ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS春物語「桜の花、舞い上がる道を」

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フォレストシンガーズ

「桜の花、舞い上がる道を」

 
 うわぁ、綺麗!! 自然にこぼれた私の歓声に、隣に立っていた男が冷や水をぶっかけた。

「壮大な電気の無駄遣いだな」
「あんたって……情緒もなんにもありゃしないんだよね」
「情緒と限りある資源と、どっちが人間として大切なんだ?」
「両方だよ」

 頭に来たので、徳永渉をそこに残して足を速める。徳永は背が高くて脚も長いので、私がいくら早足で歩いても追いつかれてしまうのはわかっているが。

 ほどほどに人間もいる、桜の名所がライトアップされている。クールに考えれば、これで一晩の電気代はいくらになるんだろ? ではあるが、たまにはいいではないか。徳永とは恋人同士でもないのだから、ロマンティック気分なんかなくてもいいのだが、乙女のうっとり気分を冷やさないでほしい。

 大学を卒業してから三年がすぎ、去年には徳永も私も二十五歳になった。私は就職した会社を辞めて中国に留学する決意を固めていて、徳永は歌手になるつもりで就職はしないでいる。二十五歳の春は、人生のひとつの区切りかもしれない。

 すこしはセンチな気分になって、彼女もいないらしき徳永が私に桜を見にいこうと誘ったのかと思っていたら、のっけからあの台詞だ。私があんたの彼女じゃなくてよかったね、と内心で毒づいて足を速めていくと、開けた場所に小さなステージが設置されてあった。

「徳永、あんた、これを知ってて……」
「あん? ああ、そうだったのか。夜桜まつりってのがあって、歌のコーナーがあるとは知ってたんだけど、こいつらだったか。帰ろうか、晴海?」
「帰るんだったらあんたひとりで帰りな」

 知っていたに決まってるくせに、このひねくれ者。しかし、徳永としては複雑な気分なのだろうから、これ以上のコメントはしないでおこう。

 「フォレストシンガーズオンステージ」。

 去年の初秋にデビューしたばかりの新人グループだ。徳永とは大学の合唱部で一緒だった、本橋真次郎と乾隆也が後輩たちを誘って結成したヴォーカルグループ。私は女子部だったが、本橋くんと口喧嘩をしたり、乾くんに恋をしている錯覚を楽しんだりと、いくらかは関わりがあった。

 永遠のライバルだと徳永が目している彼らは、先にデビューしてプロとして歩いている。とはいえ、売れているとの評判も聞こえてこなくて、今夜も無料ライヴらしい。花見客はステージに背を向けて、飲み食いに余念がない。

 花冷えの夜だから、出店で熱燗とおでんを買ってきた。ステージがよく見える位置だと花が見にくいので、そのあたりは空いている。徳永と私がそこにいてステージの彼らが気づいたらやりにくかろうと、すこし離れたベンチにすわった。

「なんかやるの?」
「ああ、あそこ? なんだろね」
「ヒーローショーじゃないの」
「おばあちゃん、嘘を言わないで。タケシが本気にするじゃない」
「だって、フォレとか書いてあるよ。宇宙ヒーローフォレなんとかっていなかった?」
「ファーレンハイトだよ」
「それそれ、それ」

 家族連れが見当はずれの会話をしている。タケシと呼ばれた小学生らしき男の子は、宇宙ヒーロー戦隊、ファーレンハイトが登場するのかと楽しみにしているらしい。ファーレンハイトは華氏。フォレストシンガーズは歌詞を歌うってのに。

 横にはつまらなそうな顔をした徳永渉。
 千鳥足で歩いてきた酔っぱらいオヤジが、よろめいたふりをして私にしなだれかかろうとする。徳永は素知らぬ顔でオヤジのジャケットの裾をつかんで放り投げる。小柄なオヤジが吹っ飛んでいく。彼はなにが起きたのかわかっていないようで、へ? は? と周囲を見回していた。

「とぼけてそういうことするの、上手だね、徳永って」
「俺はなんにもしてないぜ」
「そういうことにしておこう。投げるのも上手なんだよね。怪我もしてないらしいし」
「ドスケベ野郎は骨折でもすればいいんだ。おまえに手を出そうとするとは、よほど飢えてるんだよな」
「そうかもね」

 どうせそうだよぉだ、と舌を出すと、徳永が舌の先になにかをくっつけようとした。辛子らしかったので慌てて口を閉じると、ステージがざわざわしてきた。

「みなさま、ようこそお越し下さいました」
「今夜はお楽しみのところ、お邪魔します」
「僕らの歌がみなさまのお花見に花を添えられますように」
「真心こめてお送りします」
「フォレストシンガーズを聴いて下さい!!」

 五人がそろってお辞儀をする。このあたりにいるのはフォレストシンガーズ目当ての客ではなくて、酔客だ、花見客だ。ステージに注目しているのは私だけ? 徳永もよそ見しているふりをして、耳はステージに向けているようだった。

「えーっ?! ファーレンハイトじゃないのっ?! 嘘つきっ!! 引っ込めっ!!」
「坊や、ファーレンハイトを待ってたの? ごめんね。リーダー、ファーレンハイトってどんなでしたっけ?」
「レッドファーレンの決め技はこうだろ」

 三沢くんがタケシとやらに反応し、本橋くんが本庄くんにプロレス技みたいなのをかけようとする。タケシは目を輝かせている見入っているが、大人たちは彼らを気に留めてもいない。ではでは、聴いて下さい、と乾くんが言って彼らがマイクを持つと、タケシがまたもや叫んだ。

「歌なんかつまんないよ。アクションやって!!」
「そうだね。こんなつまんない歌だったら、タケシが好きなことをやってくれたほうがいいよね。気の利かないおじさんたちだよ」
「変な服なんか脱いで変身してよっ」
「そうだよ。お兄さんたち、うちの孫の言うことを聞いてやって」

 おばあさんと孫が調子に乗って叫び、酔っぱらいオヤジも、ベンチャーズやれ、プレスリーやれ、ビートルズ、いや、美空ひばり、とか言っている。困った顔をしてはいるものの、フォレストシンガーズは桜の歌を歌っていたが、徳永の表情が険しくなってきていた。

「晴海、あのガキ、どこかへ捨ててきていいか」
「やめなって」
「デビューしてもこんななんだな。売れないシンガーってのは……」
「身につまされる? こんなだったらデビューしたくなくなってくる?」
「プロにもなれていない俺には、なんにも言えやしねえよ。こいつらと同じ土俵に立たなくちゃ、なにを言ってもごまめの歯ぎしりだ。ごまめの歯ぎしり……溝部を思い出したよ」

 そこのお姉さん、俺とデュエットしない? あんな奴らよりもお客さんも楽しいんじゃない? 酔っぱらいオヤジが言っている相手は私だろうか。徳永がオヤジをぎろっと睨むと、視線をめぐらせてタケシのほうも見た。途端にタケシは、帰りたいよぉ、帰ろうよぉ、と泣き声を出して母親にしがみついた。

「徳永、どんな顔してタケシを見たの?」
「いつもの顔だよ。帰れ帰れ」
「そのほうがいいけどね」

 やがて、タケシは父親におんぶされて家族そろって引き揚げていき、酔っぱらいオヤジは地面に寝そべってしまった。あんなところで寝ると遭難するかもしれないが、私の知ったことではない。うるさい奴らがいなくなって静かになりすぎた中で、フォレストシンガーズの歌が聞こえてきていた。

  
「桜の花、舞い上がる道をおまえと歩いて行く
 輝く時は今 遠回りしてた昨日を越えて
 桜の花、舞い上がる道を

 桜が町彩る季節になるといつも
 わざと背を向けて生きてたあの頃

 やってられない そんな そんな気分だった
 遠くのあの光る星に願いを……

 でも例えりゃあ人生は花さ 思い出は散りゆき
 ああ 俺が再び咲かせよう」

 人生は花、ほんとにそうだよね。フォレストシンガーズはこれからだ。徳永渉も喜多晴海もやっと二十五歳。花の季節はこれからさ。あんたたちも私も、見事咲かせてみせようぜ、ってか。

END









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