連載小説1

「I'm just a rock'n roller」17

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「I'm just a rock'n roller」

17

 とりたててショックでもなかった。そういうことなのね、武井さんは私とのデートはキャンセルして、香苗ちゃんと会ってたんだ。そりゃあね、私なんかと較べたら香苗ちゃんは百倍、千倍、一万倍も魅力的だもの。

 デートの約束がなくなったのもあって、恵似子は香苗のマンションを訪ねようとしていた。香苗はなにかと忙しい身だから、いないかもしれない。いないんだったら帰ればいいつもりで、電話もメールもせずに香苗のマンションの最寄りの駅までやってきたのだ。

 よりにもよってこんな偶然、神さまって意地悪だな。ううん、知ってよかったのかもしれない。知らないままで武井さんとつきあっていたら、とんだ道化になるところだった。

 先に地下鉄から降りて階段を上がっていったカップル、あれれ? 武井さんと香苗ちゃん? 胸がどきーんとして、ついていくのはやめようかと思った。なのについていってしまって、コンビニの裏手に回っていくのも目撃してしまって、キスシーンを見てしまった。

 心臓が轟いてはいるけれど、意外に気分は平静だ。恵似子なんかがプロのミュージシャンである武井伸也とつきあえたのが、なにかのまちがいだったのだ。

「じゃね、バイバイ」
「うん、おやすみ。気をつけて」

 コンビニのほうから出てきた香苗が、伸也に手を振って歩いていく。伸也は香苗の背中を見送っている。一緒に帰らないんだ。泊まったりするような仲ではないんだ。そうは思ったが、つきあいが短いからまだそこまでではないのだろうと、恵似子はひとりでうなずいた。

 しばらくたつと、伸也は地下鉄の階段を下りていく。遠くに香苗の後ろ姿が見える。ふたりともに恵似子には気がついていない。

 どちらを追うのもやめておいて、恵似子は闇雲に歩き出した。
 どうしたらいいのかな。男のひととつきあうのははじめてだから、ふられるのもはじめてだから、私はどうしていいのかわからない。伸也に連絡するのを一切やめれば、自然消滅するのだろうか。キスしていたのを見ていたと言って、伸也を詰るとは考えもできなくて。

 だって、私みたいなださい女の子とつきあってくれたんだから、私はとっても楽しかったんだから、武井さんに感謝こそすれ、責めるなんて筋違いだ。東京で暮らした一時期の、青春のひとこまだったにすぎない。胸のうちにしまって、私は武井さんとさよならしよう。

「悲劇のヒロインじゃないんだから、恵似子、あんたにはそんなの、似合わないよ」

 ひとりごとを言って歩き続けていると、涙が出てきた。
 今夜は夕食はすませていたのだが、空腹になってきた。伸也のためにダイエットしようと、彼と交際をはじめたころから食事の量は減らしている。効果が出ないのは悲しかったが、これ以上太るよりはいいだろうとダイエットに励んでいた。

 なのだから、慢性空腹状態だったのかもしれない。ひと駅ほどはすでに歩いた。歩いてカロリーを消費したんだし、もう武井さんのために綺麗になりたいと考える必要もないんだから、食べよう。食べたら失恋なんてまぎらわせる。

 そのつもりで、都会ではいくらでも見かけるコンビニの一軒に入った。
 バイト先のケーキ屋で売れ残りのケーキをあげると言われても、ダイエットの大敵だから我慢した。彼氏でもできたの? と冷やかされるのがいやで、医者に止められてるんです、と嘘をついたから、近頃は恵似子はケーキはもらえない。

 我慢をする必要はなくなったのだから、コンビニスイーツとチョコレートを買う。甘いものばかりではなくて口直しもほしいから、サンドイッチとおにぎりも買った。

 外に出て再び歩き出す。疲れた身体に、傷ついた心にスイーツがしみ通る。チョコレートを一粒ずつ食べながら歩いていると、なぜかまたしても涙が出てくる。雨もぽつぽつ降ってきた。子どもでもないのに泣きながら歩いていると変に思われるだろうから、雨が降ってきたほうが好都合だった。

つづく








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