ショートストーリィ(グラブダブドリブ)

グラブダブドリブ・司「I appreciate it」

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グラブダブドリブ

「I appreciate it」


 ドアを開けたら、みんなが俺に気づいたらしい。クラッカーがはじけ、モールや金銀と色とりどりの紙ふぶきのようなものが降ってきた。

「司、おめでとうーっ!!」
「デビューおめでとうーっ!!」
「グラブダブトリフュだっけ?」
「グラブダブドリブだよっ!!」

 学生時代の剣道部仲間たちが、口々に祝福の言葉を浴びせる。みんなは先に集まっていてできあがっている奴もいるのか、俺に近寄ってきて頭からシャンパンをかけようとした男を投げ飛ばしてやると笑い声がはじけ、シャンパンの泡は本人の顔ではじけていた。

「ビールにする?」
「ローストビーフもあるよ。シャンパンがいい?」
「沢崎くん、ほんと、おめでとう」

 剣道部なのだから部員は男の割合が高いのだが、女もいないでもない。甲斐甲斐しく俺に世話を焼きたがる女たちが、料理を皿に盛ってくれたり、酒のグラスを渡してくれたりする。

 年頃の近い部員たちで、おまえのデビュー祝いをしたいって言われてるんだ、出席できるか?
 連絡してきたのは真柴豪、豪も俺と同じ剣道部で同い年で、評論家になっている南恭一郎と三人、三羽烏とも呼ばれていた。おまけに豪は我々グラブダブドリブのプロデューサーでもあるのだから、今回のパーティの発起人をとつめるのも自然だろう。

 おそらくは豪と恭一郎が主になって計画を立てたのだろうと俺は思い、遅れるかもしれないけど必ず行くと答えた。なのに、豪も恭一郎もいないようだ。

 しようがないので、寄ってくる女たちと喋ったり飲んだりしていた。大学の部活動なのだから、三つ以内の年齢差の者しか知らない。こんな女、見たこともないな、こんな男、いたっけ? こいつはどう見ても四十すぎてるだろ、誰だ? マスコミ関係者か?

 そうとしか思えない者もいたが、デビュー間もないロックバンドのメンバーの、プライベートな祝いの会に潜入取材をしてもメリットもないだろう。ネタ探しのフリーライターなんかだったらどうってこともないので、自由にさせておこう。

「沢崎さん、ギター、弾いて下さいよ」
「いいね。ギター、むこうにあったよ」
「ギターの弾き語りっていうの? やってやって」
「おー、いいな。津軽海峡冬景色、歌ってよ」

 おまえらは俺をなんだと思ってるわけ? 剣道部出身とはいえ、俺はロッカーだぜ。ロックバンドのベーシストが、なんだって「ギター」で「津軽海峡冬景色」を弾き語らないといけないんだ?
 二十代が大半だろうに、ロックと演歌の、ギターとベースの区別がついてないのか? 俺は不機嫌にならないように、あとでな、とか言ってごまかしていた。

「きゃっ、藤波さん?」
「ええ? 藤波さんがいらしたの?」
「きゃああ、藤波さーん、嬉しいっ!!」

 急に俺の周りから、波が引くように女の子たちがいなくなってしまった。俺なんかはこれから売れたらいいな、売れるかどうかわかんないな、段階のミュージシャンだが、藤波のトシさんだって役者としては駆け出しだ。藤波俊英、俺よりも二年年上の剣道部の先輩である。

 世間的には若きプロデューサーでもありソングライターでもある真柴豪がもっとも有名なのだろうが、彼は裏方なのだから、知らない者はまったく知らない。トシさんだって有名ってほどでもないが、なにせ彼は学生時代から女の子には超人気だった。

 二年年上なので、豪と恭一郎と俺が一年生の年には、トシさんはすでに役者としてぼちぼちテレビや舞台にも出ていた。それでなくても、三年生の藤波さんはよその女子大生にまでファンがいて、剣道部の練習を見学にきたりもしていた。

 四年生になるとキャプテンになったトシさんは、剣道の腕もむろん学内一。うちの大学だけではなく、剣道の大学選手権でも優勝の常連だった。しかも役者でもあるのだし、ルックスは抜群なのだから、学校内にも外部にも名前を鳴り響かせていたのだった。

 豪だってかなりかっこよかったし、在学中にロックバンドを結成してデビューも果たしていたのだが、トシさんにはかなわなかった。先輩にあれだけの男がいるんだから、ま、しようがないわな、だったのだ。

 現在も世間的には藤波俊英は大スターではないが、わが母校の関係者の中ではスーパースターだ。女の子たちは彼を取り囲み、きゃあきゃあ騒いでいる。俺としては静かでいいか、というような、癪なような気分だった。
 
「司、おめでとう。豪と恭一郎は来てないのか? ああ、わかったから、俺は司に祝いを言いにきたんだから、ちょっと離れてくれ」

 言われた女の子たちは素直に一歩下がる。トシさんには風格もあるんだよなと思いながら、俺は彼に深く礼をした。

「ありがとうございます。豪と恭一郎は来てないみたいなんですよ」
「忙しいのかな。ほい、これ」
「あ、いただけるんですか。そんな気を遣わせて……ありがとうございます」

 こんなところをうちのメンバーに見られたら、口あんぐりになられるのではないだろうか。
 傍若無人なロックンローラー。世間のひとだってそう思っている。うちの剣道部仲間だって、演歌とロックの区別のついていない奴もそう思っているだろうが、運動部出身者なのだから俺のふるまいはわかりやすいはずだ。

 フィリピンと日本のハーフで、慇懃無礼という名の衣装をまとった中根悠介。
 傲岸不遜唯我独尊、俺が宇宙のナンバーワンだと平然と言い放つ、イギリス人のジェイミー・パーソン。
 のほほんとしていてなにを考えているやらわかりづらい、アメリカ人のボビー・オーツ。
 無口でぶすっとしていて、時には俺にも不気味に映る、同じくアメリカ人のドルフ・バスター。

 グラブダブドリブにはこの四人がいる。俺だって彼らには、直情径行無愛想のきわみ、リーダーの役割を与えておかないとはねっかえってどこへ飛んでいくか……と思われている奴だ。なのだから、先輩にはこんな態度でいると知られたら、呆れたあげくに笑い出して悶死しかねない。

「……これは、折り畳み式竹刀?」
「そうだよ。ロックバンドってのは旅に出ることも多いだろ。長い竹刀は持っていけないだろうけど、これだったら携帯に便利だ。司、鍛錬は怠るな」
「はい、ありがとうございます」
「聞こえてたよ。津軽海峡冬景色か。俺が歌っていいか」

「あ、はい、どうぞ」
「おまえ、ギターは弾けるんだろ」
「弾くだけだったら弾けますよ」
「じゃ、伴奏しろ」
「はいっ」

 本業は役者だが、トシさんは歌もうまいのだった。誰かがギターを借りてきて、トシさんにはマイクも渡される。カラオケではなく、グラブダブドリブの沢崎司のギター演奏による、藤波俊英の「津軽海峡冬景色」。誰かが録画でもしておいて、双方がいずれスターになったらお宝映像になりそうだ。

「素敵……」
「上手だねぇ。いい声だわ」
「ああ、もうたまんない。私、藤波さんに抱かれたい」
「そんなの、抱いてもらえるものだったら私だって……お金払ってもいいほどだよ」
「なに言ってんだよ、きみらは。はしたない」

 うっとりしすぎてとろっとなっている女たちの声の中に、豪の声が混じっている。恭一郎の声も聞こえた。

「主役は司のはずだろ。お株を奪われちまったな」
「しようがないさ。トシさんに勝てる奴はいないもんな」
「うんうん、俺だったらホテル代もメシ代もこっち持ちで、つきあうよ。どう? なっちゃん? みっちゃんでも、どっちでもいいよ」
「こらこら、恭一郎、どさくさにまぎれて……あぶれたほうは俺にしとく?」

 まったくもう、おまえらは、と俺はがっくりする。豪も恭一郎も、どっちでもいいなんて言う男、お断りよ、とふられていた。
 
「藤波さんだったらそんなこと、言わないもん」
「私たちがこんなふうに言ったら、叱るんじゃないの?」
「同じ男でもえらいちがいよね」
「あ、藤波さんが私を見てる。失神しそう……」

 スターにきゃあきゃあ言う女がふたりも三人もいて、競うように口説かれたら俺だってお断りだが、いい女がたったひとりでトシさんを見つめたら……俺としてもそんなときにトシさんがどうするのか、たしかめてみたくなってきた。もっとも、俺には実験台にはなれないのだから、どうしようもないのだが。

END







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NoTitle

いつの時代も祝われることは良いことでしょうね。。。
・・・と言ってみますが。
生来、性格がシャイなもので、
祝われることがとても恥ずかしい性格なんですよね。
。。。だから、親しい人には誕生日にお祝いしないでくださいとあらかじめ言っていたりします。

LandMさんへ

いつもありがとうございます。

誕生日はこの年になると嬉しくないですけど、家族にも「めでたくないよね?」なんて言われますので、ネットで知り合いの方にお祝いを言っていただいたりすると嬉しいです。

でも、祝われることは恥ずかしいってお気持ちはわかりますよ。
私は自分の小説について、こうしてネットでご感想やご意見をいただくのはとてもとても嬉しいのですが、リアルで話題にされるとちょっと恥ずかしいです。
ほんとは嬉しいのですから、自分の小説について話題にするのは大好きなんですけど、「恥ずかしい」っていうのはちょっと不思議な感覚ですよね。

嬉し恥ずかし、なんてのもあるのかもしれません。
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