ショートストーリィ(musician)

コラボストーリィ(けい&あかね)「ハロー・グッバイ」

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C_0296-740x495サイゴン川

けいさんの小説サイト「憩」
連載小説「夢叶」(なんと読むのか、近くけいさんが明らかにして下さるそうです)の主人公、田島祥吾くんに出てきていただきました。

「夢叶」のあるシーンに、津々井茜って人物が出てくるのですよ。
嬉し恥ずかしだったそのシーンもちょっとだけ踏まえて、こんなこと、あったかもしれないなぁ、というファンタジーのようなものです。けいさん、祥吾くんの登場をお許し下さってありがとうございました。

なお、この短編は小説76(恋に落ちて)からつながっています。


「ハロー・グッバイ」

 ホーチミンの空港まで詩織さんを見送りにきた、というよりも、彼女が帰国するのを見てなにをしたかったのかも自分ではわかっていない。彼女と話せたとしたら、なにを言いたかったのかもわかっていなかった。

 ただ、彼女と夫らしき男の姿を見て勝手に打ちのめされて、俺は空港から出てタクシーに乗った。
 休暇で遊びにきたベトナムで出会った、ゆきずりの女性だ。三十代であろうから、彼女は俺よりは年上。左手の薬指にはまったリングから、既婚者だとは気づいていた。

 なのに、勝手に恋して勝手に打ちのめされて、これぞまさしく横恋慕。
 タクシーの窓から、移り変わる景色を見ている。ベトナムは物価が安い。タクシーも驚くほどに安い。三人乗りしたバイクが横をぶっ飛ばしていくのでひやひやするのも、今の俺にはどうだってよかった。

「止めて」

 日本語で言うと、言葉が通じたらしい。ベトナムでは英語はごく普通に通じる。日本語もかなり通じるが、タクシーの運転手がもっとも英語も日本語も通じないようだ。とはいっても俺は英語は苦手だし、ベトナム語ともなるとお経以上にわからないので、日本語で押し通してなんとかなっていた。

 詩織さんは英語が上手、英語教室の先生だって言っていたから当たり前か。ふたりでタクシーに乗ったり、バスにまで乗ったよね。ここはどこ? これからどうしたらいいの? 適当なバス停で降りてからそんな状態になったのまでが、ふたりきりだったら楽しかった。

 ほんの数日、俺は彼女と恋人同士のつもりだった。彼女は俺をホーチミンでの道連れ程度に考えていたのだろうが、俺は彼女に恋をした。馬鹿だな、夫のいる女性に恋をしたって無意味なのに。

 タクシーを降りて歩き出す。ホーチミンは常夏だから暑い。湿気が多くて、外を歩くとたちまち肌が湿ってくる。ここがどこかなのかも知らずに降りたのだが、風も湿っていると思っていたら大河が見えてきた。

 泥のいろをした大河はサイゴン川だ。風情があるというよりもやたらにでかいと感じる川は、ここは日本じゃないんだな、と俺に教えてくれる。恋をしたような錯覚も、異国情緒に惑わされているせいだ。
 河のほうへと歩いていくと、遊覧船乗り場を見つけた。アジア人も欧米人も大勢歩いている。風さえもが暑い川のほとりに立ってみたら、音楽が聴こえてきた。

「イムジン河 水清く
 とうとうと流れ 水鳥自由に群がり飛び交うよ
 わが祖国 南の地 思いははるか……」

 あ、歌詞が日本語だ。日本人が歌っているのだろうか。ベトナムには日本からの観光客もたくさんたくさんいて、俺も数人の女性と知り合った。他の女性には恋心は抱かなかったのに、詩織さんにだけは……日本人というと詩織さんを連想してしまうのだが、この声は男だ。

 歌のほうへと歩いていってみると、数人の観光客に囲まれている青年がいた。中年夫婦に「イムジン河」をリクエストされたようで、ありがとう、受け取って、と金を渡されて困り顔をしているのは、長身の整った顔をした男だ。背の高い男は嫌いだが、彼の歌には興味があった。

「日本人、だよね?」
「そうですよ」

「リクエスト、聞いてくれるの?」
「お望みがあったら歌いますよ」
「河のそばで歌ってるからイムジン河だったんだね。大道芸人ってわけでもないんでしょ?」
「金がほしくてやってるわけじゃないんだけど、もらっておきました」

 ほら、と彼が見せてくれたのは1000ドン札。日本円にしたら十円にも満たないのだから、立ち去っていった日本人らしき夫婦もわかっていてからかったのか。

「ビートルズがいいな」
「ビートルズのなんの曲?」
「きみの得意なやつをお願い」

 うなずいて、彼はギターを抱える。観光客はひとり、ふたりと去っていき、いつの間にか彼と俺とがふたりきり。彼は明るく高い声で歌ってくれた。

「You say yes, I say no
 You say stop and I say go, go, go

 Oh no
 You say goodbye and I say hello
 Hello, hello
 I don't know why you say goodbye
 I say hello
 Hello, hello
 I don't know why you say goodbye
 I say hello」

 サイゴン河の水は泥のような色、黄土色ともいえるが、夏空は青い。彼の声はこの空のような色合いを持っている。乾さんだったらスカイブルーだというだろうか。同じブルーでも本橋さんのマリンブルーよりも明るく快活で、彼のルックスも明眸皓歯といえるような、プラス思考の青年なんだろうと思えた。

 中学生以下の英語力の俺が言うのはなんだが、彼は英語の発音も素晴らしい。外国暮らしが長いのか、帰国子女というか、帰国していない子女なのかもしれない。歌が終わると盛大に拍手してから俺は言った。

「その歌の歌詞、乾さんが訳してくれたことがあるよ。ああいえばこう言う、みたいな? 表面だけだったらそんな感じの歌詞だよね。章みたいな……俺みたいな……」
「単純に考えれば、人はハロー、グッドバイを繰り返して生きているみたいな?」
「ちょうどたった今のきみと俺のように……ギターもうまいね。歌もものすごくうまいじゃん」
「ありがとうございます」

 彼はすこし、俺よりも年下だろう。こんなところでギターを弾いて歌っているのはミュージシャン志望なのか。旅行者なのか、留学でもしているのか、仕事できているのか。知らなくてもいいけれど、誘ってみた。

「ギャラがわりに、一緒に遊覧船に乗らない?」
「いや、あなたと乗っても……」
「そういう趣味はないか。俺もないから安心して」
「そうですよね。そんな意味じゃないんだけど……あのね、乾さんとか章とかって言ってましたよね。もしかしてあなたは……」
「知ってくれてる? 俺は三沢幸生」
「ああ」

 人通りの激しいところで言ってはいけないとでも思ったのか、彼はその名を口にせずに納得顔になった。日本人も近くにいるかもしれないが、俺たちはそんなに有名ではない。けれど、彼の配慮は嬉しかった。

「三沢さん、遊覧船に乗りたい方はって……ほら、この放送……」
「あ? 英語で放送してるんだよね。俺は英語は苦手なんで、聞き逃すところだった。そうだな。ひとりで乗ってみようか」
「俺は前に一度、乗りましたから。けっこういいもんですよ」
「うん、だったら乗ってみるよ」

 じゃあね、ありがとう、と言って歩き出しながら振り向いて尋ねてみた。

「きみの名前、なんての?」
「田島祥吾です」
「うん、覚えておくよ」

 日本にいるときだったら、ストリートミュージシャンには声なんかかけないかもしれない。異国の地で会った日本人同士だから、その上に音楽に携わる者同士だからシンパシーを感じた。
 きっと詩織さんにだってそうなんだ。異国の地で出会った日本人同士だから、恋に落ちた錯覚にとらわれただけ。

 田島くんが言ったように、シンプルに考えよう。ハロー・グッバイ、人間はそれを繰り返して生きている。これからだってそうして生きていこう。


END






 
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~ Comment ~

NoTitle

わ。三沢さんだ。ユキちゃんだ。って、私が興奮してどうする(^^;)

田島、いちおう敬語使えてる? 失礼の無いように。
ボーカルグループのメンバーにボーカルを褒めてもらうのは嬉しいですね。

スカイブルーに明眸皓歯(めいぼうこうし・読めなくてググッた)だなんて。
ありがとうございます。

サイゴン川かあ、叙情的ですねえ。
てか、ユキちゃん、ちょっと傷心なのね。
ビートルズ聴いて、元気出してね。

ここではニアピンのハロー・グッバイ。
このちょっと加減が良かったです。
どこかで再会できると良いなあ^^

NoTitle

わあ、田島君が登場だ。なんだかうれしいコラボですね。
この惚れっぽくてちょっと軽い一人称は誰だろう…と思っていたら、ユキちゃんでしたか^^。
日本では声を掛けなくても、異国ではなんか吸い寄せられてしまいますね。
ユキちゃんが傷心だったのと、田島君の明るい前向きなオーラと歌の力でしょうか。
一緒に仲良く遊覧船・・・乗らなかったのね。
いや、ユキちゃんが田島君に惚れ込んだら困るから、このくらいがちょうどいいのかなw

けいさんへ

自分で書きたいと言ったくせに、書いておいてなんだか不安でしたので、田島くんの産みの母、けいさんに納得していただけて嬉しいです。
安心しました、ありがとうございます。

けいさんに相談していたときには、乾隆也と田島くんの遭遇シーンが浮かんでいたのですよね。
それが、あれこれ考えているうちに章に変わりまして。

「だけど、章って田島くんに会ったら対抗意識を燃やして悪口言うんじゃない?」
「言ったらいけないのか?」

などと章が反抗するものですから引っ込めて。
どうも本橋くんでもシゲでもない。
となると……ああ、ユキちゃん、ベトナムで失恋したよね、あのときに会ってたんだよね、とやっとストーリィがつながったのでした。

今回はほんとにほんの短いシーンでしたので、いつかまた、けいさんの世界で再会できたりするといいですね。
田島くん、私の頭の中に出てきてくれてありがとうv-238

limeさんへ

産みの親のけいさんに続きまして、田島くんとフォレストシンガーズを両方とも知って下さっているlimeさんにもそう言ってもらえて、とても嬉しいです。
ありがとうございます。

ユキはそう惚れっぽいほうでもないのですが、このときはやっぱり特別でしたかね。
このあと、日本に帰ってからもユキは数年、詩織さんをひきずっています。
いつも明るくノーテンキなユキですが、異国での恋はこたえたようでして。

そんな中、田島くんの歌に癒してもらえてよかったね。
田島くん、ありがとう。
こんなときに下手な日本人の歌を聴いても腹が立つだけですから、田島くんと出会えてよかったですよね。

ふたりが遊覧船に乗らなかったのは、ホーチミンでは私も乗らなかったからです。タクシーにはたくさん乗りましたので、タクシーシーンはけっこう出てくるんですけどね(^^;)

NoTitle

けいさんのところから来ました。
確かに、異国で会う同国人は特別感ありますね。
ベトナムの空気と風景がとてもリアルに感じられました。
田島くんを別の視点で見る感じ、
カメラマンの背後から情景を見る感じで、とても楽しかったです^^

ビートルズ、思わず口ずさんでしまいました♪

城村優歌さんへ

ようこそいらっしゃいませ。
コメント、ありがとうございます。
けいさん、宣伝して下さったのですね。あとでけいさんのサイトにも行ってきます。

異国で出会った好みのタイプの日本人同士、ふと恋におち、帰国してから会ったらがっかりした、なんてこともありそうですね。

「夢叶」は田島くんが主役ですから、脇に回ってもらうと感じも変わりますよね。カメラマンの視点……そんな切り口でご感想をいただけて嬉しかったです。

城村さんって以前に別のブログで、メッセージを下さいましたよね?
あちらは放置してしまっていますので、よろしかったらまたこのブログにも遊びにいらして下さいね。お待ちしております。

いいコラボですね!

異国、そして音楽、河。
組み合わせとして最も好きな世界の中で、ふたつの世界が交錯する。
素敵ですね。しかも、ユキちゃんと田島くんの出会い。
街の雰囲気と、あかねさんとけいさんの書く世界が溶け合うというよりも、ふっと同じ盤上に乗って、それからふっと離れていく、その感じがまさにハロー、グッバイ、でテーマがきちんと昇華されていて…・・
素敵な掌編、素敵なコラボでした(*^_^*)

大海彩洋さんへ

いつもコメントありがとうございます。
音楽っぽい小説を書いてらっしゃる方って、意外に少ないのですよね。
クラシック系で、歌詞ではなく曲のイメージで物語を作っておられる方がいらして、私とはまーったく世界がちがうなぁと思ったことがあります。

けいさんの世界ももちろん私とはちがってますけど、似たところもありますから、田島くんが出てくれたのかな、なんて思っています。

そうそう、河と音楽、ほんとに私の大好きな世界です。
ベトナムも好きです。
またこんな感じのストーリィ、書いてみたいです。
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