ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS冬物語「吹雪の山荘」

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フォレストシンガーズ

「吹雪の山荘」


1・隆也

暖炉の火が燃えている居間、ロッキングチェアとブランディ、慣れぬ葉巻をくゆらせて大書の推理小説を読む。真冬の夜の至福のひとときだ。

 手にしているイギリスミステリでは、吹雪く山荘が舞台になっている。
 山荘には人間が十人いて、雪に閉じ込められて皆、身動きが取れない。そんな中で殺人事件が起こる。古い時代だから携帯電話もパソコンもなく、電話線は遮断されて陸の孤島となり、下界から孤立してしまう我々の山荘。ロマンだなぁ。

 薪のはぜる音、凶器にもなれば武器にもなる、憩にも癒しにもなる火が燃える。葉巻とブランディのふくよかな芳香に包まれて、陶酔してしまいそうだ。

 ふと手を止めて耳を澄ませば、深々と降る雪の音。俺はケータイなんか持っていない、山荘にはパソコンもない。いや、本当はあるけど、ないことにしておこう。
 この部屋には俺ひとりきり。いや、本当はいるけど……想像にしてもひとりでは殺人事件が起きないから、寝室に美女がいることにしようか。

 彼女は俺が来るのを待っている。隆也さん、遅いな、私がほしくないの? 早く来て、私を抱いて、隆也さん、私、餓えてしまいそうよ。ベッドで悶々と身をよじり、すねてみたり、ふくれてみたりしながら俺を待つ、可愛いひと。

「待ちくたびれちゃったわ。私、寝るからね。隆也さんの意地悪」

 呟いて目を閉じた彼女は、いつの間にやら眠ってしまう。彼女を十分に焦らしてから、俺はやおら立ち上がり、寝室へと向かう。眠ってしまったの? 怒ってる? 声をかけて抱き起そうとした彼女は絶命していた。

 なーんてシチュエイションを妄想したりもしながら、俺は推理小説を紐解く。雪降る山荘で読むにはうってつけで、一種ファンタジーのようでもあった。
 

2・繁之

 めいめい勝手なことをしている仲間たちは、いつになく静かだ。乾さんも幸生も喋らない。章も本橋さんも黙っている。

 作詞や作曲をする能力はないし、本を読むと眠くなってしまいそうだし、酒はちびちび飲んでるし、テレビってのも無粋だし、妻にメールをするとか、息子に電話をかけるとかはさらに無粋だろう。俺はなにをしようか。腹が減ってきた。

 こそっと台所に立っていく。妻は基本的に専業主婦だし、料理が上手で大好きなので、家庭では俺の出る幕はない。休みの日にだって息子と遊んでいるうちに食卓が整っているから、後片付けを手伝う程度だ。独身のころから料理は苦手だったが、空腹には勝てないからなにかしら作ったことはある。

 結婚してからだって恭子も働いていたころは、自分で作ったこともある。留守にするときにでも恭子は冷蔵庫に食べものを入れていってくれたが……なにを作ってくれたんだったか? ミートパイはうまかったけど、あんなもの、俺には作れないからな。

 男の夜食。あまり重すぎないあたたかなもの。俺は冷蔵庫を開けて考え込む。その上に、俺にも作れる簡単なものでないといけないから、むずかしかった。


3・真次郎

 ピアノがほしいな。パソコンのピアノソフトって手段もあるけれど、俺のこの手でピアノを弾きたい。本格的に作曲するときにはピアノに向かうのだが、ここには楽器はないようだ。

 売れていなかったころには真冬のスキー場のイベントなどに出演させてもらった。スキー場は混雑していて宿も満員で、無名のシンガーズはまともな宿舎を与えてももらえなかった。大学の合宿の男ども大勢と、山田美江子までが同室にされたりもした。

 そのころに較べれば今夜の宿は極楽だ。
 目を凝らせば、窓ガラスに雪の結晶が張り付いているのが確認できる。外は雪。部屋の中にもユキとか自称している奴がいるが、あいつは無視。

「真冬の山荘かぁ。いいなぁ、行きたいな」
「どれどれ? いいな。ここってプロモに使うってこともできそうじゃないか? 下見に行こうぜ」
「みんなで?」
「そうだよ。いやなのか?」
「……いえ、行きます」

 乾がどこかでもらってきた、レンタル山荘のパンフレットを見てその気になった。幸生と章とシゲも乗り気になったので、五人でやってきたというわけだ。

「ああ、吹雪いてきたな。いい感じだ」

 頭の中で鳴り響くのは、「Sviridov - The Snowstorm - Troika 」。俺もこんな曲を作りたくて、音符をつかまえようと吹雪の中を走っている気分になってきた。

 
4・幸生

 でっかい怪獣に窓辺を占拠されたので、俺は小さめの窓を背に、部屋の中を見回す。

 安楽椅子探偵みたいに、ロッキングチェアにすわって葉巻を喫い、ブランディグラスとハードカバーの本を愛でている乾さん。普通の煙草のにおいは嫌われるが、葉巻ってのはいい香りだ。俺も吸いたいのだが、また誰かに、赤ん坊が哺乳瓶をくわえているみたいだ、と言われるだろうか。

 窓から雪を見ているでっかい怪獣は、言わずと知れた我らがリーダー。本橋さんも乾さんもなにを考えているのか知らないが、本橋さんのほうは吹雪の中をこの山荘に襲い掛かってくるゴジラになった夢でも見ていそうな?

 シゲさんはいない。寝ちまったかな?

 いちばん寝そうな章は、ノートパソコンを広げてなにやらやっている。ソフトを使って作曲でもしているのか。やけに静かだ。
 静かなのはおまえが黙ってるからだろ、と言われそうなのは、俺が一番ではある。俺は窓に向き直り、外を見やった。

 真っ白な夜の中を山荘に向かって歩み寄ってくる白い女。雪女?
 歩み寄ってくるのは白い車。山荘を占領してから地球征服をたくらむエイリアンの車?
 空から舞い降りてくるのは雪の妖精か。俺たちを餌にしようとしている怪鳥か。
 ……どうもイマジネーションがホラーになってしまう。

 音楽、かけたらいけないのかな? 邪魔なのかな? 邪魔っていえば俺のお喋りも? 喋りたくて口がむずむずしてきた。誰か俺と話をしようよ。でないと口の中が干潟になって、ムツゴロウが飛び跳ねるじゃないか。


5・章

「えーっと、こんなものを作ったんですが……」
 その声に顔を上げると、シゲさんが大きなトレイを手に、みんなのいる部屋に入ってきたところだった。うまそうな匂い、あったかそうな湯気。俺はシゲさんの手からトレイを取ってテーブルに運んだ。

「グラタン? シゲさんがひとりで作ったの?」
「恭子さんに電話で教えてもらったとか?」
「いや、これだったら作れますよ」

 質問した乾さんに、シゲさんは照れた顔で答える。乾さんは料理が得意だが、シゲさんと本橋さんは奥さんに丸投げのはず。幸生も俺も休みだったりするとろくなものを食っていない独身だが、シゲさんのグラタン、食っても大丈夫なのだろうか。

「俺は腹が丈夫にできてないから……いくら休暇でも……外は吹雪でしょ。医者に行くのも大変そうだし……てっ!!」
「失礼だろ、章」
「そりゃあね、リーダーやシゲさんは鉄の胃袋を持ってるんだから平気でしょうよ。俺は平気じゃないんだから……え? 幸生、おまえも腹は丈夫じゃないだろ。乾さんも……食うの?」
「つべこべ言わずに、男は黙って出されたものを食うんだ」

 なにやら決意しているような顔をして、乾さんがスプーンを持つ。幸生も本橋さんも食おうとしているので、俺は片手でリーダーに殴られた頭をさすりながら、恐る恐るグラタンを口にした。

「マカロニが固くないですか? うげぇ、消化不良になりそうだよぉ」
「おまえはつべこべうるせえんだよ」
「そうだよ、章。グラタンってものはまだ煮えてる状態なんだから、食ってるうちにマカロニがやわらかくなってくるんだ」
「わぁ、シゲさん、でっかいチキンが入ってる。ヴォリューム満点だね」
「いえ、あの、無理して食っていただかなくても……ほんとにマカロニ、固いですね」

 玉ねぎも生っぽいし、粉チーズもかかっていないし、なにより生煮えマカロニが俺の腹を刺激する。夜中に腹が痛くなるのかと恐怖だった。

 冷蔵庫に玉ねぎとチキンと、ホワイトソースの缶詰が入っていた。マカロニもあったから、これだったらグラタンだと思いついたと、シゲさんが恐縮している。作ってくれたのに恐縮させては悪いし、俺はさっきからひとりで文句ばかり言っているのに気づいたので、言ってみた。

「味はいいですよ。ま、そりゃ、缶詰のホワイトソースなんだから……いやいや、マカロニもちっとやわらかくなってきたかな。それに、シゲさん、この料理は外の景色にぴったりだよ」
「白いもんな。章、外に出て食う?」
「アホか、おまえは。凍死するだろ」
「ユキちゃん、闘志が湧くわぁ。そんな俺に投資しない? いやん、えっち」
「えっち?」
「ユキの服の中を透視してるでしょ? 章ちゃんってえっち」

 得意の漢字シャレを展開している幸生に、アホらしくてこれ以上は言い返す気にもならない。
 窓辺にもたれて黙ってなにやら考えていると思ったら、幸生の頭の中には漢字がぽこぽこ浮かんでいたのか。どうせだったらそれを詞にしろよ。

「章はパソコンでなにやってたの?」
「ゲームだよ」
「遊んでたのか」
「遊んでたら悪いのかよ。おまえはなにを考えてたんだ?」
「いやぁ、ホラーがね、実現しちゃったかも」
「ホラーが実現?」
「シゲさんに悪いから言わない。シゲさん、おいしいわ。ユキちゃん、幸せよ」

 なにがそんなに幸せなんだ? と訊き返す本橋さんも、このグラタンが美味だから、とは結びつけていないのだろう。乾さんが幸生をじっと見てから言った。

「おまえは黙ってると、口の中が干上がってくるんだよな。シゲがグラタンを作ってくれたおかげで、口が動かせて幸せ、だろ?」
「さすが乾さん。そうよん、ユキ、幸せだわ」

 口を動かすんだったら歌うほうがいいな、と俺は言いたい。腹が痛くならないだろうか、などと心配しなくてすむように、歌おうよ。外は吹雪、中はあたたかなこの山荘で歌う曲はなに? そんな議論をしていれば、俺だって幸せになれそうだから。


END






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~ Comment ~

久しぶりです。

タイトルから観てサスペンス小説のような印象を受けました。
ファレストシンガーズ初のサスペンスの話かなって思ったりします。
そう言えば人気グループのドラマを放送する時は青春ものもあれば、サスペンスものもあったりしますね。

先日事実上の終焉を迎えたSMAPも五人全員で、青春ものやサスペンスものもありましたね。サスペンスものでは「古畑任三郎VSSMAP」が好きですね。
スマスマ最終回は最後らへんを観ました。中居君の涙は印象的でした。でも結局なんかすっきりしない終わり方でしたね。
今年初めから騒動となり、今年はSMAPによって芸能界の闇の部分が見えた一年でもあります。
SMAPを観てフォレストシンガーズの事が心配になったりもしたくらいです。
始まりもあれば終わりもありますが、世間にちゃんとした終わりを示せてほしいですね。
私の持論ですが、何事にも終わり方って大事だと思いますから。

ピアノのソフトって聞いた事ありますが、ピアノの経験者はやはり自分の手で奏でたいと思うものですね。

今年も色々とお世話になりました。来年もよろしくお願いします。良いお年を。

想馬涼生さんへ

コメントありがとうございます。
このところみなさまのサイトへの訪問をさぼっていまして、まことにすみません。

「吹雪の山荘」というのは、ミステリのジャンルのひとつですね。
私の書いたこのストーリィは、ミステリでもサスペンスでもないのですが。

古畑任三郎とSMAPの番組は見ましたよ。
西村雅彦演じる古畑さんの部下が、SMAPが悪いことをするはずがない!! と思い込んでいるその純情さ、可愛いといいますかなんといいますか、あそこが印象に残っています。

日本はテレビ社会ってことなのでしょうかね。
有名人の中では芸能人がトップで、テレビによく出る芸能人は誰でも知っていて、長年売れている人はその中でも別格で、そんな感じですね。

紅白にSMAPが出ないのがどうとかこうとか、なんて話題にもなっていましたが、私としてはどっちでもいいんじゃないかなぁと。
SMAPロス症候群なんてのもありそうですね。

私のほうこそ、今年もお世話になりました。
来年はブログ活動ももうちょっと活発にする予定ですので、あいかわりませずよろしくお願いいたします。
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