑を見せた。

「やめろー。僕は病気かよっ!!」
「なんの病気だ? クスリ、買う?」
「え?」

 男の声に足を止め、ビルとビルの隙間あたりに立っている彼を見て、僕は凍りつきそうになった。たくましい長身、浅黒い肌、革ジャンにジーンズの美貌の男は、誰かにそっくりだったのだ。

「アダム……」
「俺? 俺、アダムっていうんだよ。なんで俺の名前を知ってるの?」
「あ、えと、日本人じゃないんですか」
「ハーフだけどね、名前なんかどうだっていいよね。クスリ、買わない?」
「なんのクスリ?」

 うっかり聞いてしまったら、アダムと名乗った男が身を寄せてきた。

「気持ちよーくなるクスリだよ。安くしとくよ。なんだったらおまけで俺が一晩、つきあってあげてもいいよ」
「つきあうって……い、いらないよ」
「これでも?」
「うぎゃっ!!」

 近づいてくるアダムの顔をどうにか避けたら、顎のあたりにキスされて、僕は必死で彼を突き飛ばして走り出した。
 走って走って走り続けて、バス停の前にあったベンチにすわり込む。可愛い女の子が隣にすわっていて、もの問いたげな視線をよこす。彼女は紫の花束を抱えていたので、照れ隠しに質問した。

「綺麗ですね。なんの花なんですか」
「ああ、紫苑」
「シオン? 僕も詩音って名前なんです」
「そうなの? 紫苑の花言葉、知ってます?」
「花言葉? そんなのあるんですか。知りません」

「あなたを忘れない、っていうのよ。詩音さん、なんだかはあはあしてるのね。大丈夫? 薬、あげましょうか」
「クスリ? けっこうですっ!!」

 叫んでしまったものだから、彼女が、変な奴、と言いたそうな顔になった。そこにバスがやってくる。彼女はバスに乗っていってしまい、ナンパは不成功。彼女はバスの窓を開けて花束を振った。

「花言葉? あなたを忘れない? 変な奴だから? 変な奴は忘れないのか。変な小説も忘れられないのかもな。僕の名前の花言葉……ってのも変だけど、変だから亜堕夢を……いやいや、忘れよう」

 息が整ったから、再び歩き出す。
 変な小説の変な亜堕夢も、本名かどうかは不明だが、変な売人のアダムも、名前は知らない可愛い紫苑の花の彼女も、きっと忘れない。
 おかしな小説を読んでおかしな経験をしたが、ひとつだけ収穫があった。

 花には「花言葉」ってものがある。僕の名前は紫苑という花と同じで、「あなたを忘れない」という花言葉がある。現実の恋をしたら使えそうだ。亜堕夢の悪夢を忘れるためにも、早く恋がしたい。早く彼女がほしかった。


END






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~ Comment ~

NoTitle

今日の花は紫苑ですが、罌粟の花も印象に残りますね。
こんな妄想に取りつかれたのは、罌粟の作用だったりして^^
なんだって詩音はそんなにこの亜堕夢に感化されちゃったのでしょうね。
それほどこの小説の描写が何か訴えて来たのか。

あかねさんの物語は、名前にとても重点を置きますよね。
作者の名が一緒だったことで、必要以上に感化されちゃったんでしょうね。
こりゃあ、花言葉の通り、この妄想から詩音くんは逃れられそうにないですね。お気の毒だけど^^
きっと君には要素があって、いまやっと開花したんだよ、って言ってあげたくなります。

NoTitle

・・・・さっきのブログもBLでしたが。
流行っているのですかね。
まあ、本人たちは真剣なのでなんとも言いようがないですが。
女性のそれの友達は知っているのですが、
男性のそれの友達がいないからいまいち感情移入がしにくい。。。
( 一一)。

だからといって、理解はある方ですからあれなんですがね。
・・・・・日本のそれは欧米のそれと違う傾向にありますが。
アメリカンチックなBLはそれはそれで理解はありますがね。
セックスだけがBLでないのが、現実の日本のBLらしいですが。。。

ごふんごふん。。。。。

愛と欲望に忠実なBLに乾杯('ω')ノ
この小説はこの小説で一つの愛のあり方が明確で好きですけどね。
欲望かな。

limeさんへ

コメントありがとうございます。
今回は特に、妄想全開ストーリィになってしまいました。
この桜庭しおんという小説家は、たくさんある私のシリーズのひとつの主人公なのです。
彼女のほうのシリーズが最近は書けなくて、こんなところにひょっこり出てきてしまいました。

私も「あかね」という名前のキャラクターには、時々思い入れてしまいます。
「あかね」は本名ではないし、本名のほうと同じ名前のキャラにも反応しますけどね。
昔、友達が「茜」って名前のお手伝いさんを書いていたときにも、なにか意図があるのかな? なんて勘ぐったり。

limeさんって名前の、あきらかにコメント下さっているlimeさんと別人であろう方もネットで見かけたことがありますが、なんだか変な感じでした。
名前っていうのはいろいろと考えさせられて、ただ、「名前」だけをテーマにした小説も書けてしまうほどですよね。

で、しおんには要素がありますか?
そうかもしれませんねぇ。彼の将来……怖いかも。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。
男性はBLをお嫌いな場合が多いですが、女性にはお好きな方がわんさかいますよね。
ブログ小説の人気上位サイトはBLがかなりの割合を占めていますし。
私も昔からけっこう書いてまして、一時はやめていたのですが、書いて書いて、などとそそのかされて、またもや書くようになりました。

同性愛にしろ異性愛にしろ、書き方でずいぶんとちがいますよね。
私は基本、あまり濃厚なのは好きではありませんし、自分で書くとなると恥ずかしくて「ここにはとても書けないようなことを彼がして……」などと描写して逃げたりしていますが。

アメリカンBLってもっとあっけらかんとしてるんですかね?
日本人はどうしても淫靡と言いますか、ウェットだったりしますよね。
愛と欲望……一度くらいは完全に道徳心なんか無視した、思い切りアンモラルな小説も書いてみたいものです。
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