ショートストーリィ(フォレストシンガーズ)

FS冬物語「鬼は外」

 ←バトン・最愛オリキャラ1 →「I'm just a rock'n roller」16
フォレストシンガーズ

「鬼は外」


 真っ暗な中に外灯がぽつりぽつり。真冬だと稚内のほうが夜は明るいなぁと思い出しながら歩いていると、子どもの声が聞こえてきた。大学一年のときから住んでいるアパートのある町は、収入の少ない所帯が大半なのだろう。築何十年だというような古いアパートや、文化住宅だね、と母が言っていた小さな家が建ち並んでいる。

 そういった町だから若い夫婦や子どもも多くて、外でガキが騒ぐので休みの日には寝ていられなかったりする。もっとも、俺はガキの叫び声くらいでは目が覚めないので、この体質はうるさい町には向いているのかもしれない。

「鬼は外、福はうちっ!!」
 叫び声と一緒に、窓からばらばらっとなにかが飛んできた。この寒いのに窓を開けて豆まきか。時計を見ると午後十一時。まだ節分の日だ。

「鬼……きゃああっ!!」
 窓から覗いた子どもの顔に、がおっとやってやったものだから悲鳴を上げられた。変質者がっ!! 警察っ!! と母親が騒いだりしたら大変なので、走って逃げた。

 稚内では二月は寒すぎて窓を開けて豆まきなんてできなかったが、何歳の年だったか、節分に親父の会社の人間が遊びにきて、ほんの幼児だった俺は散々におもちゃにされた記憶がある。誰かが鬼の面をかぶって俺を脅し、俺は母にしがみついて泣きわめき、親父は親父で、男のくせに泣くな、と俺を叱り。

 やっぱあのころのほうがのどかだったよな。今どきはなんでも変質者だっていうんだから。俺が公園で作曲をしたり、ハードロックをがなったりしていても、子連れの主婦たちがひそひそやっていやな目で見る。変なおじさんに近寄らないようにね、と子どもに注意している母親もいる。

 自分がガキのころのことを思い出し、今どきの可愛くないガキも思い出しながら歩いていくと、いつも来るコンビニにつきあたった。

 はじめてのフォレストシンガーズ単独ライヴが近づいてきていて、今夜もその打ち合わせだった。
メジャーデビューしてから約一年半、ようやくワンマンライヴができるようになって、先輩たちは燃えている。打ち合わせが長引いて疲れすぎたから、食事はせずに帰ることにした。あとの四人はどうしたのか知らないが、俺は仕事のあとまであいつらの顔を見ていたくない気分だったのだ。

 ワンマンライヴといっても予算が乏しいせいか、プロデュースはリーダーの本橋さん担当だ。俺はハードロックをやりたいな、と言いたくて言えなくて鬱屈したり、どうせ客なんかろくに入らないのに、と言って本橋さんを怒らせたり。

 議論が白熱しすぎて喧嘩みたいになったりもする。常にへらへらしている幸生だって、音楽の話になると激してくる。あいつは先輩が相手でも言いたいことは口にする。さらっとけろっと、リーダー、そんなの変だよ、センスないんだから、などと言うものだから、俺がぎょっとしてしまう。

 そんなこんなで俺は疲れたってのに、幸生は今ごろ、先輩たちと飲みにいっているのかもしれない。本橋さんと乾さんに囲まれて、昼間は毒舌を吐いたことも忘れて、上手に甘えて取り入っているのかもしれない。

 疲れているせいで幸生をも悪く考えてしまう。小さなことが積み重なって、今夜の俺は乾さんも本橋さんも嫌いだ。幸生も嫌いだ。

 誰かを嫌いでも腹は減る。コンビニに入っていくと、この時間なのだから食いものはあまり残っていない。から揚げと天ぷらそばとおでんを選び、レジに行くと豆を売っているのを発見した。幸生の台詞も思い出した。

「有名な大きな神社だと有名人の年男、年女を招いて豆まきしてもらうだろ。十年後あたりには俺たちにも声がかからないかな」
「豆まきなんかしたいか」
「有名な年男として招待されて、テレビに映ったりするんだったらやりたいよ」

 そういえば今年は、幸生と俺は年男だ。当然、フォレストシンガーズにはそんな招待はかけらもなかったのは言うまでもない。

 袋に入った豆も買ってコンビニから出る。

 たらたら歩いてアパートに帰って、天ぷらそばとおでんを電子レンジであたためる。ビールを飲みたいけど、明日も仕事だ。酒には弱い俺は酔って寝過ごして遅刻という失態をやらかしたこともあるので、休みの前にしか飲まない。例外はあるが。

 熱いソバとおでんは身体をあたためてはくれるが、心はあったまらない。こたつにもぐって、乾隆也のバカヤローと毒づいてみた。

「俺はこうやってちゃんと自分を律してるじゃないかよ。寝坊しないように仕事の前の日には酒は飲まないし、目覚まし時計だって三つも使ってるんだぜ。それを、なんだよ。二十四歳にもなろうって男をつかまえて、章には教育が必要だな、なんて言いやがって。てめえは何様なんだよっ!! くそくそくそ」

 ぶつぶつぼやいていると気分がなおさらネガティヴになる。フォレストシンガーズに入って以来、俺はこいつらとやっていけるんだろうか、と考えたことは数知れずだが、今夜もその気分に落ち込んできた。酒が飲みたい……俺はアル中かよ、ちがうっての。だけど、酔って寝たいなぁ、時間なんか気にせずに寝たい。

 いいや、仕事があるのはありがたいじゃないか。歌える仕事、ワンマンライヴのリハーサル、はじめてのソロアルバム、歌手らしい仕事ができるんだから、朝寝坊をしている場合じゃないんだよ。

 これでロックが歌えたらなぁ。カラオケに行ってひとりでがなるって手もあるけど、仕事としてロックを歌いたい。シャウトしたい。肝心なその部分がまったくかなえられていないから、俺は鬱屈しているのだ。

「俺たち、ロックバンドじゃないもんな。ロックバンドだとしたら、俺がちょっとぐらいいい加減な奴だとしてもみんなは笑ってるよ。教育するだなんて誰も言わねえよ。くそくそ」

 またもやぼやきループにはまりそうだったので、コンビニの袋から豆を引っ張り出した。炒り豆、大豆。稚内の家ではもう豆まきなんかやらないかな。弟の龍も十二歳になったはずだから、そんなガキっぽいこと、やりたくもないよな。

「うん、でも、俺はやる」

 ストレス解消になるかもしれないんだから、俺はやる。袋から豆をひとつかみ取り出して、幸生にだったら、言うと思った、と笑われそうなシャウトをやってみた。

「鬼はーっ外っ!! 鬼の名前は乾隆也っ!! 鬼は外っ!!」

 ただし、近所迷惑にならないように、口に座布団を押しつけて叫んだのだった。

 
 AKIRA/23歳/ END







スポンサーサイト



【バトン・最愛オリキャラ1】へ  【「I'm just a rock'n roller」16】へ
  • Tag List 
  •  * |

~ Comment ~

NoTitle

章君、隆也君にお説教を食らっちゃったんですね。
あんまりまだ本編を読み進めていなのでよく分かってはいないんですが、確かに合わなさそうですよね、章君と隆也君って(笑)

有名どころな神社とかだと豆まきの神事に有名人をご招待とかって確かによくありますよねー。
彼らが有名になったころには呼ばれる事もあったのかもしれませんね!

そんな日を夢見て隆也鬼に心の中で豆をぶつけながら頑張れ、章君!!

  • #2149 ぐりーんすぷらうと 
  • URL 
  • 2014.02/12 01:19 
  •  ▲EntryTop 

ぐりーんすぷらうとさんへ

いつもコメントありがとうございます。
この時期の章はまだほんとに子どもといいますか、三十すぎても子どもなんですけど、先輩たちに怒られてばかりいます。

ぐりーんすぷらうと さんもやっぱり、章と隆也って合わなさそうと思われます? そうですよね。書いている私は章寄りの性格ですから、隆也みたいな奴が近くにいたら……ああ、やだやだ、ですもの。

この次の年男は、彼ら三十六歳、乾、本橋はもうすぐですが、今のところはこの世界では時が止まっていますので、三十六になるころにはスーパースターになっているといいなぁ。壮大な夢ですね。

ぐりーんすぷらうと さんに応援してもらって、章も百人力です。
はい、がんばります(^_-)-☆

管理者のみ表示。 | 非公開コメン卜投稿可能です。

~ Trackback ~

卜ラックバックURL


この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

  • 【バトン・最愛オリキャラ1】へ
  • 【「I'm just a rock'n roller」16】へ