ショートストーリィ(しりとり小説)

80「レアケース」

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しりとり小説80

「レアケース」

 
 天気がよくてあたたかだから、職場の同僚と公園で、コンビニで買ってきたランチを食べていた。そうしているとケータイが鳴り、希美香は同僚の朝子にことわってから電話に出た。

「キミちゃん、今、いい?」
「ああ、曽野さん? こんにちは。昼休みだからいいですよ」
「あのさ……」

 インターネットで知った趣味のあつまり、美術好きの人々のサークルでの仲間、曽野からの電話だった。美術といってもジャンルは広範囲に渡るもので、希美香と曽野の好みは彫刻、このジャンルのファンは少ないので、曽野は希美香にとっては貴重な仲間だった。

「はい、じゃあ、日曜日の十一時にね」
 通話をすませて電話を切ると、希美香は朝子に言った。

「ごめんね。話が途中だったよね」
「私の話はたいしたことでもないからいいんだけど、デートのお誘い?」
「デートっていうか、彫刻展に行こうってお誘いよ」
「彫刻? 好きだねぇ」

 好きだねぇ、には揶揄の響きがある。好きなものというのは個人差があるのだから、興味のないひとにわかってもらおうとは、希美香は思わない。彼氏なの? と、そちらのほうに興味津々の朝子に訊かれて、希美香は言った。

「彼氏じゃないよ。朝子さんには話したことあるでしょ。ネットの美術サークルの仲間。オフ会で知り合って、趣味が似てるから友達になりましょうって言われたの」
「下心、あるんじゃない?」
「ないんじゃない? 彼、結婚してるもの」

 たまさか、話の流れで朝子にはサークルについて語る。朝子は美術などにはなんの関心も持たないので、美術サークルのオフ会があった、程度だ。
 今日は曽野からの電話を朝子が聞いていたから話したにすぎないのに、朝子はえーっ?! とのけぞってみせた。

「それ、遊ばれてるよ。ってか、遊ぶ下心が満々じゃない?」
「どうして? 純粋に友達だよ」
「友達って……三十近い女と、彼、いくつ?」
「四十近いかな」

「アラサーの女とアラフォーの男が友達って、友達になってなにすんのよ」
「だから、一緒に彫刻展を見にいくの。ひとりで行くよりも楽しいし、あとでお茶したりランチしたりして、展覧会の感想を話すのも楽しいんだ」
「その男の奥さん、気を悪くしないの?」
「さぁ?」

 奥さんのことなんか、考えてもみなかった。

「友達って、男と女が友達でなんかいられるわけないでしょ。キミちゃんはかまとと?」
「かまとと? すごい死語」
「死語かもしれないけど、私の言いたいことはわかるでしょ」
「そうかなぁ。私には男友達はいっぱいいるよ」
「まっ、ふしだら」

 職場でのランチ友達というスタンスなので、朝子とはそう深い話をしたことはなかった。男友達イコールふしだら、の発想には希美香がのけぞりそうになった。

「私は大学のときには合唱部に入ってたから、そのときからの男友達はたくさんいるよ。学生時代の友達っていうのもふしだら?」
「学生時代だったらまだいいっていうか、キミちゃんはなんとも思ってなくても、むこうは下心があったんじゃないかな」
「朝子さんは男性と知り合うと、即、下心って思うの?」
「あるでしょ、そりゃ」

 自惚れじゃない? ってか、傲慢じゃない? と希美香は思うのだが、自信ありげに言い切る朝子を見ていると言えなかった。

「曽野さんは彫刻のほうでは私と友達になろうって言って、エッチングだのリトグラフだののほうでは別の女性と友達になろうって言ってたよ」
「美術サークルは女性が多いの?」
「まあ、そうだね」
「その男、そういう下心でサークルに入ったんだよ」

 なにを言ってもそう受け取るのであれば、話は平行線をたどるしかない。
「キミちゃんがそういう浮ついた気持ちでいると、会社の男にも狙われるよ。悪いことは言わないから曽野って男とも別れなさい。不倫は駄目よ」

 別れろって……朝子の発想はいちいち不可解で、希美香としては、放っておいてくれない? とも言えず、曖昧にほほ笑んでいるしかなかった。

「どうだった、キミちゃん?」
「ちょっとむずかしかったけど、よかったですね」
「うん、ほら、あの、インドネシアの女性が出品していた像、胸にびーんと響いたな」
「私もあれ、好き」

 日曜日、現代彫刻展に出かけていって、帰りにはランチを食べてふたりで話した。いつもと同じに会話は色っぽい方面になどまったく向かわなくて、希美香としてもたいそう楽しいひとときだった。

 帰宅して、希美香はパソコンに向かった。曽野と知り合った美術サークルのサイトに、今日の感想を書き込もうと思ったのだ。そのサイトは企業の大きなウェブサイトの一部であって、そこには悩みの相談コーナーみたいなものがある。希美香はふとそこをクリックしてした。

「夫には女友達が大勢います。
 話の合いそうな女性には夫が声をかけて、お茶を飲んだりランチをしたりしています。
 友人のやっている喫茶店の常連になっていて、そこでナンパしているようなのですが、夫は、女性の友達と話してると面白い、異性の友人は大切だ、きみも作れよ、と言います。
 男友達も大勢いる夫ですが、私はやはり女友達というともやもやしてしまいます。
 心が狭いのでしょうか」

 そんな質問に目が留まり、つい読んでしまったのは、朝子の言葉がひっかかっていたからもあったのだろう。質問にはレスがいくつもついていた。

「心が狭くなんかありません。あなたのもやもやは当然です。
 ご主人、いやらしい」

「いい年した男と女が友達って、あり得ない。
 いったいなにやってんの? 気持ち悪い」

「あわよくば、不倫しようと思ってるのはまちがいないね。
 なんでそんな男と結婚したの?
 離婚しなさい」

 そのようなレスのオンパレードで、希美香は絶句してしまった。
 曽野は妻については、休日に外でランチしてきてくれると楽でいいわ、と言っている、としか話さなかったが、もしかしたらネットで不特定多数に向かって、こんな相談をしていたりして?

「世の中、恋愛体質のひとが多いのかなぁ」

 でなければ、こんな発想はしない。こんな発想はしない自分が珍しいのか? 曽野との友達づきあいを誤解する人間もよくいるらしいとだけは、自覚しなければならないようだった。

次は「す」です。

「主人公について」

蛇足ながら、小さなストーリィの各主人公について補記しておきます。
彼女もまたフォレストシンガーズの出身大学、合唱部の一員だった榛名希美香です。
シゲとは親しくしていた榛名詩織のいとこです。






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